wallpaper:131
music:4
周りを覆う不気味な木々に囲まれ、「赤忌村」は姿を現した。
shake
(.......っっ....!!)
nextpage
........肌で感じる異様なまでの違和感。
丸山が今まで感じたことのない感覚だった。
生い茂る森を抜け、村に入った瞬間からだ。
空気も、匂いも、湿度も、風も。
それら全てから本能で読み取れる程の凶悪な「霊気」。
nextpage
ここに入って無事でいるはずが無い。
そう思わせるには充分な程に、生きているという感覚が奪われていく。
.....まさに、そこは「あの世」のようだった。
nextpage
「......ちっ。
なんて威圧感だよ、こうまで露骨じゃ霊感もクソもねぇな。
馬鹿でも分かるぜ、「いる」ってよ。」
nextpage
流石の前田も、少し戸惑うようにしてそう言った。
神山は、すでに震えていて声も出せないようだ。
nextpage
それでも、唯一救いなのは丸山がこの場所を「夢」で知っていることだ。
夢の中の村とは、さびれ方も雰囲気も違うものの、どうやら建物の配置などは同じままのようだ。
それは、実際かなり時間の短縮に繋がる。
nextpage
「......祠はこっちだと思う。
......行こう。」
丸山は、まず一番最初に見た森の中にある大きな祠へ向かった。
夢を鮮明に覚えていたおかげで、それはすぐに見つかった。
......が。
nextpage
shake
sound:18
「!!!!!!?」
(そ、そんな......!?)
nextpage
そこには、年月の劣化によって崩れ去った祠があったのだ。
いや、正しくは残骸といったところか。
夢の中でこの祠の扉が開いた理由は、これを意味していたのだ。
nextpage
「へっ、なるほどな.....。
こいつが封印の力を失ったおかげで、俺らがこんな目にあってるって訳か。」
前田は、ドカッと祠の残骸を蹴り飛ばした。
nextpage
「恐らく、この残骸の何処かに「少女の一部」があるはずだ。
.......探そう。」
懐中電灯で照らしながら、慎重に残骸をどかしながら捜索した。
そして、「ソレ」は案外すぐに見つかった。
汚く変色してしまった木箱。
剥がれ落ちた跡が残っているが、この箱にもお札が貼ってあったようだ。
丸山は、恐る恐る木箱を開いたのだったーー。
*************
nextpage
wallpaper:226
music:2
shake
「........うっ....!?」
中には、無数の白いウジがワサワサと湧いていた。
何故か成虫になる訳でも無く、少女の無惨な左手首を蝕んでいる。
そして20年もの歳月が経っている筈なのに、「手首」は生々しく湿っぽさと原形を保っている。
酷い腐臭がするものの、腐敗が進んでいないようだった。
nextpage
「.....な、何だよ....これ....。」
こびり付いた肉片がぐちゃぐちゃになり、虫に蝕まれ穴だらけとなった手首。
丸山は見るに堪えられなくなり、すぐに木箱の蓋を閉めた。
nextpage
「......次、行こう。」
丸山はフラつく頭を少し手で支えながら、「崩れた祠」を後にした。
終始、神山は目を瞑り、「手首」に手を合わせブツブツと何かを言っていたのだったーー。
*************
nextpage
wallpaper:224
(俺の記憶ではもう一つ、あの屋敷の裏に祠があったはずだ。)
nextpage
崩れた祠から、約300m程の距離にある大きめな屋敷。
確か、夢で少女が「人肉の食事」を摂っていたあの屋敷だ。
屋敷はあちこちの窓が割れ、シロアリによってスカスカになった壁の穴からは、気色の悪いヤスデが行き来している。
nextpage
正面の扉の下に、四角い板切れが落ちていた。
丸山がそれを拾ってみると、それには「宮坂」と書いてあった。
.....どうやら、ここは「宮坂家」の住居だった屋敷のようだ。
nextpage
「.....ここが....。
あの子の家だったんですね....!」
神山は、すでに恐怖でまともに立っていられず、前田の腕にしがみついて立っていた。
60歳のオッサンに引っ付かれ、複雑な表情を見せていた前田だったが、流石に空気を読んで見逃しているようだ。
nextpage
「.....裏に、祠が一つあったはずだ。」
丸山が二人にそう言い、裏へ回ろうと歩き出した瞬間だった。
sound:18
タッタッタッタッ.....
nextpage
shake
「!!!!!?」
(.....足音?
