午後2時17分、カフェで友人を待ちながら昨晩の仕事の事を考えていた。
暫くすると、店の入り口付近から聞き覚えのある声がした。
「群青~!!遅れてごめ~ん」
学生時代に仲良くなった友人が巻き髪を揺らしながらこちらへ走ってくる。
「敬子久しぶり!お前いつの間にこんなに派手に・・学生の頃は清楚け・・」
「うるさいうるさい!学生の頃は真の姿じゃなかったの。今の私が完全体な!の!」
「・・・(完全体って・・モンスターかよ・・)」
敬子とカフェで待ち合わせをしたのは、僕に話したいことがあると連絡がきた為。いきなりの連絡で驚いたが、話したい事というのはどうやら怖い話らしい。
「群青怖い話好きじゃない?だから話しようと思ってね、この話は今も続いてるんだよね」
ニコニコしていた敬子の顔が真剣な表情へと変わった。今も続いているとはどういう意味なんだろう。
「なにがあった?」
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友人が体験した話でございます。
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敬子は昔某キャバクラでアルバイトをしていた。学費を支払う為にキャバクラをやっていたのだという。お店でNo1ではなかったがそれなりに稼いでいた。
敬子は赤っぽい茶色のロングヘアーで少しつり目で色白だった。見た目はツンツンしているが声が甘いという所が客に受けていたらしい。敬子はお店でM子という名前でやっていた。
敬子を指名する客の年齢層は30代前半から50代前半でSっぽい女性を好む男性が多かった。
その中で一人変な客が居た、名前は川田 ガリガリで色白で髪の毛が薄かった。
いつも眼鏡が汚れていて地味でモノトーンな服装をしていた。
川田が話す内容は自分の生い立ちや会社の上司の愚痴が多かった。毎回指名される度にまず生い立ちから話はじめ、次に会社の上司の愚痴という流れだった。
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敬子はニコニコしながら川田の話を聞くが、内心苛々していた。
「M子ちゃん・・・僕のは、話を一生懸命聞いてくれる。すごく嬉しい・・・僕の女神」
「川田さんのお話楽しいもん!もっと聞かせて?」
とびきりの笑顔に首を傾げ川田を見つめた。川田は顔を赤らめながら遠慮がちに敬子の顔をみつめた。敬子は川田を見つめながら自分のお気に入りのホストの顔を思い出し、早く今日の仕事を終えて会いに行きたいと考えていた。川田は敬子の瞳を見つめながら敬子ともっと一緒に過ごしたいと考えていた。
川田は敬子に惚れていた。
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「M子ちゃん・・・なにか悩み事とか・・ないの?」
「悩み事・・・ないって言ったら嘘になるな~でも・・話したら暗くなっちゃうから、お話しないわ・・」
「え、暗くなっても良いから話してよ!僕M子ちゃんの力になりたいんだ!」
川田がいつもと変わって熱くなっているのをみて敬子は少し驚いた。
「じゃぁ、川田さんだけに話そうかな。誰にも喋っちゃだめだよ?二人だけのひ・み・つ♡」
「う、うん!!秘密!秘密!!!」
敬子は友達に誘われて行ったホストクラブで高いお酒をたくさん頼まされ、借金をしてしまい困っていると川田に話した。川田はその借金を自分が返すと言い出した。
実際は友達に誘われて行ったのではなく一人で行き、借金もしていなかった。
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「借金は・・・100万なの。どうしよう・・・」
「大丈夫、僕が払うから。」
「本当?でも・・・・悪いよ・・・川田さんに負担かけちゃう・・・」
数日後、川田とアフターした際100万が入った封筒を渡された。
この川田のどこからこんな金がでてくるのか疑問だったが、貰ったものを素直に喜んだ。
「わぁあ!!川田さんありがとう!大好きぃ~♡」
「M子ちゃんは僕の女神・・・なんでもするよ。」
敬子は川田に抱きつきながら次の策を考えていた。
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敬子は味を占めたのか川田から金を貰う為に嘘を重ねるようになった。
内容はきまって"ホストからお金を請求されて~" "ホストにお金を入れるよう脅迫されて~"
川田は敬子を信じきっていたので微塵も疑わなかった。川田はどんどん敬子にハマり、敬子は川田から得た金をどんどんお気に入りホストに使った。
