講義が終わり珈琲でも飲もうと喫茶店に立ち寄った。
『それでさ、美也子ったらね…』
当たり前のように俺がいつも使用する喫煙所に甲斐甲斐しくやって来た汀と一緒に…
そんで、一日の出来事を話している。まるで日記を朗読しているように、ただ当たり前のように人物名を出してくるけど面識もないから全くわからない
適度に相槌を打ちながら俺は煙草に火をつけた
珈琲を飲むとどうも煙草が吸いたくなる。困ったものだ
『ねぇ、聞いてる?』
「あぁ、聞いてる。汀はさ、わざわざ俺のとこまで来てよ…もしかして友だ」
『友達いるよ!失礼な!』
「最後まで言ってないけど…。話続けてよ」
『美也子ったら、インドアで運動なんて全くしなかったのに急にテニスを始めてさ。初心者なのに信じられないくらい上手くなってこの前の大会で準優勝したんだって!』
「へぇ~、そりゃ凄いな。上手くなったのもそうだけど、いきなりテニスってのもすごいな、俺には無理だ」
『だよね!それだけじゃなくてね、絵とか料理まで始めちゃってさ』
「好奇心旺盛なんだな」
『それがね、そういう子じゃなかったんだよ。どっちかっていうと静かっていうか、慣れたものしかやらないっていう方でね』
「彼氏ができたとか、好きな人がテニスしてるとかじゃないのか?」
『私もそれ思って聞いてみたら違うんだって』
「なにかきっかけでもあったんだろうな」
『そう!そこ!聞いてみたら占い師の人に言われたんだって。テニスとか絵とか料理の才能がありますって』
「それで始めたら上手くいったと」
『うん!それ以来その占い師の人にはまっちゃったらしいの。今度私も一緒に行くことになってるの!』
「プラシーボ効果じゃないのか?」
『かもしれないけど、それでなにか上手くなれるならいいんじゃないかな?』
「ま、そうだな。身に付くってのは嬉しいもんだからな」
それから俺たちは話をして…っていうか一方的に汀の話を聞いて店を出た
――――――――――――――――――――
美也子と占い師のもとへ行く約束の日
様々なモノに触れてきた、というか
関わったというか、聴いてきた
というかそういったものに触れてきて、その度に彼に助けてもらってる手前、占いなんてのには正直行きたくない気持ちもあるけど
美也子の変わり様は気になった。
講義が終わり私たちは占い師のもとへ向かった
『そういえば、美也子はどうしてその占い師のことを知ったの?』
【なんかね、バイトの帰りに歩いてたらその占い師の人に声をかけられたの。今までその人がその場所にいることに気がつかなかったんだけどね】
『そうなんだ~、どんな人か楽しみだな!』
道中は美也子の最近の話を聞いていた
…………
……
…
その場所に着いたときには空はすっかり暗くなっていた
《いらっしゃい…今日は、お友達も一緒なんですね》
【はい。今日は私じゃなくて彼女のことを見てほしいんです】
『よろしく…お願いいたします』
なんだろう…
外から見てるときには感じなかった、けど
いざ前にするとわかる
この人…
性別はもちろん、見た目も、雰囲気も、声も何もそぐわない
けど
彼に似てる
【では、始めましょう】
――――――――――――――――――――
翌日、汀は占いの結果を知らせたいらしく俺を夕飯に誘ってきた
『占い結果なんだけどさ!話したいから明日夕飯に行こう!』
「いやいや、電話してるんだから今話せよ」
『それじゃ意味ないから!とりあえず明日私ん家で!』
「はいはい」
どういうことだよ。男を家にあげるのに抵抗はないのかね…
………
……
…
夕方、講義後汀と一緒に買い出しに行き汀宅へ向かった
汀が夕飯を作ってる間、俺はベランダで煙草を吸っていた
正直、あまり女の子の部屋に居るのに慣れてないためなんとなくソワソワして居心地が悪い
世の男にはわかる人間も多くいると思う
『できたよ~』
「はいよ」
俺は煙草を消して携帯灰皿にしまった
「『いただきます」』
二人で合掌し料理に手をつけた
…あいもかわらず
「美味いな」
『でしょ?ありがとう♪』
普段自分で作っているせいか、人に作ってもらうってのは一層美味しく感じる
外食とは違う美味しさがある
「んで?占いはどうだったんだ?」
『今、言われた才能をいかんなく発揮してるんだけど、なんでしょう?』
…料理?