屋敷の中から....?)
nextpage
三人は目を見合わせた。
どうやら全員が聞こえたようだ。
丸山は、穴の空いた窓ガラスから中の様子を確認した。
nextpage
....誰もいない。
だが、足音は確かにこの屋敷の中から聞こえた。
......あの「少女」だろうか?
いや、それにしては何の気配も感じられなかった。
中は砂の混じった灰色の埃が溜まり、湿気を含んだ家具には所々にカビのようなシミが見える。
nextpage
(変わった様子は見られないが.....。)
......ここはリビングだろうか。
8畳程の大きめな部屋から繋がって、奥にはあの少女が「人肉を調理」していたキッチンが見える。
そして、リビングにはその「料理」を食していた小さなテーブルが置かれていた。
nextpage
.....思い出したくもない光景だ。
それでも、この空間を見れば鮮明に思い出してしまう。
小さなあのテーブルで、少女が美味しそうに炒めた「子供」を食している、あの光景が......。
nextpage
「.....ぅぉえ。」
丸山にまた吐き気が襲った。
その時、ふとリビングの横にある襖が少し開いていることに気づいた。
丸山はそこへ懐中電灯を当てた、その時......
nextpage
shake
「.....ひっ!!!?」
......顔だ。
身体は闇に隠れていて見えない。
顔だけがその約10cm程の隙間から覗いているのだ。
まるで、襖に隠れて此方を確認しているようにも見える。
そして、「ソレ」はスッ....と奥へ消えていった。
nextpage
「.......少女じゃない.....!?」
勿論、鮮明に見えたわけじゃない。
ましてや顔だけしか確認出来なかったが、あれは少女とは違うように感じる。
もっと、悪意のない綺麗な目をしているような.....。
nextpage
(.....子供....?)
丸山の中で感じた印象は、それだった。
そして、何故だかそれは此方へ誘っているようにも見えたのだ。
タッタッタッタッ.....
nextpage
shake
(...っ..!!
.....まただっ....!!)
再度聞こえる足音。
あの「顔」の足音で間違いない。
丸山は、どうしてもその足音を無視することが出来なくなっていたのだったーー。
*************
nextpage
wallpaper:178
music:5
「ちょっと.....行ってみよう。」
丸山は二人へ提案した。
その言葉に身体をビクつかせた神山が、震えながら答えた。
nextpage
「えぇっ.....!?
こ、この屋敷の中へ行くんですかっ....!?」
明らかに動揺している。
するとその様子を黙って見ていた前田が、急に神山の掴む手を振りほどいた。
nextpage
「お前が行くっつーなら、俺も勿論付き合うよ。
......何か気になるんだろ?」
「ええっ、そ、そんな.....。」
nextpage
神山は不安しか感じられない表情を浮かべ、振りほどかれた腕の行方をどうしていいか分からずに固まっている。
nextpage
「あー?オッサン。
あんたは行く気ねーんだろ?
だったら、一人でここで待っててちょーだいねっ!」
nextpage
.....前田が、いやらしく悪そうな顔をしている。
本当に、人の弱みに漬け込んでいる瞬間のコイツの嬉しそうな顔は好きになれない.....。
丸山は、つくづくそう思った。
nextpage
「......わかりました。
ついて行きます.....よ。」
ガクッと肩を落とし、神山は力なくそう答えたのだったーー。
*************
nextpage
wallpaper:606
ガガガッ....ガガ....
正面の扉の鍵はかかっていなかった。
到底スムーズに開かない引き戸を、無理矢理こじ開けた。
nextpage
手前右側には、先程のリビングとキッチンのある部屋がある。
その部屋への襖が、やはり少し開いていた。
とすると、先程の「顔」は廊下へ出ていったのか.....?
sound:18
タッタッタッ.....
nextpage
shake
「!!!!!」
正面左奥の部屋に向かって、今確かに足音が消えて行った。
その先には、一枚の襖。
部屋か物置かはわからないが.....。
とにかくそこに何かがあるのだろうか。
nextpage
「見て.....みましょう。」
ミシ.....
