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中編4
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賽銭泥棒

もう時効だと思うんで書く。

10年以上前の3月、俺は高校を卒業したばかりだった。取ったばかりの免許に浮かれて、兄貴の車であちこちを走り回っていた。

ある時、俺は2人の後輩を連れて深夜にドライブしていた。

グンマーに住んでいたから峠道には事欠かない。長野との境を走る峠を、当時ハマっていた頭文字Dの真似をして攻めていた。

県境をまたいで長野に入ってしばらく行くと、道端に地蔵がたくさん並んでいた。真っ暗な中に立ち並ぶ地蔵の群れは不気味な眺めだったけど、目につくものがあった。

脇道に見える鳥居と賽銭箱。

お供え物のまんじゅうや花があったから「賽銭も入ってるんじゃないか?」そんなことを話しながら俺たちは路肩に車を停めた。

3人で連れ立って車を降りた。賽銭箱には錠前がかかっていたけど賽銭箱自体は古びていたから壊せそうだった。近くに落ちていた石を何度か叩きつけると、賽銭箱は壊れた。

中身は全部かき集めると5000円近くになったと思う。俺たちは上機嫌でその場を去った。

バカだったから、バチが当たるとかそういうことは考えもしなかった。

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日が昇ってきたからドライブは終わりにして、金を3等分して持ち帰った。一人頭1500円くらいか。確か、タバコを買って帰った。

兄貴が仕事に出るまでに車を返さないといけないから、ガレージに停めて俺は自分の部屋に直行してすぐ寝た。

目が覚めたのは昼頃だったと思う。

下の階からドンドンって物音がして起きた。大の大人が地団駄を踏んでいるような音が、ずっと鳴ってた。

shake

ドンドン!ドンッ!ドンドンドン!って感じで。

親も兄貴も仕事に行ってるはずの時間だった。

ペットの猫が暴れてんのかと思って見に行ったけど、呼んでも出てこない。

音をたどっても場所がわからなかった。ドンッ!ドンドン!って鳴ってはいるんだけど、俺と一定の距離を開けて移動してる感じがした。

玄関の方で鳴ったと思って玄関に行ったら、今度は風呂の方から鳴る。風呂の方を見に行ったら、今度は台所の方で鳴る…そんな感じ。

shake

怖くなって家を出ようと思ったら電話が鳴った。マジでビックリしたけど、ナンバーディスプレイには兄貴の会社の名前が出ていた。

電話取ったら兄貴が「てめぇふざけんなよ!」っていきなり怒鳴ってきた。

「お前アレどこから盗んできたんだよ!気持ちわりぃな!ふざけんな!」

「は?何が」

「何がじゃねーよ!てめぇ俺の車でどこ行ったんだよ!?」

「いや、だから何がだよ?」

「車に地蔵乗せたのてめーだろ!」

一瞬で血の気が引いた。

地蔵がいる峠に行ったことは兄貴には言ってない。

なんで地蔵?

車に乗ってる???

「いやちょっと待って、意味わかんねー、どういうこと?」

「とぼけんなよ!足元に地蔵載せただろ!?」

「ほんとにやってねーって!」

怒っている兄貴に事情を説明して、向こうの話も聞いた。

兄貴が言うには、助手席の足元にボロい地蔵が乗っていたらしい。朝、出勤する時に気付いて降ろそうとしたけど、重くて持ち上がらず、時間もないから仕方なくそのまま出勤したらしい。

もちろん俺はやってないし、後輩たちがそんなことをした様子もなかった。第一、俺がガレージに車を戻した時には、確かに地蔵なんて乗ってなかった。

兄貴は俺の言い分を信じてくれなかった。

俺が悪ふざけでやったと思ってるようで、ずっと怒っていた。「ちゃんと始末する」って言ったら、やっと電話を切ってくれた。

地団駄のような音は電話の最中もずっと続いてた。

shake

ドンッ!ドンッ!ドンッ!!!て、少しずつ激しくなってた。

2人の後輩に電話した。特に変わったことはない、と言っていた。「なんで俺だけ…」という気持ちで電話を切った。家にいるのは耐えられないから、チャリで外に出て、公園で時間を潰した。

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夜になって兄貴が帰ってきた。俺の顔を見るなりひっぱたいてきた。いつもだったら俺も応戦するけど今日はそんな気になれなかった。ドンドン!って音は、家族がいる時は鳴らなかった。

深夜、後輩2人を家に呼び出した。2人は地蔵が乗ってる車を見て「すげ~w」「いつの間にwww」なんて大笑いしてた。俺の気持ちも知らずに呑気だった。

地蔵は重かった。2人がかりでやっと持ち上がる重さ。「センパイこれ持てるとか怪力じゃねwww」とか言ってた。この期に及んで信じてないらしい。

車から降ろした地蔵を、群れの端に戻した。

パクった賽銭も返したかったけど、もう使った後だったし、後輩も同様だったから、俺が財布から5000円出して、壊れた賽銭箱に入れといた。

手をあわせて「すみませんでした、すみませんでした」って心の中で何回も謝った。

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車で家に戻って、怖いから猫を抱いて寝た。

次の日から地団駄のような音はしなくなった。

金欲しさだろうが粋がってだろうが、賽銭泥棒はしないほうがいいぞ。

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