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授業が終わり放課後のサークルへと向かう。
今日はサークルに新しい人が入ると聞いていたので、どんな人物なのか想像が膨らんだ。
ブーッ ブーッ
携帯のバイブ音が鳴り、サークル仲間からメール が入った。
件名:授業終わったか?
本文
おつかれーい
今日は ○○棟の○階に集合!新人来るから必ず来てな
授業まじ疲れたわ ー
<隆也>
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校舎の平坦な内階段を歩きながら集合場所へと向かう。
授業を終えた何人もの生徒達とすれ違う。
やっと目当ての教室を見つけ入っていくと、既に中にはメンバーが殆ど集まっていた。
隆也と目が合うと見知らぬ生徒を連れてこちらへやってくる。
ニコニコ笑っている隆也と対照的に、表情が硬く視線が下を向いていた。
「こいつが新しく入った佐藤くん で、こいつがハルね。仲良くしてやってー」
「佐藤、よろしく」
俯いていた佐藤は顔を上げ、じーっと此方の顔をみた。浅黒い顔の仏頂面と目が合う。
その目は妙な威圧感を感じた。
「よろしくお願いします、先輩」
ガシッ
唐突に握られた手が力強く、咄嗟に手を引っ込めた。手には痛みの余韻が残っている。
「いってーな、なんだよいきなり」
「あはは、お前の事気に入ったんじゃね?」
この出会いを機に佐藤深く関わることとなる。
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授業が終わり携帯を見ると、メールが2件入っていた。佐藤からだ。
昼飯を一緒に食べいないかという旨の内容だった。
佐藤がサークルに入ってから、授業以外の場面で何かと一緒に行動するようになっていた。
前までは隆也や木村達とつるんでいたが、今は佐藤といる事が多い。
佐藤は自分の学部で友達ができないから、サークルで友達を作ろうと思った と言っていた。
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待ち合わせの校舎前に立って待っていると、後ろから大声で声をかけられた。
「先輩!」
後ろから肩をガシッと掴まれ、体が硬直し背中にゾゾゾーっと寒気がした。
振り向くと、満面の笑みの佐藤が立っていた。いきなり驚かすなと抗議している間も、佐藤はニヤニヤ笑っていた。
気持ち悪いなこいつ....
「俺、人を驚かせるの好きなんですよ。先輩、かなりびっくりしてましたよね?怖かったですか?怖いですか?」
「はじめはびっくりしたけど、別に怖くねーよ」
歩き始め話題を変えても、尚同じ質問をしてきた。此方の顔を伺いながら質問してくるその顔は、とても嬉しそうで、どこか違和感を感じた。
「お前彼女いないの?」
「いません、いらないです。今、楽しいんで。先輩は?」
「俺は最近別れたよ」
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佐藤がサークルに入ってきて一か月が経ち、だんだんと周りに溶け込んでいった。
しかし、みんなの話の輪に入る時 必ずと言って良いほど俺の隣に来る。それから、俺への接し方が馴れ馴れしくなってきた気がした。話しかける時は必ず後ろから驚かせてくるし、話の中で突っ込みを入れてくる時に肩をバシバシと叩いてくる。サークルの仲間達の前では、そういうことはしない。二人きりの時だけ、やるのだ。
なあ佐藤最近、佐藤ハルに馴れ馴れしくし過ぎじゃね?」
ニコニコしながら隆也が言った。
「そんな事ないですよ」
佐藤は真顔で答えた。口をもごもご動かし、何か言いたげだった。両手の拳を握り、自分の太ももの横に押し付けている。
「ハル、こいつとばっかり居ないで俺らとも遊ぼうぜ?そうだ、今日木村ん家で飲もう!」
「お!いいな!久しぶりの木村ん家!」
佐藤から離れ隆也の方へ行くと、肩をガシッと掴まれた。
shake
「痛え!」
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「何やってんの?暴力やめろよ」
佐藤の腕を隆也が掴んだ。暫く二人は睨み合う。
「俺も行きたいです」
睨みながら佐藤は言った。隆也はお前は駄目だと言う。
3人の様子を見ていた木村がやってきた。事の経緯を説明すると、木村も佐藤が家に来ることを良しとしなかった。何度も佐藤は訴えたが、了承を得られることはなかった。
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木村の家にはサークル仲間何人かと、木村の兄貴と友人が集まった。広い部屋なので人数が多く集まっても、窮屈さを感じない。
