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冬の夜1:00過ぎ、用事を済ませた帰り道。
駅へ向かう道の途中にあるコンビニに立ち寄り、飲み物の置いてある場所に行った。
色々な種類の飲み物の中からカフェオレを手に取ると数十秒静止した。
「あれ・・・なんでコンビニ寄ったんだっけ。確かカフェオレ家にあったよな・・」
独り言を言いながら右手で右頬を触る。普段よりも熱く自分の手が思ったよりも冷たいことに気づく。
右手を右頬から横にスライドさせピアスを触ろうと指を動かすが、あるはずのピアスが無くなっていた。今日貰ったばかりのピアスをその日に無くしてしまった。
「うわ、これ怒られるな・・・」
酔った間抜け声でまた独り言を言うと周りを見た。怪訝そうな表情で此方を見つめるレジの店員さんと眼鏡をかけた初老のおじさん、暗い雰囲気のショートカットの女が視界に入った。
少し居心地悪くなり手に取ったままだったカフェオレを棚に戻し、雑誌の置いてあるほうへ体を向けた時。
「こんにちは。」
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ショートカットの女が目の前に立っていた。注意力が散漫になっていたのか、近くにいたのに気が付かなかった。ファンデーションが異常に濃かった事、目が細長かった事を鮮明に覚えている。
「こんにちは」
また挨拶をしてきたので自分も挨拶をし返した。
「こんにちは・・」
shake
女は二ィ・・・と笑うとどこかへ行ってしまった。挨拶をすることは変な事ではないしと思い気にしなかった。
雑誌コーナーへ向かい置いてある中から適当に選び読み始めた。目の前のガラスに違和感を感じ視線を移すと、さっき挨拶してきた女が両手と顔をガラスにつけて此方を凝視していた。
体がビクッと反応した反動で手に持った雑誌を落としてしまった。
すぐしゃがみ落ちた雑誌を拾った。
shake
「ひああああっ!!」
横で雑誌をみていた男が悲鳴をあげた。 立ち上がり目の前のガラスをみたがそこには誰も居なかった。店員さんが不安そうな顔で様子をみにきたが、悲鳴をあげた男は何も喋らず店を出て行ってしまった。
今日はコンビニに寄ってはいけない日だったんだ。だんだん酔いが醒めてきた頭で考えた。
何も買わずにコンビニを出るとまっすぐ駅へ向かった。
そして、この日からはじまった。
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~暗夜の礫~
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起床と共にベッドのシーツを直し枕を動かす。カーテンを開くと寝癖のついた髪を弄りつつ名前を呼んだ。
「ゆりーどこ行ったー」
いつもなら目覚めると横で寝てるはずの姿がなかった。リビングのドアを開けるとソファーの上で寝ている姿がみえた。
「ゆりここにいたのか、ちょっとだけ心配したよ。」
横に座り頭を撫で喉を撫でると気持ち良さそう目を細めながらにゴロゴロ言った。
"ゆり"というのは友達の猫で、仕事で家を空けるから預かって欲しいと頼まれ今に至る。
「お前雄なのになんでゆりなの?元カノの名前なのか?・・・・今日からお前は三郎。ゆりじゃなくて三郎だからな。」
ゆり改め三郎をソファーから抱き上げ、数分戯れた後仕事の支度をした。
朝食を軽く済ませ手帳に書かれた約一週間分のスケジュールを確認し溜息をつく。
三郎の餌をチェックし水を新しいものに変え家を出た。
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電車に揺られながら窓から見える外の景色をみた。ガラスに薄っすらと自分の顔が映っている。
ガラスで昨晩の出来事がじわじわ思い出された。そういえば不気味な女がいたな・・・
記憶にある女のぼやけた顔がだんだん鮮明になってきた所で思い出すのをやめた。仕事前に不気味な顔を思い出すのは嫌に感じたからだ。
十数分経ち仕事場の最寄り駅 昨晩も利用した駅に到着した。
腕時計で時間を確認し早歩きで向かう。昨晩寄ったコンビニをちらっとみると、昨晩と同じ店員さんが気怠そうにレジをうっていた。なんの確認の為なのかわからないが、特に変わりのないコンビニの様子をみて安心している自分がいた。
仕事場に付くとすぐに上司から来週の予定その他について話があると言われ呼び出された。
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仕事を早めに終え帰り支度をしていると横から同僚に声をかけられた。
「この後飲みに行こう?」
「悪い、今日早く帰らなきゃいけないんだ。また今度な。」
