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充実した毎日を送っていた日々が一転したのは今から5年前のことだった。
当時私は某印刷会社へ就職したのをきっかけに一人暮らしも始め、生活、仕事、プライベート、全てが充実していた。
もちろん職場の先輩方も優しい人ばかりで、人間関係にも恵まれ幸せの絶頂だった。
特に先輩の美紗さんとは週2のペースで仕事終わりにご飯に行き、仕事が休みの時はお互いの家に泊まったり。
美紗さんは私を妹のように可愛がってくれるし、私も美紗さんのことを姉のように慕っていた。
そんな幸せな日々が続き、またいつものように仕事終わりに美紗さんと食事に行くことに。
美紗『真弓ももう3年になるんだねぇ!』
真弓『早いですよね!
全然実感湧かないです(笑)』
美紗『あはは(笑)
でも、それだけ真面目ってことだよ!』
真弓『ありがとうございます!
美紗さんや周りの先輩方のお陰ですよ!』
美紗『デヘヘ(笑)
照れるし! さっ、ご飯食べよ!』
今日の夕飯はパスタだ。
いつも美紗さんが事前にお店を押さえてくれる。
何より美紗さんが連れてってくれるお店はどこも美味しい。
何だかんだ話に没頭し、ふと時計を見ると23時。
お店に入ったのが18時頃だったから5時間も滞在してしまった。
真弓『もうこんな時間か…
美紗さん、遅くまですいません。』
美紗『いいよいいよ!
じゃ、そろそろ解散しよっか!』
割り勘で会計を済まし、店を出た。
美紗『じゃ、また明日会社でね!
おやすみ!』
真弓『はい!おやすみなさい!』
美紗さんに手を振って自分のマンションへ向かった。
私のマンションは街灯も明るく、近くにコンビニもあるので怖い感じもなく、多少遅い時間でも安心して帰れる。
欠伸をしながら部屋の前に着くとドアの前に花束が。。
真弓『何これ』
誰かが間違えて置いたのだろうか、どけようと花束を持つと、下に紙切れのようなものがあった。
そこには……
《織本真弓さんへ
急にこのような真似をして驚かれたと思います。すみません。
あなたに一目惚れしました。
良かったら受け取ってください。》
真弓『え??
何で私の名前知ってるの??それに家も…
相手の名前もないし意味わからない。
!?まさかストーカー!?』
慌てた私はすぐに警察に電話をした。
『はい、○○署生活安全課です。』
真弓『あの、実は今さっき家に帰ったらドアの前に花束と手紙が置いてあって…
私の家も名前も知られてて… ストーカーだと思うんです。』
『わかりました。とにかくそちらに警察を行かせるのでお名前と住所をお願いします。』
真弓『織本真弓です。住所は台東区○○○○
201です。』
電話を終えて10分もしないうちに一台のパトカーが来た。
私は軽く会釈すると、女の警察官と男の警察官が降りてきた。
『織本さんですか?』
真弓『はい。』
『物を見せてもらえますか?』
女の警察官に促され、花束と手紙を渡した。
『これは一旦お預かりします。
今日は何処にも出歩かず、施錠をしっかりしておやすみください。
何か分かれば連絡しますし、周辺のパトロールも強化します。』
そう言って女の警察官が部屋まで付き添って中を隈無く確認して帰っていった。
警察が動いてくれたことに安心したのか、それまでの不安と疲労でお風呂にも入らず眠りに落ちた。
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翌朝、差し込む太陽の光で目を覚ます。
時間は7時。
良く眠れたのか、気分が良い。
昨日のことも深く考えずシャワーを浴びて仕事の準備をする。
8時。
準備を終え、出る前に玄関ポストを確認すると一枚の封筒が入っていた。
《台東区○○○○201号 織本真弓様》
差出人は不明。
嫌な予感がしながらも中身を確認した。
《真弓さんへ
先日は大変失礼しました。
急にあのような事をしたら驚かれますよね。警察を呼ぶのも無理ないです。
ただ、信じてください。
僕はあなたに危害を加えるつもりは全くありません。》
内容を見た私は驚愕した。
警察を呼んだことを知っている。
つまりあの時、どこかから私を見ていた。
この手紙も警察が帰ってからポストに放り込んだのだろう。
私はすぐに警察に電話をした。
真弓『昨日電話した織本ですが、今朝また手紙が入ってました。
犯人はまだ捕まらないんですか!?』
『担当に代わるのでお待ちください』
そう言って昨日の女の警察官が電話に出た。
『織本さんですか?
