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中編7
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誘導員と助手 (四)

皆様、どうか想像してみて下さい。

朝、新聞を片手に居間の戸を開けたその目には首口の伸びたTシャツ姿の温水さん風の(ぬ)誘導員がテレビの前で横になり、助手の優香さん似の(ゆ)が白いビキニ姿でソファに腰をかけている。

(ぬ)のTシャツのバックプリントはシーサーの大きな顔と海んちゅうの文字、その伸びたプリントのシーサーが、あっかんべーをしたパーマー頭のカバに見える。

「ふぅ」、、、鈍い頭痛が始まった。

(ゆ)の白いビキニに目をやると、布地を透き通らせるような肌のハリに、まだいけますやんっと下半身が反応した。

「今日は病院の日ですやろ?食事しはってはよ行かなあきませんやろ」

台所で背中越しに声をかけた妻が振り返ると、、、

青い顔で頭を抱えながらも下半身が反応したパジャマ姿の末期癌の亭主が新聞片手に立っている。

妻は一瞬、眉をひそめ

「アンタ、朝から何、考えてはりますねん、なんぼ何でも無茶はあきませんやろ」

「ちょ、ち、ち違うねん。朝、早よから頭痛がすんねんよ」

「頭痛でお股は硬くなりまへん」

アカン説明でけへん。どこの世界に、だらしないTシャツ姿のおっさんに頭痛して、白いビキニの子に反応した何ぞ言えるか?第一、二人ともワシ以外には見えへんねんぞ

「話は夜、二人でゆっくりしまひょ」

妻がその言葉を口にした時のあまりの目ジカラに肛門が開きそうになったが、、、手にした新聞が床に落ち、パンツの中にちょっと残尿を漏らしただけすんだ。

*****

今日は珍しく(ぬ)が一緒に電車に乗り込んで来た。これが、酷い事となった。

電車の中、道ゆく傍ら、建物の中、ありとあらゆる処に霊は存在している事を思い知らされた。

そりゃそうだ、現世に居る人間より冥界に旅立った‘人’の方が遥かに多いんだと思ったんだが、いきなり(ぬ)が

『違いますよ、殆んどの方は冥界へ行きます。今あなたが目にしているのは3種類の‘人’です。冥界に行けない‘人’か行かなかった‘人’と今から行く‘人’なんです』

『もうええ、お前の解説は、もう沢山やて、ワシが聞きたいのは何で奴らはワシに擦り寄ってきよんねんって事や』

『貴方が現世に身体を持ちながらが‘人’が見えて話を聞ける希少な存在だからです。彼等には伝えたい事があるけど術がない、だから貴方を通して自分の意志を伝えたいと考えて貴方に近づくのでしょう。気づかない振りをするのが賢明です』

『さよか』

『珍しく素直ですね。あっ、それと言い忘れました。助手の彼女は貴方が伝える意志を持った言葉しか伝わりません。安心して下さい。伝達力の持たない言葉を聞き取るのは訓練と技術がいるんです』

最後の言葉が自慢げに聞こえたが、ここはスルーしたろか、、、ん?

まて、まて、なんやて?助手は伝える意志の無い言葉は読まれへんのやて、、、?

そうか、その通りや、そう言えば、このアホがテレビの前で横になってた時、コイツが何考えているか分からへんかった。

ほなら(ゆ)のビキニ姿を心から楽しめますやん、そりゃマンモスうれピー、のりピーはアスカと一緒に薬屋さん???って何やそれ、古いし、アカン話しや、、、

いや〜しかしワシのノリツッコミは末期癌や言われて、ますます冴えてきたんとちゃうか?興奮して男汁、吹き出すがな。

『し、し汁って貴方はふなっしーですか?あんまり朝からハイテンションで飛ばさないで下さいよ』

*****

病院の中は患者で溢れていた。いや正確に言うと患者と元患者で、、、

受付を済ませ待合のソファに腰をかけると高校生くらいの女の子が声をかけてきた。

『おじさん、私達のこと見えるんだ』

気づかない振りをしていると、

『あっ無視?ひど〜い、見知らぬ振りをしても私、分かってるんだ』

『ばれてます』、、、と(ぬ)