「お前昨日も一昨日も先週も先々週も "悪い、また今度な。"って断ってるぞ。お前の今度って何時なんだよ?」
同僚の腹黒眼鏡こと智巳が不満気な顔で言った。昨晩 仕事のお得意様の食事会という名の接待をしてきたので今日は飲む気分じゃなかった。どうにか相手を説得しその場を後にした。
帰り道に滋養強壮系飲み物を買いにコンビニに寄った。昨晩と同じコンビニだ。
目当てのものをみつけどれを買おうか迷っていると後ろから声をかけられた。
shake
「こんにちは」
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振り向くと半歩先にショートカットの女が立っていた。昨日の女である。
無視する気になれず挨拶し返した。 今日もファンデーションが異常に濃い、そして表情が怖い。
ニィ・・・・と口は笑っているが目が笑っていない。変な間があった後女はどこかへ去って行った。
飲み物を買いコンビニを出るとまた声をかけられた。
「こんにちは。」
コンビニ前に置いてあるゴミ箱横からさっきの女が顔を出した。横に首を倒し眼だけが此方をみている。不意打ちのそれに驚き心臓が何者かによってギュッっと強い力で握られたような感覚に襲われた。女の方をあまりみないようにして挨拶を返した。
「こんにちは・・・」
言い終わると早歩きで駅のほうへ向かった。後ろをみると女はまだゴミ箱横に立っていた。
女の前を行き交う人達は一切女の方を見ない。気付いているが見ないようにしているのか、気が付かないのかそれとも見えないのか・・・
考えても仕方がないので家で待っている三郎の事を考えた。
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自宅の最寄り駅に降りた際にさっきの女が付いてきていないか用心のため確認したが女の姿はなかった。昨晩に続いての今日だから意識が過敏になっているのだと自分に言い聞かせた。
家に着くと携帯のバイブが鳴った。液晶にメール二件と表示され、開くと龍平から一件 もう一件は去年の仕事の接待で知り合った者からだった。龍平は三郎(ゆり)の飼い主だ。
龍平からのメールは猫の事についてだったが、もう一人からのメール内容は真面目な内容だった。文末にメールを確認次第電話をとのことなのですぐに電話をかけた。
ワンコールで相手が出た。はやい・・・・
電話の内容は殆どが次回の接待の事で段取り等の話だった。
『接待とは別件のアレの件なのですが、近々此方に入る新人にやらせます。』
「・・・分かりました。お互い良い仕事ができたらいいですね。」
『はい。失敗がないように、ではまた。』
要件を伝え終えるとすぐに電話を切られた。
「電話口からでも冷たさが伝わってくる。怖い人だな・・・・」
三郎に餌をやり龍平にメールの返事を返すと夕飯を作った。
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今朝は三郎が顔に乗ってきたせいで早く目覚めた。毛が鼻に触ってくすぐったい。
「三郎ちゃんどいてくれ。このまま一緒にゴロゴロしてたけど仕事行かなきゃ。」
すり寄て来る三郎から離れるのは名残惜しいが仕事の事を考えて我慢した。
昨日と同じ時間の電車に乗り同じ場所に降りる。いつもと同じ景色が目に入る。
改札を出て出口の階段を上り、地上に出た。
「こんにちは。」
聞き覚えのある声に耳が反応する。後ろを振り向くが知らない人々がいそいそと上り下りしているだけだった。
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「こんにちは。」
正面を向くと、ショートカットの女が立っていた。異常な濃さのファンデーションに細長い目。
出くわすのは夜だけだとばかり思っていたので突然の遭遇に狼狽した。
「こんにちは・・・・」
ズイッっと顔を此方に近づけ挨拶をしてくる。反射的に後ろに下がった際に階段を1~2段踏み外し後ろに倒れそうになった。
「ぁ・・・」
ガシッ
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「大丈夫か?」
グレーのスーツを着た中年のおじさんに肩と背中を支えられた。もしこの人が居なかったら階段から転げ落ち頭を打って怪我を負っていたいたかもしれない。
「はい、大丈夫です・・・すみません。」
正面を見、女が居た場所をみたが誰もそこにはいなかった。あれは幻覚だったのだろうか。
「君、なにか・・・いやな空気が纏わりついてるようだ。隙をつくらないように、気を付けて生活しなさい。」
おじさんは真剣な表情で諭すように言うと僕の肩を一度ぽんっと叩き階段を上って行ってしまった。
「え?あの、どういうことですか?」
