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中編5
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廃ビル【広島三姉妹1】

music:4

私には3つ離れた妹がいる。

一人は血が繋がってる『明優音』。

そしてもう一人の『萌々香』。この子は親から酷い虐待を受け施設に入りそうになった時、私の母親が引き取った。

家も近く生まれた時から遊んでいる為特に違和感も無かった。

その上妹二人は大のオカルトマニア。

部屋には御札や清酒、盛り塩に古びた本などが所狭しと並べられている。

おおよそイマドキ女子の部屋には見えない。

しかも只のオカルトマニアで済めばいいものを何故か私を含め三人とも『視える』のだ。

怪異、怪奇、幽霊、バケモノ、、、色々な呼び方があるだろうがまぁなんでもいい。此の世のモノではないということだ。

オカルトなんかにはいっそ興味のない私が、何故一番色濃く視え、感じられるのか神様に1度問い質したいがそれはまた今度にしよう。

この話は私と二人のちょっとアレな妹が体験した話だ。

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5月某日。

私が高校4年生になった時(定時制に通ってた為)だ。

二人の妹に入学祝いとして旅行に連れて行けとねだられた。

怪しい感じがしたが、宿も私が取っていいという話だったので承諾した。

宿は主要駅と繁華街の丁度真ん中。

曰く付きでもなんでもない、ごく普通のホテルだ。

ショッピングや観光で終わるだろう。

だから今回は何も視ることはないと思っていた。

だがその考えはあっけなく崩れ去った。

妹二人は勝手に怪異ツアーを計画していたのだ。

有名どころからTwitterで地元民から聞いたコアなスポットまで、これでもかと詰め込まれていた。

その中には食事、ショッピングやお土産購入も含まれていて文句も言えずじまい。

ていうかそもそも二人に逆らえる筈がない。

逆らったら最後。

うんと言うまで責められ続け、それさえも無視すれば『曰く付き〇〇』が部屋に置かれていく。

偽物だろうとは思うが、部屋に御札や怪しい木箱が置いてあるのはいい気はしない。

結局その行動表に従うこととなった。

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宿に着きチェックインを済ませ、部屋に荷物を置くなり予定表を見せてきた。

昼でも視えるという噂の廃ビル。

何時にソコに居ても時計が4:44を指すという神社。

杖をつく老人の霊が居るという廃老人ホーム。

毎月自殺者があるという岬など。

何が楽しいんだというラインナップだ。

「タクシーでビルの近くまで行って探索。その後地下鉄に乗って〇〇駅まで行って10分くらい歩けば鳥居が見えるから。その後は」

「分かった分かった。とにかくタクシー乗りゃええんじゃろ」

長くなりそうな説明をぶった斬って財布と携帯、ジップロックに入れた塩、懐中電灯、暇潰しの文庫本をリュックに詰める。

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「パーカー持ってきなよ、夜中は寒いよぉ」

気遣いは有難いが夜中まで付き合わされるのかと辟易しながらパーカーも入れる。

いざという時走りやすいようにスニーカーに足を通す中、二人はヒールがあるパンプスだ。

こんな時でもオシャレをしたいらしい。「お前ら置いて逃げるからな」そう言うと渋々キャリーバックからスニーカーを出した。

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タクシーに乗り明優音が目的地を告げる。

ここから15分程で着くそうだ。

タクシーの運転手はわたし達を興味津々といった様子で、ミラー越しに見てきた。

そりゃそうだろう。

シルバーに近い髪色で派手派手しくメイクをした女。

腰まである長い黒髪に全身黒と白で統一された服を来た高校生くらいの女の子。

しかも姉の私が言うのはアレだがまあまあ整った顔をしている。

『姉妹でご旅行ですか?』

「ええ。」

『あの辺りは観光地と違いますけど何か用事でも?』

「親戚が居るんでね。」

私だけが受け答えをしていた。

隣の二人は一切喋らずニコリともしない。

ヘラヘラと探るように喋る運転手にも辟易した。

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目的地に着くと当たり前の様にタクシー代を払わされ、行きたくもない場所、疲れただけの会話、そして金も私持ち。

