もう何曲歌ったかな?かなり疲れた、喉も枯れ気味。
今日はみんなでお疲れカラオケ。アッコ宅での事件後の事。
「アキ、これ憶えてる?」
タカヒロは手の平サイズのクマのぬいぐるみを取り出した。もうかなりすすけて毛玉だらけになっている。
「これ、私が子供の頃…」
「あの日、土手で俺にくれたんだ。」
「あの時の男の子がタカヒロ?」
「やっぱ気付いてなかったか。親が離婚して土手で泣いてた俺にお父さんの代わりにってくれたんだ。」
「ん、私のお父さんが死んでずっとこのクマがお父さんの代わりだったから。そっか、大事に持っててくれたんだね。」
「なんかアキとタカヒロって最近いい雰囲気になってない?」今頃気付いたミズホがヒソヒソ話しかけてきた。
私も気付いたのは最近だけどね。
「い〜な〜、ユウにはアラタがいるしアキにはタカヒロかぁ。」
「ミズホは相手変え過ぎ。」
ホントにそうだ、彼氏が出来てもいつの間にか別れてるし。
「だって、アラタやタカヒロみたいないい男中々いないし。あんなに頼りになる男って何処にいるのか教えてよ〜。」
確かにアラタもタカヒロもこれ以上ないって位頼りになる。そうだ!頼りになるといえば、あの時の…
「ねぇアラタ、あの三面鏡の前で呪文みたいなの唱えてたよね。何あれ?」
「ああ、十種神宝だよ。」
「???とぐさかん…???」
「とぐさかんだから。祝詞だよ。」
首を傾げる私をクッと笑いながらタカヒロが説明に入る。
「十種神宝大祓(とぐさかんだからのおおはらえ)祝詞のひとつで一言で言えば言霊の一種だよ。こんな物まで使うとはな。アラタお前、もしや眷族も持ってるのか?」
「うん、少し。」
「サラッと言うなよ。やっぱり恐るべしアラタ。」
「だから、失礼だっつうの!」
「何それ、眷族って?」
2人の話しにサッパリついていけない私たち女子3人。すみません、勉強不足で。
「眷族っていうのは、この場合、使役する者とか従者って感じかな。霊の召使いだよ。」
「だから失礼だろ!そんな言い方すんなよ。」
アラタはタカヒロのセリフにため息をつく。
「あのね、その辺を彷徨ってる霊なんかを自分の側において少し修行させるんだよ。前に何も憶えてないおじいさんいたろ?ああいった霊を側において、例えばユウみたいな体質の人の見張りをさせるんだ。簡単なモノなら祓う位できる。必要なら知らせにも来てくれるしね。」
おどろいた、アラタってそんな事も出来るんだ。もしや私ってスゴイ人に護ってもらってるのかも…
アラタの言葉に一同シーンとなった。
「ハラ減ったし何か食いにいかね?」
緊張感のないタカヒロの言葉に少しホッとした顔のアラタがそうするかと言って立ち上がる。みんなでカラオケ店を後にしてファミレスに行った。
ファミレスに着くとアラタがリュウジンさんの話をしてくれた。
アラタは以前、都心からほど近い何処までも続く田園地帯のある町で修行をしていたと言う。
そこはお寺や宗教団体等の施設ではなく普通の民家で、そこの当主はいわゆる霊媒師とは名乗ってなく知人の紹介や口コミの依頼のみ請負っている。しかも無償で。以前話した便利屋もここに出入りしている関係者だった。
その便利屋に紹介されて修行する事にしたとの事。
リュウジンさんもアラタと同じ経由で修行をしていたらしい。アラタの兄弟子であった。アラタが絶大なる信頼をおく一派だった。
あの日、当主にチカラを借りるため訪れたが当主は別件で出かけていて解決したものの車のエンジンがかからないとか、やっと車が動いても道に迷って山路を彷徨ってたりと当主曰く邪魔をされていて帰れない。知らず知らずの内に巻き込まれてとばっちりだった。
当主からの連絡で近くにいたリュウジンさんが辛うじて合流出来たと言う。アラタもずいぶん走り回ったらしい。
「しかし、一時はマジでヤバかったよな。アッコのお隣さんは良く無事だったもんだ。」
「そう、その事なんだけどアッコが話しを聞けたって。」
ミズホが身を乗り出しアッコから聞いた事を話し出した。
隣の奥さんの父が亡くなり遺品整理をしていたら三面鏡が出てきた。年代物だったので引き取ったが三面鏡から女の泣き声が聞こえて来たり、鏡を開いて使おうとすると必ずブレーカーが落ちる。電気屋に見てもらっても原因不明。家族の体調に異変はないものの気味が悪くなり庭の物置小屋にしまいこんだ。
その後は前に語った通り捨てるタイミングを逸して忘れてしまっていた。
「充分なチカラがつく前だったのかな?」ミズホが一通り話し終えミルクティーをすすっているとアキがポツリと言った。
アラタとタカヒロは少し困った顔を見合わせると、実は、と気の進まぬ口調で口を開いた。
「お隣さんは身投げした女の一族だよ。」
女子3人は揃ってえっ?と驚愕した。
「あの三面鏡は女が嫁入り道具として持ってきた物だったんだよ。女が死んだ後、姑が処分に困って実家に返したんだ。女の両親は娘の形見として大事に保管していた。そして代々受け継がれお隣さんにやって来たんだ。」
「じゃあ、偶然じゃなかったんだね…」アキは下を向いたまま肩をすぼめて言った。
「偶然というのは奇跡よりも低い確率で起こる。何事にも流れが存在し、その流れに動かされている。縁は人だけじゃなく物にもあるんだ。強すぎる思いは流れにのって長い年月をかけてでも必ずやって来る。と、俺は考える。」
アラタは独特な世界観があるんだ。簡単な様で難しい。
「偶然は必然ってことか。」
あと、タカヒロもだ。この2人は似てない様で似てる。
「さっ、そろそろ帰るか。」
天文部としては観とかなきゃならないほどこの辺では珍しい位の見事な星空を見上げながらゆっくり歩いた。隣でアラタがさっきカラオケで歌っていた歌を鼻歌まじりに奏でている。
「ねぇ、それ何て歌だっけ?」
「プライマルだよ、オリジナルラブの。」
作者伽羅
大変申し訳ありません。一身上の都合によりタイトルのシリーズを怪奇譚に変更いたしました。紛らわしくなってしまい深くお詫び申し上げます。
番外編如何でしたか?
本編では挿入出来なかったエピソードをまとめてみました。
楽しんで頂けたら嬉しいです。