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短編2
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七夕

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笹の葉さらさら。

今日は七夕。

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帰宅してみると、遠目から、私の住むマンションの入り口に、誰が立てたか、笹が飾ってあるのが見えた。

色とりどりの色紙で作られた短冊が吊るされ、夕暮れの風に揺れている。

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ちょうど私の前を歩いていた、最近お隣の部屋に引っ越してきたAさん(男性)も、笹に気づいて足を止めている。

顔を近づけて、短冊を読んでいるみたい。

なにか、面白いお願い事でも書いてあるのかな?

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と、突然Aさんが、奇声を上げながら、笹の葉ごと短冊をブチブチとむしり取り始めた。

バラバラと足元に散らばった短冊を、さらに靴で乱暴に踏みつけている。

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その、Aさんの顔。

嗤っている。

嗤っている。

目を剥いて、大口を開けて、よだれを垂らしながら嗤っている。

どうしちゃったんだろう、Aさん。

普段は物静かな好青年なのに。

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通りすがった人々が、Aさんの様子に気付いて、彼からそっと遠退く。

Aさんはそのまま、頭をかきむしりながらエントランスへと走っていってしまった。

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あとには枝だけになった笹と、その下に散らばった笹の葉と短冊だけが残った。

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私の部屋は、彼の部屋の隣だ。

厭だなあ。

隣人が、あんな一面のある人だったなんて。

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厭でも部屋には帰らなくてはいけない。

私はトボトボとマンションの入り口まで歩いた。

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見ると笹にはまだ、一枚だけ短冊が下がっていた。

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『Aさんが振り向いてくれますように C子』

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ふと、足元に散らばる無数の、色とりどりの短冊が目に入る。

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ああ――、

Aさんは啼(な)いてたんだ。

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日常にありそうな恐怖です。文章にひきこまれました。

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