学校で空気みたいに透けてるのにも、
家に帰っても誰も居ないのにも、
授業参観で後ろを振り向くことが無いのも、
先生の《仲直り》という言葉にも
もう慣れた・・・・・・筈だったのに。
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~~~
異変が起こったのは、夏休みの半ばに一日だけある、学校の登校日でした。
朝起きて、冷蔵庫に入ってるパンを食べて、ランドセルを背負って・・・・・。
其処で、急に具合が悪くなったのです。
お腹の中がグルグルします。割れそうに頭が痛みます。
そして其れは、部屋から遠退く度に、玄関から遠ざかる度に、どんどん酷くなります。
其れでも学校には行かなくてはいけません。 今朝はギリギリまで家にいてしまったから、急がなくちゃならないのに。
けれど、通学路が物凄く長く見えて、ゲームのダメージを受ける床みたいになっていて、どうしてもなくって、校門の少し前で、僕はとうとう踞ってしまいました。
どうしよう、どうしよう、どうしよう。
先生に助けて貰おうか、でも、職員室は大嫌いで、保健室は夏休みだから先生が居るかどうか分からなくて、でも、教室にはとても行けないしーーーーーーー
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「○○君!」
遠くから声が聞こえました。顔を上げると、担任の飯島先生が此方を見ています。
歩道の真ん中で踞っている僕が不思議なのでしょう。彼女はゆっくりと近付いて来ました。
此処で僕が「すみません。気分が悪いので、保健室に行っていいですか。」って聞けば、きっと飯島先生は若田先生を呼んで、若田先生は僕を持ち上げて、保健室へ運んで行ってくれるのだと思います。
一時間ぐらい休んで、そうしたら多分体育館でのお話も終わっているから、教室に行って
きっと、また僕は教室に独りで。空気みたいに透けてて。何時も通り。
僕の直ぐ横に来た飯島先生が、僕の肩をポンと叩きました。
「○○君、どうしたの具合が悪いの?」
言わなくちゃ、そうですって。すみませんって。保健室に行っていいですかって。言わなくちゃ・・・・・・
「ご」
動かなかった口が勝手に開き、勝手に音が出てきます。
「ごめんなさい!!!」
パシン、軽くて高い音がしました。僕が先生の手を叩き落とした音です。
次の瞬間、僕は全速力で先生と学校から逃げ出していました。
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帰り道、最近仲良くなった友達に会いました。
「あれ?どうしてお前、ランドセルなんか背負ってんの?」
不思議そうな顔です。
彼は学校が違うので、もしかしたら登校日が無いのかも知れません。
「えっと・・・・・・」
「リュックと間違えたのか。バカだなあ。」
あはは、と愉快そうに笑う友達。
僕は咄嗟に口から出任せを言いました。
「・・・此方の方が沢山入れられるし、紙とかも曲がらないんです。」
「そっか成る程。・・・けど、やっぱりお前変わってるよ。」
少しだけ感心したような、呆れたような顔で友達が首を縦にコクコクと振ります。
良かった。誤魔化せた。
僕はホッとしました。
変な奴だと思われても、学校から逃げ出したのがバレるのは嫌でした。
学校が嫌で逃げ出すような奴だと知られるのが、嫌でした。
「遊ぼう。今から暇?」
掛けられた言葉に、大きく頷きます。
其の日は夕方まで楽しく遊びました。
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家に帰ると、祖父が怖い顔で待っていました。
「学校、サボったんだってな。」
「はい。」
「飯島先生が心配して電話を掛けてきた。」
「・・・登校日は、休んでも欠席にならないから大丈夫。」
「突然手を払い除けて逃げたって?」
「触られたからビックリしただけ。」
「そうか。」
祖父は其れ以上何も聞いてきませんでした。
靴を脱ぎ、自分の部屋へと向かいます。
「夕飯は?」
「いらない。」
不審そうな目になる祖父。慌てて「友達の所でご馳走になってきたから」と付け足しました。
沢山遊んだのでお腹は痛いほど空いています。
けれど、祖父と二人だけの晩御飯が嫌でした。
結局、其の日は水と冷蔵庫に入っていた魚肉ソーセージを食べて眠りました。
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其れからは毎日、友達と楽しく遊びました。
そして、あと一週間で夏休みが終わる・・・そんな時です。僕の身に、あの登校日と同じ現象が起きました。
