「おーい!大丈夫か?」
「・・・」
「これはもうダメかもしれないな・・・」
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・
・・・
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40年ほど昔の話にはなりますが、私は当時、登山部に所属していました。
登山といっても、ザイル(ロープ)を使う岩場や崖を登るもので、
一歩間違えれば即死につながる危険なものでした。
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ある時、私は仲間数人と登山に行きました。
場所は穂高連峰。岩場を進むなら難所の多い山です。
まだ夜も明けないうちに山小屋を出発して、夕方には別の山小屋にたどり着く予定でした。
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歩いていくと朝焼けが真っ赤に燃えるような感じで奇麗だったことを覚えています。
さて、メインの崖にたどり着き、登り始めようというという時でした。
メンバーの一人の男(仮にFとします)が、
まだ誰も登ったことのない崖を登り、
ルートを開拓したいと言い始めました。
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他のメンバーも私も大反対しましたが、結局その男は一人で違うルートを登ることにしました。
「まぁFならベテランだし何とかなるだろう」そんな気持ちが皆の中にあったのだと思います。
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ルートは違えど、頂上は同じなのでそこで待ち合わせということにし、登り始めました。
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私たちが頂上に着くと、Fはすでに登り切ったようで、私たちを待っていました。
しかし、その表情は暗く、何を話しかけても返事をしてくれません・・・
とにかく山小屋に着いたら、詳しく話を聞こうと思い、先を急ぎました。
Fは最後尾をついてきていたはずなのですが・・・
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山小屋にたどり着くとFの姿がありません。
つまりはぐれたのです。
もう時刻は午後3時を回っており、引き返して探すにはギリギリの時間でした。
結局私が少し様子を見てくると言って、元の道を足早に引き返しました。
-骨折り 前編-
作者ジンジン