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昨年の3月の終わり、我が家の愛犬が旅立った。
癌を患って、大手術を乗り越え16年の生涯を終えた。
最後の頃は、白内障でほとんど眼も見えていなかっただろう。
癌が再発し、お尻の辺りには大きなコブが出来ていた。
医者には、
『年齢が年齢なんで、もう大きな手術には耐えられないだろう。』
って言われてた。
おっとりとした性格のメスで、色々な人から
『番犬にならないねぇ。』
って言われるほど人懐っこくて、彼女の周りだけ時間がゆっくりと流れてるんじゃないかと感じさせるほど、のんびりでマイペースな犬だった。
最後の夏なんかは、とても乗りきれないんじゃないかと思うほど、弱ってた。
嫁に行った俺の妹に、
『いつ逝ってもおかしくないから、覚悟はしとけよ。』
そう伝えたぐらい俺の目には限界が近づいてるように見えた。
そんなときに、俺の親父が脳梗塞で倒れた。
いつも散歩をさせてたのは、親父だった。
彼女も、親父に何か起こったのがわかっているかのように救急車に運ばれる親父に向かって、珍しく吠え続けた。
親父は長期の入院が決まり、その後もリハビリが必要な事がわかった。
それからは、俺が彼女の散歩をすることになった。
彼女の体力も限界に近づいていたんだろう、倒れる直前の親父も
『もう体力的にきついんだろうなぁ、最近では散歩に行くのもつらそうだ。』
って言ってた。
親父が入院した日の夜、散歩に出ようと彼女の小屋に行って声を掛けても一向に彼女は小屋から出ようとしなかった。
俺は、親父の病状を彼女に説明し、
『お前もしんどいだろうけど、一緒に頑張ろう。
みんな揃って親父が退院してくるのを迎えてやろうや。』
そう声を掛けた。
彼女は小屋からゆっくりと出て来て、散歩に出かけた。
それからの彼女は、見違えるようだった。
朝晩の散歩も欠かさずに出かけ、残しがちだった餌も全て食べきるようになった。
何ヵ月か過ぎて、親父が外出や外泊で帰って来るときは、いつも大きく尻尾を振り出迎えてた。
3月の始め頃、親父は退院し、家に帰って来た。
左半身は、麻痺が残り杖と装具を使ってなんとか歩けるまでに回復して。
帰って来た親父が、彼女の小屋の前に行くと、彼女はまた大きく尻尾を振り、親父の不自由な左手を何度も舐めた。
彼女が逝ったのはそれから半月後だった。
本当に親父が退院してくるのを待ってたかのようだった。
親父が退院してくるのに合わせて、里帰りしていた妹とその子供ら(俺から見れば姪)とも近所を駆け回り、その子供らが帰って行ってから、2日後に逝った。
本当に眠るように、安らかな顔で彼女は逝った。
俺は本気で泣いた。
こんなに泣くのは何年ぶりだろうってぐらい泣いた。
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それからしばらくたった。
彼女が居なくなって、初めてのお盆だった。
我が家は毎年お盆に親戚が集まり、庭でバーベキューをしながら、お盆の花火大会を見るのが恒例の行事。
その年もいつもと同じように、庭でバーベキュー。
いつもと違うのは、そこに彼女が居ないということ。
いつも、コンロの近くで具材を焼く俺の足下をウロウロしてた彼女…
何も貰えないと、文句を言うようにぶつぶつ言ってた彼女…
もうあいつは居ないんだなぁ
って考えながら、肉を焼いてた俺の足下に何かが触った。
そして足下をその何かがずっとウロウロするように足には何かの感触があった。
あぁ、あいつも帰って来たんだなぁ。
そう思って、いつもバーベキューの時に食べさせてたウインナーを足下に置いた。
その瞬間、
『ワンッ』
どこからともかく鳴き声が聞こえた。
俺だけじゃなく、その場に居た全員がその声を聞いていた。
なんだかとても温かい気持ちになった。
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今年のお盆。
また来るかなぁって思ってたけど、彼女の気配は感じなかった。
きっと、元気な姿で走り回ってんだろうなぁ。
そう思ってる。
あの虹の橋の下で…
作者烏賊サマ師
全く怖くなくてすいません。
怖い話しの息抜きだと思って、読んで頂けると嬉しいです。