《ねぇねぇ!やっぱりあのアパートだよ!ウスイさんいるの♪》
《ウスイさんて?》
《それは見るまでのお楽しみ♪行こ行こ!》
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マタ…キタ
マタジャマスルノカ
バカニスルノカ
ダッタラ… ツレテッテヤルヨ
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今から5年前の秋、私は猛勉強の末に念願の探偵事務所を開いた。
仕事内容は浮気調査やストーカー被害の対応・対処、盗聴等の対処など。
当然ながら社員はいないが一人ででもやっていくつもりだし、また中国拳法も習っていたので女ながら腕っぷしにも自信があり、何より人の為に働けることに幸せを感じた。
仕事は順調そのものだったが、殆どが浮気調査。
証拠現場を押さえ、当人と話し合い、別れさせた後に依頼者と復縁、または慰謝料請求、あるいは離婚。
こういった形で解決に導く。
ストーカーや盗聴などは犯罪域なので最初から警察に任せるケースが多く、直接私に依頼があることはなかったのだが、それでも充実した日々を送れていた。
ある日仕事を始めて2年が経とうとした頃、一組の夫婦がやってきた。
共に20代半ばくらいか、新婚ホヤホヤな感じだったが二人の表情がやけに強張っていた。
夫婦で来たということは浮気ではない。
となるとストーカー、あるいは別の何か。
私は逸る気持ちを抑え、冷静に対応した。
私『探偵事務所の伊吹です。今日はどうされましたか?』
『南といいます。実は一週間くらい前から誰かがずっと覗いてて…
その… 』
私『ストーカー被害による相談でよろしいですか?』
私は初めての依頼にいつもよりやる気に満ちていたのだが、夫婦の返答に耳を疑った。
『それが家の中にいるんです…』
私『え!?』
『家の中から覗いてるんです… 』
私『それは不法侵入になりますので警察にご相談しましょう。私もご一緒します。』
『いや、警察に行っても無意味なんです!』
私『何故です?詳しく話して下さい!』
『何ていうか… 隙間から覗いてるんです。
人が入れないような隙間から…』
私『つまり人間ではない何か… という事ですか?』
『はい…。お寺とかにも行きましたが取り合ってくれなくて。
それで関係ないと思いながらもこちらに伺ったんです。【どんなご相談でもお受けします】と書いていたので。』
私『わかりました!今から南様のお宅に伺っても宜しいですか?』
『はい。お願いします。』
一通り話を終えた私は依頼人の家に向かった。
依頼人の家は3階建てのマンションの一階らしく、私の事務所から比較的近くにあり歩いて10分程で着いた。
『狭いですがどうぞ。』
私『お邪魔します。』
家の中に入りまず辺りを見回すが特におかしな所もなく、一般的な部屋といった感じだ。
私『それで、覗かれてる場所はどの辺ですか?』
『ここです。』
依頼人が案内した場所は四角になってあるとこにきっちり納まってる大型の冷蔵庫だった。
隙間は6~7mmくらいしかなく、とてもじゃないが人は入れない。
私『ここ…ですか?』
『信じてもらえないかも知れませんが本当なんです。』
私『そうですか。それでその人?は覗いてるだけですか?』
『覗いてるだけなんですけど、何か少しずつ近付いているような気もするんです。
最初に気付いた時は下駄箱の隙間でした。』
私は内心ゾッとしながらも埒があかない為、こう決断した。
私『わかりました。では今日1日この部屋をお借りして宜しいですか?
どちらにせよ正体がわからないと何とも対処できないので。』
『それは構いませんが、私達はどうすれば?』
私『私が負担しますので今日はホテルに泊まってください。
後日ご連絡します。』
私達は一旦事務所に戻り、私は依頼人にホテル代を渡し、依頼人から部屋の鍵を受け取り食器、布団など、生活上必要なものは自由に使って良いと許可をもらった。
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午後4時、用意を済ませて依頼人の部屋に入った私は仕事に使う小型カメラを玄関、玄関先の通路、ダイニング(冷蔵庫側に)、
寝室の4ヶ所に設置した。
暗くなると自動で赤外線モードに切り替わる仕組みのカメラなので、怪しいもの、動くものは確実に撮れる。
元々オカルトに興味もあったのであわよくば良い画が撮れるかも!と軽い気持ちでいた。
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午後6時、辺りも暗くなり始める中、私は夕食の準備を始めた。
まだ室内に異常はない。
もしかしたらあの夫婦の単なる思い過ごしかも。。。
そんな考えを持ちながら作り終えた夕飯を食べて、お風呂に入った。
やはりお風呂中も誰かが見てる… なんてことはなく30分くらいでお風呂から上がり、布団を敷いてくつろいでる時、私の電話が鳴った。
私『もしもし?あ、南さんですか?どうされました?』
『伊吹さん、今日はありがとうございます。大丈夫ですか?何も起きてませんか?』
私『問題ないですよ。南さんのお宅は街中にあるので、ライトの関係で人のように見えたのかも知れませんね。
とにかく今日1日室内を記録してますし、何かあれば対処しますので、明日の朝私からご連絡します。今日は安心してお休みください。』
『そうですか。。わかりました。
ありがとうございます。お休みなさい。』
電話を終えた私は急に眠気が襲ってきた為、早い眠りについた。
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……どのくらい寝てただろう。
あまりの寝苦しさに目が覚めた。
それにすごい汗をかいてる。
季節的に肌寒いのに、まるで夏の炎天下の中で寝てたみたいな汗だ。
重い体を起こして、お茶を飲もうと冷蔵庫を開けた時……
見ていた。…目だ!
