我等が母校の文化祭は、一学期に開催される。
六月後半に少し早めの期末テストを終え、七月七日に一番近い土曜日。文化祭ではなく《七夕祭り》と称して行われる。
さて、此処までは前置きだ。
少し昔の話をしよう。
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高校二年生の文化祭は、我が校の生徒にとって特別だ。
一年の頃は入学したて、高校のシステムにもまだ馴染んでおらず、周りも仲良くなり始めたとは言え殆ど赤の他人だ。力を出し切れない。
かと言って三年になると、今度は受験が待っている上に、やることをある程度決められてしまうから、これまた力を入れられない。
と、言う訳で、我が校の文化祭の名物ともなった光景が《暴れる新成人》ならぬ《ハジケる二年生》である。
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期末テスト終了から数日が経過した火曜日の六限目。ホームルームのお時間。教室中を所狭しと怒号が飛び交い、二組二組は喧騒を極めていた。
文化祭当日まであと三週間を切ったのに、クラスでの催し物がまだ決まっていない。そして、主たる催し物・・・例を挙げるならば、お化け屋敷やメイド喫茶などが、粗方他のクラスに取られてしまっていた。
「もうお化け屋敷でいいじゃん!!」
「被ってるって何回言わせんの?!あっちはもう七夕委員に提出してるんだからね!」
七夕委員というのは、一般で言う、文化祭実行委員のことである。
「あれ、今年のテーマってなんだ?」
「確か、《日本の夏》!!」
入場者の投票による、催し物コンテストは文化祭の定番行事だ。毎年発表されるテーマにどれだけ合っていたか、という点も高く評価される。因みに、優勝賞品は地元のアイスクリーム屋のタダ券クラス全員分である。
「待って五組メイド喫茶じゃん!全然日本の夏じゃないじゃん!!」
「知らないってば!審査クリアしたんだからしょうがないでしょ!!」
「おい!!そんなことグダグダ言ってるより、自分のクラスのこと考えろよなー!」
「男子黙って!!野次飛ばすなら、その分案出して!!」
怒声が怒声を呼び更にエキサイト。よくもまぁこんなに熱くなれるものだ。若さって凄い。見事な迄に、クラス全体が、焦りと苛立ちの中に飲み込まれていた。
・・・・・・一部の例外を除いて。
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さて、一部の例外の内には、無論、こうして傍観に興じている俺や、闘争を好まぬ愛すべきユルい性格の友人達も混じっていた。
「若いねえ。」
と爺むさい溜め息を漏らすのは、月経性愛の友人、田中だ。お前もまだ高二だろ。
「ああ。青春って奴だろ。眩しいな。」
大袈裟に目を細めているのは、和菓子屋の倅、小笠原である。おいやめろクラスメイトを鼻で笑うな感じ悪い。
「・・・・・・。」
そして、何も言わずに読書をしているのは小宮寺。なんか言えや。
此処まではいいのだ。前述の通りユルい性格してる奴等なだけだから。
問題は、一番後ろの廊下側の席。周囲の熱狂した空気を物ともせず、呑気に昼寝をしている、奴である。
くだらない談笑の輪から抜け出して近付いて見ると、耳にイヤホンを挿しているのが見えた。耳栓の代わりだろう。
クークーと軽い寝息を確認。前頭部をコツコツ叩いてみても反応無し。うん。熟睡してる。
両耳のイヤホンに手を掛け、タイミングを合わせて一気に外す。ビクッと彼の身体が跳ね、その後、慌てたように辺りを見回した。
「先生じゃない。俺だよ。」
呆れながら俺がそう言うと、此方を見ながらぼんやりと首を傾げる。どうやらまだ寝惚けているらしい。
「・・・・・・何をしているんですか。」
