久しぶりにあいつらに会えてよかった。
帰りの電車で俺は去年の学園祭のことを思い出していた。
あの日、俺はユウに告白するつもりだった。
俺は少しだけ感がいい。
部屋を一緒に探した時、ユウは何かを感じていただろう。
俺よりも遥かにユウの感は鋭い、最終的に選んでくれた部屋は快適だった。
俺はユウが気に入った部屋を選んでユウを呼ぶつもりでいた。
でも、ユウの傍にはミコシバがいた。
誰が見てもわかるほど、ユウとミコシバは自然だった。
きっと2人は見えない絆で結ばれ愛し合っているんだろう。
俺の入る隙なんてないのは一目瞭然だった。
仕事に慣れるまで、なんて半年も待たなければ何か変わっていたのか?
そんな訳はない、あの2人は愛し合って当然なんだ。
でも、もしかしたら...
なんてことをずっと自問自答していた。
そんな時、職場の同僚が肝試しに行こうと言ってきた。
出ると有名な墓地に行こうと盛り上がる同僚は今まで霊を見た事がないと言った。
少なからず感のいい俺が一緒なら視れるかもしれないと言われ、一緒に行く事にした。
肝試し当日、同僚のマサキ、その彼女のカオリ、その友人のユキコ、そして俺の4人でマサキの車に乗り込み出発した。
目指す墓地までは2時間ほどかかる。
初対面の彼女たちと親睦を深めるには十分な時間だった。
「ケイキ君は甘いもの好きなの?」
必ず聞かれる質問だった、こんな名前を付けられた宿命だ。
「大好きなんだよね、笑われるからあまり言わないけどね。」
そういえばユウは1度もこの質問をしたことがなかったな...
何をしていてもユウを思い出す、ダメだな俺は、諦めが悪い。
雑談を交わし取りあえずの社交辞令なんかで親睦を深めている内に目的地に到着した。
そこは想像よりも奇妙な感じがした。
最初に火葬場の前を通ると、もう深夜1時だと言うのにたくさんの人が参列していた。
あれはきっと生きた人間ではないだろう。
みんなには見えてないらしい。
いることを教えた方がいいのかな?
しかし当たり前のようにそこら中にいる。
そこにも、ここにもなんてイチイチ言うのは面倒だった。
しばらくしてマサキが車を停めて言った。
「ここは水子供養の場所らしいよ。」
そこはだだっ広い平地の端に小さな地蔵が並んでいた。
「俺、怖くて車から出られないよ。」
マサキはそう言った直後に車を降りて平地を歩いて行った。
みんなは呆然とそれを見ていた。
地蔵のそばには女が立っている。
マサキに手招きをしているように視えた。
これ、やばくないか?
俺が連れ戻そうとドアに手をかけた瞬間、マサキはクルッと振り返り、猛ダッシュで戻って来た。
「なんで俺、あそこにいたの?」
自分が何をしたのか覚えてないらしい。
「お前、自分で歩いて行ったんだ。大丈夫か?帰った方がよくないか?」
早速の異変にみんなは危険を感じたらしく、全員一致で帰ることにした。
しかし、もう遅かったらしい...
俺たちは墓地から出られなくなっていた....
同じところをグルグル周っているみたいだった。
あちこちに地図があって、その度に確認して進んでいるのに出口が見つからない。
「どうなってるんだ....」
マサキは焦り始めていた。
彼女たちもずっと無言だった。
ノロノロと車を走らせていると、正面から何かが近づいてくる。
よくみると顔だった。
ものすごく長い髪をなびかせ、首だけが近づいてくる。
それは車のフロントガラスをすり抜け車内に入りそのまま通り抜けて行った。
俺とユキコの間を通って....
そして何度も行き着く場所は決まって無縁墓地だった。
暗闇の先には大きな手が見えた。
真っ暗な空間に浮かび上がる大きな手はまるで鬼の手のように爪が伸びゴツゴツと骨ばっていて、俺たちの乗る車ごと掴みかかってきそうだった。
「マサキ、早く車を出せ!」
マサキはパニック寸前だ、当たり前だが運転しているマサキが1番恐怖を感じているだろう。
しばらくしてカオリが泣き始めた。
最初は恐怖から泣いているんだと思ったが、どうやら違う。
泣き喚くわけでもなく、ただポロポロと涙を流している。
「カオリちゃん、大丈夫?」
俺が声をかけると、彼女はわからないと言った。
「なんでかわからない、悲しくて。」
悲しい?今この状況で悲しいのはおかしい。
何かの影響を受けているのか?
俺はカオリの背中を取りあえず思い切り叩いた。
「あれ?」
「どう?楽になった?」
「うん、ありがとう。」
こんな時、少し強い衝撃を与えると落ちる場合がある。
上手くいってよかった、でも毎回上手くいくとは限らない。
俺は素人でそんな力があるわけじゃない。
ホッとしたのもつかの間、今度はユキコが首が痛いと言い出した。
原因はあれだ、大きな樹にロープが何本も下がっている。
首吊りの自殺者が集まっているんだろう。
ロープの下からは腕だけが白く浮かび上がっている。
その腕は俺たちの方を指差していた。
どんな意味があるかわからない、とにかくヤバイ。
幸いユキコはその場を離れると痛みはなくなったと言った。
頼む、早く帰してくれ....
1時間ほど彷徨いやっと最初の火葬場に辿り着いた。
ここからは右側が出口だ、やっと出られた。
しかし、車のボンネットには落ち武者のようなヤツが胡坐をかいて座っていた。
この落ち武者を連れて帰るわけには行かない。
どうにかしないと...
振り落とす事は出来るのか?
「マサキ、そこのホテルに入って、駐車場で急ハンドルを切ることはできるか?」
「わからない、やってみるよ。」
マサキは訳を聞かなかった。
俺の指示通りマサキが急ハンドルを切ると落ち武者はボンネットから滑り落ちて行った。
上手くいったのか?
後ろを見ると落ち武者はいなかった。
まだ車にいるのか?
しばらく様子を見ていたがいる気配はない。
まだ安心は出来ないが多分大丈夫だろう。
混沌とした時間は終わった。
無事に帰宅することができ、みんなは一安心だった。
その後、俺もみんなも特に変わったこともなく、霊障にあうこともなさそうだった。
やはり帰りの落ち武者をマサキは視たと言った。
俺はわからなかったが、振り落とした時、墓地の方に飛んでいったらしい。
それからは、たまにこのメンバーで遊びに行く事がある。
2度と肝試しには行ってない。
さすがに懲りたのだろう、あんなモノは視えない方がいい。
ユウにはいつもあんなモノが視えているのか。
そしてミコシバも....
ミコシバはユウを守っているのか、ふと、そう思った。
俺は少しだけ感がいい。
きっとそうなんだ、だから2人は愛し合っているんだ...
作者伽羅
サトウ先輩の体験談です。