正月、ミズホがデートに誘われた。
アラタとタカヒロと同じクラスのマコト。
初詣に誘われたらしい。
「せっかくだから、3組別行動で初詣に行って、あとでいつものファミレスに集合なんてどう?」
結局、ミズホの提案に乗り3組にわかれた。
ここから目的の神社は歩いて30分ほど、散歩には丁度いい距離だった。
境内に入ると、別世界のような空気に少しおどろいた。
アラタが少し警戒しているように見える。
まさか神社で何かいる?
立ち並ぶ木々の間に一人の女が小さなテーブルを置き何かの店?みたいな佇まいでヒッソリと座っている。
何も看板など置いてない。テーブルの上に八角形の木の板、よくわからない文字が書いてある。
通り過ぎようとした時、女が話しかけてきた。
「ぼうや、珍しい運命を持ってるねぇ。」
女はキラキラと光る黒い糸で織られた布で全身を覆っていた。インドの民族衣装だっけ?あんな感じ。顔も布で覆われていて、パッチリとした大きな目がとても印象的だ。
「何か用か?」
アラタは戦闘モードの口調になっている。まさか危険な人?
「ふふっ、そう構えなくてもいいじゃない、取って食ったりしないわよ。ただ、変わった運命を持ってるみたいだから占ってやろうと思っただけよ。どう、未来を知りたくない?」
「俺は興味ない。」
「あら、冷たいのね、じゃあ彼女はどう?」
「必要ない、彼女に構うな。」
「そう、残念ね。」
「行こう。」
そう言ってアラタは私の手を取り歩き出した。
私は少し気になった。未来ではなく、あの女がとても神秘的で心の中を見透かす様な大きな瞳。
「ねぇアラタ、さっきの人...」
「あぁ、たぶん物の怪の類だろうね。」
「物の怪?妖怪とか?」
「ん~、似たようなモノかな。狐かなにかだろうけど、関わるとろくな事がないから。」
「危険なの?」
「危険はないと思う。でも、悪戯したり威かしたりするから関わりあいたくないんだよ。」
具体的にどんなことをされるんだろう?興味津々な私の様子にしょうがないと言った感じで教えてくれた。
「テーブルの上にあった板、気がついた?」
「ああ、あれ気になってたの。なに?」
「あれは〔八卦〕て言って占いをする道具だよ。」
「伝説では伏儀が八卦を作ったと言われてる。万物に基づいて作られていて運勢を占う事ができる。簡単に言えば風水みたいなモノだよ。」
「ふ~ん、アラタは未来に興味ないの?」
「ない。」
「素っ気ないな~、不安とか心配事とかないの?」
「俺は自分の力でなんとかする。それに知ってる未来なんてつまらないだろ?」
「それもそうだね。」
~~~~~~
アキラとタカヒロは神社に着いていた。タカヒロは、険しい表情である場所を見ている。
視線を辿ると怪しげな女がこっちを見ていた。
ユウとアラタが会った女だった。
「今日は不思議な人が多いこと...」
女はそう言って笑った。
「アラタたちに会ったみたいだな、何か用か?」
「そう、あの子、アラタっていうの。心配しないで振られたから。あなたはどう?未来を見たくない?」
「未来だ?興味ないね。」
「ふふっ、そう言うと思ったわ、彼女は?」
「私も興味ないです。」
「みんな冷たいのね、おめでたい新年に悪さなんてしないわよ。」
「けっこうだ、行こう。」
タカヒロも相手にすることなく、女を後にした。
「あいつらも相手にしなかったみたいだな。まあ、アラタは心配無用だな。おっかねえし。」
「アラタが聞いたら怒るよ?」
「そうだな、気をつけないとな。」
~~~~~~
暫くしてミズホとマコトは神社に到着する。
そしてやはり、あの女に出会う。
「あなたは...あの子たちと違って少し迷いがあるみたいね。」
「あの子?」
「ふふっ、こっちの話よ。どう、未来を知りたくない?占ってあげるわよ。」
ミズホは迷っていた。未来は知りたい、何よりマコトの事が気になっていた。
でも、何か胡散臭い...
「未来だって、ミズホ、今年の運勢でも占ってもらったら?」
「そうね...」
マコトの言葉に後を押され占ってもらう事にした。
(占うだけなら大丈夫よね...)
女は八角形の板に何かブツブツと話しかけだす。
すると、ミズホの目の前が急に眩しく光りだす。
眩しくて目を閉じる、徐々に光は弱くなる。
ミズホは恐る恐る目を開く。
すると、そこには楽しそうに食事するマコトとキレイな女性がいた。
マコトと一緒にいる女性は年上に見えた。
なにか思いつめた顔をしている。
女性の様子に気づいたマコトは心配そうに話かける。
何を話しているのか聴こえなかった。
ミズホは不安になった。
キレイな女性は泣きながらマコトにすがった。
マコトは慰めている。
2人はとても親しそうでミズホの入り込む余地はないように感じた。
(これが未来...マコトと一緒にいるのは私じゃなくてあのキレイな人...)