「七夕のイベント決め。」
「まだ決定していませんでしたか。」
「そうみたいだな。」
「おそーいですね?」
イントネーションが可笑しなことになっている。
というか、発案の一つどころか話し合いに参加さえしていない奴のしていい発言ではない。
殺気立ってい奴等に吊し上げられても知らないぞ。
「何だとしても、僕は眠いので、寝ます。」
しかも、そう言って再度耳にイヤホンを詰め込み、机に突っ伏そうとする。
「ああもう・・・仕方無い。寝るなら、せめて此方来い。其処の馬鹿達に紛れろ。」
こいつ、去年もこの調子だったのだとしたら、恐ろしい子である。もしかして、誰にも構われずに、ずっとこうして寝ていたのだろうか。
机から離れたがらない彼を無理矢理立たせ、引き摺る。
「やめてください。やめてください。やめて・・・・・・んぁ?」
妙な声を上げ、彼が此方を凝視した。
一瞬の沈黙。
そして次の瞬間、困り顔で机にしがみ付いていた彼は豹変した。
「止めろ。離せクソ猿。」
クソ猿。
最早慣れすぎて怒る気も失せる其の呼び方。
今にも噛み付きそうな表情。
分かり易過ぎる殺気。
・・・・・・そう。この一言で完全に露呈したかと思われるが、改めて言おう。
彼の名前は風舞木葉。俺の小学校時代からの知り合いである。
「黙ってはよ来い。騒いだら寝てたのがバレるだろ。あっち着いたら寝ていいから。」
「・・・・・・。」
凄い勢いで睨み付けられているが、反論の余地が見付からなかったのだろう。狐目は顔を背けて、クラスメイト達に聞こえない音量で舌打ちをし、席を移動させた。
そしてまたマッハで寝る。まぁ可愛くない。別にこいつに可愛さを期待したことなんてないけど。それでも腹立つ。
友人の中の誰かが言った。
「・・・お前、なんでそんな嫌われてんの。」
そんなの俺だって知りたい。
俺は何も言わず、肩を竦めた。
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俺達がぼんやりしている内に、黒板に幾つもの案が出され、消えて行く。そして、最終的に残ったのは《怪談》だった。
どうしてこうなった。
「これならお化け屋敷とは違うでしょ!」
というのが発案者と賛同者達の言い分だが、まず其処までお化け屋敷に拘る理由が分からない。というか、なんだ《怪談》って。それは催し物として有りなのか。
「ステージ作って入場料取って、何人かが時間決めて順番で話するの!」
成る程。端的に言うならば、稲川○二のような感じか。それにしても・・・・・・
大勢の人間の前で話す。これは簡単そうに見えて、とても難しいことである。しかも客を取り、金を払わせるという。これは偉いことになった。
そんなハイレベルの怪談が一介の高校生に出来る訳がない。無謀だ。大コケするのが目に見えている。
だがしかし。
此処で異を唱えようものなら、やっと解決しかけていた問題が白紙へと返ってしまう。しかも、録に話し合いにも参加していなかった奴の一言で。
駄目だ。言えない。下手をすれば殺される。
皆から突き上げを食らい糾弾されるのは、ごめんだ。
黒板の前に立っていた、進行役の女子が言う。
「屋台とかでお菓子も売るから。その売り子さんも必要だね。それじゃ、反対意見のある人はー?」
誰の手も挙がらない。皆、きっと同じ気持ちなのだろう。クラス全体が、互いを互いに牽制しあっているような、異様な緊張感に包まれていた。
「無い?なら、決定。四、五人でグループ作って各自練習しておいてね。」
そして丸投げ。
そんな適当な自主練習では益々無理だろう。
「面倒なことになりましたね。」
狐目が、寝惚け眼を擦り擦り呟いた。
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さて、その週の土曜日である。