『あのね、おじさんさっき廊下で胸の大きい看護師さんを目で追っていたでしょ?足がすっごくキレイでお尻の小さな看護師さんの事よ、おじさん口まで開けて、私、受付の受話器、突っ込んでやろうかと思ったぐらいよ』

顔が赤くなった。自分の娘より年下であろう子の言葉に恥ずかしくなった。

『おじさん、ごめんなさい。はずかしめる為に言ったんじゃないの。あの看護師さん、先週末に亡くなっているのよ。その彼女を目で追っていたおじさんだから話しがしたくなっただけなの、ごめんなさい、もう邪魔はしないわ』

言い終わると急に駆け出し待合所の一番隅のソファに腰をかけ外を見つめる少女の面影はどこか切ない感じがした。

少女にゆっくりと歩みよると、にこっと笑い声をかけると少女は

『よかった、おじさん怒ってないんだね?でも本当は私、怒られるより、無視される方がもっともっと辛いんだ』

突然(ぬ)は『今、結界を張りますから、まだ喋らないで下さい。それでなくても、注目されています。このままだと、貴方達の周りに‘人’ごみが出来ます』

*****

『君は何を伝えたいんだい?』

(注)解説、関西人は関西弁でそのまま行く人と関西弁を隠して標準語(江戸弁)を喋る人がいます。比較的に前者は技術系で後者は営業系などの対人関係の従事者が多いと思います、主人公は後者の設定です。

『伝える?何を伝えるの?私には伝える人も伝える事もないよ。ただ私は気づいたらこの病院に居て、目の前の人が私の前を素通りする毎日に飽きたって感じなの』

『君は死んだって分かってるのかい?』

『うん、悲しくもないのに、この病院で死んだ私にさわって泣いた人を見ていたもの、だから私は死んだって知ってるよ』

『君は病気だったのかい』

『ううん、私、殺されたの』

『こ、ろ、さ、れ、たって、、、誰に?』

『言いたくない』

と言うと彼女は遠くを見つめるような目をして、さらに切ない表情をして俯いた。

すると、(ぬ)が彼女と僕の手を握った。

(注)誘導員(ぬ)と触れ合うと伝える意志の無い相手の心が読めます。

すると、彼女が沈黙していた闇のページが開かれた、、、

彼女は母子家庭、幼き彼女と若い母を残して父親は借金を残し愛人と駆け落ちした。

残された若い母親と幼き彼女の二人の生活は生活保護と母のパート代で賄われた。

区役所に相談すると父親の借金は返す事は無いと言われたのだか、金融機関(銀行じゃない)からの嫌がらせは数ヶ月続いた。

今、振り返ると、この嫌がらせが続いた数ヶ月間が母娘が最も寄り添って生きていた時間だった。金融機関からの嫌がらせも影をひそめ穏やかな暮らしになるはずだったのだが、、、

母親は貧しい暮らしが嫌だったのか、いつしか夜の仕事を選び、母娘はすれ違いの日々が続いた。そう少女が高校生になるまで、、、

ある日、珍しく母と夕食を囲んだ。母はイスに腰掛けるとすぐに、

「合わせたい人がいるの」と言った。

内心やれやれ、やっぱり男の人の話かと思ったが、「誰?」と一応、尋ねた。

結論から言うと“父”と呼ばない事を条件に渋々OKした。

最初はおどおどして割と無口だった男はいつの間にか母娘の暮らしに割り込み、

朝から酒を飲み始める始末だった。ある夜、酔いから覚めた男は母親がいないのをいい事に、、、

泣き止まない彼女に今の生活が壊れる事を恐れた男は、まだ幼き少女の首を締めた。

本当にグロテスクなのはこれからだった。

帰宅した母親は冷たくなった我が子と男を見て、事もあろうか、我が子の遺体を男と共に我が子を殺めた紐で鴨居から遺体を吊るしたのだった。

警察が呼ばれ検視の結果は窒息死、母親の証言もあり自死とされた。

痛い、裂かれるように心が痛い。あまりの不合理な憤りと仕打ちの酷さ、、、彼女の短い人生に涙が溢れた。

『おじさん急にどうしたの?何んで泣いているの?、、、あのね私、音楽の先生になりたかったんだ。嘆き悲しんでいる人の心を優しく包んでくれる音楽を教えてあげられる音楽の先生になりたかったんだよ』

