先輩から聞いた話でございます。
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「一番怖かった事や不気味な話ってありませんか?」
「あー?なんだそりゃ。そんなの....無い...いや、あるわ。」
昔働いていた店の先輩に久しぶりに会い、雰囲気が良さそうな飲み屋に入り、互いの飲み物を注文したあと質問してみた。
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「本当ですか?!教えてくださいどんな話でもいいんで。」
「お前、もしかしてそれが目的か?!その為に俺をこんな所へ?!まったくお前なぁ...」
「違いますよ、たまたまっす。」
誤魔化すように僕はビールを飲んだ。
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「話、お願いします先輩。」
「俺が小学生の頃、一人で帰ってる時に遭遇した...白いマスクの女がな...」
「その話は随分前に三回位聞きました。先輩酔っぱらうとその話ばっかりしますよね。」
先輩が酔っ払うといつも話す白いマスクの女の話は、都市伝説の口裂け女の話ではない。(この話は後ほど載せます)
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「もっと成人した時に体験した話してください。」
先輩が話出す前に追加のビールを注文する。読者モデルみたいな店員さんが注文を受け付けにこちらへ向かってきた。
「じゃあ、俺が大学一年の頃体験した話するわ。」
そう言って先輩は語りだした。
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大学一年の時に飲みサーに入って、そこで出会った女の先輩の話なんだけど。
(仮に女の先輩の名前をA子先輩、先輩の名前をKとする)
A子先輩はモデルのような容姿で性格も優しく、サークル内で人気者だった。
男子は皆A子先輩の事が好きだったが、先輩には彼氏がいるので付き合えなかった。
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「俺も先輩の事が好きでさ、一目惚れだったんだ。」
A子先輩と誰よりも仲良くなりたくて、先輩が喜びそうな事はなんでもした。飲み会の時なんかは必ずA子先輩の隣に座った。
だんだんとA子先輩も俺の事を気に入ってくれて、ある日のサークル終わりに俺だけ声をかけられた。
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「ねぇ、K君今日この後空いてる?飲みに行こうよ!」
「あ、はい!是非お願いします!!」
この後バイトが入っていたが、仮病を使って休んだ。A子先輩から俺だけ誘われたからめちゃくちゃ嬉しかった。
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大学から二駅のところにある先輩行きつけの居酒屋で飲む事になった。先輩は終始ノリノリでハイペースでお酒を飲んでいた。
俺は先輩を介抱しようと思ってたので、嗜む程度に酒を飲んだ。
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「ねぇーK君ぜーんぜん飲んでないよー笑 飲も飲も?」
「俺そんなに酒飲めないんです...先輩、こんなに飲んで大丈夫ですか?俺と二人で飲んだら彼氏さんに怒られちゃいますよー」
A子先輩の彼氏はどんな人なのか探りをいれた。
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「うふふ〜笑 私の彼氏はね〜とーっても優しくてイケメンで私の言うことは何でも聞いてくれるのよ〜。きっとK君の事気に入ってくれると思う。」
「そうですか。彼氏さんの写真とかないんですか?見たいです!」
「写真はないよ〜笑 あ、この後うちに来ない?彼氏にKくん紹介したい!ねぇ〜いいでしょ?」
A子先輩の頼みは断れなくて、俺はA子先輩の家に行くことになった。
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居酒屋から先輩の家までは歩いて10分位で、歩きながら先輩は彼氏の自慢話をしてた。それを俺はあまり聞いてなくて、適当に相槌をうっていた。
「ねぇ〜Kくん聞いてるー?お家着いたよ。」
「聞いてますよ先輩! ...先輩の家着いたんですね。」
気づいたらA子先輩の家に着いていた。
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「あたしの部屋ちょっと散らかってるけど、気にしないでね。」
そう言って部屋の中に入れてもらった。
玄関の靴はぴっちり揃えられていて奥のリビングもガラスのドア越しに綺麗さが伝わってきた。
「お邪魔しまーす...先輩そういえば、彼氏さんはどこに居るんですか?」
「んー?私の部屋に居るわよ〜先にリビングに行っててくれる?」
「はい、わかりました。」
俺と先輩以外に人の気配がない...