あるとき敬子は金を要求してくるホストの名前を川田に聞かれた時、うっかり名前を出してしまった。
「名前は一条@%%って言うの。と~っても怖くて見た目もヤクザみたいで感じ悪いんだから!」
敬子は適当な事を川田に説明し、川田はそれを信じた。
これがきっかけで事件が起きた。
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敬子がいつものようにホストクラブへ向かう途中で何者かにいきなり羽交い絞めされた。
「なにすんのよ!!やめてよ!誰か助けて!!」
「お前のせいで一条さんが大変な目に遭ったんだ!!どうしてくれる!!」
「M子テメーふざけんなよぜってー許さねーからな!!」
二人の男が敬子に向って罵声を浴びせる。敬子は身に覚えのない言いがかりをされて腹が立った。二人は敬子が通うホストクラブの従業員のらしかった。
「はぁ?私はなにもしてないわよ何言ってんの?意味分かんないんだけど!!」
「お前の彼氏がうちの一条に殴りかかり怪我を負わせたんだ。よりによって顔をやられるとは・・・ホストは顔が命なのに。」
二人の男の先輩風の男が低く落ち着いた声で敬子に話しかける。
「彼氏?そんな人居ないわよ私には一条さんしか好きじゃないから。」
「調べたらお前の彼氏と名乗る男の名は"川田"というらしい。知り合いではないのか」
暗い路地裏に立つ白い街頭の光が男の顔を照らす。鴉のように黒い髪に黒い瞳、真っ白な肌。
甘い顔に似合わぬ冷たく鋭い目がこちらをじっと見ている。とても堅気とは思えない雰囲気に身震いした。
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「その人は・・・私の客。彼氏ではなくてただの客です。」
それ以上敬子は言えなかった。川田に嘘をつき金を得ていたなんて。
「テメー嘘言ってんじゃねーだろーな!!」
初めに羽交い絞めしてきた茶髪の男が敬子に詰めより、敬子は驚いて後ろに後ずさりつまずき尻もちをついた。もう一人の茶髪の男が敬子に近づこうとした所を黒髪の男が静止した。
茶髪二人は後ろに下がり黒髪の男が敬子の前にしゃがみ込み顔を覗き込む。
「俺は嘘をついている人間を見破るのが得意なんだ。お前、何か隠してるな?」
「隠してない!隠してない!」
涙目になりながら言うが男の目は冷たかった。男は立ち上がりジャケットの胸ポケットから煙草を取り出し、それを見ていた茶髪の片方が咄嗟にライターを取り出し火をつける。
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「あのう・・・あなたの名前はなんて言うの?」
「客の管理ができないようじゃだめだな。」
「だって、私アルバイトだし!!この仕事で一生仕事しようと思ってないもの!」
「あいつも変な客に振り回されて悲惨だな。半端者のにつく客も半端者・・」
「半端者半端者って何よ!!私は一生懸命に!!」
「学費を払うためにキャバクラをするも、学校は休んでばかり。お前はなんの為に働いているんだ?」
男は敬子に背をむけながら敬子の学校生活や仕事での振る舞いについて話し出した。どこからkの情報を得たのか、どうやって知ったのか この男は何者なのか分からない。
この男に自分の事を見透かされてそうで怖くなった。
「俺は間違った事は言っていない。お前の為にもご両親の為にも早くこんな仕事辞めたほうがいい。」
怒り狂っている茶髪二人と、どこか対照的な雰囲気の黒髪の男。敬子は自分が恨まれているのか諭されているのか怒られているのか訳がわからなかった。
用が済んだのか、男たちは呆然とする敬子を置いて去って言った。
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敬子は男達が居なくなったのを確認し、お気にいりホストの一条に電話をかけた。
Prrrrr・・・・・Prrrrrrr・・・・・留守番電話サービスに接続します
電話に出ない。何度もかけ直すが出る気配がない。諦めてメールを送ることにした。
自分のせいで怪我をさせてしまった事 迷惑をかけたことを詫び、また逢いたいと最後に書き込み送信した。
「ごめんね一条さん・・・私だけの王子様なのに・・・。絶対許さない川田!!!!!」
ホストクラブへは行かず敬子は自分の家の方向へと帰った。
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茶髪A「まったくあの女最悪だ。間接的に一条さんに怪我させたのに何も弁償しないなんてな。」
茶髪S「まじであり得ねーし許さねー。川田とかいう男、一条さん以外に主任や幹部数名にも怪我負わせてるんすよ。このまま終わりなんてぜってー嫌です」
