私たち家族は、この度、引越しをいたしました。
とはいっても、同じ町内で移動した…というもので、
引越し業者を頼むことなく、自分たちで全て、片付けてしまえる程度のものでした。
引越しをするに当たり、段取りや処分品のことで、私は、主人と喧嘩になり、
「次の家への引越しは、あなたは手を出さなくて良い。
もう、何も期待しないし、頼ったりもしない。」と、
主人を突っぱねて、口も聞かない状態となり、
必然的に、私と長女が、
荷物をまとめては、自転車や車で運び、
片付け、掃除をし、
腹がたつので、主人の荷物はグチャグチャに箱にまとめて、テープで止めて押入れに突っ込み、昔買って、高かったと言い、中々処分してくれない三角定規のようなスーツ達も全て捨て、
いよいよ、大型の家具、家電を運ぶ事となりました。
何とか、家の車に乗せられるものは車で、
冷蔵庫はさすがに無理なので、友人から手押車を借りて、それに乗せ、運びました。
最後に、我が家のお仏壇を運ぶ事となりました。
我が家の仏壇…、
これは、私の家の者です。
私の父方の、叔父、祖父母、そして私の母が祀ってあります。
新しい方の家に着き、もう一度、お位牌をお仏壇に戻す前に、さっと濡れたタオルで拭き上げ、風を通すため、扉を開けたままにし、
お位牌は少しの間、仏卓に置いてありました。
私はその状態で、二階に上がり、洗濯物を取り込んで、また、次の洗濯物を干し、長女は自分の部屋のある3階で、持ってきた荷物の整理をしておりました。
ふと気づくと、次女がいません。
荷物が沢山あるので、1人にさせるのは危ないと思い、
名前を呼ぶのですが、返事がありません。
お仏壇を掃除して、洗濯物を干しに二階にあがるまで、ずっと
「おてつだい、するぅ。おてつだい、できるぅ。」と、
私の周りをちょろちょろ付いて回っていたのに。
ベランダに出たがるのを、
「落ちたら大変だから。まだ、おチビはベランダに出たらダメ。」と言った私に、
先ほどまで、
「少しだけは出てもいい?」
「ここで、お座りしてていい?」
と聞いていたのに、二階に次女の姿がありません。
長女の部屋に行ったのかしら。
三階の長女の部屋を覗くと、
たくさんの荷物の整理に奮闘している長女がいるのみでした。
「おチビ、来なかった?」と
聞く私に、長女は、
「来ないよぉ〜。二階は?」と
聞いてきます。
さっきまでいたんだけど。あんたの部屋にいるのかと思って…、
そう答える私に、長女は、
「この部屋には来てないよ?母さん達の部屋じゃない?」と
言いました。
三階の上りきった左が長女、右側は夫婦の寝室です。
主人が寝ているので、そこに居るのかなと、扉を開けてみましたが、
何の足しにもならない主人が、大いびきで寝ているだけでした。
長女が側に来て、ひょこっと部屋を覗き、
「アレ?ここにもいない?じゃあ、一階かな。
オモチャの箱、下に置きっぱなしだから、遊んでんじゃない?」と言うので、
長女と2人で、一階に降りて行きました。
一階に降りた時、キッチンの扉は閉まっているのですが、
中から次女の楽しそうな声が聞こえてきます。
「ここにぃ、ばあちゃんは座ってね。
おいたんはここね。おばあちゃんとおじいちゃんはこっち。ウフフフフフフ。」
何やらとても楽しげに…、
すりガラス越しに、次女の動き回る姿が映し出されています。
ウフフ…と笑うその声は、楽しい時のそれとは違い、
どこか、私達に甘えている時の、人見知りの次女が、家族に聞かせる、可愛らしい声です。
「このお家でぇ、すむんだよぉ〜。みんな、いっしょだから、こわくないよォ。よかったねぇ。みんな、来れてよかったねぇ〜。ウフフ…、ねぇ〜。よかったねぇ〜。」
ガチャッと扉を開けると、次女が笑顔でこちらを向き、
「あっ、かーしゃん。せんたく、おわり?おちゃ、のみますか?」と聞いてきました。
「あんた、一階にいたの?何して遊んでたの?」と言いながら手を洗う私に、長女が、
「かーさん、かーさん。」と呼びかけます。
何よ?と振り向いた私に、長女が目配せでテーブルを見る素振りをしますので、そちらを見ると…
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そこには、叔父、祖父母、母の位牌がそれぞれ椅子の前に置いてあり、
その前には、お茶を入れたコップまで置いてありました。
驚いたのは、祖父母の位牌は「夫婦位牌」で、1つの位牌に祖父母の名前が入っているのですが、
きちんと、2つ、お茶が並んでいたことでした。
「どしたの、これ?お茶、入れてあげてくれたの?」と
聞くと、次女は、
「あつかったから、おちゃほしいって、おばあちゃんとおじいちゃんがいうんだよ。
ここはどこなの?ってばーちゃんがきくから、新しい、ねんねのお家だよっておしえてあげた。ここにいていいの?ってきくから、みんないっしょだから、いいんだよっておしえてあげた。
おいたんは、笑ってた。」
どうやら、次女の言うおばあちゃんとおじいちゃんは、私の祖父母、ばーちゃんは母、おいたんは私の叔父のようです。1つずつ、位牌を指差しながら、おいたんが、ばーちゃんがと話をします。
「あらぁ、ごめんね。かーさん、ちゃんとお茶入れてあげなかったから、みんな、困っちゃッたんだね。」と言うと、
「おーいおーい、言ったんだよ?おじいちゃんが、おーいおーいってよんだの。」と言います。
「ちいちゃん(次女は自分をちいちゃんと呼びます)が来たら、おじいちゃん、
ちっこいの、おちゃおくれ
っていったんだよ。」
おじいちゃん…、ちっこいのって…。
相変わらずだな。
何だか私は、とても気持ちが緩んで、ボロボロ涙が出てきました。
突然、泣き出した私に、次女はビックリしたようで、
「どしたの?かーさん、どしたの?いたいの?」と繰り返し聞いてきましたが、私は、はははは…と、笑いながら、
涙が止まりませんでした。
長女が、次女に、
「かーさん、嬉しいんだよ。おいたんもばーちゃんもおじいちゃんもおばあちゃんも、みんなでここに来れたから、嬉しいんだよ。優しい気持ちになってるんだよ。
ちぃが、お茶を入れて、みんなに優しくしてくれたのも、かーさん、嬉しいんだよ。」と、言ってくれました。
その日から、お仏壇のご飯運びは、次女の係になりました。
毎朝、毎晩、ちっさい手で、お仏壇用の食器に、ご飯とお味噌汁を入れ、お茶を入れ替え、1つずつ、丁寧に運びます。
たまに何やら、
「えっ?もっと?」と言い、
ご飯を足していたり、
「えっ?アチチ(熱い)がいいの?」と言い、
長女に熱いお茶を入れるように頼んでいることがあります。
持って生まれたものなのか、感受性の高い時期のものなのか、どちらにせよ、次女が感じている事…。
怖い思いをすることがあったら、側にいて、少しでもわかってやりたい。
素敵なことがあったら、教えてもらって、一緒に笑いたい。
親の思うことは、どんな事であれ、
『子供の側で同じく思う』
これに尽きると思います。
そして、私も、そうやって、大きくしてもらったんだなぁと、今回、改めて思い出すきっかけとなりました。
作者にゃにゃみ
引越し先での出来事です。
ちっとも怖くありません。
何なら、家族自慢のようになっております…笑