おじさんの背中に問いかけたが返ってこなかった。体制を整え手すりを使って上り、仕事場へ向かった。
仕事中・休憩中に女の声や顔が頭に浮かんだ。自分はマズイ者に憑かれてしまったのか、あの女は幽霊ではなく人間の筈だ幽霊なんて居るはずがない。貴重な休憩時間なのに色々考えてしまいゆっくりできなかった。
突っ伏し目を閉じテーブルの冷たさを額で感じていた。目を閉じるとショートカットの女の不気味な顔がスクリーンに映る映像のように浮かび上がる。気分が悪くなってきた。
不意に自分の後頭部が重くなりテーブルに顔が圧迫される。
「いっ・・・・た。重い!誰だ。」
「今日どうしたんだよ顔白いぞ?いつものことだけど。」
同僚の智巳だった。組んだ腕を後頭部に乗っけて体重をかけているいるようだ。
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「腹黒眼鏡重い!どいて」
「どいて欲しいなら今日飲みに行くって言えよ。」
「わかったよ、行くよ今日は飲みたい気分だから。だから腕どけてくれ 智。」
ダンベルのような重さの腕から解放され背伸びをするとバキバキと音を立てた。
智巳が不可解な面持ちで此方の顔を見ている。眉間に皺を寄せ何か考えているような、そんな顔。眼鏡を指で上にあげ口を開く。
「最近なにかあっただろ。何かに遭ったな?」
「・・・・変な女に挨拶されてそれに返事したら、それが毎日続いて・・・」
詳しく話したかったが休憩時間の終わり間近だったので続きは仕事後ということになった。
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お互い仕事を終え、智巳いきつけの個室飲み屋へと足を運んだ。
店内は和風の内装で外国人が好きそうな雰囲気ので個室の中の内装も凝っていた。
「こういう店って彼女と来たら楽しいだろうな。彼女と個室でいちゃいちゃできるし?」
「そうだな男のお前と来るところじゃないなー失敗したー」
席に着きお互いのジャケットをハンガーにかけた。店員さんが来てメニューを開き生ビールを頼んだ。
生ビールがくるまで仕事の話をし、頼んだ物がくると乾杯しジョッキの3分の1位飲んだ。
本題に入りショートカットの女とあった出来事を話し、今朝駅の階段での出来事も話した。
はじめはふざけた様子で聞いていたがこっちが真剣に話した為か最後は智巳の顔も真剣になっていた。
「どうよ、智はどう思う?ちょっと変わった女なのかな。」
「ちょっとってレベルの女じゃないぞ。生霊とか地縛霊とかの類じゃないか?」
「怖いこと言うなよ。」
怖がって怯えた顔をすると智巳はそれをみてにやにや嬉しそうに笑った。
自分はジョッキ生を一杯頼んだ後は飲む気になれずノンアルコールの物を注文、相手は幾つか酒を注文した。
相談することによって気が幾らか休まった気がした。
会計を済ませ店を出て外の冷たい空気を吸い込んだ。
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「なぁ、女が挨拶してきたって言ったよな?」
「ああ、言ったよ。」
智巳がポケットから煙草を取り出しながら問うた。
「女から挨拶されても挨拶し返すなよ。」
真面目な顔をして話すのでなんだか可笑しくなって笑った。
「なに真面目な顔してさ・・・酔っぱらってるんじゃないのかよ」
「聞けよ、挨拶し返すなって言ってんだ。無視したほうがいい気がするんだよ。」
片手に煙草を一本持ったままポケットを手で探り何かを探す動作をしていた。ライターを探しているのだろうか。
「ったく・・ライター忘れた・・・若しくは無くした。はぁ、ライター買ってくるからそこで待ってろ。」
智巳が持っていた一本の煙草をいきなり口に突っ込まれ、本人はコンビニの中へと入って行ってしまった。煙草を吸わないので貰っても全然嬉しくなかった。
だんだん頭がぼーっとしてきて瞼が少し下がる。口に煙草を咥え虚ろな目をしてコンビニ前に立つ様は滑稽であり怪しかった。
ウトウトし頭がガクッと落ちた。
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「こんにちは」
左耳元で女の声がした。あの女の声である。サッと左側を向くと例の女の顔が目と鼻の先にあった。異常な濃さのファンデーションの顔から発せられる腐った生魚と胃液と酢が混じったような臭いが鼻をつく。口に咥えていたはずの煙草がいつのまにか落ちていた。
女は顔を真横に傾けズイッと顔を寄せてきた。
「こんにちは」
再度挨拶をされたが目の前のソレに圧倒され声が出なかった。"こんにちはと言え"とばかりの威圧感で挨拶される。
「こんに・・・」
こんにちはと返しそうになったその瞬間、横から平手打ちが飛んできた。
shake
バァチッ!!!!
