アタシの家は、アタシが21歳になるまで中華料理店を経営していた。
九州の田舎町の、
小さな繁華街の中心に建つ恐ろしく古いビルの3階、
ワンフロア。
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4階建てのそのビルはかなり年期が入っており、
エレベーターもエスカレーターもない。
看板も1階に入っている店以外は、
ビルの壁上方にこぢんまりとした物があるだけで、
常連さん以外は見つけるのも一苦労するほど。
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3階まで階段上がって自動ドアを抜けるとすぐ目の前にテーブル席のみのホール、
自動ドアを抜けてすぐにコの字に曲がると、
廊下を挟むようにT字型に座敷が並ぶ。
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従業員は、アタシが店の手伝いをしだした時には既に、
オーナー兼調理担当(母)、
相談役兼調理担当(叔父のような人※以下先生)、
ウエイトレス1(叔父のような人の娘※以下お姉ちゃん)、
ウエイトレス2(アタシ)の4人のみで切り盛りしていた。
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久しぶりの今日の投稿は、
その店で起こった数々の不可思議な現象の中でも、
そうですね、
T字型の通路突き当り右手の、
「蘇州の間」にまつわる話にしましょうか。
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「蘇州の間」。
そこは、最大でも6人までしか座れない小さめの円卓が置かれた小さな部屋。
家屋で説明すると、6畳間くらいでしょうか。
部屋に入って一番奥に床の間。
向かって右手に窓。
左側は、団体様が入った時に隣の部屋と一繋ぎにできるよう、
スライドできないようになったふすま。
閉所恐怖症のアタシにとって、
その部屋は「狭い」、その一言につきる。
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その狭さを抜きにしても、
蘇州の間に入るのはいつもなぜだか怖かった。
蘇州の間のお客様がお帰りになっても他の部屋にもお客様が入っている時は、
後片付けは専ら一番下っ端のアタシの仕事。
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部屋の入り口は開き戸になっており、
部屋の外側に向かって開くタイプなのだが、
アタシとお姉ちゃんと先生はその部屋にいる時にドアを閉める事を絶対にしない。
何故かはわからないけれど、部屋を閉め切るのが怖い。
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お姉ちゃんと先生は見えるタイプの人だったので、怖い理由もわかっていたのだけど。
けれど、窓も閉めていて(開けても手の届く距離に隣のビルの壁があるから開けないw)、
風もないのに一人で片付けていると必ず勝手に閉まる。
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しかも建付けが悪いとか、
蝶番が緩んでるとか、
設計ミスで地面が傾いてるとかでは全くないのに、
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shake
キイイイイイイーバタンッ!!!
ってな感じで勢いよく閉まる。
も、そりゃあーた。
口から心臓が飛び出るとはこの事。
人間ね、口から心臓が飛び出るかと思うほど驚くと、
意外に声が出ないんだよね。
「ひっ」
とも
「ひゅっ」
ともつかない呼吸音だけが漏れ、体が硬直する。
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でもね、ただでさえ普段から怖くて入りたくないその部屋にドアが閉まって一人っきりなんて、
その先何が起きるのかってもう、
考えたら勝手に体が弾かれたように動いて部屋から飛び出してる(笑)
涙目でお姉ちゃんや先生に訴え、
少し流れがゆっくりになってからお姉ちゃんとふたりで片付ける事にしてもらう事が多々あった。
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しかしこの部屋。
侮っちゃいけません。
こんなのかわいいもんなんです。
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ある日、お店も暇で、
営業時間中にすべてのお客様がはけてしまい、
アタシとお姉ちゃんとアタシの妹は(学校の後たまに手伝う)、
蘇州の間の片付け後に掃除機までかけ終わったら、
何を思ったかその部屋に座り込んで雑談を始めた。
最初は本当に他愛も無い雑談だった。
なのにいつの間にか、
気付くと怖い話を誰ともなく始めていた。
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「蘇州の間」なんかで、「怖い話」をしている。
その事に誰も気付かなかった。
誰が話してる時だったかなぁ。
「えぇぇー!コワーイ!」
なんて黄色い声を出しながらもワクテカしながら話を聞いていたアタシの視界に。
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何か小さな、
黒い物が ひらひらしている事に気が付いた。
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〜?〜
アタシはそのひらひらしている無数の黒い物を目で追うように、
ゆっくりと天井へ顔を向けながら、
「ねぇ、お姉ちゃん、これなんだろう」
と呟いた。
本当に、その時は
「怖い」なんて気持ち欠片もなく、
「なんだこれ?」
で頭の中いっぱいだった。
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お姉ちゃんとアタシの妹は、アタシの言葉と目線を追いながら、
同じように天井を見上げた。
ほんの数秒だったのか。
それとも1分くらいはそうしていたのか。
アタシ達3人は、
間抜けな顔して天井見上げて黙り込んだ。
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そしてアタシの、
「ねぇこれ、何もないとこから降ってきてるよね。。。?」
という言葉に、
全員が背中に嫌な寒気を感じ始めながら、
その、「黒い物」が突然出現している天井付近の空間を、確認するように見つめた。
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3人で眺めていると、
本当に何にもない空間から突然湧き出るように黒いススのような物が出現し、
ひらひらひらひら
舞い降りて来るのだ。
アタシは、自分のすぐ目の前をひらひらしていた黒い物を、
手のひらで受け止め自分達の目の前にかざした。
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それは、アタシの手のひらの上から、
何の脈絡もなく
フッ。。。
と消えた。
それでもまだたくさんの黒い物が、
天井付近の空間から、止めどもなく降り続いている。
アタシ達は一斉に
shake
「「「キャーーーーーーー!!!!」」」
と叫ぶと部屋を飛び出した。
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その後の記憶は、何故かない。
黒い物が何なのかも、今もってわからない。
毎度オチのない話で申し訳ない。
しかしまだある「蘇州の間」の話。
それはまた、いつか。
作者まりか
ロビンさんが中華料理店の若大将と知って、なんかすごく親近感湧いちゃって、うちのお店の事思い出したのでアップ。
親近感湧いちゃってって、姉弟だから当然か(笑)