今日で二学期も終わり。
期末テストは散々だった。赤点がなかったのが救いだ。
私はユウ、高校二年生。成績は真ん中位の常連で至って普通の女子高生。霊媒体質と言う以外は全て平均値。
最近、受験組と就職組が目に見えてわかる様になってきた。私たちはミズホ以外は就職。アラタは先生たちにかなり進学を勧められて参っていた。進学する気は毛頭ないらしい。
就職と言っても私は家業の手伝い、タカヒロも家業を継ぐために親父様に弟子入り、なんでも手打ち蕎麦の達人なんだとか。アキも家業の手伝い。革製品の加工を自宅でやっているので、今までも手伝って来ている。ミズホは進学と言っても私立の女子大に既に決めていて入試は楽勝と言っている。
そしてアラタ、なぜか私の両親の店で働くことになっている。
私の父は、私の卒業後にもう一店舗オープンさせるつもりでいたが、いつアラタと話をしたのか私の知らない所でバーをアラタに任せる事に決まっていた。
「婿入り修行だね。」
なんてミズホに言われて否定もせずアラタはのん気に笑っていた。
私は少し腹が立っていたし、悲しくもあった。引け目、負い目、罪悪感が入り混じって明日からの冬休みも憂鬱だった。アラタはホントに私と結婚するつもりでいるの?と言うか付き合ってもいないんじゃないの?私、何も伝えてない、アラタも言った事ないよね?
いつもの様にミズホ、アキと廊下で冬休みの計画なんかを話しながら、隣のクラスで帰り支度をしているアラタをボンヤリ見ていた。
「恋する女はキレイだね。」
どこかで聴いたことのあるセリフに振り向くとミズホがニタニタしている。大きなため息をついてアラタに視線を戻すとこっちに気がついたアラタがタカヒロと一緒に教室を出てきた。
みんなが揃ったのを見計らってミズホがある提案をしてきた。
「クリスマスパーティー?」
「そう!みんなでやろうよ!」
ワクワクと待ちきれないと言った風で前もって考えてたであろう計画を話しだすミズホ。
「プレゼント交換とかゲームでビリは罰ゲームに秘密を暴露でしょ、あと...」
「わかった、わかった、それはいいとして、どこでやるんだ?」
興奮してまくしたてるミズホを両手で制止、やれやれといった感じでタカヒロが質問すると、想定外な提案に全員大きく口を開けてしまった。
「ユウんちのお店、貸してもらえないかな?」
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と言うわけで皆で私の両親の店に向かう。
意外とあっさり閉店後ならOKと言われ拍子抜け、きっとアラタに絶大なる信頼を置いているからだ。
「じゃあ、プレゼントは千円までだよ、忘れずに用意してね。」
と言ってミズホが帰宅。タカヒロも今日は家の用事があると言って帰宅。アキもそれならと言う感じで帰って行った。
今日は学校も昼前で終わったのでまだかなり陽も高い。えーと、と何か言いたげなアラタに気まずさから「帰らなくていいの?」と意地悪に言うとアラタは私から視線を外しそっぽを向いてしまった。言ってから後悔したアラタは悪くないのに。自分が嫌になる。
「お腹、空いてない?ランチに付き合ってくれるならご馳走するよ。」眼鏡を上げながら言った後こっちを向いて笑った。そんなアラタを見て胸がきゅっ、と痛んだ。
「フリージアのランチなら行く。」
きっとひどい顔をしてる、涙がこぼれそうでアラタに見られたくなかった。くるっと回って背中を向けて歩き出すと後ろからフッとアラタの笑う声が(吐息?)微かに聞こえた。
~~~~~~
〔フリージア〕は安くて美味しい洋食屋さんでアラタと休日によく通っていた。まだ三十代後半らしいママは未亡人で子供もなく一人で気ままに経営している。フリージアの花言葉が好きでこの屋号にしたらしい。ちなみに色によって花言葉は変わり、ママは紫の花言葉が好きだと言っていたのを聞いたことがある。なんて言ってたっけ、花言葉?