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「挨拶するなって言っただろ!!」
智巳がコンビニ袋を片手にシリアスな顔をして立っていた。叩かれた衝撃で眠気が醒め意識がクリアになった。
「・・・智も見えたのか?あの女見た?見ただろ?あいつ・・・」
「落ち着け、俺は女が見えてない。けど変な霧というか靄のようなものがお前の顔の前に見えた。お前、きっとこの先危険だぞ。」
脅しをかけられ怯んだ。
「約に立つかわからないけど、これ持っておけ。常に着けておけよ、いいな?」
透明と紺色?のような色の数珠のようなブレスレットを渡された。智巳はそういう趣味なのか知らないが数珠やその類の物をかなりの数持っていた。一度見せてもらったことがあるがすごい量だった。渡されたブレスレットをまじまじとみていると、今すぐ着けろと催促され腕に着けた。
駅まで歩いていく途中、渡されたブレスレットの説明をされたが今となっては頬が痛かった事しか思い出せない。
駅に着き、別れた。別れ際に挨拶を返さないことを再度言われた。
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自宅に着き鍵を開け中に入り鍵を閉める。玄関に置いた傘立てに入っていた傘が傾いていたので直した。
靴を脱いでいると置くから三郎が此方へやってきた。
ニャァ~
抱きかかえると頭で僕の喉にスリスリしてきた。一気に仕事の疲れその他が消えていく。甘美なひとときだった。
三郎を抱きつつリビングへ向かった。部屋の電気を点けテレビの電源を点ける。
風呂場に行き浴槽にお湯を溜めた。湯が溜まるまるまでリビングのソファーで三郎と戯れていた。
ピンポーン・・・・・・ピンポーン・・・・・
インターホンが鳴った。こんな夜遅くに宅配便がくるのはおかしい。自分の本能が出るなと警告している。
三郎がソファーから降り玄関の方へ走っていった。
ピンポーン・・・ピンポーン・・・・・
「三郎?どうした?」
追いかけると急に三郎がドアに向かって威嚇の声をあげはじめた。今まで聞いたことのない三郎の声に驚いた。三郎?と声をかけてもずっとドアの方を睨みながら唸り声をあげた。
ドアに近づこうとするとこっちに来るなと言わんばかりの声をあげられ、どうしたらいいのか分からなくなった。
数分経っただろうかドアのチャイムは止み、三郎の威嚇も終わった。
無言でドアをじーっと見つめた後三郎がこっちにやってきた。足に絡みつき頭を擦り付けてきた。
「さっきは怖かったけど、お前やぱり可愛い。」
さっきのチャイムの主はだれだか分からないが、ただの悪戯だと脳で処理した。
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今日は駅の階段に用心しながら上り周りに気を付けた。
仕事場に行く途中で不意に鞄を持つ腕を後ろに引かれた。
グイッ
腕を引っ込めようと振り返ると・・・・・
shake
「こんにちは」
ショートカットの女が真後ろに直立不動で立っていた。智巳の"挨拶し返すな"という言葉が頭を巡った。言いそうになった言葉を飲み込み女から顔を背けた。
shake
「こんにちは・・・・こんにちは」
鞄を持ち直し前を向く。
shake
「こんにちは・・・・こんにちは・・・・こんにちは・・・・こんにちは・・・・・」
前に向きなおっても目の前に顔。いつの間に前に回り込んだのか、女が顔を横に傾けて顔をズッ・・と近づけてきた。目を瞑り心の中で唱えた。
なにもいない なにもいない なにもいない なにもいない なにもいない なにもいない なにもいない なにもいない なにもいない なにもいない なにもいない なにもいない・・・・
智巳から貰ったブレスレットを握りながら唱えた。
目を恐る恐る開けると、目の前には誰もいなかった。数十秒の事だと思うが、とても長く感じた。
こんなことが三日間ばかり続いた。仕事の行きと帰りに遭遇し、その度に立ち止まって女が居なくなるまで唱えるのだった。精神的にとても疲れた。
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今朝はいつもより早い時間に起床し早めに家を出た。いつも同じ時間に家を出て電車に乗っていたので、あの女に行動パターンを読まれているような気がし時間を変えたのだ。
