目の前にある彼女の顔を見つめる。
それなりに整った顔をしている。
美人と言うよりは可愛いと形容した方がいいだろうか。
これから言う事と起こる事に不安と緊張を抱きながら口を開く。
「俺は・・・お前の事が---」
窓の外に目を向けて見れば桜の花びらがひらひらと、舞い散っていた。
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冬が過ぎ、肌を撫でる風が暖かくなってきた。
今年も桜が美しく花を咲かせている。
「てんちょー!これ!ほら!これ!」
人が開店作業に勤しんでいる中、騒がしく裏口から突入してきたこの女はは倉科。
1年程前からウチで雇っているバイトだ。
春の陽気で頭がやられてしまったわけではない、年中こんな調子である。
それに毎度付き合ってやっている自分も大概なのだが。
彼女が掲げている物体を見る。
御守りのようだ『恋愛成就』と刺繍がしてある。
作りが粗いのは手作りなのだろうか。
「お前・・・好きなやつなんているのか?」
大変失礼ではあるが驚き半分で問うてみるが。
「え?いませんよ?」
等とまたちんぷんかんぷんな返答が返ってきた。
では何故そんな物を所持しているのか。
「サークルの先輩から貰ったんですけど!
昔叶わぬ恋をしていた少女が恋愛成就を祈った御守りみたいで!
1週間肌身離さず持っていると恋が叶うアイテムらしいです!」
らしい、ね。
なんともまぁけったいな代物である。
「大体好きな相手もいないのに恋が叶うもクソもないだろう。」
そもそもの前提から破綻していた。
「あ、そうですね・・・店長あげます!」
「いるか阿呆」
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そんな下らないやりとりをした6日後の事だ。
開店作業中に倉科が店にやってきたのだが。
いつもの様な元気さは無く、焦燥すら感じられる。
「御守りなんですけど・・・」
先日の御守りを取り出しながらポツポツと話始める。
あれ以来誰も居ない家で足音を聞いたり、変な気配を感じるようになったようだ。
日に日に怪奇現象は強くなっていったと言う。
「それで、御守りが原因だと思って・・・中を・・・」
「中身見たのか?」
震えながら頷く。
7日経ったらやばいと思って俺の所に持って来たのだろうか。
ビビリの癖に好奇心だけはあるからこうなるのだ。
溜め息を吐きながら御守りの口を開けてみた。
中からは1枚の紙、内府か?否裏向きに折られた写真だ。
写真を開いて見れば、写っていたのは1組のカップルだろうか。
どこかの学校をバックに制服姿の男女が立っているのだが、これが中々に酷い物である。
男子生徒の方には『好き』だとかそんな文字が書いてあるのだが。
女生徒の方に至ってはカッターナイフか何かで切り裂かれたのだろう、ズタズタになっている。
「ひでぇもんだな」
好意を寄せてる男子には既に恋人がいた。
破局を願って、その後自分に気が向いてくれると信じて所持していたのだろうか。
それとも、どちらかにこの御守りを渡したのだろうか。
俺には知ったことじゃないし興味もないのだが。
目の前のコイツが巻き込まれてしまったのがまた面倒な事だ。
写真から倉科の方に眼を戻すと、彼女は俺を、否俺の後ろを見ていた。
「そこに・・・セーラー服姿の女の子が・・・」
倉科が擦れた声で呟く。
倉科に釣られて俺は振り返った。
そして溜め息や舌打ちの混ざった様な息を吐き倉科に向き直る。
「俺には何も視えない。
いいか、俺には、何も、視えない。」
一言一言に力を込めて言う。
「お前の幻覚だ。
普段から色んなもんが視えてしまうお前だからこそ、お前の恐怖心や妄想で在りもしないものが創られてしまってるだけだ。」
心霊スポットで良く、白い服の髪の長い女を視た等と聞くだろう。
だが、普段から視える倉科や俺はアホかと思う。
そんなものはソコに存在しないのだから。
結局人の恐怖心や想像が典型的な幽霊像を創り出してしまっているのだ。
霊のミームとでも言えばいいのだろうか。
そしてそんな倉科だからこそ、強く思えば思う程存在しないものをハッキリと創り出してしまっているのではないのか?
「一応コレは俺が処分しておいてやる。
だからもう大丈夫だ、何も視えないだろ?」
次第に倉科の震えが収まってくる。
「もう!てんちょー!難しい事言い過ぎです!」
「お前・・・随分調子良いな・・・」
この女立ち直った途端これである。
「今日の所は帰ってろ、俺はコレを持っていかなきゃならんからな。」
「わかりましたー!お願いします!あーあー私の恋愛は成就しなかったなぁ・・・」
最後まで調子の良い事である全く。
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「はぁ・・・」
倉科の帰った店内で1つ溜め息を吐く。
アイツが相変わらず単純で良かった。
思い込みで視る事が出来るのなら、思い込みで視れなくする事も出来るようだ。
俺は振り返り店の中心に歩を進める。否、店の中に居るセーラー服姿の女に向かって。
御守りに入っていた写真に写っている女の子と同じ制服である。
きっとこの子が写真をズタズタにした本人なのだろう。
彼女にどれ程未練があるのかなんて俺には解らないし興味もない。
別にこんな事をする必用もないのだろう。
御守りを然るべき所に持って行けば全てが終わるのかもしれない。
それでも何故か俺は彼女の前に立って居た。
目の前にある彼女の顔を見つめる。
それなりに整った顔をしている。
美人と言うよりは可愛いと形容した方がいいだろうか。
これから言う事と起こる事に不安と緊張を抱きながら口を開く。
「俺は・・・お前の事が---」
窓の外に目を向けて見れば桜の花びらがひらひらと、舞い散っていた。
視線を正面に戻すと、彼女はもうそこには居なかった。
「はぁ・・・」
何故こんな事を言ってしまったのだろうか。
人生初の告白がまさか幽霊相手になろうとは。
本日何度目になるのかもわからない溜め息を吐きながら、俺はコレを処分する為に出かける準備をするのだった。
作者フレール
皆々様6ヶ月振りくらいです。
安心してください、生きています。
激戦並の多忙を乗り越えたので復活します。
パパっと11話です!
尚、タイトルはほとんど意味をなしていません。
・・・怖い話が書きたい!チビるくらいに怖い話を書きたいです!
もっともっと頭捻ります。