今回は友人との話です。
大して怖くはないですがお付き合い頂ければ幸いです。
私にはありがたいことに心霊現象などに興味を持っている、または全く信じていないため気にしないという友人が結構いる。
昔から変なものが見えるため理解のない人からは変人扱いされたものだが、そういった理解ある友人達のおかげで腐らずにめでたくもなく三十路を迎えたある日のことである。
高校からの友人5人と1週間のスキー旅行から帰ってきた数日後。
その中の一人(仮にR君としましょう)から妙な相談を受けた。
その内容というのが
「スキー旅行から帰ってきてから変な事が起こるようになった」
というものだった。
具体的に聞くと、深夜一人暮らしをしているアパートの部屋にいたら玄関の方で
「ごめんください」
と聞こえたのでこんな時間に誰だ?と思いドアスコープを覗いてみたが誰もいない。
これがかれこれ4日ほど続いているそうだ。
最初はイタズラかと思ったのだが、毎日決まって同じくらいの時間に来るため4日目である昨日はいつもの時間にずっとドアスコープを覗いていたという。
そして問題の時間になった。
「ごめんください」
声がしたがスコープから覗く廊下には誰もいない。
流石にゾッとしたという。
この友人、最初に書いた私の友人でいてくれる人種では後者であり『自分の体験した事のないこと及び目に見えないものは信じない』という心霊現象に関しては否定派ではないものの生まれてこの方三十ン年、そういった事に遭遇したことがなかったため
「世の中には不思議な事もあるかもしれないね」
くらいに思っていた人だった。
それが、突然。
何の前触れもなく自分の身に起こったようだと真面目くさった顔で私に相談してきたのだ。
場所は私が一人暮らしをはじめて10年ほど住んでいるマンションのリビングである。
私「へぇ。突然ねぇ…不思議なこともあったもんだ」
話を聞いて他人事のように言った私をRは恨めしそうに睨んだ。
R「お前なぁ… そういうのに詳しそうだから相談に来たのになんて言い草だ」
私「そう言われてもなぁ。実際の現場に居合わせた訳では無いし… いや、信じてないとかじゃないんだけどさ」
R「じゃあ明日、俺ん家泊まりに来てくれよ。それで同じことが起これば何かわかるかもしれないんだろ?なぁ、頼むよ」
三十路を越えた大の男が縋るように言うが、正直なところあまり気乗りはしなかった。
何故なら私は極度の面倒臭がりなのだ。
家から出るのが億劫でほぼ自宅で仕事をしているため仕事のために出掛けるのすら打ち合わせや書類の提出、または会社で大きな会議がある時くらいのもので週に1、2度しか出掛けない。
買い物くらいは行くがそれも徒歩5分の近所のスーパーに行く程度である。
なにより私は車、電車など他人が動かす全ての乗り物に酔う上に人ゴミと広い場所に行くと体調が悪くなるという困った体質の持ち主。
電車なぞ20分が限界である。
(自分で運転する場合に限り自転車、バイクのみ大丈夫)
ゲームを買う時に渋谷のTSUTAYAが一番近いため発売日に欲しいゲームは買いに出るのだが
スクランブル交差点は正に地獄である。
10分以上立っていたら倒れるかもしれない。
話を戻そう。
友人の家は私の家からだと山手線のほぼ真反対に位置する。
面倒くさい…
心底そう思ったが本気で困っている目の前の男を放り出すのも気が引ける。
何せ十数年の付き合いだ。
そして原因は何となく察している。
察しているからこそ、どうしたものかと思案していると突然
ぴんぽーん♪
とチャイムが鳴った。
時計を見ると時間は深夜1時になろうという時間だ。
こんな時間に誰だ?と思いながらふと友人を見ると少し青ざめている。
まさかと思い声をかけようとすると友人が先に口を開いた
R「いつも…これくらいの時間なんだ… もう少し早い時間だったけど…ぴったり同じ時間じゃなかったし…もしかして…」
私「付いてきたんじゃないかって?」
言葉尻を捉えると友人は恐ろしいものでも見るような目で私をみた。
と同時にまた
ぴんぽーん♪
とチャイムが鳴った。
なるほど、血の気が引くというのはこういう顔か。
とどうでもいい事を思い、友人に言った。
私「いつもは声をかけて来るだけなんだろ?じゃあ違うんじゃないか?」
とりあえずインターフォン確認してくるからそこで待っていろ。と言うと黙って頷いたのでキッチンにあるインターフォンを確認に向かった。
確認用のボタンを押そうとした所でまた
ぴんぽーん♪
チャイムが鳴った。
こんな時間に非常識な奴もいたものだと思いつつボタンを押すと
そこには見知った顔。友人K(仮)がいた。
私「Kか。なんだよこんな時間に」
インターフォンごしに声をかけると友人Kは
K「いいから部屋に入れてくれ。話したい事がある」
とちょっと怒ったように言ってきたのでロビーのロックを外してやった。
私「どうぞ」
K「さんきゅすぐ行くわ」
会話が終わりリビングに戻ると心配そうな顔でRが待っていた。
私のカピバラさんクッションを握りしめて。
