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。。。バカバカしい。
確かにその《マリカ》って女の話はゾッとしたけど、今いる《マリカ》と同一人物なんて、なんで言い切れるんだよ。
だいたい、あのサークルは地元民を募ってやり取りしてるんだから、たまたま同じ場所に住んでて、たまたまよく行く店に同じ物があったってだけだろ。
話し方だって、文字だけの世界なんだ。似たような書き込み方する女の子なんてゴマンといるだろ。
たったそれだけの情報で、その《マリカ》と彼女を同一人物だと決めつけるなんて、バカげてる。
。。。まあ、以前そういう事があったから、俺を心配して言ってくれてるのはすげー嬉しいけど。
そんな事をぼんやり考えながら、
「サンキュ。まあ、あの子がソイツと同一人物かはっきりとはわかんねーけど、気をつけるわ。」
とだけ返しておいた。
『絶対だぞ!気を許したりすんなよ!』
とまたメールが来たが、もうそれには返さなかった。
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。。。マリカがその女かどうかなんて、わかんねーだろ。
たまたまだよ、たまたま。
明日は仕事が終わったら、マリカと約束してるんだ。
いつも行くバーの、一番奥のカウンター席で、開店してすぐに一緒に飲もうって。
そしたらその時に、番号とかも交換しようって約束したんだ。
久しぶりに彼女ができるかもしれないってのに、そんな昔の女の話で怯んでられるかよ。
俺は残りのビールをグイッと煽り、その日はもうサークルに書き込みせずに眠った。
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翌日。
俺はいつにも増して精力的に仕事をこなし、定時で退社した。
帰宅してから念入りに体を洗い、軽い食事の後いつも以上に時間をかけて歯を磨くと、約束のバーに向かった。
開店時間の5分前に到着すると、腰までの長いストレートヘアの女性が俯いて立っているのが見えた。
「。。。マリカ?」
遠慮がちに若干小声で呼びかけると、その女性は弾かれたように顔をあげ、こちらを向いた。
『たけし?』
顔を赤らめながら訊いてくる。
俺はなぜだかホッとしながら、
「ごめん、待った?」
と彼女に近寄る。
『ううん。今来たとこ。』
はにかんだ笑顔で答えるマリカ。
かわいいな。。。
その後改めてはじめましての挨拶を交わし、お互いに吹き出した。
連絡先を交換し終わる頃、バーの看板にあかりが灯り、鍵の開く音がした。
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二人で中に入り、色んな話に花を咲かせながら遅くまで飲んだ。
明日はお互い仕事が休みという事もあって、俺は密かにドキドキして落ち着かなかった。
そろそろ帰ろうか、となった時。
『ちょっと飲み過ぎちゃったみたい。。。』
マリカが俺の肩に寄りかかってきた。
き、き、き、
キタ━━━━(゚∀゚)━━━━!!
こっ、これは誘ってるだろ!
これに乗っからないなんて男じゃねーだろ!
内心鼻息の荒くなる俺をなんとか抑えて、
「う、うちで少し休む?」
しまった!声が裏返っちまった!
『。。。いいの?』
俺の肩に頭を乗せたまま、上目遣いの潤んだ瞳で訊いてくる。
くぅーーーーーっ!やべぇ!
「いいよ!水飲んで少し休んで行きなよ!」
興奮して声が大きくなっていたかもしれない。
だがそんな事気にしてる場合じゃない。
マリカがよろよろと立ち上がる。
『いこっ♡』
フラフラしながら俺に手を差し出してきた。
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その日、俺達は男女の仲になった。
今は俺の腕枕で、スヤスヤと寝息を立てている。
。。。マジか。マジでか。
俺は幸せを噛み締めながら眠りについた。
ラインも繋げた俺達は、それからというもの毎日何度もやり取りをした。
いつの間にか、サークルへ顔を出す頻度も落ちていっていた。
時折スグルから心配するメールが届いたが、昇進して仕事が増え、なかなか時間が作れないって事にしといた。
たまに顔を出すと、独り言のようにマリカが書き込んでいた。
多分、俺達の事を悟られないように気を使ってくれているんだろう。
だがマリカの書き込みに返事を返すやつは、相変わらずいなかった。
休みの前日は必ず会い、必ずマリカが泊まっていった。
朝起きると既にできている朝食。
一緒に映画を観に行ったり、ショッピングに行ったり。
たまに遠出してデートしたりもした。
何もかもが幸せだった。
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ちょっと気になるのは、マリカのくれるメッセージに俺がすぐに返事をできない状態になると、
「いそがしいのかな?」
「どうしたの?」
「何かあった?」
「返事して」
「私の事嫌いになった?」
「こんなにしょっちゅう連絡したら、うっとおしいよね。。。」
「しばらく連絡控えるね。。。」
などと5分と空けずに何十件ものメッセージを打ってくる事だったが、あまり男性経験がないと言っていたし、不安なんだろうと納得させた。