今日の日替わりランチはビーフシチューにバターライス、それにサラダとスープが付いて680円は安すぎる。経営は大丈夫なのかと下世話な心配をしてしまう。
店に入ってから警戒色を発してるアラタを他所に私は美味しいランチを堪能していた。
「ねえママ、最近調子はどうですか?」
一通りランチ時の忙しさから開放されハーブティーで一息つくママにアラタが尋ねる。私はやっとアラタの異変に気づく、相変わらずの鈍感さだ。
「まぁアラタ君、心配してくれてるの?」
ふふっと嬉しそうに笑うママは大人の色気がムンムンだ。背はそれほど高くない、たぶん160cm位かな?少しだけムッチリと丸みを帯びた身体はエプロンをしていても判るほどのナイスバディ。若い頃はホステスをしていたと聞いたことがある。その頃のお客さんが今でもこの店に来てくれているらしい。きっと妖艶なママに魅了された男性がたくさん通っているのだろう。私のようなお子ちゃまには逆立ちしても敵わない。
「そういえば最近おかしな事が...」
些細なことで気のせいだと思っていたが数日前から頻繁に起こりだした事があるとママは話しだした。
店に誰かが入ってくるのだと言う。それは以前までごくたまにあったらしく、さほど気にしていなかったが最近はリアルな気配に「いらっしゃいませ。」と言ってしまうほどだった。しかもほぼ毎日らしい。特に嫌な感じもなく気にはなるけど怖くないので放っておいた。
「それぐらいかしらねぇ、別に害はないから大丈夫よ。」
度胸があるのか能天気なのか、ママは笑いながら話してくれた。アラタもそうですかと特に何も言うこともしなかった。どうってことないのかな?なんて私も能天気に考えていた。帰り道、アラタに聞くまで。
~~~~~~
「何かに魅入られてる。」
「えっ!」
いきなりのアラタの発言にビックリして声が裏返った。
「魅入られてるって何に?どうなっちゃうの?」
急に汗が出てきた、魅入られるって何か恐ろしげに聞こえる。もしかして事は重大なのでは?
「あまり口にしたくないんだけど聞きたいんでしょ?」
怖いもの見たさ的な私の顔を覗き込んで、さっきの仕返しとばかりにそっぽを向いて言うアラタにさっきはゴメンと言うとクルッとこっちを向いて笑う。また胸がきゅっと鳴ったがさっきみたく痛くなかった。
「口に出したくないのはホント。まだハッキリと判らないけど、たぶん淫魔。」
「なにそれ?」
聞いたことがない単語に首を捻る。タカヒロがいれば解説が入るところだ。
「淫らな事をしてくるヤツ、映画でもあるだろ〔エンティティー〕て言う映画、観た事ない?」
知らない、黙って首を振る。淫らな事ってどこまで?お子ちゃまな私はただの耳年魔で的を射た答えがピンとこなかった。
「映画の中ではレイプされる。実際は話しにしか聞いたことがない。」
アラタも顔を赤くしている。私たち思春期真っ只中のお子ちゃまには難解なのでは?
「と、とにかくママには俺の眷属を付けておいたから何かあれば知らせにくるはずだから...」
うわずった声で早口にしゃべるアラタは可愛く見えた、なんて言ったら怒るかな?なんて考えながら、今の眷属と言う単語にひっかかる。
いつも私に何かあるとやたらタイミング良くアラタが助けに来てくれる。もしかして...
