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どうして?と考え込んでしまった後、どうしたら助かるのかと思い、聞いた。
私:「助かるには、どうしたらいいの?」
H:「呪いを解かなきゃ助からない。」
私:「どうやって?」
H:「やり方は、色々ある。」
私:「そっか…」
H:「ただ、俺の家に来た以上、俺も関係してくるかもしれない。Yだけじゃダメだ。協力もいる。」
私:「もしかして、また…?」
H:「多分、俺も関係してくる。」
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また彼を巻き込む。そう考えると、責任を感じてしまい、自分が嫌になった。
H:「…大丈夫、そんな顔するな。」
何も言えなかった。
言葉が浮かばない。
ただただ、無力な自分に嫌気が差した。
呪いを解く準備は、Yさんの方で進められ、彼は、呪いの憑代(よりしろ)になった。つまり、私の代わりになったのである。憑代になるには、私の髪がいるので髪を数本抜き、彼に渡した。
私に掛けられた呪いを解く際には、呪いを運ぶ媒体を封じ込める必要がある。
帰り際にE自身のこと出来るだけ彼に話し、私は家に帰され、ただ、電話を待つのみになった。
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次の日の夜、LINEに電話が来て話した。
内容は「上手く憑代になれた」ということ
「呪いの媒体が子供の姿をしていた」ということ
「契約」と「鬼ごっこ」だった。
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使いの者が準備が出来たことを知らせに来て、部屋を暗くして眠りに落ち、夢か媒体が作り出した空間か分からないが、子供がいた。
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子供の姿をした呪いの媒体なら、
それだけ純粋な呪いを運んでいるということになる。
隙を見せたら、とんでもないことになる。
話しかけると、子供が笑いかけた。が、笑顔が不自然だった。
どうして呪いを運ぶのか
彼が聞いておきたいことを聞いたが、妙に人間くさかったようだ。
「お姉ちゃん(※E<蟲〜呪〜参照>)が遊んでくれるから。」と言った。
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聞いていて、思いの他、単純な理由に拍子抜けした。が、Eは子供が嫌い。それを私からEの情報として彼は聞いている。彼は子供に、お姉ちゃん(E)は子供が苦手だからこの先もずっと遊んでくれないことを伝え、遊びたいなら一緒に遊ぼうと誘い、その誘いに応じ、遊ぶ際に契約を交わした。
契約内容は
「子供が満足するまで遊ぶこと。」
「遊びは鬼ごっこで、彼が捕まったら呪いは解けない。逃げ切れば彼が勝ち、呪いは解かれる。逃げる時間は、明け方まで」ということだった。
簡単なことだが難しい。相手は、人ではないから。
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子供は笑う。
彼が「笑い方が気持ち悪い」というと「ごめん」と言い、更にはしょんぼりしてみせた。彼は普通に笑ってごらんというと、ゆっくりとぎこちなく笑った。その表情は、人間の子供のような笑顔だった。
彼が逃げ始めると、子供は、追いかけてくる。
追いかける子供の動きは、人間の動きではない。けど、速い。さっきみたいに不気味に笑いながら、追いかけてくる。久しぶりに遊んでもらうのが嬉しいのか、楽しそうにはしゃいでいた。
子供が満足いくまで終わらず、鬼ごっこは明け方まで続く。
明け方まで逃げ続ければ、彼の勝ちとなる。それまで、必死で走りに走って逃げた。
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必死に逃げたせいか疲れが激しく息が上がる。
見つかって逃げ出したが、足が躓き、動けない。
捕まる、そう思った時に朝日が差し込み、子供は残念そうに「お兄ちゃんの勝ちか。またね」と言って消え、彼は目が覚めた。
凄まじい疲労感と大量の汗
身体を起き上がらせるのがやっとの状態になっていた。
起きた時刻は、明け方ではなく、朝の8時過ぎていたことから、夢の中での時間はズレていることを知った。
彼はYさんに「これから先、夜になると強い眠気に襲われるだろうが、準備が出来次第、すぐ眠れ。眠っている間に外から徐々に封印出来るようにしていく。」と言われた。
