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中編7
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帰ってきたリカちゃん

昔ある友人に聞いた話です。

小学校6年生の女の子のAさんにはある大切な友達がいました。

それは彼女が小さい頃に買って貰った着せ替え人形のリカちゃんです。

多くの女の子がある程度の年齢になると人形遊びを止めていく中、Aさんは他の友達には内緒でお人形遊びを続けていました。

いつかは止めた方がいいのかなと思いつつも、大好きなリカちゃんとお話するのが楽しくてずっと止められずにいたそうです。

しかしある時、ついに止めるきっかけとなる出来事が起こりました。

ふとした事でリカちゃんを思いっきり踏んづけて壊してしまったのです。

今まで長い間強い衝撃にも耐えてきた人形でしたが、蓄積された傷は少しずつ人形の体を脆くしていました。

リカちゃんは首と右足がポッキリと折れ、見るも無残な姿に変わり果ててしまいました。

Aさんのお母さんは「これを機に人形遊びを卒業したら?」と彼女にそれとなく諭してきました。

最初は諦めきれず、なんとか治そうと接着剤を塗りセロテープをぐるぐる巻いて固定したそうですが、あまりにも痛々しいその姿にAさんの気持ちは打ち砕かれてしまいました。

結局その日を境にAさんは人形遊びを止める事を決意し、リカちゃん用のグッズも全て捨てる事となりました。

廃棄用にお母さんが用意してくれたダンボールに人形用の服や小物等様々な物を入れ、最後にリカちゃんをそっと中に置きました。

何度も「ごめんね」と謝ってからダンボールを閉じると、「こんなに大切にしてもらえてたんだから、きっと天国に行けるね」とお母さんが言ってくれました。

その言葉に幾分か救われながら、Aさんはリカちゃんとのお別れを済ませたのでした。

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月日は流れ、Aさんは中学生になりました。

人形遊びを卒業したAさんは友達を家に招く事も多くなり、今まで以上に楽しい日々を送っていました。

ある日、Aさんが学校の帰りに家の近くにある公園を通り過ぎようとした時の事です。

「Aちゃん」

不意に公園の中から誰かの呼ぶ声が聞こえました。

しかし立ち止まって公園の中を覗いてみても公園の中には誰もいません。

空耳かと思い公園から視線を逸らすと

「Aちゃん」

また先程の声が聞こえてきました。

(誰かが私を呼んでいる?)

Aさんは声に誘われるままに公園の中へと入っていきました。

中に入って改めて周りを見渡してみましたが、公園には人の影は全く見当たりません。

(やっぱり私の勘違いだったのかな?)

そう考えていた時、背後からまた声がしました。

「Aちゃん、久しぶり」

振り向くとそこにはジャングルジムがあり、その向こう側から少女がにこやかに笑っている姿が見えました。

Aさんはその少女を見て、何処か見覚えがあるような気がしました。

整った可愛らしい顔、栗色の長い髪、Aさんと同じ位の身長とそれにしては不釣り合いな派手な洋服。

背の高さからして同い年位だとしたら、何処かで会った事のある子かもしれません。

「ごめんなさい、思い出せないんだけど昔会った事ある?」

そう伝えるとジャングルジムの向こう側で女の子はクスクスと笑い出しました。

「いやね~、解らない?私よ、私。つい一年前までずっと一緒だったじゃない」

彼女は冗談を言われたかのように笑っていましたが、Aさんは全く思い出せませんでした。

「・・・・もしかして本当に忘れちゃったの?・・・・・・・・じゃあこれならどう?」

少女は左手を腰に当て、右手を顔の辺りに持ってきて決めポーズのような仕草を見せました。

「・・・・・・アッ!?」

Aさんは驚きのあまり変な声を出してしまいました。

それもそのはず。

彼女のそのポーズ、そしてその姿はAさんがずっと大事にしていたリカちゃん人形の商品のパッケージ裏の姿と瓜二つだったからです。

「えっ?そんなまさか・・・・」

「そう、私リカよ。あなたとずっと一緒にいた」

Aさんは思わず足が震えました。

普通に考えたらまずありえない話です。

ですが彼女の着ている洋服やその姿は、あの日ダンボールに入れた時の人形と全く同じだったのです。

「で、でもどうして・・・・」

(どうやって人形が人間の姿になって私の前に現れたの?)

途中で声に出せなくなった言葉を、リカちゃんはまるで心を読んでいるかのように答えてくれました。

「私ね、捨てられそうになった時に神様に沢山お願いしたの」

「お願い?」

「そう、『私を人間にして下さい』って」

その時、Aさんはふと妙な違和感を感じました。

言葉にではなくジャングルジムの向こうで話をしているリカちゃんの姿に。

しかし話の途中だったのでその時はあまり気にせず彼女の話に聞く事に集中しました。

「そしたらビックリ!本当に目の前に神様が現れたの!それで私を人間にしてあげるって言ってくれたのよ!」

リカちゃんは人間になれた事が本当に嬉しかったようで、それはもう凄い興奮しながら説明してくれました。

けれどAさんはさっき感じた違和感のせいで何故か素直に喜べずにいました。

(なんだろうこの感じ。なんか・・・・)