「私にも眷属付けてるの?」
「当たり前だろ、気づいてると思ってた。」
やっぱり私は鈍感なんだ、いまさらでしょそんなこと。
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翌日、女子三人でプレゼントの買い物に出かけた。
一通り物色してからお互いのプレゼントが判ってしまうとつまらないので一度別行動、一時間後にカフェで待ち合わせすることにした。
大体の目星を付けていたので買い物に時間はかからなかった。私にはもう一つ買いたいものがあったのでブラブラ時間を潰しながら目当ての物を探した。
歩きながら昨日の事を思い出していた。きっと今、この瞬間にも私に何かあればアラタは来てくれるのだろう。注意深くあたりを見回すと気配を感じた。少し離れた所からずっと私に付いて来る気配。優しく見守ってくれているのがわかる。とても暖かい気配だった。
約束の時間にカフェに行くと二人はもう来ていて注文まで済んでいた。追加注文してから昨日の事を二人に話してみた。反応はやはり私と同じだった。
ミズホは派手な異性関係とは裏腹に身持ちが堅い。私とアキは勿論だがキスすらミズホも未経験だ。
好きな人と結ばれるのが当たり前に夢見ている私たちには想像もつかない恐怖に感じた。
「ママの純潔は絶対に守らないと!」
純潔ではないと思うけど、いつになく強気な発言のアキに賛成だった、私もミズホも。
翌日から私たちは自警団となった。
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それから数日間、特になにも起こる事はなかった。私たちは毎日ママの様子を見に店の前まで通った。
タカヒロ「なあなあ、腹減らねえ?ママの店でなんか食おうぜ。」
ミズホ「確かに、いい匂いがしてきたよね。お腹空いてきたかも。」
ユウ「店内の様子も知りたいし入ろうか?」
アキ「賛成。私、朝食食べてなかった。」
タカヒロ「だめだぞ、ちゃんと食わないと。イザと言うとき力が出ないからな。」
なんとも緊張感が続かない私たちは笑いながら店に入る。
最初にアラタ、続いて私、ミズホ、アキと店内に入り最後にタカヒロが入るとピリッと空気が緊張した。違和感に思わずアラタを見ると、アラタは片目を瞑り店内を見回していた。きっと何か感じたんだと直ぐに解る。
最近アラタは視えないモノを視ようとする時、片目を瞑る。目が悪くなったからと最初は思ったけどアレを視るのに視力は関係ない。不思議に思って聞いてみたら単純なことだった。片目のみに集中する事で早く確実に捕らえる事ができる。
それはアラタが普段、物静かな事に関係があった。
普通の人は意識をどこか一つに集中させる。勉強とか仕事とか。アラタは五感全部に力を分散させている。何か異変があれば瞬時に対応できる。
見た目どこか一つを覚醒させバリバリこなしていれば印象は悪くない。が、非常事態時の対応が遅れる。しかし同じ力の量ならアラタの様に分散させていつでも待機状態にしていれば直ぐに動ける。
今も違和感に直ぐ気づき瞬時に片目に集中したのだろう。
アラタはあっという間に何かを捕らえていた。一点を見ている、が直ぐに両目を瞑ったあと、ゆっくり目を開けてママを見た。
みんなでテーブルにつきランチを注文するとアラタは憶測を確信に変えるためママに質問した。
「ママ、最近悪い夢でも見ているんじゃないですか?」
突然のアラタの質問に驚きながらも少し疲れた様子のママは俯き肯定した。
毎日、毎晩見知らぬ男に追いかけられる夢だという。そして最近はとうとう捉まってしまい洋服を剥ぎ取られる。言いづらいんだけど、と少し躊躇したママはタカヒロをチラリと見て目を伏せ消え入りそうな声で続けた。昨夜ついに犯されてしまったと...
全員無言だった。
アキは目にいっぱいの涙を溜めて震えていた。悲しいのではない、怒っていた。両の手を膝の上で堅く握っていた、爪がギリギリと食い込み跡がつくほどに。
アキの手を取り握られた手の平をゆっくり開かせるとくしゃくしゃな顔で大粒の涙をぼろぼろと零した。店内にアキの嗚咽だけが響いた。
ママは優しくアキに微笑み搾り出すように言った。
「泣いてくれてありがとう。」と。
「俺たちがママを助けます。必ず悪夢は今日で終わる。信じてくれますか?」
ママは私たちをゆっくり見回すと重いものをやっと降ろした様な疲れた顔で「信じるわ。」と言った。小さな声だったけど決意を感じるハッキリとした一言だった。
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作戦はこうだ。