俺は突然、狐目に呼び出しを食らって彼の家に来た訳だが・・・。玄関に入る前から分かる程、中が騒がしい。しかも、女性のものと思われる黄色い声で。
可笑しい。彼の家は男所帯で、客が居るにしても此の騒ぎはなんだというのだろう。
家に上がり、声の発信源を探る。
客間だ。障子の向こうから女性の声達が聞こえてくる。狐目の声は聞こえない。
何が起こっているのか。
誰が居るか分からないので、他所行きの声を出しつつ障子を開け放つ。
「不肖、猿楽真白。御呼び立てに応じて参上つかまつりました。」
次の瞬間、俺は言葉を失った。
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「ちーちゃん此方のお着物はどう?」「此方の帯は?」「やだ、ちーちゃんはまだ若いんだから野暮ったいわよ。そんなの。」「敢えて洋装ってのもアリなんじゃない?学校動き回るんでしょ?」「あら、だったら袴を着るのは?」「シャツもそのまま着て・・・」「書生さん!」「やだ!素敵!」「良いわねぇ。きっと似合うわ。」
「演目何にしましょうか。」「あたし、ちーちゃんの《牡丹灯籠》が見たいわぁ。」「時間が足りないわよ!」「後半はカットすればいいじゃない。」「だったら《番町皿屋敷》の方が良いんじゃないかしら。」「在り来たり過ぎて詰まらないでしよ。《怪談乳房榎》はどう?」「高校生が演るにはちょっと内容がねぇ・・・。」「いっそオリジナルの話を作っちゃえば良いじゃない!」
「少し休憩にしない?深風堂の酒饅頭が有るの。」「嫌だわ、ちーちゃんは和菓子なんて古臭くて好きじゃないわよねぇ、ほら、ヴェール・フォレのケーキ。美味しいのよぉ。」「分かってないわね。あんた達。ちーちゃん、ちーちゃんが好きなのは青梅屋の桃山よね?ほら、買ってきたの!」
部屋の中に婆さんが一、二、三、・・・・・・うわっ、十人以上居る。しかも、よく見ると全員仕事の元締め達の・・・奥さんだの妹さんだのだ。詰まり偉い人達の家族の軍団。とても気安く婆さんなんて呼べない。怖っっ。
そして、その全員が砂糖に集まる蟻のように、部屋の中央に座る狐目に群がっている。
あ、そうそう。《ちーちゃん》というのは狐目の渾名である。幼少期に小さかったから《ちーちゃん》なのだが、ヒョロヒョロと成長した今も、そう呼ばれ続けている。
それにしても、なんだこの状況。
少なくとも、俺だったら恐ろしさのあまり逃げ出すだろう。その点、特に気にしている様子でもない狐目は、流石と言ったところか。
・・・・・・あ、違う。そんなことない。チラチラと此方を見ている。早く話し掛けろということか。どうやら、彼なりに困っているらしい。そりゃそうだ。
然し、此処でまさか気安く「ヘイ狐目!」等と呼び掛けられる筈もない。仕方無く他所行き言葉のままで名前を呼ぶ。
「・・・えー、と、木葉坊っちゃん?」
言って直ぐに、なんだか空しくなった。何が楽しくて、同い年の奴を《坊っちゃん》等と呼ばなければならないのだろうか。
「おや、猿楽さん。」
思わず渋い顔をしていると、恰も、今、気が付いたかのように狐目が此方を向いた。
「来てくれたんですね。御足労をお掛けしてしまって・・・・・・。」
言葉が丁寧で柔らかいのは、彼方も余所行きの話し方をしているからである。表情、仕草、醸し出す雰囲気、見事に化けている。彼の口から日常的に《クソ》等という下品な言葉が飛び出しているなど、誰が信じられるだろうか。
苦笑いが表に出て行かないように、顔の筋肉を引き攣らせながら応える。
「いいえ、お気になさらず。一体何の御用で・・・いえ、その前に少し、宜しいですか?」
「貴方が此方に来る訳にはいきませんか。皆さんとお話をしている最中なのですが・・・。」