上手く説明できないが冷蔵庫を開ける際、造りにもよるが扉の外側ではなく内側にうっすら奥、つまり隙間が見える。
そのほんの隙間から覗いていた。
私『うゎ‼』
思わず情けない声を出してしまったが直ぐに冷静さを取り戻して、閉めた冷蔵庫と壁の隙間を覗き込んだ。
… 何もいない。。
気のせい?いや、確かに目があった。
血走ってるのか、恨みに満ちてるのか、わからないがそれくらいリアルな目だった。
……そうだ!カメラ!
カメラが記録してるはず。
私は一台ずつカメラを確認した。
まずは玄関… 異常なし。
玄関先通路… 異常なし。
ダイニング… 誰かいる。
時間を見ると、丁度私がお風呂に入ってる時だ。
部屋の明かりは点けていたので赤外線モードにはなっていない。
鮮明に映し出されたその物体はちゃんとした人の形だが、全身黒タイツを被ったかのように真っ黒だ。
しかもユラユラ揺れている。
そしてそのまま冷蔵庫と壁の隙間に入っていった。
私『あの夫婦の言ってた事、本当だったんだ… でも何で冷蔵庫の奥の隙間なんかに??
原因も知りたいし、解決もしたいし…
よし!明日あの夫婦に結果を知らせて、霊媒師とかそっち専門に任せよう。』
自問自答で納得し、まずは原因を知るため四角に収納されてる冷蔵庫を引っ張り出してみることにした。
普通の女性では無理だが、私は格闘技をしていたし力も多少あるので、さほど苦労せずに冷蔵庫を引っ張り出せた。
冷蔵庫をどけた場所は単なる壁なのだが、
一部、違和感のある部分があった。
そこには縦1.5m、横2cmの空洞?のような跡があり、明らかにそこだけ壁の色が違った。
【部屋の壁は白で、空洞部分は白に近い肌色でした。】
私は後の責任は取るつもりで、その空洞部分を強めに叩くとあっさり穴が空いた。
つまりそこだけ壁シールみたいなもので覆っていただけだった。
私『この空洞… それに色違いの壁に、あの夫婦は気付かなかったのかな?』
何か不思議なことだらけで頭が混乱しながらも、空洞内を懐中電灯で照らした時。
【…ミツケタナ】
言葉と同時にあの目がまた現れた。
僅か2cmの隙間なのに、目、鼻、口、耳、髪の毛、そう… 顔はもちろんのこと体、手足もある。
人なんだけど人じゃない。
そいつは私の顔に細く薄い手を伸ばしてきた。
私『やめて!』
とっさの抵抗も虚しく、そいつの両手が私の顔を掴む。
私『痛い… 』
【ツレテッテヤルヨ】
その言葉を最後に私は意識が消えた……
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《次のニュースです。
都内に住む伊吹佳菜さん27歳が一昨日から行方がわからなくなっており、警察が捜査を進めています。
警察の情報によりますと、伊吹さんは探偵事務所所長で、先日依頼を受けたお宅に泊まった後に行方がわからなくなったとの事です。
依頼した南ご夫妻の話では、伊吹さんから翌朝連絡が入ると聞いていたが昼を過ぎても連絡がなく、また伊吹さんに連絡するも繋がらないため、心配でお宅に戻ったところ既に姿はなかったそうです。
室内には伊吹さんの物と思われるビデオカメラが所々に設置されており、冷蔵庫が引っ張り出されていたとの事です。
それ以外に荒らされた形跡は特に無くまた、伊吹さんのと思われる私物が残ったままになっていることから、誘拐も視野に入れて捜査を進めているとの事です。》
警察『確認ですが、その探偵に依頼した内容は覗きがあったという事ですね?』
南.旦『はい。』
警察『しかし本来ならまず警察に相談に来るべきでは?
何故最初から探偵に?』
南.旦『どうせ信じないからですよ。』
警察『?信じないとは?』
南.旦『人じゃないんですよ!数mmの隙間から覗いてるんです!