彼女に語りかける言葉が無い。彼女は彼女の人生を奪った犯人に思いを寄せる母親を思い、耐え忍んでいるのだ、、、

夢も命も奪われたにも関わらず、、、

いつでも悪は人の優しさを的にする。

この罪も無い彼女の人生の最後はあまりにも無慈悲で神も仏もあるものかと思わずにはいられなかった。

『君はあの世には行かないのかい?』

『まだ決めてないの。後10日はこの世にいる事が出来るって指導員って人が言ってたから決めるのはその時でいいかなって、、、そうそう、指導員って俳優の温水さんにそっくね、私、死んだ後にあの人がいて悲しい気持ちと笑いを抑えるのに、顔が歪んだようになったわ』

『コラ、お前が担当って兼務か』

(ぬ)が深いため息をついてうなづいた。

******

けたたましいサイレンの音とストレッチャーが廊下を走る音、ざわめく患者達の声の中、救急車が病院に到着した様子だ。受け入れの為に患者の状態を確認すると、医師は気道確保(挿管)を施し、ストレッチャーの上にまたがり心マッサージをしている。

だめだ、もう駄目だろう。だってストレッチャーに横たわるボブカットの女が、その足元に立って自分自身を見つめている、、、

すると少女が目を大きく見開いて呟いた。

『お母さん?、、、』

ボブカットのその女は少女を見て床へ泣き崩れた。

*****

『おじさん?私、現世に残ることにしたの、お母さん自殺しちゃって今からしばらくはあの世へは行けないんだって、私、お母さんが旅立てるまで側にいるって決めたんだ』

『命は預かりものなんです。例え本人と言えども、命を勝手に返す行為は許されない事なんです。過ちを犯した者は冥界へは行けません』と(ぬ)

『コラハゲ、めずらしく死神らしい事ぬかしとるやんけ?ほな毛の無いその頭に聞きましょう、お嬢ちゃんのお母さんはいつ頃にその冥界へと行けますのや』

『だから、死神じゃありませんって!おそらく、過ちの深さ、大きさによって期間は決まるんじゃないでしょうか』

『おじさん、大阪の人だったんだ?それより私、決めた、誘導員になる。だって誘導員になればお母さんを“誘導”できるじゃん。ねぇねぇ、毛の無い方のおじさん、私どうしたらいい?』

誘導員助手がもう一人増えそうだと思った。(ぬ)が頭を抱えている、、、

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ごっつおもろいですわ

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うわ、ウラガンさん、嘘でもえづく褒め言葉、毛穴、全開でとんでもない汁が出そうです。ありがとうございます。

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AokiMinoさん、“怖い”ありがとうございます。お気に召して頂いたのかと、喜んでおります。拙い文章ですが、ご評価を糧に頑張りたいと思います。

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読むのもつらい社会の闇が、軽妙な語り口によって伝えられる、良作ですね…。

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自分の作品にコメント頂きありがとうございましたm(__)m読みやすくて毎回、神判さんの作品楽しみにしています。

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真莉大西さん“怖い”を頂きありがとうございます。駄作とは分かっているので評価をしてもらえたら嬉しさ100倍です。

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ほんと読んでて心が温かくなる♡怖さ・悲しさ*おもしろさが人間味ある人物達で百倍になってます!!

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誘導員シリーズ!!
オドロオドロしい幽霊ばっかじゃないんだって、ほっこりした気持ちになれますね。
続きが楽しみです!!

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このシリーズスゲー好きです、まだまだ読みたいです!!

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