しかし年末も近くなり、本当に仕事が忙しくなってきて、昼の休憩も取れなかったり、残業も当たり前になってきた頃、俺は違和感を覚え始めた。
いや、実際はもっと前から感じていたのかもしれない。
それを色々理由をつけて、目を背けていたのかもしれない。
ほとんど休憩が取れず、毎日深夜まで残業して帰宅してラインを開くと、必ず百件近いメッセージがマリカから届いている。
慌てて事情を話して謝ると、
「よかったぁ!嫌われたのかと思った。。。ごめんね、仕事で疲れてるのにこんな面倒くさいメッセージばっかり送っちゃって。。。」
といつものマリカに戻るのだが、俺の仕事中に送られてきているメッセージの送信時刻が、おかしいのだ。
彼女も仕事をしているはずの時間に、延々と送られてきている。
仮にこっそりスマホを操作していたとしても、ずっとそうしているのではないか、というくらい延々となのだ。
5分と空けずに。
こんな年末のクソ忙しい時期に、何時間もスマホに張り付いているなんて、普通に考えたら到底不可能だ。
俺はそれとなく訊いてみた。
「仕事中にこんなにメッセージ送ってきて、上司に見つかったりしないの?」
速攻で既読が付き返事が返ってくる。
「うん♡大丈夫♪うちの会社暇だからー(笑)」
。。。ホントだろうか?。。。
まあ、彼女がそう言うんだから、信じておこう。
そう言い聞かせて、
「そっか、心配だから、ほどほどにしとけよ(笑)」
と送り、
「今日も疲れたからごめん、寝るね」
とラインを閉じ、通知をOFFに切り替えた。
「おやすみ」と終わりたい旨をやんわりと伝えても、その後しばらく延々と彼女のメッセージが送られ続けてくるからだ。
正直、ちょっと怖い。以前スグルのくれたメールの内容が時折頭を掠めるようになっていた。
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『来ちゃった♪』
ある日帰宅すると、ドアの前にマリカがいた。
俺は正直ゾッとした。
明日は別に休みでもなんでもない。
普通に仕事だ。お互いに。
「え?大丈夫なの?明日も仕事でしょ?二人とも。」
少し声が震えていたかもしれない。
『。。。迷惑だった?』
悲しそうな顔をしてマリカが言う。
「あ、いや、大丈夫なんだけどさ。」
『そっか!良かった!明日はここから直接仕事に行こうと思って。』
。。。え?
マリカの手に、パンパンに膨らんだボストンバッグが握られている。
。。。マジか。。俺、明日大事な会議があるんだよな。。。
だけど帰ってほしい、と言えない小心者の俺は、流される形でマリカを泊めた。
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案の定、マリカは朝が早いから早く寝たいと言う俺を無視して、日付が変わっても俺を離してはくれなかった。
何度も何度も求められ、やっと開放されたのはあと2時間で起きる時間って頃だった。
残業で疲れているところに明け方近くまで寝かせて貰えなかったせいで俺は寝坊してしまい、慌てて家を飛び出した。
バタバタと靴を履いている俺の背中に、
『あ、ねぇ朝食はちゃんと食べないと』
と言うマリカの声がしたが、振り向く余裕もなく
「ごめん!会議に遅刻したらヤバイから!」
それだけ言って駅へと向かった。
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会議の後、トイレに行ったついでに恐る恐るラインを開くと、やっぱりものすごい数のメッセージが届いていた。
内容は、せっかく朝食作ったのに、食べてもらえなくて傷付いた、って感じのものと、いつまでも寝かせてあげなくてごめんね、というものだった。
その最後に、
「とっても気持ち良かった(*´艸`*)愛してる♡」
というメッセージがあるのを見て、俺はなんだか不快な気持ちになった。
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それから、マリカの行動はどんどんと酷くなっていった。
突然訪問してきて朝までなんて当たり前で、会社前で待ち伏せしてる事もしょっちゅうあった。
相変わらずラインのメッセージはものすごい数で、俺はもうほとんど読まずに
「終わったよ。お疲れ様。」
としか打たなくなっていた。
だんだん俺の自由な時間は奪われていき、睡眠時間もまともに取れなくなり、仕事に支障が出るようになってきていた。
上司からの風当たりも以前に増して酷くなり、このままでは、今の地位を維持する事も危うくなってきた。
マリカがまた連絡なしに俺の家に来た日、俺はついにマリカに突きつけた。
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「ごめん。もう無理だ。別れてくれ。」
キョトンとするマリカ。
その顔を見るのも、正直嫌で仕方ない。
『え、なんで?私達うまくいってるのに。あ、わかった、仕事が忙しくて辛いんだね。私は大丈夫だよ。落ち着くまではデートとかしなくて良いから。』
会話が微妙に噛み合わない。
「違うんだ。君が。。。君の事がもう無理なんだ。」
またしても意味がわからない、と言いたげな顔。