ギシ.....
一歩歩く度に、キツそうに鳴く床。
今にも底が抜けてしまいそうな、頼りない音だ。
そしてその床の音だけが、静寂に包まれた空間で不気味に響き、妙に恐怖心を増幅させていく。
nextpage
ごくっ....
いつの間にか、神山の手は前田の腕へ戻っている。
そして、丸山がその襖へ手をかけた。
スー.......
nextpage
shake
「!!!!」
(こ、これは.....!?)
そこには、無惨に砕けた人骨が転がっていたのだった。
所々に穴の空いた頭蓋骨には、気色の悪いゴキブリがカサカサと這いずり回っていた。
nextpage
「こ、この骨は......
ま、間違いなく、子供のものですっ.....!
なぜ、こんなところに.....。」
神山が、震えながらそう言った。
nextpage
(.....やはりさっきのは子供で、この骨はあの子供のものか.....。)
丸山の予想は的中していた。
そして、同時に気づいたのだ。
この骨が、かつて「少女」に食われたあの子供のものだということに.....。
nextpage
「.......ずっと、ここで成仏できずに彷徨っているのか.....。」
丸山は、悲しそうな声で呟いた。
この場でこの遺体を弔うことは出来ない。
それでも、丸山は精一杯の気持ちで祈った。
nextpage
(どうか.....成仏してくれっ....!)
そして目の前に転がる砕けた骨に向かい、静かに手を合わせたのだったーー。
*************
nextpage
wallpaper:111
music:3
屋敷の玄関を出て、三人は裏へ回った。
案の定、そこには丸山の見た赤い祠があった。
かなり劣化が進んでいるものの、しっかりと祠にはお札が貼られ、確かにそれは「少女」を封印しているようだった。
nextpage
ここから先、封印を解いていけば、少女と赤神が解放されていく。
それによって、徐々に危険が増えることが予想される。
nextpage
丸山は、ゆっくりと慎重に祠へ手を伸ばした。
ビリッ.....
祠に貼られていたお札を破り、戸を開ける。
すると、中には先程見たあの木箱が納められていた。
その木箱を取り出し、木箱にも貼られていたお札を破いた。
nextpage
「.....今度は、右手か。」
中には、先程と動揺に生々しい肉片が付着している右手首があった。
丸山はすぐに蓋を閉じ、次へ向かおうとした......
その時だった。
nextpage
sound:18
ガシッ....!
shake
「!!!!!!!!」
shake
「う、うぁあぁああぁあ!!!」
神山が叫んだ。
同時に、丸山の腕を誰かが掴んでいる。
前田も驚愕の表情を浮かべていた。
nextpage
.....あの「少女」だ。
丸山の腕を掴み、後ろにピッタリとくっついているのが分かる。
(動か....ないっ....!)
nextpage
振りほどこうにも、身体がまるで動かない。
全ての筋肉が脳からの命令を拒否しているかのようだ。
にも関わらず、皮膚は敏感すぎる程に「少女」の霊気を感じている。
nextpage
shake
「あ.....あぁ....がっ.....!?」
丸山は、息をすることすら忘れていた。
いや、仕方を忘れたというのが正しいだろう。
それ程に丸山の脳はパニックに陥っていたのだ。
nextpage
(意識....が....。)
段々と意識が遠くなるのがわかる。
薄れていく視界の先に、二人の顔が見えた。
どうやら、二人も身動きが取れない様子だ。
nextpage
......やがて視界は闇に覆われ、丸山は気を失ったのだったーー。
続く
作者鳴終魏-NAOKI-
このお話は、以前投稿させていただきました、
「赤い村-共存-」
の続編となります。
日々のご愛読、本当に感謝しております。
これから話は終盤へ向かっていく予定ですが、どうか最後までお付き合い願えれば幸いです。
また、誤字脱字、矛盾等ございましたら、遠慮なくご指摘下さいませ。
どうぞ宜しくお願い致します。