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リビングのドアノブを回した時に壁に手を置いた すると..
「壁に触らないで!!!!!!」
後ろから先輩が俺の手を凝視して立っていた。
「あ、すみませんでした。」
「うふふ。ごめんね〜私の彼氏潔癖症なのよ〜ごめんね。」
この時点でおかしいと思って帰ればよかったんだよな...
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「そんな不気味な女性の部屋からさっさと帰れば良かったじゃないですか。地雷ですよ」
「そんな事言ってもよ..その当時はA子先輩の事好きだったんだからしょうがないんだよ。若気の至りってやつだ。」
先輩は鼻の下をかきながら話の続きをしてくれた。
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リビングに入るときっちり揃えられた家具が並べられていた。
そして謎のマネキンが一体、男性型で洋服を着たものがTVの横に立っていた。
雑誌 リモコン 漫画 ..全て決められた配置に置かれているような雰囲気だった。
リビングの中に障子の戸があり、15cm位開いていた。
いけないと分かりつつ中を覗く、すると..
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ピンク色にライトアップされた部屋の中に大量のマネキンが置かれていた。
よく見ると男性型のマネキンで色んな服を着ていた。
警官 医者 高校の制服 ...
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大量のマネキンと一緒に大人のオモチャのような物が置いてあった。蝋燭 ローター 鞭 猿轡 ボンデージの衣装 縄 ライター 色んな大きさのナイフ...
「え...こんな趣味があったのか....はは..」
俺は変な汗をかいた。
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見てるのをみられたらまずいと思いその開いた戸から離れソファーに座ってくつろいでるフリをした。
「Kくんお待たせー!あれれー?TV付けないのー?」
そう言って先輩はリモコンを取りTVを付けた。閑散としていた室内にバラエティ番組の笑い声が響く。
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俺が押し黙っていると...
「どうしたの?Kくん〜元気ないよ〜」
陽気にA子先輩は俺に声をかける。
さっき見た物が頭の中を巡り先輩の声があまり耳に入らなかった。
「もしかして.....この障子の中、見たの」
ばれた..もう俺は終わりだと思った。
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「いえ、あの、戸が空いてたので少し見えてしまっただけで...」
「ふーん...。ねぇ、それ見てどう思ったの?怖いと思った?気持ち悪いと思った?」
怖くてA子先輩の顔をみられなかった。
ここで間違った答えを言えば俺は先輩に抹殺されるんだと思った。
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「えっと...素敵な趣味だな...と思いました。僕もああいうの好きなので...」
「えええー本当?!よかった〜やっぱりK君いいわ〜私の目に狂いはなかったわ!」
俺は自分が言った言葉に後悔した、自分も好きだなんて言うんじゃなかった。後悔先に立たずとはこの事だ..
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「ねぇ〜Kくん、私の彼氏紹介するね!忘れてたー笑 その前に飲み物出すね!」
先輩は鼻歌を歌いながらキッチンへ消えた。俺は一刻も早くこの部屋から出たかった。だが、早くここから出て行く理由が思い浮かばなかった。
自分の想像力の無さを呪った。
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「お待たせーはい、これ。とっても美味しいのよ〜身体に良いの。さあ、飲んで?」
差し出されたグラスに赤黒い液体が入っていた。
俺は必死に飲んでるフリをした 少し舌の上に赤黒い液体がのった。鉄と片栗粉とシロップと苦瓜を混ぜたような変な味...