自宅から駅までの路でなにも起こらず、まずほっとした。駅に着き改札を抜けホームへの階段を上る。いつもと違う時間なので人の数が少なかった。
ホームで電車が来るのを待っていると、聞きたくない声が聞こえた。
shake
「こんにちは」
背筋がゾワっとした。周りを見渡すが誰もいない。聞き間違いだろうか。冷たい風が吹き、首をかすめた。
「こんにちは」
また声がした。前・後ろ・上・下・・・どこにもいない。
自分の居る場所と反対方向の一番奥にショートカットの女が首を横に傾けニィ・・・・と笑って立っているのが見えた。全身が一気に鳥肌立ち体が硬直した。
「こんにちは・・・・こんにちは・・・・」
両手を足にぴったりとつけ首は横に向き、両足首をちょこちょこ動かしながらこちらへ向かってきた。
「こんにちは・・・・こんにちは・・・・・こんにちは・・・・こんにちは・・・・こんにちは・・・・こんにちは・・・・こんにちは・・・・こんにちは・・・・こんにちは・・・・こんにちは・・・・こんにちは・・・・こんにちは・・・・こんにちは・・・・こんにちは・・・・
こんにちは・・・・こんにちは・・・・こんにちは・・・・こんにちは・・・・こんにちは・・・・こんにちは・・・・こんにちは・・・・こんにちは」
目をぎゅーっと瞑り"なにもいない なにもいない なにもいない なにもいない なにもいない なにもいない なにもいない なにもいない なにもいない"と何度も何度も唱えた。何度唱えても女の声が消えることはなく、確実に此方へ近づいている。
それでも自棄になりながら唱え続けた。
「なんで消えないんだよ!!消えろよ!!!」
震える手を抑えながら叫んだ。
女の声が止み、ホーム全体がシーンと静かになった。ああ、消えた・・・消えたのだと思いスーッと目を開けた。
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shake
「そんな事やっても消えないよおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!」
目と口をカッと開いた女の顔が目と鼻の先にあった。女の歯はまるで鋸と鮫の歯を足した様な鋭い歯で赤黒かった。
「わああああああああ!!!!!!」
叫ぶと女が体をドッと線路側に押してきた。僕はバランスを崩し線路に体が倒れた。
ガタンゴトン・・・ガタンゴトン・・・・・プーーーー・・・・!!!!
タイミングよく電車がやってきた。ああ、轢かれて死ぬんだ・・・そう思った。
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shake
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ガシッ!!!
自分の体が勢いよくホーム側に引っ張られた。地面に思いっきり尻餅をついたが、命は助かった。
「大丈夫ですか!!!!!声聞こえますか!!!!」
学生服を着た青年が真っ青な顔で話しかけていた。
「大丈夫です、今何が起きました?」
「叫びだしたと思ったらいきなり体が線路側に飛んだんです。操られてるみたいで、めっちゃ怖かったです・・・・死ななくてよかった。」
学生の手に握られる物が目についた。
「それ、なんですか?」
「あ!これ、これがあったから助けられたんです。お兄さんが線路側に飛んだ時に咄嗟に掴んだのがこのブレスレットなんです。これで命拾いしましたね。」
それは智巳に渡されたブレスレットだった。
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駅のホームで起きた出来事を智巳に話すとお祓いに行くよう言われ、後日お祓いに行き祓ってもらった後お守りを渡された。
智巳から貰ったブレスレットは切れてしまったが直してもらい、お祓いで貰ったお守り同様に持ち歩いている。
そのお陰か、女も見えないし声も聞こえない。智巳には本当に感謝している。
あれから、知らない人から声をかけられたら無視する癖がついてしまった。
もう、あんな体験はうんざりだ。「こんにちは」という言葉が怖い。
作者群青
防ぎようのない危険/不意打ち をテーマに書きました。
誤字脱字がございましたらご指摘頂けると幸いです。