【重要なお知らせ】「怖話」サービス終了のご案内

中編3
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見ちゃだめ。

ある夜のこと。暇だった私は、友達のサヤカに電話を掛けた。しばらく他愛のない話で盛り上がっていたのだけれど、ふいにサヤカが声を潜めた。

「……怖い話、してあげようか」

「出た出た、ホラークイーンの悪い癖が」

サヤカは大のホラー好きで、しょっちゅう怖い話や都市伝説、学校の怪談などを話して回るので、クラスメートからはホラークイーンという渾名を付けられている。本人もまんざらではないらしく、ホラークイーンと呼ばれる度に嬉々として、「今日はこんな話があるんだよ」などと語り始めるのだ。ホラーが特別大好きというわけでもなく、かといって極端に苦手でもない私は、サヤカの悪癖にやや呆れつつも付き合ってあげることにした。

「今日はどんな話なの」

「今日はね、お風呂場にある鏡の話」

サヤカは雰囲気を出すためか、わざとらしく低い声で話し始めた。

「お風呂場に鏡、あるでしょ。鏡って四つ角があるよね。その角を見ちゃいけないの」

「何で?」

「四つの角を全部見た後に、鏡を真正面から見ると……」

「見ると?」

「こわーい何かが起きるの!!」

やたらと大きな声で叫ぶサヤカの声に驚きはしたものの。話の内容としては低俗で、ありきたりともいえる内容だった。しかも何かって何だ。曖昧だし、信憑性に欠ける。ホラークイーンの異名を持つサヤカの話にしては、何だか拍子抜けな結果に終わったが、それでも一応「止めてよー、これからお風呂に入るんだから。怖いじゃんか」と、精一杯怖がるフリをした。

だが、サヤカは私の稚拙な演技などお見通しらしかった。機嫌を損ねたらしく、低い声でぼそりと、

「……今に分かるよ」

そう言い残して電話を切ってしまった。

サヤカとの電話を終えた私は、お風呂に入ることにした。サヤカの話に出てきたから入るのではなく、ちょうどお風呂に入る時間帯だったのだ。

「鏡の角を見ちゃいけない、ね……」

体を洗いながら、ふとサヤカの話を思い出す。目の前には全身を移す大きな鏡がある。湯気でくもりがちな鏡。風呂場に入ると、まず目につくのがこの鏡だ。私は何の気兼ねもなく、体を洗う手は休めずに視線だけ動かす。上の右角、左角、続いて下の右角、左角へと視線を移す。それから真正面を見る。

が。別に変わったものは何一つとして映っていない。体中、白い泡だらけの私が立っているだけだ。

「ほーらね、何も起きやしない。全然怖くないし」

独り言を言いながら、シャワーで泡を流す。体を洗い終わり、次は頭を洗おうとシャンプーのボトルに手を伸ばす。何回かポンプを押したが、一向に中身が出てこない。どうやら終わってしまったようだ。確か買い置きのシャンプーが洗面台の下に入っていたと思うが、素っ裸で出ていくのも気が引ける。私は家族の誰かに頼むことにした。

「誰かー!新しいシャンプー取ってくれない?」

少しして、カララ……とお風呂場の扉が開いた。裸を見られたくない私は前を向いたまま、後ろ手を伸ばす。

「はい」

鏡越しに、白い手が新しいシャンプーを持っているのが見えた。私は「サンキュー」と受け取り、軽く頭を下げる。白い手が静かにお風呂場の扉を閉める様子が鏡に映っていた。

お風呂から上がり、髪の毛をドライヤーで乾かしていると。玄関のほうから物音がして「ただいまー」と声がした。はっとして、生乾きのまま玄関へ駆けつける。そこにはコンビニの袋を下げたお母さんが立っていた。

「お母さん、出掛けてたの?」

「そうなのよー。ほら、牛乳切らしててさあ。あんた、毎朝牛乳飲むでしょ?ないと困ると思って、コンビニに行って買ってきたのよ。で、今帰ってきたとこ」

「え……。それ、どれくらい前の話?」

「それがさあ、二時間くらい前なの。コンビニから帰ろうとしたら、知り合いの奥さんにバッタリ会っちゃって。ついつい長話してたら遅くなっちゃったのよねー」

……お風呂上がりで火照っていたはずの体がすーっと冷えていく。無言で立ち尽くす私に、何も知らないお母さんはにこにこ笑いながら言った。

「ごめんねー、長いこと一人っきりにさせちゃって」

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生きてる人間の手だったらもっと怖い。

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コメントをして下さった皆様、ありがとうございます。

鏡の四隅を見た後、鏡の中心を見るーーーこれは児童用書物に載っていたのですが、霊を見る方法なのだとか。

確かに鏡という物は、古来よりまじないや儀式に用いられてきました。神聖なもの、として考えられてきたみたいですね。鏡は真実のみ映す。絵画のように書き手の感情を一切含むことなく、ありのままの姿を映すもの。

鏡に幽霊が映っていたらーーーぞっとしますよね。ただ、ぞっとするのは幽霊だけだとも限りません。有り得ないことだと思っていた「現実」が映っていたとしても恐ろしいと思いませんか。

この話の主人公は何を見たのでしょう。自分の背後に何がいたと考えたのでしょうか。

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確かに親切ですね。まだ家に居続けてるのか気になります💦

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まめのすけ。様 いつも読んでも、締めのザワッとする所や後からくる怖さは最高ですね。

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