だから伊吹さんに相談して…
あの人は親身になってくれて、私達の為に原因を突き止めようとして…』
警察『落ち着いてください。
事情はわかりました。とにかくビデオカメラを押収し、署で確認します。
後程ご連絡しますので。』
一通り事情聴取も終わり、南夫婦は伊吹さんの私物を一纏めにしてただただ無事を願っていた。
同時に罪悪感にも苛まれていた。
……自分達があの人を巻き込んだ…と。……
数日後、警察がテープを返しに来た。
南.旦『何かわかりましたか!?』
警察『南さんの言ったことは本当でした。
あの映像を見た数名の署員が気分不良を訴え、嘔吐する者、意識を失う者もいました。
警察署としては捜査は不可能と判断し、打ち切らせてもらいます。
ただ、私の横の繋がりでその専門の方がいます。
もし協力してもらえそうなら私もご一緒しますし、一度連絡してみてください。
私よりあなた方の方が事の内容を詳しく話せるでしょうし。
これ、連絡先なんで渡しておきますね。
電話の際は私(香山)の名前を出していただいて構わないので。
私の連絡先も渡しておきます。』
南.旦『わかりました。すぐ連絡してみます。』
南夫婦は一日も早く伊吹さんを救いたい一心で、警察から渡された番号に電話をかけた。
『♪~♪…… はい。天之真神社です。』
南.旦『あ、すみません。香山さんからお聞きして電話したのですが…
助けてほしいんです!』
『ほう。香山さんの紹介ですか。
それで、お困り事とは?』
南.旦那は一連の流れを全て話した。
『なるほど。
厄介なものに関わってしまいましたね。
とにかくそちらへ伺いますので、ご住所教えてもらえますか?』
南.旦『はい。東京都葛飾区○○102号です。』
『わかりました。1時間程で着くと思いますので。』
電話を切り、今度は香山に電話をかけた。
南.旦『あ!香山さんですか?
先程はありがとうございました。
事情を話したら、1時間くらいでこっちに来てくれるそうです。』
香山『それは良かったです。
じゃあ私もそれくらいの時間にそちらに伺います。失礼します。』
南.嫁『大丈夫だよね??伊吹さん助かるよね??』
南.旦『きっと助けてくれるよ!
神社の人と香山さんが助けてくれる!
伊吹さんが帰ってきたら、許されなくても謝罪しよう!』
南.嫁『ええ。』
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1時間後、玄関のチャイムが鳴った。
『天之真神社の者ですが。』
南.旦『この度はありがとうございます。
宜しくお願いします。』
『私、義想(ぎしょう)といいます。さっそくですが、電話で話した映像の方を見せてもらえますか?』
南.旦『はい。こちらです。』
ビデオを再生し、義想に見せているところに香山も到着し、家に入ってきた。
香山『ああ、義想さんお着きでしたか。』
義想は香山に軽く会釈し、映像を見つめていた。
30分程で映像を見終わり、今度は冷蔵庫が納められていた壁、壁の空洞をしきりに触っている。
『なるほど…。』
義想はそれ以上何も言わず、壁に向かって手を合わせお経を唱え始めた。
小声で聞き取りにくかったが、最後の
《帰ってきなさい》
という言葉だけは聞き取れた。
『結論を話します。
まず、伊吹さんという方は生きています。
が、憑依されてる状態です。
その根元ですが、正体は因縁霊です。
ただあなた方、また伊吹さんに憑依した霊は少し違います。
本来因縁霊というのは、恨みある家庭、その一族全てに災いを起こし続けるものと言われています。
ですが、今回のはこの部屋そのものに恨みを持っていますね。
なので入るものに不安や恐怖を与える。
それから映像を見ましたが、伊吹さんは原因を知ろうとしてか、探りを入れすぎた為に怒らせたものと思われます。
その結果、憑依したと。』
南.旦『じゃあ伊吹さんはもう助からないんですか!?
私達はこれからどうすれば??』
『まず、あなた方は早急に引っ越しをすること。
私は月に一回ここに訪れ、霊を説得し続けます。
今後も犠牲者が出ないとも限りませんし、また伊吹さんの肉体が生きてるとわかった以上急ぐつもりです。』
香山『じゃあ私はここの管理人に説明してきます。』
南.旦『わかりました。
義想様、宜しくお願いします。』
こうして一連の騒動は一旦幕を閉じた
…
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《ねぇねぇ!やっぱりあのアパートだよ!ウスイさんいるの♪》
《ウスイさんて?》
《隙間よ隙間!人が入れないような所に人がいるの!
5mmくらいのが!だから私がウスイさんて名付けた♪》
《止めとこうよ。怖いしそれにそういうのバカにしたら酷い目に遭うよ!》
《大丈夫だって!ほら行くよ♪》
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マタ…キタ
マタジャマスルノカ
バカニスルノカ
ダッタラ… ツレテッテヤルヨ
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《番組の途中ですがここで臨時ニュースをお伝えします。
私立○○高校の女学生、葉山知抄さん、柳川七海さんが3日前の11月29日を最後に行方がわからなくなっており、警察では事故と事件の両面で捜査を進めています……》
作者ともすけ
今作品は怖くないと思います。
似たような話で申し訳ありません。
1つの物語として作り、当人、依頼人、第三者と色々取り込んでみました。
モヤモヤが残る話かも知れませんm(__)m
読んで下さる方にお礼申し上げます。