「ええ。他の方に聞かれては困る内容です。御手数ではありますが、少々御時間を頂きたい。」
「分かりました。今向かいます。・・・・・それでは、申し訳御座いません、少し席を外します。」
周りの方に一礼し、立ち上がった狐目が此方に駆け寄って来る。
痛い痛い痛い。御婦人方の視線が痛い。「私達のちーちゃんを横取りしやがって!」という思いが突き刺さるようだ。
俺は、彼が廊下へと出た瞬間、思わずピシャリと障子を閉めた。
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何を言うでもなく、互いに廊下を進み、声が届かないであろう暗がりへと進む。
先に口を開いたのは、狐目の方だった。
「非常に不本意ではありますが、助かりました。」
「お前、なんで《此方に来い》なんて言ったのさ。ヒヤッとしたじゃないか。」
「直ぐに行ったら、感じが悪いじゃないですか。貴方だって、睨まれる処じゃ済まなかったかも知れません。あの人達、怒ると恐いんですよ。」
「知ってるよ。・・・・・・それにしても、なんだい、ありゃ。」
「見ての通りですよ。偉い人達の奥さんや姉妹。」
「いや、それは分かる。けど、どうしてああなった。」
「それが、私としましても何が何やら・・・。」
さっきまで大人しくしていた分、どちらの口からもポンポンと言葉が飛び出た。口調や一人称が違うのは、わざとだ。学校では浮いてしまう為、双方、色々と変えている。
「狐目。私はてっきり、お前が巣鴨の刺抜き地蔵か何かにでもなったのかと思ったよ。」
「話相手をしなくていい分、地蔵様の方が楽でしょうよ。全く・・・地獄を見ました。」
「酷いねえ。随分と可愛がられていた様子だったじゃないか。ちーちゃん。」
「調子に乗るなよクソ猿。」
「へいへい。」
おざなりに返事を返すと、彼の表情が僅かに歪むのが見えた。が、どうやら罵詈雑言を吐く積もりは無いらしい。多分、助けられたことに少しは恩を感じているのだろう。変な所で義理堅いのだ、彼は。
「・・・どうしてこんなことになったか。多分、あのクソジジイが関係しているのでしょうが。」
クソジジイとは狐目の祖父である。
呼び名に違わぬクソ・・・・・・基、
「何かやらかしたのか?」
「・・・・・・怪談を発表することになったと、話しました。昨日。そうしたら今朝、彼女達が家に押し掛けて来て・・・。」
「一日であの人数を集めたか。しかも逆らえない相手ばかり。やるなクソジジイ。」
「感心している場合ではありません。いい迷惑ですよ。」
「まぁでも、あの人達なら、確かにキッチリ仕込んでくれそうだ。孫に頑張って舞台を成功させて欲しい親・・・じゃなかった、爺心じゃないか?」
俺がそう言うと、狐目はそっぽを向いてフン、と鼻を鳴らす。不機嫌で埋もれた表情の中に、軽く照れが滲んでいるのが分かった。全く素直じゃないんだから。このシャイボーイめ。
「・・・で、私はどうして呼ばれたんだ?もしかして、一緒に稽古したかったのかい?」
「はい。よく分かりましたね。猿のくせに。」
「マジか!」
変な所で素直。
「どうして私一人が、あんな苦行を強いられなければならないんですか。」
「・・・そういう理由か。」
「それ以外にどんな理由が?」
「それもそうだわな。」
呆れつつ頷くと、狐目は懐から何故かロープを取り出す。
「これから凡そ五分後に田中君、二十分後に小笠原君、三十分後に小宮寺君が来ます。」
「まさか、捕まえるのか?」
「ええ。旅は道連れ世は情け。」
「道連れというか道行きだけどね。」
「貴方達と心中なんてゾッとしません。」
目を伏せながら彼ががそう呟くと、遠くで呼び鈴が鳴った。田中が来たのか。
「どちらかと言えば、飛んで火に入る夏の虫ですかね。」
隣で狐目がニタリと笑った。
