中編3
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願い晴らし

私の職場には義彦さんという右足が義足の人が働いていていました。

歩くと義足のギミックの調子が悪いのか、「きぃー、きぃー」と音を立てます。

仕事内容は荷揚げという仕事で、倉庫で重いものをベルトコンベアに載せたり、積んだりということをします。

なので義彦さんが義足でその作業をするにはかなりの負荷がかかるので、当然仕事はできていませんでした。

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そもそも義彦さんが今の会社に就職したときは五体満足でした。いや、そうでなければ就職できない会社なのです。

つまり、作業中の事故で片足を失うことになったのでした。

会社も働けなくなった人は辞めてもらうというスタンスでしたが、なぜか義彦さんは最近まで働いていました。

もうかれこれ30年にはなろうかというところです。

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さて、私はこの会社に入社してまだ1年目ですが、義彦さんに一度飲みに連れていかれました。その時の話を今回はしたいと思います。

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その日、私は彼のいきつきの居酒屋に入りました。

正直私は義彦さんに対して不満ばかりでした。皆きついと思いながらも仕事をしているのに、一人だけただ見ているだけ、しかも勝手に休憩に入る・・・

せっかくの機会だから先輩でも注意しようと思っていました。義足だからって流石に何もしなすぎだと。

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義彦さんはそんな私の雰囲気を察してなのか、ある話をし始めました。

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「これは俺が入社して3年目の時だった、嫌な先輩がいてな。俺のことを親の仇かのように、扱ってくるんだ。

何かするたびに、おまえはクズだの、バカだの。ときには殴られたこともあったな(笑)」

義彦さんは昔を思い出し、遠い目で笑いながら話していました。

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「あれは忘れもしない、夏の日だった。いつものように先輩に嫌がらせをされていた時、先輩が俺のことを思いっきり蹴ったんだよ、俺はバランスを崩して前に転倒した。

その時運が悪くフォークリフトに足を轢かれちまったのさ・・・それでコレよ・・・

俺はもうイカれたてんだなぁ。。。自分の足がなくなったことで先輩が慌てふためくと思ったし、いじめもなくなると思った。」

義彦さんの表情は少し暗く、険しいものになっていました。

義彦さんは続けました、

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「でも逆だった、会社が俺を辞めさせようとしたし、先輩も前にもまして嫌がらせをしてくるようになった。そもそもなぜ先輩にお咎めがないのか不思議で仕方無かったけどな。

それからというもの、俺は先輩を頭の中で殺し続けた。毎回フォークリフトで頭を潰されるとこを想像してな(笑)

そしたらな・・・本当に死んじまったんだ、あのクズ(笑)」

私はもう冗談なのか本当なのか分からなくなっていました。

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義彦さんの顔には悪意に満ちたものしか感じられなかったのです。

そしてその表情は私に向けられているものであると感じました。義彦さんはさらに続けました、

「あーあれにはすっきりしたよ。ほかの作業員たちも見てたんだけどな、フォークリフトが勝手に動き出したらしい。

そんで俺が思った通りの死に方をしやがったんだ(笑)

その先輩のさいごの言葉はななぜか、よしひこぉぉだったらしい。先輩が死ぬ直前に近くにいた従業員がきいてた。」

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「俺の生霊でもみたのかね(笑)

だから会社もなにもいってこねぇ、、、おまえも余計なことしねー方がいいぞ」

義彦さんは私を睨みつけていいました。

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後日私はそのことをさっそく同期に話しました。

すると、あれよあれよと噂は広まり、義彦さんは会社にとって今まで以上のお荷物になってしまいました。

そして先週ですが、義彦さんは自ら会社を去りました。

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「おまえも殺す。」

という私への言葉を残して、、、

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今となっては彼の話が本当なのか、嘘なのかわかりませんが、従業員が過去に死んだのは間違いないそうです。

いや、それよりも最後の言葉が私は今気になって仕方がないのです。

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なぜなら、義彦さんが辞めてからというもの、「きぃー、きぃー」というあの音がどこからともなく聴こえるのです・・・

願い晴らし‐完‐

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