nextpage
私には3つ離れた妹がいる。
一人は血が繋がってる『明優音』。
そしてもう一人の『萌々香』。
この子は親から酷い虐待を受け施設に入りそうになった時、私の母親が引き取った。
家も近く生まれた時から遊んでいる為特に違和感も無かった。
その上妹二人は大のオカルトマニア。
TVのホラー特集から有名なホラー映画もみるが、曰く付きの場所に出かけたり御札や禍々しいモノを収集するのが趣味だ。
しかも何故か私を含め三人とも『視える』。怪異、怪奇、幽霊、バケモノ、、、色々な呼び方があるだろうがまぁなんでもいい。此の世のモノではないということだ。
この話は私と二人の妹が体験した話だ。
nextpage
地下鉄に乗り、目的地へと向かう。
暇つぶしに読んでいた文庫本を読むのを止めて思う。
私は吊橋が苦手だ。
小さい頃この漢字を見て『人間が首を吊る橋』と思ったからだ。
我ながら酷い考えだが幼少期のインパクトはとてつもなく、自分が人には視えないモノが視えると分かってからは更にダメになった。
そこに今から向かうと考えただけで胃が痛い。
出来ることなら行きたくは無い。
だがその思い虚しく電車は目的の駅に着き、妹達はどんどん進んで行く。
駄々を捏ねる訳にも行かず重い足取りで付いて行く。
nextpage
時刻は午後六時。
辺りは薄暗い。
せめて明るい時に、と思うが私に決定権など無いのだから仕方ない。
民家が何軒かポツンと建っている山の中、川の上にその吊橋はあった。
暗いのも手伝い吊橋の向こう側はよく見えない。
あるのは只の闇。
車が通れない様に建ててある柵に座る。
煙草を取り出し火をつけた。
妹達は橋や周りの風景を写真に収めていた。
nextpage
『おっしゃ!写真も撮りましたし渡りますか!』
『ほら。弥織も行くよ』
「うちはええわ。見よったるから行ってき。」
『はい立って〜』
両側から腕を持たれ立たされる。
そのまま二人は橋へと進んで行く。
溜息を吐きそれに従う。
やっぱりこの二人からは逃げられない。
視えないモノよりこの二人が恐ろしいとはどういうことだ。
nextpage
吊橋を渡って行く。
たまにギシギシと板が軋む他に何も無い。
今度こそハズレだな。
そう思い煙草の煙を吐き出したとき
萌々香が立ち止まる。
『あっあ』
そう言いながらナニカを指差す。
ゆっくりと指差す方に目を向けると
一人の女性が居た。
その女性は迷う素振りも見せず欄干に立つ。
そして手を広げ
飛び降りた。
nextpage
間に合わないと分かっていたが駆け寄り手を伸ばす。
その手は何も掴む事無く、ただ煙草を落としただけだった。
女性がまるでスローモーションのように落ちていく。
暗くて底まではよく見えないが確実に落ちた。
それなのに音がしない。
下は川の筈だ。
人一人落ちて音がしない訳が無い。
目をよく凝らすが何処かに引っかかっている様子もない。
この世のモノじゃない。
そう気づいた時
先程落ちていった筈の女性が現れる。
music:3
nextpage
『ひゃっ!』
萌々香の悲鳴が聞こえる。
明優音はただ無表情でその女性を見つめる。
いや、無表情ではなく目を逸らせない、瞬きすら出来ない。と言った方が正しいのだろう。
その女性はさっきと同じように、欄干に立ち手を広げ落ちる。
そしてまた橋の上に現れ落ちる。
ただそれを繰り返す。
女性が落ちていくのを五回ほど見守った後、もう少しだけ近づいた。
何か声がしたからだ。
nextpage
その声はやはり女性から発せられていた。
近づく度にハッキリと声が聞こえる。
「、、、つ、、、な、、、」
歩を進める。
「、、、いつ、、、なけ、、、」
手を伸ばせば触れられる距離まで近づいた。
今度はハッキリ聞こえた。
「アイツさえ居なければ。」
女性は何度もそう呟いていたのだ。
そして手を広げた時、
クスッと少しだけ笑った。
nextpage
もう我慢の限界だった。
「見るな!」
そう言って二人の手を引っ張る。
だが萌々香は動かない。
「何しとるんじゃ!もう充分じゃろーが!」
「あっあっあっ」
また言葉にならない声をあげる。
萌々香はさっきの女性を見てるんじゃ無かった。
女性に気を取られ見えていなかったが、他にも人が居る。
そして全員、性別、年齢も違うニンゲンが
橋から飛び降りていた。
nextpage
女性のように飛び降りるモノ。
首に縄を付け飛び降りるモノ。
子供と手を繋ぎ飛び降りるモノ。
気が狂いそうな風景だった。
萌々香の腕を強く引っ張り引き摺るように走る。
そのまま山道を抜け駅に出る。
放心状態の萌々香を抱き抱える様に改札を抜け、席に座らせた。
nextpage
誰も一言も発しなかった。
今まで視てきたモノと数も念の強さも違う。
一人一人が誰かを恨み、呪い身を投げていた。
視えるというコト。
そして興味本位で近づくコトの重大さを思い知らされた。
「あと一個残っとったろ?行くか?」
『今日はムリ。』
やっぱりコイツらは馬鹿だ。
今日も明日もあるか。
、、、でもまた、私達は視る事になるだろう。
視えるという事からは逃げられない。
「二人でで行きんさいよ。うちはもうごめんじゃ。」
『そやね。三人で一つじゃもんね』
「阿呆。」
作者弥織(ミオリ)
初めまして。
こんばんは。
お読み頂き有難うございます。
もしよろしければ他の広島三姉妹シリーズも宜しくお願いします。
これを最後に完全実話は止め、想像も織り交ぜて書こうと思います。