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さて、そんなこんなでエネルギッシュな御婦人方に囲まれた男子高校生が五人。其処で我々がどのような特訓をしたかは、御想像にお任せしよう。ただ、地獄の一言に尽きたということだけを伝えておくのみだ。因みに特訓は平日の放課後も含め、毎日行われた。
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そして、次の次の週。本格的に文化祭の準備が始まった日、驚愕の事実が発覚した。
「・・・・・・は?練習してきたのが俺達だけ?」
田中が聞いたことのないような重低音で、纏め役をしていた女子に詰め寄る。普段のスナック菓子より軽い性格は何処へ行ったのか。
「だから、皆やってきてないんだって。だから、怪談は五人でやって。」
平然と答える女子。見事に悪い予感が的中してしまった。次いで狐目が尋ねる。
「丸一日、僕達の怪談だけで持たせるのですか?流石に無理が有るのでは?」
「お客さんだってずっと同じ所に居る訳じゃないし、大丈夫だよ。」
何時も平然としている小宮寺も、今回ばかりは焦りを隠さない様子で問う。
「俺達の休憩時間は?」
「お昼は三十分ぐらい休もう。あとは順番で休んで。」
「たった五人で順番も何も・・・・・・!!」
「まぁ待て。俺達が順繰りに演ればいいんだな。分かった。」
小宮寺の首根っこを捕まえ、グイと後ろに引っ張ってから元から悪い目付きを益々悪くする小笠原。あらやだ恐い。
「で、お前等は一体何をするんだ?まさか、俺達ばっかりを働かせる気じゃないだろうな?」
「其れは、お菓子の屋台とか・・・・・・」
「へぇ?残った奴等全員で、屋台か?」
「順番で時間決めて・・・」
「休みながらローテーションするのか?俺達が一日教室に居なきゃならないのに?」
グイグイと距離を詰められ、女子の顔に怯えが見え始める。マズい。このままではマズい。
後退りながら女子が訴える。
「だ、だって、皆話し合いに全然参加してくれなかったし・・・・」
「そうだな。けど、一度口頭で言っただけでクラス全員に話が伝わると思っていたそっちも、大概だと思う。そして、その理由はそもそも俺達だけに辛い仕事を押し付ける理由にはならない。違うか?」
女子の目に愈々涙が溜まる。
クラスメイトの目が有る中で、これ以上騒ぎを大きくしたら、俺達が泥を被る羽目になりかねない。例えどんな状況であろうとも、女一人に対し男五人では、どう見ても此方が悪役だ。
慌てて、憤る小笠原を宥める。
「まぁまぁ小笠原、顔が恐い。仕方無いだろ。俺達がやるしかないんだから。」
「・・・・・・ましろん。」
女子よ、この状況で渾名で呼ぶな。格好が付かない。
「あのさ、俺達も頑張るよ。けど、如何せん五人でぐるぐる話をするだけじゃ華が無い。だから皆にも協力を頼みたい。キチンと役割分担を考えてな。頼める?」
「・・・・・・・・・うん。分かった。」
小さく頷く女子。俺の踵を全力で踏む狐目。けれど、これにて一件落着・・・・・・とは行かせない。こんな目に遭わされて泣き寝入りは御免だ。俺だって、怒っていない訳ではない。
「もう一つ確認。」
「なに?」
安心した様子の女子が、小首を傾げる。少しだけ反撃。
「もし、当日に俺達全員が一気に休んだらどうする?」
「えー?!そんなの困るよ。絶対に休ま」
「休まないで、じゃなくて。もし休んだらって話。どうすんの?」
「それは・・・屋台だけでやるけど。でも、本当に困るから、休まないで。ポスターとか作り始めちゃってるし。」
あくまでも、自分達がやるという発想は無いらしい。あと、急な発熱や事故の可能性も全く考えていないようだ。ほんの少しだけ、不愉快な気分になった。因みに狐目はまだ踵を踏み続けている。