いえ、正確には同じではありません。
今度は、学校のことを考えただけで具合が悪くなってしまうのです。
頭が割れそうに痛んで、お腹が気持ち悪くなって・・・・・・。学校のことを忘れられるまで、其れがずっと続くようになってしまったのです。
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登校日まであと三日です。
症状は日に日に酷くなり、友達とも遊べなくなってしまいました。
一人しか居ない友達だったから、忘れられたり、嫌われたくないのに。独りぼっちには戻りたくないのに。
其処で僕は驚きました。どうして独りが嫌だなんて思ったのか、分からなかったからです。
元々独りには慣れていました。嫌だと思ったことも特にありません。何だったら、嫌がらせを受けるよりずっと楽で快適だと思っていました。
頭の中がますますぐちゃぐちゃになります。
脳味噌を切り刻まれるように頭痛がして、何も食べてないのに胃袋がどんより重くなります。
36度5分
脇の下に差し込んだ体温計だけが、僕の健康を示していました。
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八月三十一日が来ました。来てしまいました。
新学期の準備は完璧です。宿題も全部丸付けまでしてランドセルに入れました。
なのに、なのに、なのに。
体がどうしても動いてくれません。
心配した友達が、彼にも学校がある筈なのに今日もお見舞いに来てくれました。なのに、どうしても頭が痛くて会えませんでした。
祖父に唐揚げ君を渡されました。友達が持ってきてくれたものでした。
口に入れるとゴワゴワとして、何の味もしなくて、一個で止めてしまいました。
布団の中で泣きました。
眠ってしまうまで、泣き続けました。
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祖父に起こされて目が覚めました。
朝なのかと思ったら、どうやら違うようです。
「学校?」
早速、胃が痛み始めます。
「こんな時間に学校に行く奴が居るか。」
時計を見ると、短針は十一の少し手前を指していました。
学校じゃない。
スッと痛みが消えていくのが分かりました。
安堵とした途端、手を掴まれて無理矢理立たされます。
祖父が言いました。
「行くぞ。」
「何処に?」
「学校じゃない何処かだ。」
「着替えは?」
「夜でも寒くはない。大丈夫だろ。」
逆らおうとしてみても、僕如きの力ではどうしようもありません。半ば引き摺られるようにして、玄関まで連れて来られました。
「外、行けない。」
「大丈夫だ。歩けなくても、お前位なら背負うなり引き摺るなりできる。」
「お仕事?」
「違う。」
戸を開けるともわりとした熱風が頬を撫でます。
息が苦しくなって、練羊羹の中に埋められたような気がしました。
捕まれている手首がジンジンと痛みます。血の流れが止められているのかも知れません。
裸足にサンダル、服装はパジャマのまま。
こんな格好ではとてもお店には行けません。
祖父は一体何処に連れていく積もりなのでしょう。僕は車へと乗せられ、何処かへと運ばれていきました。
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廃墟になった学習塾が、静かに立っています。
町の中心部から少し外れては居ますが、周りにはまだまだ民家や商店が立ち並んでいました。
「此処だ。」
祖父は真っ直ぐ、其の学習塾の方へと向かって行きます。僕は捕まれたまま引き摺られます。
廃墟に何の用があるのでしょう。祖父と廃墟の繋がりと言えば、やはり仕事しかありません。さっき違うと言われたけれど。
行けるかどうかは別として、明日から学校なのに、どうして僕を連れて来たのでしょう。
聞いてみようとしましたが、祖父の顔が何だか怖かったので止めました。
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学習塾の二階の一室。
元教室らしき部屋。磨りガラスの向こうが妙に明るく、電気でも付いているのかと思いました。
・・・無論、廃墟に電気が通っている訳も無いのですが。
「行ってこい。」
「・・・其れは、独りで?」
祖父は無言で頷きます。
きっと、危険は無いでしょう。臆病で弱い僕を、独りで行かせるくらいなのですから。現に、嫌な感じもしません。
「時間が無いから、早く行ってこい。」
嫌とは言えません。祖父には逆らえません。
渋々と扉に手を掛け・・・・・・
ガラリ
途端に引き戸大きな音を立てて開きました。
熱い風が肌に触れて、セミの声が耳に飛び込んで来て、困惑してしまいます。