匂いも生臭くて、かなり不味い飲み物だ。
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「美味しい?それは特別なエキスを入れたスペシャルドリンクなの!Kくんだからご馳走するのよ?」
こんな不味い飲み物貰っても誰も喜ばないと思うって心の中で呟いた。
「あ、はい、ありがとうございます。あのう、彼氏さんはどこに?」
飲み物の話をしたくなかったので彼氏の話をふってみた。
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「ふふふ〜彼氏ここにいるじゃん。まったくもーなんで気づかないのぉー?」
そう言ってA子先輩は彼氏を指差した。
指先を見て絶句した..
先輩はTV横に置かれたマネキンを指差していた。
まじかよ....なんだこの女..やばい!!!
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「ほらータケシーKくんに挨拶して?ん?...そうなのよ〜とっても良い子でね。..」
俺の目の前でA子先輩はマネキンとイチャイチャしだした。
キスしたりぺろぺろ舐めたり..
人間と人形とのその光景は異様で、不気味で気持ち悪かった。
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「あの...先輩...俺もうかえり..」
「ねぇKくん...Kくん私の彼氏にならない?この人は本命だけど、Kくんは私のお気に入りの彼氏。どうかな?」
「いやいやいや!俺には先輩みたいな綺麗な人は勿体ないです。」
俺は必死に言葉を考え選んだ。
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「えーなんでー?じゃあ..Kくんもマネキンになってよ。映画で観たんだけどね、人に蝋燭をかけて...あ、あれは蝋人形か。あははははははは」
先輩は楽しそうに話してるが目が笑っていなかった。
「いや、帰ります!すみません!!」
俺はソファーから立ち上がった。
「だめ、逃がさないよ。」
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鋭い目つきで俺を睨むA子先輩....いつもの綺麗な先輩の顔じゃなかった。
「いや、まじで怖いんで帰ります!!」
俺は半べそかきながらソファーから移動しようとした。
「何言ってんの?帰すわけないでしょ!」
俺の肩に思いっきり爪をたて掴んできた。
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血が滲むんじゃないかって位掴まれ、我慢できなくなってA子先輩から出されたグラスを先輩に投げつけた。
「きゃああー!」
先輩の顔いっぱいに赤黒い液体が広がった。
俺はダッシュで玄関に向かい、ドアノブを思いっきり回し外へ飛びだした。
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駅まで走った後後ろを振り向いたが、A子先輩は追いかけてきていなかった。
ほっとして駅の改札を通り、ちょうど着ていた電車に乗り込む。
「すげー体験しちゃったな...あれはやばい..異常だよ」
数十分経って自分の家の最寄り駅に着いた。
口の中の生臭さが気持ち悪いので近くのコンビニでミネラルウォーターを買った。
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自分の家に帰り、部屋に入ると携帯で時計を確認した。
メールが何件かきているのが分かり、開いてみた。全てA子先輩からのメールだった。
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「やっぱり途中で帰った方が良かったじゃないですか。下心で居座るからそんな目に遭うんですよ。」
「怖いだろ?凄い体験だろ?!実際体験してみろよーめちゃくちゃ怖ぇーぞ。」
先輩は4杯目のビールを飲みながら語った。
「怖いけど...僕だったら、変なな雰囲気感じたら直ぐに帰りますよ。その女性からのメールは何て書いてあったんですか?」
「殺すとか許さないとか誰にも言うなとかそんな感じのメールだった。先輩はサークルに来なくなり大学も中退したらしい。」
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「今頃何やってるんでしょうね..その女性。」
「噂によっちゃあ..芸能事務所に入ってモデルだかグラビアだかをやってるらしい。見た目は綺麗だし誰も頭おかしいとは思わないよな。」
「頭おかしい方がやってけるんじゃないですかね。」
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「うーん分かんねーけど、世の中怖いな見た目に騙されちゃいけないな。」
「もう二度と下心で相手の家に行かないことですね。」
「わかってるよ笑 お前も気をつけろよ」
「僕は大丈夫ですって、先輩みたくゆるくないんで。」
残りのビールを飲み干し店員さんを呼んだ
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<おしまい>
作者群青