俺は足を軽く振って踵を離し、彼女に向かって言い放った。
「だったら、精々俺達が休みたくならないようにして欲しい。偶然、七夕祭の日に、俺達が、五人揃って、発熱とかしないようにな。期待に沿えるようなレベルには、仕上げておくからさ。」
言い終えた瞬間に、キンコーン、と、間の抜けたチャイムの音が鳴った。
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放課後の教室。
「完全に退路は絶たれたな。」
不貞腐れる小笠原。
「他の出し物も有志発表も何にも見れないのかぁ。しかも一日この面子。野郎オンリー。」
残念そうな田中。
「責任重大なのに無賃労働・・・・・・しかも丸一日。あーだるい。」
溜め息を吐く小宮寺。
「無駄にハードルを上げてどうするんですか。あれでは啖呵を切ったようなもの。一時の感情に流されて言い負かしても意味等無いでしょうに。考えが浅いことを猿知恵と言うんですよ、体現してどうするんですか、このクソ猿が。」
そして悪態を吐く狐目。
「・・・・はい、すんまそん。」
辛辣だが、強ち間違いでもないので此方としては言い訳の言葉も無い。まぁ、真面目に謝る気も更々無いが。
「あの人達、恐らく、僕達が何をどんな風にするか等も丸投げして来ますよ。しかも小宮寺君が言った通り、責任は重大。催し物が大コケしたら、その責任は全て此方に回されるでしょう。」
「でしょうねー。」
彼は更に顔を苦くしながら言う。そして、今度は一際大きく溜め息を吐く。
「・・・・・・然し、です。」
「はい?」
声の調子がいきなり変わったので、思わず顔をあげた。みると、ふいと横を向いている狐目。彼は肩を僅かにいからせながら、ボソリと言った。
「・・・・・・・・・・・・溜飲が下がりました。其処は感謝します。ほんの少しだけ、ですが。」
さっきとは打って変わった、小さな声だった。けれど、他の面子にもそれは確かに聞こえたらしい。次々に口を開き出す。
「・・・最初に煽ったのは俺だしな。其れに、此処で引き下がるのは癪だ。」
「まぁ、これも楽しくないことはないか。どうせ俺の性癖を理解してくれる女子なんて、はなから居ないしな。」
「・・・店のお得意さん、見に来るって言ってたし。上手く行ったらなんか良いことあるかも。」
横を向いていた狐目が、今度は前を向く。
「彼処まで言ってしまったんです。・・・・・・成功させましょう。絶対に。」
彼がまともに俺の顔を見るなんて、随分と久し振りだと思った。見回すと、他の奴等も此方をじっと見ている。
鼻から一つ息を吐き出し、ゆっくりと頷く。
「・・・そうだな。頑張ろう。絶対、成功させよう。」
口に出すと、思ったよりこそばゆい。そして恥ずかしい。思わず顔を背けると、他の奴等も照れ臭そうに笑っているのが、横目に見えた。
文化祭まで、あと四日。
作者紺野
どうも。紺野です。
思いの外長くなってどうしましょう・・・・・・。今回もホラーじゃないし。セリフが異常に多いし。強いていうならば、兄の渾名が《ましろん》だったということが一番旋律するポイントでしょうか。
節分で余った炒り豆を使った、砂糖衣を付けた豆の作り方を書いておきます。
材料:炒り豆大さじ3、砂糖大さじ1、水3滴、塩爪の先ほど。
作り方
①フライパンに砂糖と水を入れ熱します。
②砂糖が完全に溶けて出ている気泡が小さくなったら、豆を入れ、火を止めます。
③豆を割らないように混ぜ続けると、豆がパラパラになります。塩を振って完成です。
シンプルではありますが、中々味わい深いですよ。③の時にココアパウダーや抹茶パウダーを入れても美味しそうですね。
久し振りに心から怖い目に遭いました。早く色々な話を終わらせて書きたいです。なるべく早く、出来るだけ多くの人に伝えないと。皆さんに危険は無いですよ。