俺は毎日通勤ラッシュが少しずつ落ち着き始める10:00くらいに電車に乗り大学へ向かう。
一年以上同じ時間の電車に乗っているとよく見る顔ができるもんだ。
俺と同じように大学へ向かっているだろう学生。主婦仲間のような方々、俺より歳上そうな女性、新聞を広げてるおじさんなんかだ。
意識して見てたわけじゃないが、その人達が降りる駅っていうのを覚えていた。
次はあの人が降りる駅だな…
次はあの人…
次はあの人が乗ってくるかな
そんな感じでだ。
ある日、いつものように電車に乗っていると3、4歳ほどの子供を連れた母親が乗ってきた。
子供は虫の居所が悪かったのか、何かあったのか癇癪を起こし泣いていた。
母親は周りを気にして頭を下げながら子供をあやしていた。
子供は泣くものだし、まだ1日は始まったばかりでそんなことで腹をたてるほど神経がすり減っている人もいなかったのだろう。誰も気にした様子ではなかった。
もちろん、俺も気にならなかった。
そんな中、歳上そうな女性が男の子の前に座り布の袋を見せた。
そして、その中に手を入れて飴玉を1つ取りだし自分の口へと入れて見せた。
「そんなに泣いちゃぁお母さんがこまっちゃうよ?これをあげるから泣き止もう、男の子でしょ?」そう、優しく問いかけ袋を渡した。
子供は泣き止み、笑顔になった。
「すいません。ありがとうございます。」
母親はお礼を言っていた。
丁度よく女性がいつも降りる駅へと到着し
「いえいえ。子供は泣くものですもの、子供は泣いていないと………ない。」
微笑みながらそう言って降りて行き、
何となく女性の降りていった方を目でおっていた。
ん?
「うああぁぁぁあーーー!!」
「いやあああぁーー!」
叫び声が車内に響いた。
な、なに?なんだ?!
声をあげていたのは、先ほどの子供。そして、子供の母親だった。
どうしたんだ?!近くにいた人が駆け寄っていた、俺も思わず立ち上がっていた。
子供の手が傷だらけで血で真っ赤に染まっている。
子供の傍らには真っ赤に染まった袋が落ちていた。床に落ちた袋の口からは赤いカッターの刃や破片、画鋲が出てきていた。
袋の中身は飴玉だと思い取り出そうと手を入れてぎゅっと握ってしまい手が傷だらけになってしまった。
背にしていたホームの方へ振り返ると、女性が口に飴を含んだまま立ち、俺と目があった。
『子供は泣いていないと…つまらないじゃない』
俺の聞き間違いでは無かったようだ。今度は俺の目を見てそう口を動かした。
俺も敢えて探しはしないが、あの日以来同じ電車に女が乗ってくることはなくなった。もしかしたら今もどこかで袋をもって電車に乗っているかと思うと、電車で泣いている子供が心配になる。
作者clolo
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