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僕の通う大学には心霊研究サークルのようなものがある。
とは言え、その実態はただの内輪の集まりのようなもので、メインで集まるのは
僕、牧下、新山、井野の四名、あとは後輩数名が稀に顔を出す程度のものだった。
それ以前に、このサークルの元の名はお料理研究なのだ、少なくとも僕が入ってからは料理などした試しはない。
高校生の頃からの知り合いであり、サークルの先輩となっていた泉井さんも最近はすっかり顔を見せなくなっていた。
聞くところ、大学にも当分出ていないらしい。
「カシマさんって知っとぉ?」
大学の食堂で昼食をとっている時に同じサークルの後輩が話しているのを小耳に挟んだ。
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「カシマさんって知っとるか?」
高校を卒業した年の2月
春も迫る頃に僕の友人であり、自称霊能者の友人が訪ねてきた。
「カシマさん?」
フッと友人が鼻で笑う。
「テケテケ…やったら分かるやろ?」
それなら聞いたことがあるぞ、と頷く。
ここは友人の部屋なのだが、彼の放つオーラが部屋を異界の一部へと作り変えて行くように錯覚する。
彼の話した『カシマさん』の内容はこうだ。
戦後直ぐの兵庫県、鹿島礼子と言うそれは美しい女性がいた。
ある日、当時の加古川駅近くを歩いているところを在日米兵に捕まり…性的暴行を受けた。
気を病んでしまった彼女は線路に飛び降り、自殺した。
その頃から奇妙な噂が立ち始めた。
市内の彼方此方で変死を遂げる人間が出てきた。
夢でカシマさんが出ると殺される。
ここまで話すと友人はニヤリと笑い。
「この話を聞いた人間の夢にカシマさんは現れる」
と言った。
「マジで?」
「おう、マジで」
これは僕死んだな、と思った。
「今日は泊まってけよ」
その言葉が唯一の救いになった。
その日の夜、21時には友人は就寝してしまい、電気を消すのも億劫だったのでそのままに、僕も恐る恐る目を閉じた。
目が覚めると暗闇だった。
回らない頭で思考する。
「電気…消したっけ?」
ズル
音がした。
友人の姿は見えない。
ズル
何かを引きずる音。
体がピクリとも動かない。
叫ぼうとしても口からクヒュウと空気が漏れるだけだ。
ズルリ
音はもうすぐそこまで迫ってる。
「アシ…クレナイカ…?」
そんな声が聞こえた。
相変わらず声は出ない。
「…アシ……クレナイカ……?」
耳元で囁くような掠れた声が聞こえ、咄嗟に瞼を閉じる。
「足は今使ってるからやれない」
そんな男の声が聞こえた瞬間だ。
「いい加減目ぇ覚ませボケェ!」
怒号と共に頰に衝撃が走り目に光が飛び込んでくる。
友人がムスッとした顔でこちらを覗き込んでいる。
どうやら夢だったようだ。
「足足五月蝿いわ!」
頭を小突かれる。
「あれ何?!」
さっきの、夢のことを友人に問う。
「それがカシマさん」
よっしゃあ〜!と友人が腰を上げる。
時計は丑三つ刻を指している。
「着替えて行くぞ」
10分後、僕と友人は、友人のスクーターを二人乗りで走らせていた。
信号に引っ掛かり、スクーターを止める。
「カシマさんはテケテケの原型になったって言われとる怪談でな、カシマさんが夢に出たらカシマさんのカは…何だっけな?…」
信号が青へと切り替わり、スクーターがエンジン音を響かせる。
友人が何か言っているようだったが、風切り音で、何も聞こえない。
5分ほど走らせただろうか、スクーターは今はもう廃線となっている線路の傍で止まった。
「ここで待っとけ」
そう言うと、トンネルへと入っていった。
友人が出てくると手には一枚の紙切れが摘まれていた。
ほれっと僕に見せる、それを手に取ろうと手を伸ばすと、触るなと手を弾かれる。
「取り憑かれたいか?!」
そんな危ないものを素手で触る友人って…
紙切れは写真だった。
綺麗な女性なのだが、見覚えが…。
「これが鹿島礼子」
ゾワッと寒気が走る。
何でこんなものがこんな所に!
「誰かが不憫に思って祀ったんやろな
まあ、その祭壇もぶち壊したけど」
そう言いながら友人はポケットからZIPPOを取り出し写真に火を付けた。
女のすすり泣くような声が聞こえたような気がきた。
友人はスクーターへと歩いと行くと、ヘルメットインから小瓶を取り出すと、またトンネルへと入って行き、また数分後戻ってくると。
「帰るぞ」
と言いながらスクーターのエンジンを掛けた。
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都市伝説は人と違いその実害が無くなっても尚語られ続けるのだ。
戦後から続く都市伝説の実害を葬った彼は今どこで何をしているのだろうか…。
そんなことを思い、カレーを頬張った。
作者慢心亮
初めての長編…?
ですかね?