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小学4年のアキラは家族で遊園地に来ていた。
そこは夢の国をイメージしたテーマパーク。
おとぎ話のお城や、不思議の国のお茶会に出てくるティーカップが廻る遊具、ジェットコースターに、可愛らしいマスコットキャラクターたち。
幼稚園生の妹は大はしゃぎだ。
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だが、アキラは遊園地が好きではない。
友達と家でゲームをしたり、サッカーをしたりする方が好きだった。
だから、はしゃいでる妹が癪(しゃく)に触った。
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なので、親が買い物でアキラたち兄妹に待っているように告げた時、あることを思い付いて実行しようと考えた。
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それは、妹が大好きなテーマパークのマスコットキャラクター、餅の妖精「モッチー」は、実は中に人が入っていることをバラすこと。
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夢の国にはあるまじき暴挙だが、そこは子供の残酷さ。
さっそく妹の手を取り、ちょうど兄妹の前を通りすがったモッチーを追いかけた。
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モッチーは休憩に入るところだったらしく、徐々にメインストリートから外れ、スタッフ用の裏道へ入っていく。そして少しだけ開けた待機スペースに着くと、歩みを止めた。
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アキラと妹は曲がり道の陰からモッチーの様子を伺った。
妹は大好きなモッチーに飛び付きたがっていたが、アキラはそれを抑えつけた。
自分たちが見ている前で、モッチーが自分から着ぐるみを脱げば、妹も中に人が入っていると認めざるを得ないだろうと思ったからだ。
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しかしアキラの予想に反して、モッチーは着ぐるみを脱ごうとはしなかった。
体をひねったり、アキレス腱を伸ばすような仕草をしている。ストレッチでもしているようだ。
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-ー脱いでやればいいのに…
アキラはジリジリしながらその様子を見ていた。
しかし、もしかしたらモッチーはまたすぐ表に出ていかなくてはいけないシフトなのかもしれないと思い、いつでも逃げ出せる心構えをしていた。
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やがてモッチーは、その場にペタンと座り込むと壁に背を預けてうつむいた。
兄妹はしばらく様子を伺っていたが、モッチーが全く動かないことを確認すると、寝入ったものと判断して近付いていった。
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ふたりが目の前に立っても、モッチーはピクリとも動かない。
隣で目を輝かせている妹に向けて、アキラは意地悪く話しかけた。
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「なあ、これ、着ぐるみだぜ?中に人が入ってるんだよ?」
突然の兄の言葉に、驚きと悲しみの入り混じった顔をする妹。
「そんなことないよ!モッチーはモッチーだよっ!お兄ちゃん何でそんなこと言うの!馬鹿っ!」
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その妹の反応に、アキラは残酷な気持ちがムクムクと大きくなっていくのを感じた。
「じゃあ、今見せてやるよ」
うつむいたモッチーの頭に手をかけるアキラ。
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グッ、グッ、グッ、グー……、スポッ。
急に抵抗が弱まり、モッチーの頭がすっぽぬけた。
あまりの出来事に、言葉を失う妹。
アキラが追い討ちをかける。
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「ほら、覗いてみろよ!」
そう言って自分もモッチーの方に振り返った。
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そこには、
空っぽの着ぐるみが壁を背にして座っていた。
-ーえ?なんで?さっきまで歩いて動いてたのに。一度も目を離していないのに。
アキラの腕に抱かれたモッチーの頭部、そこには作り物の笑顔が貼り付いていた。
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兄妹は悲鳴を上げて逃げ出して、彼らを探していた両親と合流した。
両親はその日、モッチーの着ぐるみとすれ違う度に怯える兄妹を不思議に思いながら、夜になってテーマパークを後にした。
作者綿貫一
中に人なんていませんよ!