俺にはもともと視る力みたいなものはありません。ただ、少しだけ耳がいい程度です。誰のものかわからない足音が聞こえたり、鳴り始める前に電話だってわかったり、コピー機の中で紙が擦れる音だったりを聞き取れるくらいなんですが。
「美女の幽霊にならとり憑かれてもいいかなぁ」なんて人が言ってたのを聞いたことがあります。俺自身その気持ち共感するところはありました。
では、実際にとり憑かれるとどうなるか、分かるでしょうか?
聞いていただけますか?私の体験談を、
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始まりは大学2年生の頃です。
分かる方もいらっしゃると思うのですが、自分が今寝ているのか、起きているのかわからない何とも言えないあの感じ、眼は開いている、しかし思考がうまくできない、身体もなんか自分のものとは思えない。夢現ってやつです。
そんなとき…
『なんだ…あれは…?』
始めは思考がうまくできてないせいで、部屋にある何かを見間違えてるんだと思ったんですが。どう見ても“脚”なんです。脛より下の脚が見えていました。
『おいおい、まじかよ。まだ昼間だぞ…』
そんなことを考えながら、見えちゃいけないと感じた俺はどうにか身体を動かそう。身体を取り戻そう。そう思い、やっとのことで身体を動かしました。人それぞれだと思うんですが、俺は上記のようなとき、身体を動かすとすごい痛みが走ります。
自分の身体を取り戻して改めて見たとき、脚はありませんでした。
『なんだったんだ…?』
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それから1週間ほどでしょうか。
大学の関係で県外で一人暮らしをしている俺は自炊をよくします。まな板に材料を起き、包丁にて切るとき前屈みになって切るのですが、その際前屈みになって下を見るため自分の脚が見えます。
自分の脚が目に入ったとき
『……なんで…脚が3本あるんだ!』
右手に包丁を握ったまま思いっきり振り返りました。もし、脚の位置に誰かいたのなら包丁で切りつけていたでしょう。
ですが、当然ながら誰もいませんでした。
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まだまだ話はあるんですが。
その日、夜寝ていると、また夢現になってしまったんです。以前の件があったので、今回は早く解くために身体を動かそうとしていたのですが
『いってぇ…』
痛みばかりでうまく動きませんでした。
『早く解かないと…』
そう思っていたときに、俺の脚が動いたんです。正確には、持ち上げられた。抱えあげられたというような。
私の部屋は台所と生活スペースの間をガラス戸で仕切っているのですが、ものすごい力でガラス戸の方へと引きずられたんです。
『ちょいちょいちょいちょい!マジかマジかマジかマジかマジか!』
無我夢中で何かを蹴飛ばしたおかげで、ガラス戸に突っ込まずに済みました。
俺に直接何かをしてきたのは始めてで、焦りや驚きで一杯でした。
ただ、今までと違ったのは。脚以外の部分が見れたということです。
相手が“女”ということがわかりました。
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とうとう、全身を見るときがやってきたんです。
俺は深夜のコンビニでバイトをしていたのですが、夜中の3:00をすぎると平日では客はかなり少なくなります。やらなきゃならない業務はすべて片付け、裏で漫画を読んでいると。
すっ…と。
現れたんです。不意に現れるもんだから
ビクッ……!!っとなりましたよ。
ただ、
いつもならすぐに見えなくなるのに、その日だけは不思議と少しの間見えていました。
『漫画に興味あるのか?』なんて考えるくらいの余裕がありました。
今となっては不思議なんですが、女の幽霊(以後、幽子さん)の服装が思い出せないんです。
白いワンピースのような、the幽霊って感じだった気もするし、普通の服装だった気もするんですが。
とりあえず、幽子さんに対して“怖い”と言うものはありませんでした。
そして、無意識に瞬きをしたとき、幽子さんはいなくなりました。
あの人が俺に憑いてたのか…、そんな風に感じていました。
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後日、このままじゃいけないだろうと、お寺にお祓いに行き衝撃的なことを言われました。
「あなたには確かに女の霊がついてますね…2人」
「2人?!」
住職には体験したことのあらましを話してありました。
「はい。あなたが始めに見たのと、コンビニで見たのが同一の霊。」
これは幽子さんらしい。
「料理中に見たのと、足を引っ張ったのが同一の霊。こちらは厄介なものです、祓った方がいいですね。」
そう言われ、祓ってもらうことにしました。
「もう1つの方はあなたに害を与えることはないでしょう。祓うことはできますがどうしますか?」
「いえ、それなら大丈夫です。自然と離れるでしょうし。」
「わかりました。それなら、あなたには話しておいた方がいいでしょう。」
以後は住職に聞かされた話です。
幽子さんが俺についた経緯はよくわからないらしい。
そして、俺がもう1つの霊に足を引っ張られた時に助けてくれたのは幽子さんだったようだ。
また、俺が蹴飛ばしたのは幽子さんだったとのこと、蹴飛ばされた拍子に尻餅をついたのが痛かったと。蹴飛ばされたことで、少し拗ねていたが、俺が幽子さんは祓わなくて良いと答えたことで機嫌は治ったらしい。
俺は住職に礼を言い、お寺を後にした。もちろん、幽子さんを連れて。
『幽子さん、助けてくれてありがとう。蹴飛ばしてごめん。』
相変わらず俺にはたまにしか見えません。しかし、先程ちらっと見えたのですが今、幽子さんはテレビの前に座ってて、テレビを見てるみたいです。
そんな、幽子さんについてのエピソードはまだまだありますが、それはまた別の機会に。
作者clolo
読んでいただきありがとうございました!