背中を強い力で押されました。
扉の向こうへと体が傾き、目の前に床が迫って来ます。
部屋の中へと突き飛ばされたのです。
ガラリ
蝉時雨の中、扉の閉まる音が聞こえました。
あのクソジジイ。
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顔を上げると、殺風景な教室でした。
窓から夏の日差しが射し込んでいました。
窓の外には街路樹が植えられていて、セミの声は其処から聞こえます。
「こんにちは。」
机の上に立っていた右腕のない人影が、僕に向かってグラリと倒れそうな御辞儀をしました。
「今日は八月三十一日だよ。」
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分かりきったことを言う、と思いました。
そうです。今日は紛れも無く八月三十一日です。
異様なのは其処ではありません。
今は確かに八月三十一日ですが、八月三十一日の午後十一時過ぎなのです。
こんな明るい筈がありません。セミの声だってそうです。此の部屋に入って来るまでは聞こえなかった。其れが今はーーーーーーー
「言ったでしょ、こんにちはって。今は午前十時五十分。」
右腕のない人影は、見えない口を開けてカラカラと笑ったようでした。
困惑している僕を尻目に、慣れている様子で続けます。
「私は訳有って名乗らないことにしてるから、腕無しさん、とでも呼んで。君の名前は?」
「・・・・・・こういう相手に名前を教えちゃいけないって、祖父が。」
「やだな。そのお祖父さんに、連れて来られたんでしょ?」
僕の返答に人影・・・腕なしさんは、口を閉じながら押し殺した笑い声を上げました。
「そんな馬鹿正直な答えは使わないで、偽名を適当に名乗るとか出来なかったの?」
「ごめんなさい。」
ああそうか。祖父からも何時も言われていたのに。
少なからず動揺していて、忘れていました。
「やだなやだな。なんか、あたしが苛めてるみたいじゃん。あたしは単に、君をどう呼べば良いのか聞きたいだけなんだけど。」
「・・・はい。それでは、僕のことは山田と呼んでください。」
「そう、山田君ね。其れで本題に入るんだけど、山田君はどうして此処に来たの?」
どうしてそんなことを聞くのでしょうか。
さっき見ていた筈ですが。
「付き添いに突き飛ばされたんです。」
「うん、見てたよ。其れは知ってる。けどね・・・」
此の部屋は、八月三十一日に居たい人しか、入れないの。其れでね、八月三十一日から出たい人しか、出られないの。
そう言って、腕なしさんはまたカラカラと笑ったのです。
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~~~
慌てて扉に手を掛けようと振り向きましたが、肝心の扉が何処にも見当たりません。
「ね?」
背中に降って来た声に渋々と頷きました。どうやら彼女(ボヤけている為断定は出来ませんが)の言っていることは真実のようです。
正直に、学校に行きたくない旨を伝えました。恐らく、其れが原因だと思ったからです。
「原因の解明だけじゃ足りないんだけどね。山田君が《此処から出たい》って思うことが大事な訳だし。」
腕なしさんは、乱雑に置かれた机の上を飛び回りながら黒板の方へと向かっています。
最前の長机から、ピョイと教卓へ。
「ていうか、どうして其れまで平気だったのに、突然学校が嫌になっちゃったの?」
「分からないです・・・。」
「いじめとか?」
「違うと思います。」
夏休み前からそれは有りました。敢えて言いはしませんでしたが。
「宿題は?」
「全部終わってます。」
ふーむ、と腕なしさんが残った方の腕で僅かに残されている片腕の名残を掴みます。どうやら腕を組んでいるようです。
「じゃあ、何か変化は?」
「変化って・・・・・・」
夏休みの終わりを拒むのだから、去年から今年に掛けての変化を指すのだと思われました。強いて言うならば、友達と出逢ったことでしょうか。
けれど、其れは学校とは無縁な気がします。別々の学校に通っていて、学校生活については基本的に両者ノータッチを徹しているのですから。
けれど・・・・・・
其れ以外、本当に思い当たる節が無いのです。
僕は、何故か友達を裏切っているような気分になりながら、恐る恐る口を開きました。
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出逢った時に助けてもらったこと
一緒に遊んだこと
色々なことを教えてもらったこと
他の友達を紹介してくれたこと
僕は一通り話し終え、腕なしさんを見上げます。
彼女(?)は何とも言えない顔をして此方を見ていました。