ショックだった。見なければよかった。
ミズホは涙が止まらなかった....
~~~~~~
異質な気配をアラタは感じていた。
アラタの異変にユウも気づいた。
「どうしたの?」
アラタは黙って何か考えている。
「....?」
「ミズホか?」
「へ?」
少し呆れたようなアラタの言葉に意味がわからずただ見ていると、アラタはため息をついて言った。
「しかたない...行こう。」
「...うん?」
アラタに手を引かれ黙って付いていくと、あの女とミズホ?
そばでマコトがうろたえている。
「余計なことをしてくれたな。」
「あら、ひどいのね、この子が望んだのよ。」
「大きなお世話だ。俺の仲間に何かしたら、ただじゃ済まさない。」
「わかったわ...ふふっ、じゃあね。」
そう言うと女は消えていった。
「消えた...?」
マコトはボーゼンと見ていた。
「すまなかったなマコト、驚いたろ?」
「え?いや、俺は大丈夫だよ、それよりミズホは?」
「ああ、こいつは自業自得。」
「え?ミズホ、どうなっちゃうの?」
アラタの言葉におどろいて思わずミズホの身体を揺する。
「...ユウ?」
ミズホはすぐに反応した。
少しボンヤリしているが大丈夫そうだ。
ユウとマコトはホッとため息をついた。
「ミズホ、何を見たか知らないが騙されるな。」
呆れ顔のアラタに言われミズホはシュンとした。
そしてマコトを見て、また辛くなる。
「アラタ、なにごとだ!今のは...」
タカヒロも異変を感じやってきた。
「いや、もう大丈夫だよ。」
「そうか。」
タカヒロもアラタの言葉にホッとする。
「なんだ、結局みんな揃っちまったな、んじゃメシ食いに行くか。」
みんなでそろって歩き出すが、ミズホは1人で落ち込んでいる。
「アラタに怒られるのはいつもの事でしょ?元気出して!」
「そうじゃない...」
「じゃあ、どうしたの?」
「マコト...私じゃないキレイな人といた。」
ミズホは未来を見たんだ。
「気にしない方がいいと思うよ。」
「うん...」
それしか言えなかった。
あんまりミズホが悲しそうで...
翌日、ミズホが心配だったマコトはミズホの家の前に来ていた。
昨夜はファミレスで一言もしゃべらなかった。
(俺、何かしたかな?)
マコトは避けられてると感じていた。
(あの後、アラタは俺にミズホを頼むと言った。意味がわからなかったが俺じゃないとダメだからと...)
決心がつかずウロウロしているとミズホが出てきた。
「あ、ミズホ?」
「...マコト?」
気まずい空気が流れ黙ったまま立っていると、通りの向こうからあのキレイな女性がマコトの名前を呼びながら走ってきた。
「よかった、まだ近くにいて、あら、彼女?」
「そんなんじゃねえよ!」
マコトは否定した、当たり前だよね、こんなにキレイな人がいるなら私の出番なんかないよ...
「私これから出かけるから夕食は1人で食べてね。」
そう言って彼女は走って行った。が、すぐに振り向いてミズホを見る。
「またね。」
そういってウインクした。
(どうして?)
ボーゼンと彼女の後姿を見送るミズホにマコトは言った。
「ごめんな、ねーちゃん勘違いしたみたいで...」
「え?ねーちゃん?」
耳を疑った、今、ねーちゃんって...
「そう、俺のねーちゃん、この前言ったろ?ねーちゃんいるって。」
ミズホは可笑しくなって思わず笑い出す。
「大丈夫か?」
心配そうにしているマコトにミズホは謝った。
どうして謝られたのかわからないマコトは少し困ったが、ミズホがいつもみたいに笑っているからまあいいや、と思った。
「ミズホ、やっぱり俺、お前に言わなきゃいけない事がある。」
「俺と付き合って。」
「はい。」
「後でねーちゃんに訂正しないとな。」
「なにが?」
「やっぱり、彼女だってさ。」
照れくさそうに笑うミズホとマコトをユウは見ていた、アラタと一緒に。
「だから心配ないって言ったろ?」
アラタは覗きはやめろと言わんばかりに私の頭を掴んで言った。
「だって...」
「もう気が済んだろ、行こう。」
「うん...」
「当るも八卦、当ぬも八卦、てね。」
そうか、その言葉、聞いたことがある。
〔八卦〕、そういう意味か...
後日、マコトのお姉さんは彼氏と別れて泣いていたそうです。
作者伽羅
この話はミズホが実際に占ってもらって体験した話を元にしました。
あのシーンが頭に浮かんだそうです。
これがきっかけでマコトと付き合ったのもホントです。
こんなこともあるんですね、私もおどろいたエピソードです。