潰れるだろ。と思いながら訪問者はKであった事を告げた。
Kもスキー旅行に行った1人で私とは小学生からの腐れ縁。Rとも高校時代からの友人だ。
R「Kが?なんで?」
私「さぁ?俺が聞きたいよ」
こんな時間に。と言いつつ玄関を開けてKを待っているとエレベーターが上がってきて着く音がしてKがこちらに向かってきた。
私の顔を見て何か言いたそうに口を開いたが深夜である事を思い出したのか閉口し、部屋に入った。
K「…おじゃまします」
私「どーぞ」
リビングへ向かうKを見送りながらドアロックの確認をする。
K「あっれ?Rじゃんどした?」
R「おう…」
3人分のコーヒーを入れるべくキッチンへ向かうとRがKに事情を説明し始めた。
話終えたところでKが私に聞こえるように言った。
K「望月!!お前また『うつした』な!!今度はRにもかよ!!」
私は心の中でやっぱり。と思い苦笑した。
一人事情が飲み込めないでいるRが私とKを首振り人形のように交互に見ている。何度見だ。
3人分のコーヒーを持ってリビングに戻り、Kからジャケットを受け取ってハンガーにかけ、Kと私も座った。
K「一週間の旅行だったしまさかとは思ったんだよ。でも旅行中特に何もなかったし大丈夫だろうと思ったんだ」
私「体質改善ってこの年になると難しいよね」
K「そういう問題じゃないと思うんだけど」
口論を始めた深夜の来訪者と家主を困ったように交互に見つめているRをチラリと見、コーヒーを一口啜った。
私「まぁまぁ、Rがよくわからんって顔してるぞ」
K「説明してねーのかよ!!」
Kはありえない。というようにこちらを見、少し哀れんだ目でRを見る。
私「いやぁ、どう説明しようかとね?考えてたんだよ」
K「いや、お前絶対面倒臭いと思ってどう逃れようか考えてただろ」
流石腐れ縁。わかってらっしゃる。
R「えーっと…何がなんだかさっぱりなんだけど…」
勝手に盛り上がる幼なじみにRが遠慮がちに声をかける。
それを受けてKがチラリとこちらを見、溜息をついて話し出す。
おそらく私が説明を面倒臭がっているのがわかったのだろう。持つべきものは。である。
K「Rもこいつが不思議体質だっていうのは一応知ってるよな?」
『こいつ』と言いながら私を指さす。
人を指さしてはいけないぞ。などと思いながら黙ってコーヒーを飲む。
R「まぁ、一応…」
K「お前の性格も知ってる。信じられないかもしれないけど、こいつ『ホンモノ』だから。
そこ信じないと話が進まないからとりあえずそういうもんなんだと理解してくれ」
R「お、おぅ…」
多少納得行かない風ではあったがとりあえずはそういう前提の話だと理解はしたようだ。
私はまたコーヒーを飲む。
K「こいつ、昔から一定期間一緒にいた奴に自分の状態を『うつす』んだよ」
私「わざとじゃないよ?」
横槍を入れるとギっと睨まれる。
K「わざとだったらシバキ倒してるわ!! 今回も俺に『うつし』やがって!! …とまぁ、そういう事で運悪く今回は俺と。お前だったって事だな
完全にこいつと同じになるわけじゃなくて、ごく一部だけ何か見えたり聞こえたりするけど風邪みたいなもんで暫くしたら元に戻る大した事には多分ならないから安心しろ」
俺は何回目かわからんから文句言いに来ただけだ。
と締め括って冷めかけたコーヒーに砂糖を入れ始める
私「いやぁ、そういうことだから数日我慢したらなんともなくなるからさ」
ぽかーんとしているRにごめんな!!と謝ってコーヒーを飲み干す
R「ってことは…全部お前のせいじゃねーか!!」
私「わざとじゃないんだよー いつ誰にうつるか俺にもわからないんだって」
持っていたカピバラさんを握りしめて怒りをこちらに向ける友人に苦笑しながら言うが怒りはおさまらなかった。
ちなみにKもRと同じく、深夜に謎の来訪者がなんと窓から来ていたそうだ。
Kの家は5階建てアパートの5階。
その窓を毎夜
コツコツ
と叩く音がしていたそうだ。根性のある幽霊である。
またか。と思いつつ無視を決め込んでいたが毎晩来るので思わず「うるせぇ!!もっと早い時間に来い!!」と怒鳴ったら隣人にうるさいと怒られたそうだ。
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次の日の朝、帰って行く際に2人とも我が家から塩を持って帰り玄関に毎日盛塩した結果、何事もなく数日を過ごし
元の生活に戻ったそうだ。
めでたしめでたし。
後日。
Rから「お前と旅行行くの嫌だわ…」
と言われたがその年の夏、海にかり出されて死ぬほど嫌な思いをしたのはまた別の話である。
おわり
作者望月 優雨
どうも。望月です。
最近夢と現実の堺に生きている私です。
今回、だいぶ長くなってしまいました。
思い出しながら書いているので相変わらずまとまりのない読みにくい文章で申し訳ないです…
実際の話を少し(かなり)改変しました。
読み返しもせず投稿する勇気。
勇気というのは大切だと思います(白目)
お読みくださってありがとうございました!!