「どうかしました?」
「原因、其のお友達なんじゃないの?」
そう言うと思っていました。
不快ではありますが、仕方の無いことです。其れ以外の心当たりが無いと言ったのは僕ですし。
「どうしてそう思うんですか。」
「山田君が夏の思い出を、あんまり楽しそうに話すから。」
「・・・はい?」
「だから、学校が嫌なのかなって。」
あまりにも強引な理論です。しかも順序も滅茶苦茶に壊れています。
「でも、僕が此処から出られないのは、学校に行けなくなってしまったのが原因です。さっきも言いましたが、友人は関係無い。」
楽しいから夏休みが終わって欲しくない?そんなの、休暇が好きな人なら誰だって同じでしょう。
其れに、僕だけが夏休みを続行した所で、友達には当たり前ですが学校があります。一緒に居ることは出来ないのです。
腕なしさんが教卓の上で、足を組みながら僕に問い掛けます。
「だから、学校に行けなくなった原因が、お友達に有るんじゃないの?」
「何度も言わせないでください。友人は・・・」
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「だから、君のお友達が何かやらかしたんじゃなくて、変わったのは山田君自身なんじゃないかってこと。」
「・・・・・・僕が、変わった?」
「いや、疑問系で聞き返されても此方は何も知らないんだけどね。でも、山田君、学校に友達居ないんでしょ?」
話さなければよかった、と静かに後悔をしました。
不愉快な気分がどんどんお腹の底辺りに溜まっていく気がします。
「おっ、もしかして怒った?」
腕なしさんは、顔は見えませんがにやりと笑ったようでした。
「自分でも気付いてるんじゃない?学校に行けなくなったのは、行きたくなくなったのは、お友達が出来たからだって。寂しい独りぼっちが嫌になったんでしょお?ね?」
「違う・・・」
「違くない、よ。山田君。君が今まで辛くならなかったのは、独りぼっちが如何に寂しくて惨めなのかを本当の意味で知らなかったから。」
「そんなの昔から・・・」
「言ったでしょ。本当の意味でって。君の中の寂しさには比べる物が無かった。大切なお友達なんでしょ?そんなもの作っちゃったから、居ないと寂しいし、独りの自分が嫌になる。」
腕なしさんが、ガタンと音を立てて教卓から飛び降りました。
「可哀想に。お友達は独りじゃないんだよね?なら、明日も明後日も、其の子は学校で君じゃない誰かと遊ぶんだよ。君は独りで寂しい思いをしているのに。」
コツ、コツ、コツ
床に足音が響きます。幽霊にも、ある人にはきちんと足はあるのです。距離は確実に縮まっています。
窓の直ぐ近くまで追い詰められました。窓から外を覗くと、地上数メートル。落ちたら死んでしまうでしょう。せめて飛び移れそうな物はないかと探してみましたが、それも無いようです。
「君のことなんても考えやしないし、思い出しさえもしない。君はずっと独りで寂しさを抱えてなきゃならない。でも、仕方無いことなんだ。君が選んだことだから。」
腕なしさんの言葉は恐らく本当で、友達は僕がクラスで浮いていることを知らない。
そして、僕が其れを友達に話していないのも。
全部、僕が選んだこと。
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「全ては山田君の見栄が生んだこと。そして、此処に居る限り、居たいと思っている限り、其の間違いは一生直せない。何も変えられない。」
此れも、間違ってはいません。あまり認めたくはありませんが。知られたくなかったのです。
飄々とした少し変わった奴、で居たかった。本当の弱くて格好の悪い自分で、友達の前に立ちたくはなかった。
我ながらなんという情けなさでしょう。反論の一つも出来ないなんて。
こんな僕です。変わらなくて・・・変えられなくて当然なのでしょう。
近付いてくる腕なしさん。もうそろそろ駄目かも知れません。
唯一の自慢だった勘まで外れるなんて、僕って奴は本当にもう・・・・・・
肩に手が掛けられました。
クソジジイ、もし無事に戻れたら絶対に何か一撃喰らわす。
先生にはきちんと謝らなくちゃ。叩いてしまってごめんなさいって。
クラスの皆はどうしてるだろう。僕が死んだ所で何か思うとは考えられないけど、新学期早々、昔苛めてた相手が死んでたら嫌だろうな。
ああ、そうだ。友達にもちゃんと伝えなくちゃ。伝えて何かが変わるなんて思えないし、其れこそ、嫌われてしまうかも知れないけれど。
気持ち悪いって言われるかも知れないけど。
其れでも・・・・・・
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~~~