いや、何度か食べてるが料理がうまいのは知っている、占いに関係無いことだろう
だとしたら…
「片付けの才能?」
以前より心なしか綺麗になってる気がする
『へぇ~、以前は散らかってたってことかな?』
う…どうやら墓穴ほったようだ…
だとしたら…
「掃除…?」
『………』
「…インテリア」
『……』
「…髪切った?」
『もう、才能関係ないよね?』
「…申し訳ない」
『あ~ぁ、やっぱり占いなんてそんなもんだよね~』
「答えはなんなんだ?」
『…それはね~』
汀が俺を覗き込むように見てくる
「…それは?」
『化粧』
「…はぁ?」
『【あなたには化粧をする才能があります】だってさ。所詮占いだね~、いつも見てる人がわからないようじゃ意味ないね』
なんて笑いながら言っている
「…悪い」
『いいっていいって。本当はさ、占いのことじゃなくて、占い師について話したかったんだ』
…………
………
……
…
汀宅を出て帰っていた
俺に似てる占い師…
俺を知ってる汀がそう感じたんなら、あながち的外れって訳じゃないだろう
気になるな…
――――――――――――――――――――
それからも汀からは美也子さんについて話を聞いていた
人にそこまで影響を与える人物についていよいよ気になってきていた
いや、見過ごせなくなってきていた
その日、汀から美也子さんが占い師のもとへ行くことを聞き、入れ違いになるよう見計らって占い師のもとへ向かった
「俺もいいですか?」
《どうぞ、お座りください》
占い師の前の椅子へ腰をかけた
《何を占いましょうか?》
「そうだな、先程の彼女について。と、俺の才能について」
《お客さんについてのことはお話しできません》
「そうかたいこと仰らないで、何も彼女の連絡先や住所を教えてもらおうってわけじゃないんだ」
《…いいでしょう。これも何かの縁なのかもしれません。なんでしょうか?》
「…彼女の才能について」
――――――――――――――――――――
やっぱりそういうことになったか…
『もしもし?どうしたの?』
「汀、美也子さんは?」
『え?今日は占い師のとこにいって、バイトもないし帰ってるんじゃないかな?』
「急いで彼女のとこへ向かえ、ヤバイことになるかもしれない」
『え?!どういうこと?!』
「早くいけ!」
《お電話は終わりましたか?》
「あぁ、失礼した」
《それでは、あなたの才能について…》
――――――――――――――――――――
彼から電話をもらったあと、私はすぐに美也子に電話をした
~♪~♪~♪
ただいま電話に…
出ない…
着の身着のまま家を飛び出して美也子の家へ向かった
――――――――――――――――――――
【あの人すごい!どんどん私を変えてくれる…!次はどんな私になれるんだろう】
テニス
絵
料理
裁縫
音楽
………
……
…
【早く試したい!早く試したい!早く試したい!早く試したい!早く試したい!早く試したい!早く試したい!早く試したい!】
【あぁ…ここから飛んだら…また新しい私になれるのね?そうよね?占い師さん?】
ドンドンドンドンピンポンピンポンピンポンピンポンドンドンドンドンドンドンピンポンピンポン
…誰?ドアは空いてるのに…
ガチャ…
私の考えを読んだようにあれだけうるさくしてたのに、やっとドアノブに手をかけたらしい
『美也子?!』
汀が飛び込んでくる
【何?汀?】
『何って?!あんた!』
ベランダの柵に手をかけてた私を何故か後ろへ引き倒した
そして…
バチン!
平手打ちをされた
【痛いじゃない】
『何をしてるの?!何をしようとしたの?!』
【何って、飛ぼうとしてただけよ?占い師さんに言われたの、私にはベランダから飛ぶ才能があるんだって!だから私飛ぶの!汀にも見てほしいの!】
『ばか!それがどういう意味かわかってるの?!』
【飛ぶってことでしょ?】
『死ぬってことよ!』
バチン!
バチン!
バチン!
『それは才能なんかじゃない!死ぬのは才能なんかじゃないの…それは、誰にもいずれ訪れるの…』
なんで汀は泣いているのだろう…頬が痛い…
痛いせいだろうか、今まであった飛びたいって気持ちが飛んでしまっていた
――――――――――――――――――――
「そうか、よかった」
汀から美也子さんが無事で、今汀の家に連れて帰ったと聞いた
俺に似てる…あの占い師には話に力が宿る質か…
それで占い師、自身の才能を活かした良い職業だな
後日談
あれから美也子さんを一人にするのは心配だからってことで、一時的に汀の家にいるそうで最近は落ち着いて来てるらしい
また、テニスや料理は全くできなかったとのこと
あの一件があって以来占い師はあの場所を去りどこにいるかはわからない
『君のこと話したらお礼が言いたいって、今日は美也子を連れてきたの!』
【あの…ありがとうございました…】
「俺は何もしてないさ、汀のおかげさ」
【はい…でも、ありがとうございました】
「…どういたしまして」
それから、少し談笑をして
『そうだ!美也子可愛いでしょう!私が化粧してあげたんだよ!』
…あぁ、なるほど。
汀は(化粧を"自分に"する才能)じゃなくて(化粧を"人に"する才能)があったのか
さすがにこれは汀に言わず、煙草に火をつけた。
作者clolo