いっそ私だけUターンしようかと本気で思ったが引き摺るようにタクシーから降ろされた。

その後も逃げないよう両腕をガッチリ掴まれた。

「自分で歩けるわ(笑)ここまで来て逃げられん」

そう言うと腕は開放されたが手を繋がれてしまった。

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人通りもまばらな裏道にビルはあった。

「スナックなつみ」

などの看板はあるが、ドアガラスが割れた状態で営業してないのは明らかだ。

「おじゃましまーす」

そう言って入ってく萌々香に従って私も中に入る。

何年も人の手が入ってない建物特有のかび臭さが鼻に付く。

煙草の吸殻や酒の空き缶の据えた臭いも加わって、手で鼻を塞いだ。

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階段を使い最上階の5階まで上がる。

昼間だというのに薄暗いビルの中、懐中電灯を使い一階ずつ探索していく。

特に何も起こることなく2階まで降りてきた。

階段からフロアへの扉を開くとむわっと嫌な風が吹いた。

冷たく乾いた風の癖にどこよりもカビ臭かった。

元はスナックだったのだろうか。

カビだらけのビロードのソファ。

カウンターのようなものの後ろには酒瓶が幾つか並べてあった。

二人は懐中電灯で隅々を照らし写真を撮っていた。

私は先に進むこと無く、開いたままの扉にもたれ掛かった。

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「なぁ。もうええじゃろ、降りよや」

「んー」

そう言ってこっちに戻って来ようとした時。

萌々香が転けた。

だがその転け方は誰かに足を掴まれ引っ張られたようだった。

ナニカが居る。

「走れ!!」

一点を見つめていた明優音も、ビックリして固まっていた萌々香もそれを合図に走り出した。

二人は私の横を抜け下に降りていく。

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私はゆっくり、萌々香が転けた辺りを懐中電灯で照らした。

そこには黒い手の形の様な染みがあった。

アレに足を掴まれたのかは分からない。

ただ、私には普通の染みには見えなかった。少し動いた様な気もした。

「悪かったな。勝手に入って。もう来んけぇな」

何故声を掛けたのかは分からない。

なんとなく哀しそうに見えた。

そしてわたし達を拒絶するようにも。

当たり前だ。

コチラとアチラで相容れるわけが無い。

それなのにわたし達が来てしまったのだ。

『ごめんな』

そんなことを思いながら、下に降りていった。

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「おぉ遅かったやんけ」

「次に遅れるわ。急ご。」

能天気に持ってきたであろうポッキーを食べながら言われた。

コイツらはもしかしたら死んでいたかもとかは思わないんだろか。

思わないだろうな。じゃなきゃこんなツアー企てない。

自問自答して次の目的地に向かう為、駅の道へと手を繋いで歩いた。

その手が微かに震えていたので、まぁ良しとした。

Concrete
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光道 進さん
怖いと言っていただけて有難いです。

広島弁と言っても色々あるようです。
仁義無き戦いを想像していただくといいかと(笑)
身内には基本無愛想で言葉遣いも乱暴なので男っぽいのかと思われます。
自分じゃよく分からないので有難いです。
語尾を少し柔らかくした方が女らしさが出るかと思いましたので、次の話の参考にしたいと思います。

もし宜しければ、次のお話もご覧下さい。
私も光道さんのお話、よく読ませて頂いております。

返信

私の怖さとはまた別の怖さが
ありますね。
私も勉強しなくては。
言葉が女とは思えない。途中、男になったのかな????
広島の人知ってますが、こんなに言葉が男っぽかったか
思い出してます。
怖いは確かに怖い。これに着きます。
ごめんなさいね。少し書きすぎました。

返信

mamiさん
男っぽいとはよく言われます(笑)
広島弁は乱暴ですしね。

視えるんだから視よう!という考えらしいです(笑)
私はあまり視たくないですが、初歩的なお祓いとも言えないようなものは出来るので守り救うことができればと思っております。

まだお話は尽きる様子がないので(笑)
着いてきて頂ければと思います。
これからも宜しくお願い致します。

返信

すみません…お名前を見れば分かったものの、方言のせいでしょうか、妹さんたちを見守る文章からでしょうか…男性と思っておりました。

視える境遇にありながら、そういう場所に行きたがる妹さんたちが天晴れです。
次回作も待っております。

返信

1度でのコメント返し、申し訳ありません。

初めてのコメント。大変嬉しく思います。
今でも妹達に振り回され、怖い体験、奇妙な体験をしております(笑)
旅行の続きを書いていき、それが終わったら高校時代の話と少しずつ今に近づいていく予定です。
もし宜しければ次のお話もお願い致します!
弥織

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妹さん達に振り回されて、怪奇スポット巡りとは(⌒▽⌒)
優しいお姉さんなんですね(*^^*)
次は何処に行って、どんな事があるのでしょう?
楽しみにしております♫

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初めまして♪

色々と笑えましたが、中々に凄い女性の方々ですね・・・・
そして、妹二人にそのような趣味をお持ちとは(;゚д゚) ・・・
個人的には、分かる人と一緒にそういったスポット
を巡ってみたい気持ちもありますが、付いてこられたくもない。
いやはや、羨ましいです(*´ω`*)

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