淫魔をおびき出すためにママにはいつも通り眠ってもらう。すぐ側でアラタが待機、ヤツが現れたらママの身体からヤツを追い出し滅する。今回は浄ではなく除だ。ヤツは許しがたい、全員一致で滅する事に決まった。
他は非常事態以外は別室で待機。もしもママのあられもない姿が...なんて事になった時の配慮だったが本人はあまり気にしていない風だった。
そして私は情けない事に霊媒体質なのでママから追い出されたヤツが私に入らない様にするため店の入り口で眷属と待機。またしてもお呼びでない役立たずだった。
疲れているママが深い眠りに落ちるのは簡単だった。
あっという間に寝息を立てている。
直ぐにそれは始まった。
ママは辛そうに、ため息の様な呼吸を始めると身体を捻り何かから逃れようともがきだす。
「来た。」
それまで目を瞑り静かに呼吸を整えていたアラタは両手で印を結び祝詞を唱える。
ヤツはすぐにママの身体から出てきた。それは小さな真っ黒い砂の粒の大群。
大きくなったり小さくなったり、変幻自在の集合体で歪に形を変化させる。まるでサーディンランのようだ。
アラタを威嚇するように大きく広がったと思ったら小さくなって周りを回ったり恐ろしい形相の鬼のようになったり部屋中を蠢きまわる。
「そんな事で俺は怖がらない。」
アラタが一言いうと、耳を劈くような笑い声が響く。
「ぎゃ~はっはっはっはぁ~~~、なんだお前は、邪魔をするとただじゃすまないぞ!」
狂気を孕むその声は聞くだけで心臓が止まりそうなほど、聞いた者まで狂気に染まりそうなほど邪悪で凶悪だった。
「みんな最初はそう言う。俺を見縊らない方がいい。」
アラタは怯んでいない、むしろ怒っている。何時になく冷淡な声だった。
「ああん?生意気なヤツは嫌いだよ。お前を甚振るのは後回しだ、側に旨そうな女がいるなぁ、先に女からだぁ!イ~ヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒィ!」
下品な笑いを響かせヤツは隣の部屋にヒュッとすばやい動きで消える。
「しまった!タカヒロ!」
アラタは急いでヤツを追う。が、すでにヤツはタカヒロ、アキ、ミズホの待機する部屋に姿を現していた。
「よう、変態。俺たちは簡単にやれないぜ。」
不敵な笑みのタカヒロだが内心あせっていた。だって俺は祓えないんだってば。アラタ!早く来てくれよ!
「イヒヒッ、旨そうな女たちだぁ、特にお前、こいつの女だろ?こいつの目の前でお前を食ったら楽しそうだなぁ。どんな顔で泣き喚くか見ものだぁなぁ~エ~ヘヘヘェ!」
邪悪な狂気の声に身動き一つ出来ないでいるアキにブゥ~ンブゥ~ンと不気味な音を立てて黒いかたまりはアキを覆い尽くす。
一瞬アキの身体がビクンと痙攣するとヤツは黒い触手を身体に這わす。
「やめろ!くそやろうっ!アキにさわるな!」
タカヒロは縛り付けられているように一歩も動けない。
「うるさいなぁ、黙って見ていろよ。クチが悪いなぁ。」
そういうとタカヒロの身体は宙に浮かび物凄い勢いで壁に叩きつけられた。
「っ!くっ...」
息が止まるほどの衝撃に声も出ないタカヒロは心の中で祈っていた。
アラタ!早く!アキを助けてくれ!
アラタは部屋に入れなかった。扉がびくともしない。何度も体当たりするが映画やドラマの様に簡単には開かない。気が付いたママが金属バットを持ってきた。
ドアノブを叩き壊しやっと中に入るとタカヒロは倒れ、アキとミズホの身体には黒い触手がうねうねと這い回っていた。
特にアキは服を既に破り取られ半裸状態で意識を失っていた。
アラタは信じられない惨状に一瞬我を失うがかろうじて理性を保つと印を結ぶ。
瞬間、ヤツは何かの気配に気づきアキとミズホから一瞬で消えた。
「しまった!ユウ!」
~~~~~~
なんか凄い音がしてる、ママ、みんな大丈夫かな...私は何が起きているのか心配でそわそわしていた。怖いけど気になる。少しなら、様子を見るだけなら...そう思い店に入った瞬間だった。真っ黒い塊に押され壁に叩きつけられた。
衝撃で息が止まった、声が出せない。
「お前、何者だぁ?お前みたいな上物は初めてだぁ。涎がとまらねぇよぉ、ゲヒャヒャヒャァ~。」
なに?こいつはなにを言っているの?
壁に叩きつけられ朦朧とする。まるで目の前に重力の渦があるみたいに身動き一つ出来ない。黒い触手がスカートをたくし上げてくるのがわかる。身体中をぬめぬめした何かに舐めまわされている様な不快な感触。目の前の黒いモノは下品な笑いを発しくねくねと形を変える。怖い、オカシクなりそうだ、アラタ...