これが、話の内容だった。
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話の内容を全て聞いた時、何故か震えていた。
呪いの媒体が子供の姿で、しかもその姿同様の感情や考えを持ち、「鬼ごっこ」という遊びを知っていて、遊んで呪いを解くことに対して、恐怖を感じた。
私:「Hさんは、これからどうなるの…?」
H:「長くて一週間くらい、その子供と遊ぶことになる。」
私:「…遊ぶ以外、他にないの?」
H:「ない。もう契約してしまったから。」
私:「……そっか。」
H:「…あんまり自分を責めるな。原因が牡丹が受けているイジメだとはいえ呪いにまで手を出すのは、間違ってるんだ。理由も理由だからな。気に食わない、という感情だけで人を呪うなんて、やっちゃいけない。そして、呪うっていう行為自体、やってはいけないんだ。」
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確かに、呪うという行為自体に決して手を出してはならないのは分かる。けど、また彼が身代わりになるのは嫌だった。出会った時のこと(※ある人との出会い〜1-4〜参照)が鮮明に頭の中で蘇る。大人の男性がのたうち回って、大声で叫んでいるあの光景は、私の中でトラウマになっている。
また、あの時みたいに苦しむなら、身代わりになんかなって欲しくなかったという気持ちでいっぱいになった。
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私:「…………。」
H:「…………。」
私:「…………。」
H:「………牡丹?」
私:「!なに…?」
H:「…帰って来るから、大丈夫だよ。」
私:「………うん」
H:「…ごめん、眠気が来た。」
私:「そっか…」
H:「また明日な」
私:「…うん。また明日」
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電話を切ると、ペタンと座り込んでしまった。
何で「また明日」なんて言うんだろう…
Hさんが夢から覚める保証は、ないのに…
そのまま死んでしまったら…?
夢の中で、捕まってしまったら…?
そう考えたら、たまらなくなった…
でも今は、ただ待つしか出来ず、ベッドに横になった。
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翌朝
ベッドに横になったはいいが、一睡も出来なかった。
気を紛らす為に、マンガやゲームをしたけど、どうしても彼のことを考えてしまい、ただ横になるだけになってしまった。
ごはんは喉を通らず、部屋にいるだけになった。
おもむろに携帯を見て、LINEを見ると、タイムラインが更新されていた。
タイムラインを開くとF(※蟲〜呪〜参照)が更新していた。
見ると、彼がF達の生霊を追い出した日の夜に悪夢を見たことを載せていた。
あぁ、やっぱりうなされたんだな…
自分でも驚くほど、その程度しか考えられず無関心だった。
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お昼頃に彼から電話がきた。
H:「もしもし」
私:「…もしもし?」
H:「覚めたよ。」
私:「うん…良かった…」
H:「ごめんな」
私:「ううん、いいの…」
H:「そっか…」
こうしてまた、連続が出来ることが嬉しくて、ただ泣いた。
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私が落ち着いた頃、現状を話してくれた。
鬼ごっこをしている時に、追いかけて来るスピードが以前より大分早くなっていること
今回もギリギリ捕まらなかったこと
次で最後だということを知った。
今夜が、一番の山場
そう思うと、緊張と不安、冷たいものが背中をつたう…
電話の向こうでは、彼が大分疲弊してることが分かる。
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私:「…疲れてる?」
H:「大分ね」
私:「…そっか。」
H:「そう気に病むな。今回は本当に俺が憑代にならなきゃいけないことなんだから。」
私:「…うん。」
H:「よし。」
私:「…ねぇ」
H:「ん?」
私:「何で、強い眠気が起こるの?」
H:「誘われているからだよ。」
私:「…遊ぼうよ、こっちに来てっていうこと?」
H:「そういうこと。」