『ヤダ、私がすぐあんなメッセージ送るから自分を責めてるんだね。うふっ。大丈夫だよ。ごめんね、どうしても返事がすぐ来ないと、あんなふうに打ってしまうんだ。今度から気をつけるね。心配してくれてありがと!』
どうしてそう受け取れるのか理解できない。
「君が嫌いになったんだよ!もう別れよう!帰ってくれ!二度と来ないでくれ!家にも、会社にも!」
もうマリカの顔を見る心の余裕はどこにもなく、俯いたまま叫んでいた。
『。。。。そっか、たけし、すごく疲れてるんだね。そんな時は冷静になれないだろうから、今日は帰るね。ゆっくり休んでね!元気になったら美味しいご飯作りに来てあげる!』
声色からニコッと微笑んで言ってるのがわかる。
なんでだ。なんで通じないんだ。
スグルのくれたメールが頭の中をグルグル回る。
『あの女には絶対に深入りするな。』
どうしてあの時もっとちゃんと話を聞かなかったんだ。
今更後悔しても、遅かった。
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それからというもの俺は、マリカとのトークルームは絶対に開かないようにした。
それでも毎日何百件ものメッセージを告げる表示が更新されていく。
。。。ブロックした。
だが、そうすると次は着信表示が何十件と来るようになった。
仕事中だろうが、帰宅後だろうが、休みだろうがお構いなしだった。
。。。着信拒否にした。
そうすると、次は会社で待ち伏せされるようになった。
最初は油断していて鉢合わせしてしまい、逃げるのに一苦労した。
それからは、表の出入り口は使わず、非常口から裏手に回って帰宅するようにした。
同僚にも相談し、マリカの写真を見せ、会社を出る時に周りを確認してもらうようにした。
しばらくはなんとか平穏に過ぎていった。
だが、俺にはとてつもない不安があった。
俺はまだマリカが完全におかしくなる前に、俺が帰宅してなくても外で待たなくて済むようにと、合鍵を渡していたのだ。
それでもマリカは、俺が帰るまでいつも外で待っていた為、最近まで合鍵の事をすっかり忘れていた。
だがある日、家の中に違和感を覚えたのだ。
何がどうってのはわからなかったが、朝出た時とはなんとなく雰囲気が違うような、物の位置が変わってるような、そんな気がしたのだ。
まさか。。。気のせいだよな。。。
そう言い聞かせて、自分を誤魔化した。
それがいけなかった。
年末も押し迫り、あと数日頑張れば会社も休み、という頃。
俺は相変わらずの深夜までの残業で疲れ果て、風呂もそこそこに布団に潜り込んだ。
睡魔はすぐに襲いかかり、あっという間に眠りに落ちた。
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『。。。。し。。。。た。。。』
。。。なんだ。何の音だ。
『た。。。。し。。。けし。。。』
『たけし』
俺は跳ね起きた。
いや、跳ね起きようとして、その瞬間ガクンと布団に戻された。
なんだ。体が動かせない。
暗闇の中必死に体をモゾモゾさせていると、
『うふふ。起きた?』
という女の声がすぐ耳元でした。
心臓が跳ね上がり、体温が一気に下がるような感覚に襲われ、脂汗がにじむ。
やっぱり来やがった。くそっ。
残業続きで鍵を換える暇もなく、ずっと放置していたせいで、マリカは合鍵を使って上がり込んでいた。
『心配したよ?ラインも既読付かなくなっちゃうし、電話もいつ掛けても話し中だし。だから直接会いに行ったのに、いつの間にか帰っちゃってるし。仕方ないから、合鍵使って入っちゃった。』
抑揚のない声で、マリカが耳元に囁く。
帰ってくれ、と言おうとした時、口も塞がれている事に気がついた。
ガムテープが貼られている。
ゾワゾワと嫌な予感が全身を包み込んでくる。
『会社がいけないのよね。毎日毎日こんな遅い時間まで残業させて、私達の仲を引き裂こうとして。』
何かをゴソゴソ言わせながら、まるでロボットみたいにマリカが喋っている。
なんだ。何をしてるんだ。
『たけしは責任感強いし、どんなにブラックな会社でも、仕事放り出して会社を辞めるなんてしないだろうから。』
何を言ってる。
『このままだと、私達いつまでも会えないし。もしかしたら仕事が落ち着く前に、たけしが壊れてしまうかもしれないし。』
やめろ。何をする気だ。
もう嫌な予感しかしない。
最悪の結末しか浮かばない。
『だからね?たけしを、そんな地獄から助けてあげる。そしてもう離れていかないように、私がしてあげる。』
うふふ、とマリカが笑った。
同時に、腹の辺りに焼けるような凄まじい感覚が走る。
「うぐっ。」
ガムテープで塞がれた口からくぐもった声が漏れる。
いてぇ。いてぇいてぇいてぇ!!やめろ。やめてくれ。
ぐちゃっと嫌な音が耳に届いた次の瞬間には、また凄まじい痛みが襲ってきた。
『うふふ。うふふふふふふ。』
笑いながら、俺の腹を何度も何度も何かで突き刺してくる。
次第に薄れていく意識の向こうで、マリカの声が聞こえた。
『もう、離さないよ。。。』
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ーFINー
作者まりか
【マリカ。〜狂ったオンナ〜】の完結編です。
最後までお付き合いくださり、ありがとうございました。
画像をお借りしています。お世話になります。
怖いやコメントも、いつもありがとうございます♡