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中編3
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袖もぎ地蔵

僕の住んでいた県には、その道の人間には割と有名な、『袖もぎ地蔵』というものがあった。

それを知ったのも、やはり僕の友人で、自称霊能者の友人の影響なのだが。

高校2年生の春。

ピンコン♩

携帯のSMSのアプリの着信音で目が覚めた。

画面には、イズイズと言う人からのメッセージが表示されていた。

『今日暇か?』

『予定を確認してみます』

イズイズと言うのは、僕の友人のライバルの様な人で、かなり男勝りの女性だ。

携帯でカレンダーを開く。

最近の携帯はパソコンの様になんでも出来るもんで、便利なものだ。

不在着信が来ていた。

自称霊能者の友人だ、掛け直すと、10秒程待った後に、寝起き直後なのだろうか、不機嫌そうな友人の声が返ってきた。

「…遅いわ〜…」

「んで、どうしたん?」

「あー、今日暇か?」

暇ではあるが、何か忘れている気がする。

「暇やなぁ」

「おけ、んじゃあ、いつもの稲荷で落ち合おう」

それだけ言うと電話は唐突に切れた。

SMSの着信がある。

イズイズから『まだかー?』

しまった、泉井さんからの誘いを忘れていた…。

すみません、急用が

と返信すると、『またあいつか』

それからは着信は無かった。

準備を整え、家を出る。

扉を開けた時に、サラリーマンとすれ違う。

稲荷に着くと、なにやら見覚えのある男女が喧嘩をしている。

友人と泉井さんだ。

どうやら、オカルト論争が始まってしまっているようだ。

2人が俺の存在に気付き、論争は終止符を打たれる。

友人が俺の耳元で耳打ちをする。

「なんであんなビッチを呼んだ?」

聞こえとるぞボンクラ!

言ったのは泉井さんだ。

「だいたい、お前らの合流場所がワンパターン過ぎるんやわ」

友人が鼻を鳴らす音が聞こえる。

「そう言えば、クソビッチ」

友人がニヤニヤしながら泉井さんに話しかける。

「お前、袖もぎ地蔵って知っとるか?」

一瞬、泉井さんの表情に動揺の色がかかったのを僕は見逃さなかった、が、そこは泉井さん、すぐにいつものムスッとした顔に戻り、知っとるけど?と返した。

この手の人間には有名なのだろうか?

もちろん僕は初耳だった。

「じゃあ、話が早いな、ビッチ、車回せるか?」

「は?なんで私が…」

「いいやん?」

「…分かった」

僕には信じ難い光景だった。

車内では30分ほど泉井さんと友人による

オカルト論争が続いていたが、現地に到着する頃には泉井さんは大人しくなっていた。

車から降りる、山だ、もっと道端に祀ってある地蔵を想像していたんだが…。

「袖もぎ地蔵ってのはな」

と友人は話し出す。

「この辺の伝承で、目の前で転ぶと袖を捥いで祀らないと祟られる、だとか、袖をまくらないといけないだとかっていう話があってな…でも、ここは違うんだなぁ…」

背後から息を飲む音が聞こえた。

泉井さんだ、心なしか青白い顔をしている。

時刻は短針が7を指す頃で、薄暗い。

「声がな、聞こえるんよ、なぁ?泉井」

不意に話を振られ、泉井さんがビクッとする。

だが、返答はしなかった。

獣道を進むこと小一時間は経っただろう。

友人は鼻歌交じりに岩を蹴り、跳び移っている、元気なものだ。

微かに何かが聞こえた。

「プフフ」

と友人の含み笑いが聞こえる。

『…袖…寄越さんか…』

声が聞こえた、ハッキリと。

急激な耳鳴りに襲われる。

友人が足を止め、右手に見える倒木を凝視し、歩み寄る。

ポケットに手を突っ込みながら、倒木の裏手に回り、影に消える。

また聞こえた。

『袖……寄越さんか…』

さっきよりも大きく、音割れのようなノイズを含んだ声だった。

「ヒッ」と、泉井さんが短い悲鳴をあげた。

倒木の陰から友人が現れる、片手にはケータイを持っている。

声はそこから聞こえていた。

「ジョーダン」

「冗談になってないわボケェ!」

泉井さんが涙混じりに怒鳴る。

「悪い悪い」

と半笑いで平謝りする。

「んじゃあ、降りよか」

泉井さんと友人が何やら小付き合いながら帰路につく。

倒木の裏手を覗く。

彼が屈み込んだ場所だ。

そこには、顔面が砕かれた地蔵があった。

顔面にはまだ乾いていない血が付着し、

その足元には、見覚えのあるジャケットの裾が転がっていた。

帰りの車内で、友人に手の傷の事、ジャケットの袖のことをといつめたが、木に引っ掛けた、としか返ってこなかった。

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