まだ送り主の特定は出来ません。
仮に特定出来ても直接の危害を加えてるわけではないので、厳重注意のみで刑事事件にはならないんです』
真弓『そんなのわからないじゃないですか!
もし何かあったらどうするんですか!?』
『落ち着いてください。
とにかく送り主の特定は急ぎ、厳重注意をしますので。』
話にならないと思い一方的に電話を切った。
所詮警察なんてそんなもんだ。
事が起こってからしか動かないくせに人を疑ったり怒鳴ったりだけは一人前だ。
とにかく私は辺りを警戒しながら会社に着き、周りに心配かけないよういつも通り仕事をこなした。
美紗『おはよ!』
真弓『あっ!おはようございます!』
美紗『今日どしたの??』
どした??… まさか不安が顔に出てる!?
美紗『寝癖ひどいよ(笑)』
真弓『マジですか!?
ちゃんと整えたつもりだったのに(笑)』
…良かった。。
そっちの心配か……
美紗さんに相談したいのは山々だけど、もし美紗さんに被害が及ぶと思うと相談は出来なかった。
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夕方5時。
今日はご飯には行かず、駅まで美紗さんと一緒に帰る。
私の家は会社まで徒歩10ちょいで近いが、美紗さんは電車通勤だ。
美紗『またね!明日出勤したら休みだから頑張ろね!』
真弓『はい!また明日!
お疲れ様でした!』
美紗さんを見送り、晩御飯のおかずを買うのに近くのスーパーに寄った。
今日は麻婆豆腐にしよう。
思いつきで材料をかごに入れて、混んでるレジ前に並んでると40代くらいのヤクザ風の男が後ろから割り込むように、私に体当たりして順番を抜かした。
真弓『あの… 順番は守ってもらわないと…』
『あ?うるせえよ』
私は怖くてそれ以上何も言えずに俯いていると……
『あんた、順番は守れよ。』
隣から聞こえた声に顔を上げた。
年齢は30代前半くらいか、背が高くスーツを着た一般のサラリーマン風の人だ。
『何だてめぇ、関係ねえだろ』
『いいから下がれ。皆ちゃんと並んでんだよ』
真弓『あの、もういいですから』
私の言葉を聞かず、サラリーマンは強引にヤクザを引っ張り後ろに戻した。
『てめぇら、覚えとけよ。
ツラ覚えたからな』
周りの目もあったのだろう、ヤクザはスタスタとその場から消えた。
真弓『あの、ありがとうございました。』
私が頭を下げると、サラリーマンは軽く会釈して店から出ていった。
それから無事に買い物を済まし帰路につく途中、横断歩道を渡ろうとした時、ものすごい光が私を照らした。
【ドンッッ‼‼】
鈍い音だけを聞き、周りが真っ暗になった。
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美紗『……ゆみ』
美紗『…真弓‼真弓‼』
真弓『……… 美紗さん?……』
美紗『真弓!?… 良かった…もう大丈夫だよ!』
真弓『ここは…?』
美紗『病院だよ。通り掛かった人が救急車呼んでくれたんだよ。』
真弓『… そうだったんですか…
でも私… 確か車に…』
その言葉に美紗さんからの返答はなかった。
『失礼します。
ああ、織本さん気が付かれたんですね。』
真弓『あ、はい。』
『あなたは軽い打撲程度なので、近いうち退院できますからね。
それと警察の方が事情を話したいそうなんですけど、入ってもらって良いですか?』
真弓『警察?
はい、いいですけど。』
事故だから警察が来るのは当たり前か。
それより《あなたは軽症》が疑問だった。
他に誰かが巻き込まれたのか。。
色んな事を考えてるそこに警察が入ってきた。
『織本さん、おはようございます。
この度はお気の毒でした。
でも、軽症で本当に良かったです。』
そう言ってきたのはあの時の女の警察官だ。
『織本さんと2人で話したいことがあるので、すいませんが席を外してもらっていいですか?』
美紗『わかりました』
美紗さんが病室から出ると、女警察官の表情が堅くなった。
『織本さん、今回の事故であることがわかりました。』
真弓『あること??』
『あなたにストーカー行為を働いていた人物が、この事故に関わっています。
その人物がここの集中治療室にいます。』
真弓『え?意味がわからない…
どういう事ですか?』
『あなたから電話があってから色々調べた後に人物の特定が出来ました。
住まいもわかったので、後日厳重注意をしに行く途中だったのです。
話を戻しますが、その人物があなたを守って事故に遭われました。』
真弓『そんな… ストーカーが私を…??』
『その人に会われますか?』
警察の問いに戸惑ったが、見ておかなきゃいけない気がする。
話せるならお礼を言いたい。
そしてストーカー行為をやめてもらうようお願いしたい。
私は決断した。
真弓『会います』
『では行きましょうか。』
車椅子に乗り、警察に押され集中治療室に向かう。
緊張と不安で心臓がバクバクする。
警察が医者、看護師と何やら話して私のとこに戻り、集中治療室の中に入る。
『織本さん、あの人です。
見えますか?』
私は立ち上がり窓越しからその人物を覗き、驚愕した。
…
…
…
ッ!あのサラリーマンだ。
あの店でヤクザにいちゃもんつけられた私を助けてくれた…
この人がストーカーだったの?