アラタは店に向かい急いでいた。
この建物は独り身のママを守るためプライベートスペースは店の勝手口から建物の外周をグルリとほぼ一周しなければならない造りになっている。
長い回廊をアラタは必死に走る、ユウ!無事でいてくれ!
ユウはこれから起こるであろう惨劇に身構えていた。
なにが起きても目を背けない。こんな卑劣なヤツに負けたくない。
触手は下着に手をかけた。ユウは堅く口唇を結ぶ、アラタ....
その瞬間、勝手口の扉が勢い良く開いた。
「また、お前かよ。」
触手の動きが止まる。アラタに警戒しているようだ。
「俺を怒らせるな。」
アラタは息を切らしゆっくり近づきながらヤツを睨みつける。見たこともないほど怒っていた。
「怒らせたらどうだってんだ?ええっ?この女お前のか?いい女だなぁ、芳醇な甘い香りがする。間違いなく最高の女だ。俺にくれよぉ~!」
下品に笑うヤツにアラタは静かに言った、とても冷淡な声で。
「お前は俺を怒らせた、お前はこれから永劫の時を苦しみだけの世界で過ごせ。お前は滅するにも値しない。」
印を結ぶとアラタから凄まじい気が立ち上る。
気は激しい渦を巻き嵐のように店中を吹き荒れる。すると一画に青白い炎が灯り揺れながら形を成してゆく。
やっと駆けつけたタカヒロは信じられない光景を目撃した。
「め...冥界の...門.....」
禍々しく巨大な気を纏い石造りの門は重々しくゆっくり開いていく。
「俺を怒らせた事を永遠に後悔し続けろ。」
アラタの言葉が合図かのようにヤツは門に吸い込まれていった。不気味な叫び声を上げながら...
門はゆっくり閉まり煙を散らすように消えていった。
タカヒロはボーゼンと立ち尽くしていた。
一瞬の出来事だった。
「ユウ!」
アラタはユウを抱き起こし無事を確認する。
「アラタ、また助けてくれた。」
アラタはユウを抱きしめ泣きながら言った。
「ちがうよ、いつも助けてもらってるのは俺の方なんだ。」
私が何時アラタを助けたのか皆目見当がつかなかった。でも解ったことがある。
そうだったアラタはいつもこうして助けてくれる。気持ちなんか聞かなくても解るはずだった。人並み外れた事をやってのけるくせに私のためにこんなに泣きじゃくるんだから。
~~~~~~
そしてクリスマスイヴ、ママがお礼がしたいと言ってお店と料理を提供してくれた。
ママが作った料理は見たことがない位の豪華さで一同歓声を上げるほどだ。ありがたくご馳走を食べてるとアラタがボソッと言った。
「ユキナリさん(私の父、なぜか両親は名前で呼ばせる)少しがっかりしてなかったか?」
「うん。ほっといていいよ。私の知らない所でコソコソしてんだから。」
「ユウ、俺がユキナリさんの店で働くの反対?」
不安げなアラタに笑って答えた。
「最初は嫌だったけど、もういいや。わかったから。」
「なにが?」
「そのうちわかるよ。」
不思議そうにしてるアラタにエビチリをフォークに刺し口元に差し出すとパクッと食べた。前までなら照れてこんな姿は見せてくれなかっただろう。
「それにしてもあなたたち、危なかったわね。みんなまだ未経験なんでしょ?」
美味しそうにご馳走を食べてる私たちを嬉しそうに見ていたママがいきなり爆弾を落とす。
みんな吹き出したり咽たりと個々に焦った様子を見て「あら、あら、」とママは笑う。
「やっぱり男の子がちゃんとリード出来ないと女の子は不安なものなのよ。今回のお礼に私が優しく教えてあげるわよ?」
全員が固まっているとタカヒロが手を高く挙げて「はい、お願いします。」と言って立ち上がった。まさか本気じゃないだろうけどみんな口を開けて放心した。
「あら、ごめんなさい、タカヒロ君は好みじゃないのよ。アラタ君はどう?」
名指しされたアラタはブッと吹き出し咳き込みながら「す、すいません、遠慮しときます。」と小さな声でお断りした。
「ざんねん。」と言ってママは笑っていた。久しぶりに見た笑顔だった。
