「昨日の夜、東京都に住む丸井礼子さんの遺体が自宅で発見されました。」
殺人事件か。物騒だな。
俺はアイスを食いながら思った。
アナウンサーは言葉を続ける。
「警察によると、体の一部が欠損しており、それが死因と考えられています。また、警察は夫が犯人だとして捜査を進めています。」
そこまで見ると、準備を始めた。
今日は花火大会。
一カ月前から楽しみにしていた。
もちろん、ボッチの俺は一人で行く。
着物を着て、財布を持つと、出発した。
しばらく、バスに揺られ、会場の河川敷に着いた。
会場はもう人でぎっしりだった。
仕方がないので、誰もいないところに行った。
いや、一人いた。
眼鏡をかけた明らかに異様な男だった。
どこが異様かって、箱を抱えてニコニコ笑ってるんだ。
これ以上、動きたくなかったのでそこで見ることにした。
ドーン
最初の一発が打ち上げられた。
まあ、綺麗だったけど、俺はそれどころじゃなかった。
横の男が大声で箱に話掛けてるんだ。
目は完全に狂ってた。
ドーン
二発、三発と打ち上げられていく。
その度に男の動きが激しくなる。
二十発くらい打ち上げた時、男は箱を振り回して笑ってた。
その時見えてしまった。
人の髪のような物が。
「ヒッ!」
俺はおもわず声を出してしまった。
すると男がこっちを向いて言った。
「今、礼子と俺をバカにしたなぁ。俺達はただ花火を見ているだけだ!それを貴様は!礼子の体は私が作り変えただけだ!あの男で汚れた…。バカにするなバカにするなバカにするなバカにするなバカにするなバカにするなバカにするなバカにするなバカにするなバカにするなバカにするなバカにするなバカにするなバカにするなバカにするなバカにするなバカにするなバカにするな!」
男は箱の中から柳刃包丁みたいなのを取り出した。
その時、箱の中身が完全に見えた。
人の生首だった。
目の部分は干からびて茶色くなり、髪はほとんど抜け落ち、口の中は腐って歯がなくなっていた。
このままでは死ぬということが本能的に分かった。
俺はとっさに逃げた。
男は箱を持ったまま追ってくる。
涙を出す余裕もないまま必死に走った。
そんな俺を嘲笑うように花火が打ちあがる。
花火が打ちあがるごとに男の顔が近くなる。
逃げなきゃ…逃げなきゃ…
ガコッ
石に躓いて、転んでしまった。
男が俺に近づき、包丁を振り下ろす。
包丁は俺の足に当たった。
「ギャアアア!!助けてくれ〜〜!!」
俺は何度も叫んだ。
その声を聞きつけた人達が走って来た。
しかし、俺の様子を見た時、逃げて行ってしまった。
死んだ…
俺はそう思った。
ピーポーピーポー…
この音は…パトカーだ。
男はサッと俺から離れた。
警察官が数人降りて、男を包囲する。
「もう、終わりか…。幸せになりたかったな…。礼子待っててくれ…」
男は花火を見ながらそう言った。
その姿はどこか寂しそうだった。
「丸井和樹さんですね。御同行お願いします。」
警官が手錠を取り出した。
男は途端に厳しい目になり、包丁を自分に向けた。
バーン
花火のフィナーレだ。
「綺麗だな」
男はそう呟き、包丁を喉に刺した。
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それから先はよく覚えてない。
警察の話だと俺は病院で治療を受けた後、家に送られたらしい。
そして男は…
「先日の丸井礼子さん殺人事件の容疑者と思われる丸井和樹が死亡しました。丸井和樹は丸井礼子さんの夫だと見られており、動機は礼子さんの不倫によるものだと考えられています。」
あの男は幸せになりたかっただけなのかもしれない。
作者山サン
すこーしだけ長くなってしまった。