…遠くの山間には黒雲が重くのし掛かり、時々遠雷が聞こえてくる。
きっと、瞬く間に黒雲は此方まで手を伸ばし
覆い被さり雷雨をもたらすのだろう…
「今の私を現したような空ね」
自室の窓辺にもたれ掛かるようにして空を見ていたユミは、ため息と共に呟いた。
*
*
きっかけは、ほんの軽い気持ちで依頼した事から始まった。
“呪い代行サービス”
1日家に籠りパソコンでネットを見ていたユミは、いかにも怪しげなバナーに釘付けになった。
「呪い代行…?何それww」
試しに開いてみると、真っ黒な画面が表れた
“人を呪わば穴二つ・・・その覚悟が貴方にはありますか?”
という1文の下に、はい・いいえの選択肢が設けられている。“はい”を選択した。
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ユミは今年で高校2年になるが、最近は休む事が多くなった。1年の1学期が終わる頃からユミは4人組の女子に嫌がらせを受けるようになった。サエコというリーダー格は、モデルをしていて自分に常に注目が向いていないと気が済まない性格だった。
小柄で見た目にも華があるユミが気に入らないのだろう…
2年に上がる頃には、体操着がトイレに詰め込まれていたり教科書が破れているのが当たり前になった。決定的だったのは、ずっと仲が良く愚痴を聞いてくれていた…密かに恋心を抱いていた男の子を奪われた事だった。見せつけるかの様に、常に一緒に過ごし此方に勝ち誇った微笑みを向けるサエコ。
悔しかった・・・
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「松」「竹」「梅」の3つから選び、効果は「梅」から順に大きくなるようだった。しかし、代金が発生しない。注意書きに
“各呪いについて、一切料金を請求することはございません。ただし、貴方の身体から呪いに応じた報酬を頂戴致します。”
とある。この説明に少しぞっとしたが好奇心の方が勝っていた。とりあえず「梅」を選ぶと、相手の名前と生年月日を問う画面へと移行した。
「ええっと…確か1年の初めに自己紹介カードとか作ったよね…」
机の引き出しから、奥底に押し込まれたファイルを見つけた。名前と生年月日がしっかり書いてあった。
“松尾 ヒトミ”
取り巻きの一人である。「とりあえずこの子でいいか!」入力した後、確認をクリックする。
“本当に宜しいですか?”…“はい”を選ぶ。
“承りました。効果・報酬共に2~3日までに実行致します”
という1文が出た数秒後、画面が真っ黒になった。
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少し、後味の悪い思いが残った。
とりあえず、3日は学校に通うことにした。
次の日、朝から「何で来たんだ」とか「帰れ」コールが止まない。もううんざりだ…辺りを見渡すとヒトミの姿がない事に気がついた。
遅刻ギリギリで教室に入って来たヒトミの右手には包帯が巻かれていた。大事な取り巻きに駆け寄り、どうしたの?とサエコが聞いている。
「昨日…帰りに…家の前で何かにつまずいて転んだの。そしたら…そしたら…マンションの上の階に飾られてた植え木鉢が…」
そこまで伝えると、泣いて言葉にならなくなってしまった。
「ピアノ…ピアノはまた弾ける様になるの?」
サエコの問いに黙って首を横に振るヒトミ
「なんて事…」
サエコは両手で口を抑え悲痛な表情をしている。白々しい…腹が立ったが、ヒトミの様子を見て少し気持ちが晴れた。
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夕暮れの帰り道、上履きで一人歩くユミ。今日は何をされても平気だった。偶然でも、スッキリした。
すると…空を早送りしたかの様に急に辺りが暗くなった。
(まだ、日が落ちるには早いわよね…?ってゆーか暗くなるの早すぎだし)
辺りをキョロキョロと見回していると、前に何か居た。黒い、煙?いや…雷雲を固めて人形にしたようなモノが居る。ソレは、スーッと近寄りユミを包み込んだ。恐怖や疑問を抱くより前に…視界で認識したと同時に包まれた。
「痛っ!!」
突然、視界が雲に覆われたと思った瞬間右手に痛みが走った。…雲がフッと晴れ、辺りも夕暮れに戻っていた。
右手を見ると手の甲がザックリと切れていた。
全治2週間、かなり深かった為傷が治っても思うように右手は動かないかもしれない…
ヒトミと同じだ。
“貴方の身体から報酬を頂戴致します”
・・・
本当に呪いなのか…確かめたい。
家に帰ると、必死になって昨日のサイトを探した。やっとの思いで見つけ「梅」を選ぶ。
“宮川 ケイコ”
取り巻きの二人目。
“承りました。効果・報酬共に2~3日までに実行致します”
・・・これで、同じ事が起これば本物だ。
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翌日は、何も変わった様子は無かった。
無いと思っていた。
休み時間、階段の踊り場で相変わらずサエコは取り巻きと私を取り囲み何やら文句を言っている。冷めた目で聞き流しているとケイコが掴み掛かってきた。
「あんた、聞いてるの!?」
そう言って襟を掴もうとした瞬間、ケイコが私の視界から消えた。いや…階段付近に居たせいで足を踏み外したらしい。
きゃああああぁぁぁ!
という悲鳴を上げてケイコは数段下へ転げ落ちた。途中で止まれたのは奇跡だ。でも…
踊り場の一番階段付近に居たからと言って、踏み外すような距離では無かった。誰かに足を引っ張られたような転び方だった…
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そのままケイコは病院へと搬送された。幸い、左足首の骨折で済んだと後で担任が報告していた。
「・・・骨折。」
信じている訳ではない、でも…。一抹の不安が頭を過り思わず包帯が巻かれた右手を見てしまった。
足早に帰宅し、自室に引きこもった。何時間そうしていただろう
「ユミー?ご飯よー!早く出てきなさい!」
母の声に渋々部屋を後にする。部屋は2階、階段を下りようとした時だった…サーッと急に辺りが暗くなる。
(き、来た・・・!!)
慌てて辺りを警戒した。前も、後も居ない!どこ?どこにいるの!!
フッと上から気配を感じ、見上げるとやはり雷雲を固めたような《ヤツ》が天井に寝そべるかようにへばり付いていた
「・・・っ!!」
声を上げる間もなく《ヤツ》は、ふわっと私に被さってきた。
・・・バキッ!
嫌な音と共に左足に激痛が走る。
「ぎゃああぁぁ!!」
痛みでその場に座り込む。パッと辺りが明るくなり母親が慌てて階段をかけ上がる姿が見える…
そのまま私は気を失ってしまった。
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左足首の骨折・・・
ケイコと同じだ。もう、医師の話なんて聞こえなかった。
これは・・・本物だ
《続く》
作者トド
お読み頂きありがとうございました!
お話の泉がしばらく断水していまして…ようやく復旧したようです(´・ω・`)
長編ものに挑戦してみました。とあるアニメから考えたお話です(笑)不馴れなもので、読み辛い箇所だったり分かり辛い部分もあるかと思います。
拙い文章ですが、お付き合い下さり誠にありがとうございますm(_ _)m
画像もお借りしています。ありがとうございます!