「誰もこのまま終わりだなんて言ってない。川田にはそれ相応の代償を払ってもらう、もちろんM子にもだ。あの女は嘘をついているし、弱みは掴んでいる。」
茶髪A「弱みってなんですか?あの女嘘ついてるんですか!」
「あの女は人をなめている、本当に怖いものを分かっていない。俺は頼まれた仕事は最後まできっちりやるから安心してくれ。」
「「ありがとうございます」」
そう告げると茶髪二人と黒髪の男はわかれた。二人は店へ向かい、黒髪の男は別の場所へと。
黒髪の男は左耳のシルバーピアスを触りながら仕事の流れを考える。川田とM子をどうするか。
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次の日の休日、敬子は川田を呼び出し昨晩の出来事を話問い詰めた。
「どうしてあんな事したのよ!!怪我させるなんて犯罪じゃない!!」
「だ、だって僕は君の為を思ってやったんだよ?君はあのホストに苦しめられていたじゃないか。君を救おうと・・」
「私あのホストクラブの人達に何かされるかも、殴られるだけじゃ済まないよ。どうすんのよ!!!」
「だって、君の為に・・・僕は君が大好きだから、敵を消したくて!!」
「もうあんたなんて知らない。大っ嫌い!最低!一条さん傷つける事ないじゃない!本当最低!消えてよ!!!」
敬子はまくしたてるように言い放ち川田を置いて去って行った。一人残された川田の心は傷つき絶望しかなかった。立ち尽くし、ただ地面を凝視するほかなかった。
その様子を近くでみて居る者があった。その者は川田へ近づき、話しかける。
「川田さん、真実を知りたくありませんか」
「あんた誰ですか」
「俺の事はどうでもいい、あなたに真実をお伝えにきたんです。M子さんの事知りたくありませんか?」
男は川田に言うと、ニヤリと不気味に微笑んだ。
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敬子は一条に会うために家で化粧をしていた。昨晩送ったメールの返信が届き、内容は今夜のOO時O△分に店の前で会おうというものだった。敬子はわくわくしながら念入りに化粧と支度をした。
数時間後敬子は家を出、一条の店へと向かった。
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携帯で一条に{今から行くからね♡あ、もうすぐ着くよ♡}と送信し、携帯音楽プレーヤーを聴いた。久しぶりに一条に逢える喜びが顔に現れる。
待ち合わせのホストクラブの前に着くとちょうど一条が店から出てきた。
「M子ちゃん・・・・」
少しやつれた顔で力なく笑い、敬子の名前を呼んだ。
「一条さん!!本当にごめん!!!」
敬子は一条に駆け寄り抱き付くと胸に顔を埋めた。CHANELのエゴイストプラチナムの匂いが漂う。このまま暫く抱き付いていたかったが、それは叶わなかった。
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「M子ちゃん・・・」
敬子は聞き覚えのある声に反応し声の主を探す。店から少し離れた所に停まった黒塗りの車から誰かが出てきた。その人物はだんだん近づいてくる。車の窓ガラスは黒く、中に誰が入っているのか分からない。近づいてくる男のほうに視線を戻し男を凝視する。
「M子ちゃん・・・僕を裏切ったね・・・利用したね・・・」
揺ら揺ら揺れながら近づく男の顔を見て言葉を失った。頭は丸坊主で切り傷や殴られた跡があり、顔も腫れ痣だらけで鼻は倍に膨らんでいた。外見はかなり変形しているが、間違いなく川田だった。
「ひっぃぃいいいっ!!助けて!助けて一条さんんんん」
恐怖で涙の滲む顔で一条に訴える。しかし、一条の顔は敬子が期待していたものではなかった。
「自業自得だろ。責任を取れよ・・・あいつにも、俺にもな・・・・」
真顔で言われ、返す言葉がなかった。
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「M子ちゃんの事・・・全部聞いたあの男から・・ひひっ・・もう一緒に死のう・・もう僕はぁ~全部たたんだんだぁ・・幕を下ろそうよ~・・・一緒だから怖くないよ・・・」
なにを言っているのか理解できず敬子はこの場から逃げようとした。が、逃がすまいと一条が敬子の肩をがっしり掴んで離さない。
「やめて!!私が悪かった!!やめて!!!!」
川田はポケットからカッターナイフを取り出すと敬子に切りかかった。敬子は必死でもがき逃げようとした。
「ふっふっふっふっ・・・!!!」
「ひぃぃぃぃぃぃぃぁぁああぁっ」
シュッ!!!!!!!!