頬に冷たいものが当たりました。涙なのか冷や汗なのかは分かりません。
頭を回転させながら全力で反抗してみましたが、駄目です。そもそもの地力が違う。とても太刀打ち出来ません。
腕なしさんは口許に笑いを張り付けたまま、グイグイと僕の肩を押してきます。
「私もそうだったよ。皆に話せない秘密があった。けど、自己保身の為に話せなくてこうなった。」
「止めてください。」
「やだよ。」
足が持ち上げられました。一気に体の重心が後ろへと傾きます。
いよいよです。もうどうしようもありません。
僕は死んだらどうなるのでしょう。ずっと此の八月三十一日に居なければならないのでしょうか。
最後に頭に浮かんだのは、友達と祖父の顔で。
昔に他界した両親に申し訳無く思うと同時に、こうして遺されるであろう人達を想えるのが、少しだけ嬉しくもありました。
・・・・・・でも、
もう一歩踏み出すことが出来ていたなら
何かを変えることが出来ていたなら
・・・嗚呼
やっぱり、まだまだ生きていたかったーーーーーー
「バイバイ。そう思えたのなら。」
パッと手が話されました。
熱い風が体に当てながら、僕は
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~~~
トスッ
軽い衝撃を受けて、焼けたコンクリートではなく、冷たい床にぶつかりました。
目を開けると祖父の顔が見えます。
「お帰り。」
「喰らえ!・・・・・・むぎゃっ」
回し蹴りをお見舞いしようとしましたが、逆に足払いを掛けられて転んでしまいました。
「ほら帰るぞ。」
ヒョイと抱えあげられてしまいました。あんまりだ。
「クソジジイ。」
「お前も大概面倒な奴だけどな。」
育児放棄気味のあんたにだけは言われたくない。
足を全力で動かして反抗と脱出を試みます。
「此処でお前が逃げても追い掛けないからな。此の廃墟においてけぼりだからな。」
「・・・・・・・・・クソジジイ。禿げろ。」
僕は不承不承大人しくなりました。
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家に帰り、仮眠を取り、午前七時。僕は起き上がって何時ものように支度をし、学校へと向かいました。祖父はもう居ませんでした。
学校で僕は、やっぱり空気のように透けていて
先生に謝ったら逆に謝り返されて
夏休みの作文発表では僕だけグループに入れなくて
休み時間は独りで寂しくて
早々何か変わる訳じゃないし、そもそも僕自身が何も変われないんじゃないかと思いました。
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~~~
帰り道。
公園に行くと、友達が居ました。
色々な所を回ってやっと見付けた彼は、独りでブランコを漕いでいました。
どうやら、まだ僕には気付いていないようです。
「おーーい!」
柄にもない大声を出して手を振ります。
友達が此方を見ました。
「お前、治ったのーーー?!」
「うん!」
僕が頷くと、友達は勢い良くブランコから飛び降ります。
猛ダッシュで近付く距離。
僕はずっと言いたかった言葉を口の中で反芻します。
友達が走りながらニッと笑いました。
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「なんだよ!ずっと寂しかったんだからな!!」
僕はハッとして顔を上げました。今正に反芻していた言葉が、友達の口から発せられたのです。
《僕もそうだった》
そう言おうとしましたが、何故か口が上手く回りません。視界がどんどん滲んでいきます。
僕の傍に来た友達が困惑した顔で此方を覗き込んできました。
震える声。何とか絞り出します。
「・・・・・・聞いて欲しいことが、たくさんあるんです。」
「ん?・・・おお!任せろ任せろ!」
彼は、大きく頷きました。
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何かが変わるのかも知れない。そう思いました。
作者紺野
どうも。紺野です。
誰の話かは言わないでください。僕も危ない橋を渡ってるんです。此の話が突然消去されても何も言わないでください。なるたけそうならないように努力はしますが。
色々な方に御心配を掛けてしまったみたいですね。申し訳御座いません。
季節の変わり目だからか、少し体調を崩していました。夏から秋への切り替えに失敗してしまったみたいです。
久し振りに皆様の暖かいコメントを見られて、とても嬉しかったです。有り難う御座いました。
こんな僕ではありますが、宜しければ、此れからもお付き合いください。