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一月の第二日曜日の正午過ぎに買い物に出かけた。
付き合っていた彼女の誕生日プレゼントを買いに都内の某百貨店へ向かった。
どんなプレゼントを買ったらいいのか分からず店内をぐるぐるまわった。
一時間近く店内を歩いたが特に良い物が見当たらなかった。
悩んでいても仕方がないので彼女に何が欲しいのかメールできくことにした。
"ねぇ、今欲しいものってなに?"
""なによいきなりΣ(゚Д゚)うーん、アクセサリーが欲しいなぁ。。""
"ふーん。"
""もしかして、買ってくれるの?(*'ω'*)""
"買いませんけど?"
""けち!!""
アクセサリーが欲しいのか・・・・
今自分がいる階は洋服売り場だったのでアクセサリーが売られている階に移動した。
エスカレーターに乗り、あと一階でアクセサリー売り場というところで急な便意に襲われた。
やばい・・・・これはやばいやつの腹痛だ
急いでトイレを探した。
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フロアの天井についているトイレを示す標識を探し矢印の方向に走った。
ああっ間に合うかな、まじで漏れそうだ・・・
腹を抑え少し前かがみ気味の姿勢で走る俺をみる客が何人かみえたが、そんな事を気にしていられる余裕はなかった。
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やった!トイレみっけた!
漏らす前にトイレに辿り着きほっとした。個室トイレが三つ並び、手前は鍵が閉まっており真ん中と一番奥が開いていた。
一番奥のドアを開け中へ入った。鍵をかけると急いで用を足す態勢に入った。
はぁ~間に合った~百貨店でうんこ漏らすとか笑えねぇ。変なもの食ったから腹下したのかのかな、なんか悪いもの食ったっけ?
今日食べたものを思い出していると、隣の個室トイレのドアが閉まる音がした。
shake
ギィ・・・・バタンッ ガチャ ガチャンッ
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鍵の閉まる音が止むとゴソゴソと動く音がした。
隣の人ももしかして腹下したのかな
便意が止まりトイレットペーパーに手をかけた、その時。
「すみませぇ~ん」
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隣から声がした。気のせいかと思い無視した。
「すみませ~ん、かみもってませんかぁ~」
間抜けな男の声がした。
トイレットペーパーが無くなったんだろうな。
自分のケツを拭き終わるとトイレットペーパーを少し多めに取り下の隙間から隣へ渡した。
「かみ、下から渡しますね。」
shake
隙間にペーパーを差し込むとグッっと引っ張られた。
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ジーパンを上げベルトを締めていると、また隣から声をかけられた。
「すみませぇ~ん、かみもってませんかぁ~」
さっき渡した量じゃ足りなかったのかよ・・・
さっきよりももっと多くかみを取り、さっきと同様に渡した。
「どうぞ」
差し出すとさっきよりも強めでかみを引かれた。
shake
グッ!
なんだよ、乱暴なやつだな!
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トイレを流し、ドアのカギにてをかけると
「すみませぇ~ん、かみもってませんかぁ~」
shake
バンバンバン!バンバンバン!ガッ!ガッ!
かみの催促の言葉と共に壁を叩いたり蹴られた。
苛っとした。その声を無視し鍵を開けようとしたその時
コンコンコン、コンコンコン、
今度は自分の個室ドアを叩いてきた。
「すみませぇ~ん、かみもってませんかぁ~」
こいつ、ふざけてやがる・・・・
相手の行動に怒りが増し、ドアを勢いよく開けた。
「ふざけんじゃねーよ!!!!」
ドアを開けると直ぐに人が中に入ってきた。
「うお!!」
shake
ガッ!!!!!!
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入ってくるなりいきなり顔面を思いっきり殴られた。後ろの壁に頭を打ち鼻から液体が流れた。
便器に座る形になり俺は状況がつかめない頭で目の前の相手をみた。
「すみませぇ~ん、かみもってませんかぁ~」
男は黒髪に所々に白髪が混じり白い粉のような物が付いていた。多分フケだろう。
季節は冬だというのに、汚れてヨレヨレのTシャツに極端に短いパンツをはいていた。
ニヤニヤ笑う口から覗く歯は茶色かった。不潔で気持ち悪い男だった。
「いってーな、何すんだよ!」
ガッガッ
顔と腹を殴られた。痛みに前かがみの姿勢になると、男はいきなり俺の髪を強く握ってきた。
「かみぃ~かみぃ~へへへへ。かみぃ~かみぃ~ かみもってんじゃん!かみかみ!」
両手を使って髪を思いっきり引っ張られる。俯いていた顔を強制的に上を向かせられ首が曲がった。
「いてえ!やめろ!」
抵抗しようと男の腕を掴んだ。すると、間髪入れずに腹を2~3回強く殴られた。反射的に口から胃液が混じったような液体が吐き出された。
「おおおうえっ」
男は俺の髪を毟り、また髪を掴むと俺の頭を前後左右に激しく揺らしたり、壁にぶつけたりした。
「や、めろ・・・」
止めてほしいと懇願しても抵抗しても男の暴力は止まらなかった。
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「かみぃ~!かみかみかみ!!!!!かみかみかみぃ~~~!!!!!」
だんだん男の声が小さくなっていき、俺の意識は遠のいていった。
ああ・・だめだ・・・俺死ぬんだ・・・・・
完全に意識が途切れた。
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「おい!おい!大丈夫か!」
男が叫ぶ声が聞こえゆっくりと意識がはっきりとしてくる。瞼を開くと目の前に居る男が俺の肩を激しく揺すっている。
「うわあああ!」
さっきの男だと思い恐怖で声を上げてしまった。
「よかった、あんた死んでるのかと思った。本当よかったよ。」
落ち着いてよくみるとそれはトイレの清掃のおじさんだった。
便器に座っていたので立ち上がろうとすると腹に激痛が走った。
「いってえええ!!」
うまく立ち上がれずおじさんの肩を借りてようやく立ち上がれた。
盗まれた物はないかポケットを確認すると財布や携帯は無事だった。
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「110番したから、もうじき警察が来ると思うよ。トイレで揉めたのかい?それとも物取りの仕業かい?」
「いや、いきなり男に殴られて、えっと・・・かみ、かみって叫んでて、それから・・・髪を毟られて・・・あ」
俺は咄嗟におじさんに自分の頭がどうなっているか問うた。
「おじさん!俺の髪どうなってる?今どんな?」
おじさんがみえるように頭を屈めた。
「あーあ、これは酷いな。所々毟られて、はげてるよ。」
手で触って髪を確認すると所々頭皮がむき出しになっているのが分かった。
坊主にするしかないか・・・
俺の髪は絶望的な状態だった。
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おじさんに事の経緯を説明していると警察がトイレに入ってきた。
何時頃に男と遭遇したのか、男の特徴、何をされたのか貴重品は盗まれていないこと等々を説明した。俺の顔や髪をみる警察は哀れそうな目をしていた。
その時は自分の顔がどんな状態なのか分からなかったが、後から鏡で確認した時あまりの酷さにびっくりした。
「でもあんた命は助かってよかったね。」
「もってかれたのが髪でよかったです。」
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この日以来、この某百貨店へ行くことはなくなった。
個室トイレに入るときは、トイレに誰も入っていないのを確認してから入るようになった。
今でも時々あの男の顔を思い出す。
あの男の行方は未だにわからないままだ。
作者群青
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