その後、私が別に用意していたプレゼントを追加してママも強制的にプレゼント交換に参加させてその日はお開きになった。ママは記念に大事にすると喜んでくれた。
帰り道、みんなに用意していたプレゼントの事を聞かれた。
ミズホ「よかったの?誰かにあげるために用意してたんでしょ?」
ユウ「うん、大丈夫。代わりのモノを用意いてあるから。」
タカヒロ「ずいぶん準備がいいな、前もって考えてたのか?」
ユウ「まあね。」
アキ「ユウ、ずいぶん機嫌がいいね、いいことでもあったの?」
ユウ「えへへ、内緒。」
タカヒロ「内緒といえばアラタ!」
アラタ「えっ、なに?」
黙ってみんなの会話を聞いていたアラタはイキナリ大声で呼ばれぎょっとする。
タカヒロ「あんなモノまで召喚できるなんて聞いてねぇ!」
あの門のことだ。アキとミズホは直接みていないのでピンと来ないようだった。
アラタ「あれは外法なんだよ。あまり使えないし口に出すことも躊躇する。」
タカヒロ「へ~、確かに話でしか聞いたことないしな。いいモンが観れたな。」
アラタ「反省してるんだよ、思わず頭に血がのぼって我を忘れた。修行が足りない。」
タカヒロ「これ以上強くならなくていいぞ、十分怖い。お前だけは絶対怒らせるのやめようと思ったよ。」
アラタ「失敬なっ!」
ミズホ「でもさぁ、タカヒロもそうとうキレてたよね?アキのあられもない姿にさぁ。」
ニンマリ笑ってタカヒロを肘でつつく。
アキ「ミズホ!恥ずかしいから思い出させないで!」
あられもない姿を晒してしまったアキは怒りと恥ずかしさでパニックになったらしい。
タカヒロ「アキは潔癖だからな。」
そう言ってアキの頭をガシガシ撫でる。
女の子の頭はもっと優しく撫でて欲しいなぁ、でも嬉しそうにアキが笑ってるから、まぁいいか。
そして大晦日に集まる約束をしてみんなは帰って行った。
二人きりになって気になってた事をきいてみる。
「ママが言ってた事、ホントによかったの?」
「なにが?」
「教えてくれるって...」
「なっ!ユウまで何言ってんだよ!そんな気ないよ!」
「ふふっ、わかってる。」
「なんだよ、もう...」
こんなアラタはやっぱり可愛い。あの時の、門を開いた時のアラタとは別人みたいだ。
「でもさ?」
困った顔で何?と答えるアラタに少しだけ不安な気持ちを伝える。
「ママがその気だったら?アラタの事、好きになったら?」
「ああ、それはないよ。」
あっさり否定してアラタは続けた。
「ママはタカヒロに好みじゃないって言ったけど、たぶん気があるのはタカヒロにだ。」
「なんで?」
「あの日、タカヒロが店に入ったとたん空気が変わっただろ?ママの揺れる気持ちにヤツは反応したんだよ。それに悪夢を打ち明けるときタカヒロばかり意識してたしね。たぶん亡くなったご主人にタカヒロが似てたんじゃないかな。憶測でしかないけどね。」
アラタは笑ってタカヒロには内緒だよと言った。
「ねえ...私はいつアラタを助けたの?」
素直に聞いてみた、もう悩みたくなかったから。
「いつもだよ。始まりはあの日、公園でユウを見つけた時、そして大事な仲間を連れてきてくれた。ひとりだった俺に友達をくれた。」
「私は何をすればいい?」
「そばに、いてくれ。」
紫のフリージアの花言葉は〔あこがれ〕やっと思い出した。
いつも揺るぎない強い思いを、まっすぐな正直な気持ちをアラタは持っている。そんなアラタにあこがれ、私もそうなりたいと思った。
アラタの吐息を近くに感じた、背中に回された手は誰よりも優しいことを知っている。もう、アラタなしでは生きていけないと思った。これがプレゼント、私とアラタだけのプレゼント交換。
作者伽羅
少しエロい感じになってしまいましたが、かなり自粛しています。
実際はもっとエグイことをされました(汗)
ヤツはアラタの逆鱗にふれ、瞬殺されました。
あまりにもアッサリ終わってしまったので『冥界の門』を登場させました。
苦肉の策です。実際そんなモノは召喚できません。すみません...