Yさんから聞いた話。又聞きです。
まあ私の知り合いの話ですが、
東京によく出張するんですが、荒川区と品川区という、東京の北と南の外れに支店が二つあり、どちらも旧街道に近い場所だったそうです。
千住の小塚原、鈴ヶ森の近くと言うことで、彼はそこに出張するのを楽しみにしている節があります。
まあ、それにはちゃんとした理由があるのですが……。
「いやね、こないだの出張楽しかったねえ、いいのを連れて帰ってね。
小柄だけどいい体してるし、顔も私の好みでね。
ずっと楽しませて貰ってるんだ。
Y君は信じないだろうが、今俺の横にいるんだけどね、」
この親父、霊感ありと自称してるし、また妙な色事自慢が始まると止まらないんです。
これまで散々聞かされています。
この親父の話だと幽霊をかなり実体化できて、五感的には生きている人と全く変わらないところまでリアルに感覚を楽しんでいるらしいです。
もちろん刑死したグロい姿でなく、まだ生きている時の姿だそうです。
味がどうの匂いがどうの、
他の人が聞いたら、絶対病院送りだろうな。
まあ私には実害ないし、怪談は嫌いな方じゃありませんから。
さっきから親父の右手の仕草が少々気になっていたが……。
「おや?ビールとおつまみ切れちゃった。ちょっと買いに行ってくるわ。欲しいもんあったら買ってくるよ」
てなわけで出て行ってしまいました。
部屋には私と素っ裸の幽霊だけ、実は私も見えているんです。
「あんた、ちょっとこっち来て」
幽霊さんおずおずと私の前に来ました。
正真正銘の生きた人間のようです。
身長は160センチ強、胴長短足、歳の頃は20代から30代というところですか。
月代が伸びていて髭面、角顏で奥目、縄文顏、筋肉質の体で、毛深い。
いえ、男なんですよ。その方というか幽霊さん。
いやね、その時は幽霊さんより知り合いの方が怖かったです。
「成仏させてやるっていうから来てみたら、この体たらくでさあね。あの人は、ホント口が上手いから弱っちゃいます。」
おっさんもおっさんなら此奴も此奴、
「そう?
あ!ちょっと用事思い出した、彼帰ってきたら、急ぎの用事でさあ、会社に戻ったと言ってくんない?」
幽霊さんに伝言して脱兎のごとく、そこを脱出しました。
それから、その知り合いとは疎遠にもならずに過ごしています。
作者純賢庵
幽霊話です。