一番大事だった場所が、ある日を境に大嫌いな場所に変わることだってある。
「春ー、あっちに廃墟がある!面白そうだから少し探検しよ!」
そんなこと、呑気に叫んでいるけどここが地元で有名なお化け屋敷だってことあかりは知らないのかな?
それに、俺はこの場所が大嫌いだ。
「えーやめとこうぜ、変な奴がいたらどうするんだよ」
「春の意気地なしー。私が行きたいんだから、行くの!」
この友達はあかりっていう。俺のだいぶ前をスタスタと歩いて行って、あかりの所からしか見えない細い道を曲がった。あんな所に道があるなんて地元のやつしか判らないだろう。そのたった2,3m程の道にしかその廃墟へと繋がる道は無い。
よくそんな道の向こうの廃墟なんか見つけたよな、と俺はあかりの観察力を見なおした。
nextpage
俺がまだ小さいころ、この廃墟となった屋敷にはまだ人が住んでいた。
凄く優しいお婆ちゃんで、一人で迷いこんでた俺にお菓子をくれたり話を聞いてくれてたりした。俺はお婆ちゃんが大好きだった。もともと引っ越してきた俺は学校にも近所の犬にも嫌われてたらしく、ずっと一人だったからお婆ちゃんが話を聞いてくれることが凄く嬉しかった。
nextpage
そんな事を思い出してるうちにあかりは屋敷のドアをがちゃがちゃとやってた。
「春、開かない。」
何をやっているんだろう。可愛いな。
「貸して」
俺がドアノブに触れた瞬間がちゃっと重たい音がした。
「ありがと…」
あかりは恐る恐る廃墟に入っていく。
あれ、俺ドアノブに触っただけなんだけどなんで開いたの?
考えてる間にあかりは廃墟の中に入って行って見えなくなったから俺も急いで後に続いた。
あの時から来ていない屋敷は、俺の知ってるままの状態で止まっていた。
カビの匂いに混じって懐かしい匂いがする。
俺にいろんな事を教えてくれたお婆ちゃん以外の全てがそこにあった。
あかりが一階を探検してる間、俺は庭の見える部屋の椅子に座ってた。
この場所が俺の場所だった。今はホコリを被ってる椅子だが、これはお婆ちゃんが俺のために倉庫から出してくれた椅子だった。
目を瞑って思い出す。
お婆ちゃんの屋敷にある日を境に変なおじちゃんが現れるようになった。人参と鎌を持った、普通のおじちゃんだ。お婆ちゃんはそのおじちゃんにケーキやお菓子を作ってあげてて、おじちゃんもお婆ちゃんにだいこんや人参をあげてた。お婆ちゃんにあの人だれって聞いたら死神さんだよって言ってた。ある日、おじちゃんと俺と二人でお留守番を頼まれた。10分くらいで帰ってくるから、と言ってお婆ちゃんは買い物に出かけた。俺はおじちゃんと話す事もなく気まずくなった。先に話をし出したのはおじちゃんだ。
「春くんのお婆ちゃんはもうすぐ居なくなるんだ。」
「意味わかんねーし。なんで俺の名前知ってんだよ。」
「お婆ちゃんはね、決して良い死に方はしないけど、」
「お前の言葉なんか信用しないからな」
「春くんと会えて幸せだって言ってたぞ」
俺は黙った。薄々気づいてた。このおじちゃんが来てからお婆ちゃんは何かに焦るように俺にいろんな事を教えてくれたり、この広いお屋敷を片付けたりしてた。
そうか…そうだったのか。このおじちゃんは本当に死神だったんだ。
nextpage
「春ー!!どこにいるのー?」
あかりの叫び声で、現実に戻った。思い出さないようにしていたのにな…。
「あかりー、ここだよ。」
エントランスに戻ってあかりを呼んだ。
「春、凄い新聞を見つけたの!」
そこには一人暮らしのお婆ちゃんが惨殺された事件が書かれていた。
「日付けが私の誕生日!!」
あかり…そこかよ……
一気に気が抜けて笑った。
「凄いね。」
俺は色んな意味で心からそう思った。
「うん、それにね、
春と私が初めて会った日だよ。」
…なんか感動した。けど束の間だった。
「これからも友達でいようね」
俺もう泣きそう。
「やだ」
「ひどいー」
ひどいのはどっちだよ。
そんな事を考えてたら二階からバン!と大きな音がした。
nextpage
「えっ、何?えっ?」
あかりは凄く怖がってるけど俺には見えた。
お婆ちゃんだ。
「あかりは外で待ってて」
そう言って俺は階段をかけ上がった。
お婆ちゃんの寝室から手が見える。おいでおいでと、俺を呼んでいた。
怖くはない。大好きなお婆ちゃんだ。
寝室を開けた。
カーテンと、ベッドと、机。
机の隣におじちゃんが立ってた。
「この前、会った時に言い忘れた」
そう言っておじちゃんが机を指差す。
俺は引き出しを開けた。
一枚の手紙が入ってた。
「あの日から来なくなったから渡しそびれてた、悪かった。」
「死神のくせに、謝るなよ」
「じゃあ、またね」
「おい、ありがとな」
おじちゃんは振り返って、にやっとして部屋から出て行った。
俺は手紙をポケットに入れて屋敷を出た。
あかりが不安そうに待ってた。
「帰ろっか」
俺はそう言って色々言いたそうなあかりを引っ張ってまた現実に帰った。
一番大嫌いだった場所が、時間が経つにつれてまた大好きになることだってある。
作者KimisigurE
前に投稿した、まいちゃんって話の番外編みたいなやつです。
全く怖くはなかったです。
ごめんなさい。