敬子は首を切られ倒れた。気が動転しつつ首を触ると、手に濡れた感触があった。それが血であることに気付くと意識がだんだん遠のいく感じがした。遠くのほうで男がもがき苦しむ声と罵声、知らない男からの呼びかけが聞こえた。
「大丈夫ですか!!!今警察と救急車呼びましたからOOOOですよ!大丈夫ですか!!」
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通行人だろうか?必死に声をかけてくる。野次馬が増え、写メを撮っている者が見えた。
その野次馬の中に一人、見覚えのある男の姿があった。
鴉のように黒い髪に真っ白い肌に黒く冷たい目。その男はこちらに向かって携帯を向け指を動かしていた。きっと写真を撮ったんだろう、でも何故ここにあの男が?
まただんだん意識が遠のいていき、完全に目を閉じた。
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「この話本当だったら怖いな・・・」
「本当だもん!!ほら見て、ここ!」
僕は敬子に話を聞いたあと問うと首の傷を見せてきた。うっすらと首に傷があるが、言われないと気付かない。
「気が付いたら病院で寝ていてね、誰かが運んでくれたのよ。全然深い傷じゃなかったから良かった~~」
「傷が目立たなくてよかったな。ホストと川田はどうなった?」
「川田さんはどうなったか知らない。一条さんは同じ店でやってるらしい、私は出禁になっちゃったけど借金があるから返済しないと。」
「借金は嘘だったんじゃなかったのか?」
「一条さんとその他従業員の治療費と店の修理費と・・・」
この他にブランド物を買う為に闇金のような所からお金を借りているらしい。学生時代はとても真面目で清楚だった敬子と、今目の前で事の経緯を話す敬子が全くの別物のように見えた。
年を重ねれば変わるがここまで変わるものなんだと。
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「そうなんだ、色々大変だったんだね。 今仕事は?」
「うん・・退院して一か月位したら学校辞めちゃって。借金が残ってるからキャバやりながらグラビアやってるの。」
「グラビア?どんな?」
「今は水着や下着で撮ってるんだけど、そろそろヌードも撮ろうって話になってね!君の体は綺麗だから良い画が撮れるって!映像でも撮りたいって言ってくれたの。私芸能人になれちゃうよ~」
「はぁ?お前ヌードになるってどういうことか分かってるのか?映像で撮るとか・・・それってもう・・」
「君には才能があるって言われたんだよ?見込みがあるって。」
「上手く言いくるめられてるだけだよ、ちゃんと考えて仕事した方がいい。」
「大丈夫大丈夫~・・・でも、なにかあった時は 助けて欲しいかな。」
「勿論。絶対に一人で悩んじゃだめだよ、相談して。」
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精算を済ませカフェの前で敬子を見送ることになった。このあと仕事があるらしく迎えの車を待った。学生時代の話をしながら待っていると遠くから黒塗りの車がやってきた。
僕達が立っている場所の近くに停まり、後部座席の窓が開き中から誰かが声をかけてきた。
「敬子さん。」
その声は男の声で、敬子は車の方を見ると手を挙げた。
「じゃあね、また会ってね。」
「勿論。」
少し寂しそうに笑う顔に昔の敬子の面影見えた。
停まっている黒塗りの車の後部座席のドアが開き中に乗っている男が見えた。
敬子が乗り込むまで男の顔を見ていると、向こうと視線が合った。一瞬相手の口元が笑ったような気がした。
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ドアが閉まり敬子を乗せた車は走り去って行った。なんとなく車のナンバーと車種をメモした。
なにかあった時の為に。
敬子はなんの仕事をしに行くのか、車はどこに向かっているのかは分からない。
一つきがかりなのは迎えに来た車の後部座席の男だ。ドアが開いたときに見たその人物は
鴉のような黒い髪 色白で黒い目 左耳にシルバーのピアスをしていた・・・
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カフェで会った日以来連絡が取れないのが心配だ。
作者群青
久しぶりに話を書きました。誤字脱字があったらすみません。
最近時間の流れが早く感じます。今いる環境に慣れてしまったからでしょうか・・・
今回の話は変わってしまった友人の事を書きました。かなり仲が良かったので色んな"凄い話"を聞いて心配になりました。人それぞれ生き方は様々ですが誤った道には進んで欲しくないなと思いました。