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まるで、彼が子供がいる世界へ招待されているような感じがした。
私:「今夜で、最後…?」
H:「あぁ、一気に終わらす。それから、牡丹、今夜は寝ちゃダメだ。終わらした後、この後どうするかを聞きたいから。終わったら電話する。」
とても真剣で、有無を言わせない、重みのある声に私は従った。
電話を切ると、ほんの少しの眠気が襲い、ベッドへ向かった。
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目が覚めると夜の6時になっていた。
慌てて起き、携帯を見ると「寝てる?」と彼から連絡が来ていた。「ちょっと寝ちゃった。」と送ると「仮眠取って正解だよ」と返事が返って来た。
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夕食を済まし、お風呂に入った後、「今から始める。寝ちゃダメだよ」とLINEのメッセージがあった。
これから始めるんだと思うと何処か落ち着きがなくなる。
けど、待つしかない。
そうして、連絡が来るまで待った。
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夜中の3時
彼から電話で連絡が来る。
電話に出ると、疲弊していて掠れた声だった。
H:「もしもし…」
私:「もしもし?」
H:「終わったよ…。」
私:「…大丈夫?」
H:「あぁ…。媒体は、封印出来た。この後、どうする?」
私:「どうするって?」
H:「呪いを返すか、なかったことにするか、どっちにする?」
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返答に迷う。だがここで返すと答えたら、Eは下手したら死ぬことになる。自分で決めるしかない。仮にも人の命だ。簡単に、無くしてはならない。ただ…私としても、今後のEはどうなるか知りたい。
私:「…なかったことにしたい。」
H:「どうして?」
私:「…多分、あの子は呪いを返しても直らないから。」
H:「…分かった。」
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彼と子供の最後の鬼ごっこは、子供は気味悪い笑みを浮かべながら「あはははははははははは!」「あっはーはははははははははははは‼︎」と狂ったように、ずっと笑われながら追いかけられていたと言っていた。
朝日が差し込む時、小さく「楽しかった。」
ポツリとそう呟かれたそうだ。
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数日後、彼を通じて呪いの後始末が終わったとYさんから連絡が入った。Yさんは、呪い返しをしないと言ったことに対して、驚いていたらしい。
私からしたら、ただ何となく、呪いを返すということに対して抵抗はあったのだ。仮にも一人の人間の命だから、無くすことはしたくない。ただ、生きている間は好き勝手にすればいい。でも死んだ後は、そうはいかない。
生きている時は肉体という鎧に守られ、死ぬ時はその鎧を脱ぎ捨て、魂は裸になる。その魂だけになった時は?誰も守ってくれない。誰も助けてくれない。そんな状態になった時、Eはどうするんだろう?
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そう考えたら、放っておいても良い気がした。
甘いかもしれない。
だが、死んだら待っている罰に、Eが私に対してしたことも加えたらどうなるだろう?
地獄というものがあるなら、必ずと言っていいほどそこへ堕ちる。
何もしなくても、死後、いずれ何らかの罰を受けるなら、それで十分と思ったのだ。焦らなくても、死んだら地獄へ堕ちるなら、それでいいと思えてしまった。
ちなみに彼は、呪いを返さないことに対して若干反対だったらしく、3日間の迷惑料として、ほんの少し仕返しをしたらしい。
彼氏からしたら、ふざけんな!という一面もあったかもしれない。そこは、彼氏に対して申し訳なかった。
結果、Eはどうなったか。
酷く体調を崩し、大学を休んだ。
彼は、最後に言った。
「Eは、死んだら魂ごと消滅するか、二度人に生まれ変われない。」と。
作者退会会員
こんばんは。
遅くなりました。
蟲〜呪〜の続きです。
釈然としないかもしれませんが、それでも宜しければ、どうぞ。
誤字脱字、質問は、感想かメッセージで承ります。