次第に違和感の事が気になっていき、その後の話はほとんど頭に入ってきませんでした。

「・・・・どうかしたの?なんだかあまり嬉しくなさそう」

リカちゃんもAさんの様子に気づき、心配そうな声で聞いてきました。

(しまった。変な心配させちゃった)

「な、なんでもないよ。ちょっと・・・・いきなりだったから驚いてただけ」

慌ててフォローするとリカちゃんの顔に笑みが戻り、Aさんも思わずホッとしました。

おかげでAさんは少し落ち着きを取り戻し、彼女の方からもリカちゃんに話しかけてみる気になれました。

「リカちゃんの背、人形の時より縮んだよね。いや大きくなったんだから『縮んだ』はおかしいかな?」

話しながらジャングルジムを挟んで会話しているのがもどかしくなり、喋りながらリカちゃんのいる場所に移動しようとしたその時。

「あっ、待って」

「えっ?」

急に話の腰を折られてしまいAさんの歩みはそこでストップしました。

「・・・・ごめんね、それ以上こっちに来ないで欲しいの」

見るとリカちゃんは心なしかさっきの位置から少し後ずさりしているように見えました。

「なんで?どうかしたの?」

「・・・・たぶんビックリしちゃうから。Aちゃんなら大丈夫かもだけど」

「え~何?気になるな~。大丈夫なら教えてよ~」

Aさんが笑いながらそう言うとリカちゃんは嬉しそうに微笑み返してくれました。

「その、本当は今日は言わないつもりだったんだけど・・・・実はね」

リカちゃんはモジモジしながらスッと右手を首に巻いていたスカーフへと伸ばしました。

その瞬間、Aさんは氷のように体が固まってしまいました。

「まだ首が繋がってないの」

リカちゃんの首には少し黄ばんだ大きなテープが何回も巻かれ、横一文字の赤黒い線とそこから滲み出てから固まった赤い液体の跡が薄らと見えていました。

Aさんは見てはいけないものを見てしまった気分でした。

何も言えずにただ口をあんぐりと開けたまま黙っていると、リカちゃんは慌てて説明をし始めました。

-本当に大した傷じゃない。

-あと一年もすればちゃんとくっつくって神様が言っていた。

-足はもうちゃんと元通りになっている。

-Aちゃんは何も悪くない。

-私は気にしていないから。

リカちゃんの言葉は頭には入ってきているのに何故か脳が理解するのを拒んでいるようでした。

そしてAさんの脳は変わりに先程の『違和感』の正体の方を解明してしまいました。

妙にテカテカと光っている肌。

シワの全くない掌。

関節の少ない近未来ロボットのような動き。

少し近づいてみてやっと解りました。

彼女が『人間によく似た別の何か』であるという事に。

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「だから今日はこれでお別れなの」

「エッ?」

途中から全く話を聞いていなかったAさんは「お別れ」という言葉に反応してまた変な声をあげてしまいました。

「本当はこの首を治してから来る予定だったの。でも待ちきれなくて。だから今日はもうこれで帰るね」

「そ、そうなんだ」

内心Aさんはホッとしていました。

今の状況で彼女と仲良く出来る気がまったくしていなかったからです。

「大丈夫。一年なんてすぐよ。一年経ってこの首の傷を治したら迎えにくるから」

そういうとリカちゃんは後ろを向いて手を振りながら走り去っていきました。

「あっ、待って・・・・」

声を掛ける間もなくリカちゃんの姿は道路の向こうへと消えていきました。

Aさんは短時間のうちに衝撃的な事が連続して起こり少しの間放心状態のようになりました。

(一年後・・・・また来るのか・・・・)

正直複雑な気持ちでした。

さっき見たあの姿のまままた自分の前に現れたらどうしようか。

そんな事ばかり考えてしまいました。

(でも・・・もしかしたらまだ人間になる途中の段階だっただけかもだし。首以外ももっと人間っぽく変わってくるんじゃ・・・あれ?)

その時Aさんは気づいてしまいました。

 

-「一年経ってこの首の傷を治したら迎えにくるから」

 

迎えにくる。

確かに彼女はそう言っていたそうです。

彼女はAさんを何処かに連れて行くつもりだったんでしょうか?

因みにこの話を教えてくれた友人というのは他でもないAさん自身です。

当時Aさんがこの話をクラスの数人に相談していました。

私もその中の一人でした。

その時はあまりに突拍子もない話にさすがに作り話だろうと本気にしませんでしたが、今では信じています。

そのちょうど一年後にAさんは本当に行方不明になってしまいましたから。

あれからもう何年も経ちますが今Aさんはいったい何処にいるのかは未だに解りません。

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初めて感想を書き込ませていただきます。
一見するとありがちなテーマなのに、両者のやりとりや、少しばかりの理不尽さが相まって、とても緊張感のある怖さを感じました。
外れのない怖話をいつもありがとうございます!

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やあロビンミッシェルだ。

バケオ氏、相変わらずキレのある素晴らしい作品を有難う!

リカちゃんとA氏との奇妙な空気と緊張感が凄く伝わって、来て引き込まれてしまったよ!

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