私の住んでいた住宅街には富士の森という大きめの公園があった。なんでも、昔は富士山を一望できたということから地元の人にはそのように呼ばれていたらしい。
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公園内には富士山とよばれる小山があり、その頂上は一応ではあるが展望台となっている。展望台から見える景色はというと、本物の富士山の代わりに乱立する住宅群が見えるだけであった。
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そして、この場所は昔から自殺の名所としても有名であった。
これは私が明け方に公園をランニングしていた時のことである。
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私はいつものように決まったルートで公園内を走っていた。やっと太陽が昇り始めて空が朝焼けになっていた頃であったと思う。
公園内を回り、最後は展望台で深呼吸するのが大好きだった私であるが、その日はなぜかいつものルートを変えて昼間でも人があまり通らない道を走った。
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その道の先には、今は使われていないが音楽堂という野外で音楽をするステージがあった。
屋根は無いが、原爆ドームの頭の部分の骨組みのようなものはついており、昔はそこにスピーカを設置したり、装飾を施していたのだと思う。
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私がちょうど音楽堂の前に差し掛かると、、、
shake
目の前に「ぶらぁん」とした人間が宙に浮いているのが見えた。
「首吊りだ・・・」私はすぐにそう思った。走るのをやめ、恐る恐るその物体に近づいてみた。
やはり間違いなかった。首をつっていたのは女で、まだ20代といったところだと思う、履いていたであろうハイヒールが真下に乱雑に放られていた。
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まだ首をつってから間もないのか、身体がたまに「ビクンッ!」と動いていた。私は怖くなりその場から離れた。そして家に戻りすぐに警察に通報をした。
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警察からはそのあと事情聴取されたが、どうも意見が食い違う。
死んでいたのは男で、死後かなりの時間がたっていたとのこと、また死体は私がみた首吊り場所の正反対の鉄骨にぶら下がっていたという。
しかし、事件性がないので、私の見間違いということで特に詮索されることはなかった。
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今思い出しても嫌な思い出だが、その後音楽堂の骨組み屋根は取り外されることになった。
理由は私が自殺者を目撃したわずか2日後に女が当初目撃した場所と同じ場所で首をつって死んだからである。
異界-完-
作者ジンジン
女は当初生きていたのか、それとも私が未来を予感したのか・・・