この人が私を守ってくれたの?
何故かわからないけど涙が止まらない。
『織本さん、この方がいつ目が覚めるかはわかりません。
でも意識が戻ったら私共から事情を聞いた後に注意はします。
被害届、出しますか?』
真弓『出しません。』
私の答えは決まっていた。
その後警察と一緒に病室に戻り、少し話して警察は帰った。
入れ替わりで入ってきた美紗さんにこれまでの事をすべて話した。
事情を聞いた美紗さんは怒ることもなく頭を撫でてくれ、一緒に泣いてくれた。
美紗『その人の意識が戻ったら一緒にお礼を言おう!
きっと助かるよ!』
真弓『…そうですよね!
私、毎日お見舞いに行こうと思います。』
美紗『そうだね!
助けてもらった人からのお見舞いなら早く元気になってくれるよ!』
それから私は入院中、退院してからも欠かさずお見舞いに行った。
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お見舞い行き始めてから2ヶ月が経った頃、いつものように集中治療室に行くと、そこに彼の姿はなかった。
…いない。
まさか……
最悪の予感が頭を過る。
『どうしました?』
声をかけてきたのは看護師だ。
真弓『あの、ここに寝てた人は…?』
『ああ、嘉藤さんですか?
昨日の晩に意識が戻ったので一般病棟に移りましたよ。』
真弓『本当ですか!?』
『お見舞いの方ですね?
部屋まで案内します。』
良かった。助かったんだ。
『ここです。』
看護師が案内したのは個室だった。
私は大きく深呼吸し、ドアをノックした。
『はい』
あの声、あの時の声と同じだ。
真弓『失礼します』
ドアを開けると、あの人がベッドに座っていた。
相手も私を見て一瞬ギョッとした表情を見せたが、すぐに冷静に話してきた。
『退院なされたんですね。
大事に至らなくて本当に良かった。』
真弓『あなただったんですね。
私に花束や手紙を送ってたのは。
警察から聞きました。』
『汚い真似だとはわかっていました。
申し訳ありません。
あなたを見て恋に落ち、率直に言えない勇気のなさからあんな行動をとった自分が悪いのはわかっていますし、退院したら警察に行きます。
そして、今後あなたには近づかないと誓います。
ご迷惑をおかけして本当に申し訳ありません。』
彼は深々と頭を下げた。
真弓『… いいんです。』
『え?』
真弓『警察から全て聞きました。
あなたが身を呈して私を守ってくれたこと、それからあのお店で助けてくれたのもあなただったと。
あなたは私の命の恩人です。
本当に…本当にありがとうございました!』
私は涙ながらに頭を下げた。
彼はとても嬉しそうに微笑んだ。
その日は彼と色々話し、次の日も、またその次の日も、退院するまでお見舞いに行った。
時には美紗さんも連れて。
3人で楽しく話す。
その後警察官が来て、事情聴取、注意等あったが私も同席し、もう大丈夫と話し合いの末に解決。
その時に彼の証言で、私を狙った運転手があの店にいたヤクザだったことがわかった。
当然ながらすぐに捕まり、後の話で無期懲役と聞いた。
そして半年の入院、リハビリを経て彼は退院した。
私は彼の退院祝いにご馳走を用意し、交際を始めた。
彼は涙を浮かべながら喜んでくれた。
交際して3年半、私達結婚します。
本当に幸せです。
彼にありがとう。
作者ともすけ
初めて怖話じゃなく、ほんわか、ハッピーエンドな作品を作りました。
駄文なので読みにくかったらすみません。
沙羅さん、期待に応えられるかわかりませんが頑張って作りました!