それぞれ持ってきた酒やつまみを食べながら木村が佐藤の話題を出した。
「佐藤、ハル君に何通もメールしてきたり、電話かけてきたりすんの?」
「ああ、今も ほら見ろよ!もうこんなにメールと着信履歴が!」
携帯の画面には佐藤の文字が何通も並んでいた。これを見た周りは引いている。
「うわ、やべーなこりゃ。ハルに依存してるみたいだな」
「依存?気持ち悪い事言うなよ」
その話を聞いていた木村兄が佐藤に似た人の話を聞いたことがあると言う。
「佐藤ってやつの写真、誰かもってないの?そいつ、俺が聞いた話に出てくる奴と特徴が似てるんだよ」
生憎、佐藤の写真は誰も持っておらず、詳しく特徴を説明することしかできなかった。
「あいつ写真映るの嫌だってんで、写させてくれねーんだよ」
「ふーん.....あいつでなければ、問題ないんだがな....もし佐藤って奴の写真撮れたら送ってくれない?」
「あー別にいいけど、なんで?」
「そいつ、ヤバい奴かも」
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木村兄の提案により次の日佐藤を放課後呼び出すことに。
数分後、いつもの様に後ろから驚かされた。振り向くと、佐藤の満面の笑みの顔がそこにあった。
ガシッ
shake
いきなり肩を掴まれ必死に振りほどこうともがくが、なかなか解けない。
「ハル先輩!俺を除け者にして隆也と何してたんすか!俺だけ仲間はずれにして何してたんすか!先輩!俺の事嫌いになったんすか!どうなんすか!嫌いになったんすか!ハル先輩!酷いですよ俺傷つきますよ!どうしてですか先輩!」
捲し立てるように叫び、ギリギリと肩を掴む力が強くなっていく。
「痛い痛い、痛いよ佐藤!やめろよ、俺達友達だろ?」
云々唸りながら掴む力を緩められた。佐藤は友達 友達と呟きながら自分の両手を見つめた後、目の前で土下座をした。すみませんすみませんと何度も謝った。二度とこういう事はしなから、縁は切らないでくれと。
その様子をみて、また違和感を感じた....
謝りながら俯いている佐藤の顔をこっそり写真に撮ると、木村兄へメールした。佐藤には見つからずに行うことができた。
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佐藤を落ち着かせるために、歩きながら話をした。あまり相手を刺激しないような言葉を選んだ。
一方的に自分語りをしはじめ、うんざりしつつ相槌を適当にうった。
ブーッ ブーッ
携帯が鳴る、木村兄からの電話だ。
「誰から電話ですか?」
「親から。ちょっと出るね」
「どうぞ」
佐藤と少し距離を置いて電話に出た。
「はい、もしもし」
「ハル?今どこに居る?」
「まだ学校にいます」
「佐藤の写真みたんだけど、俺が前人から聞いたヤバい奴と同一人物だった」
「え?どういう事ですか?」
「どうしたんです先輩?」
佐藤が怪訝そうな顔で近づいてくる。反射的にまた距離を取った。
「もしかして、佐藤といるのか?」
「そうです」
「話は後で詳しく話すから、早く逃げろ。用事があるとかなんとか適当な理由作って奴から離れろ!」
俺は無言で携帯をきり、ダッシュで逃げた。
佐藤ははじめは落ち着いた顔だったが、だんだん豹変していった。
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music:6
「ハルううううううううううう!どうして逃げるんですかああああああああああああ!ふざけんじゃねえええええええええええ逃げんなああああああああああああ!」
校門がだんだん近づいてくる、まだ佐藤は懲りずに追いかけてくる。もしも捕まったら、ただじゃ済まされない事をされるだろう。
校門前にタクシーが止まった!人は乗っていない、今しかない!
タクシーのドアを開け素早く乗り込み、早く出してもらうよう叫んだ。タクシーのおじさんは一瞬たじろいだが、すぐに車を出してくれた。
ドンッ!
shake
車を出したのとほぼ同時に佐藤がタクシーのボンネットを叩いた。凄い形相で叫んでいた。数メートル走って追いかけてきたのが怖かった。
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木村の家を訪ねると、すぐに木村兄が出てきた。
部屋に上がると早速佐藤の話になった。
「あっち系の人達と繋がりがある先輩から聞いたんだけど、佐藤って奴はとんでもない奴で頭がおかしいんだと。
友達でも彼女でもなんでも手が出る。それも加減がなくてな」
「話が読めないんですけど、要はDV男ってことですか?」
「うーん、殺人すれすれの事をする、って言ったら分かりやすいかな。警察沙汰になっても両親が揉み消すらしい。警察のお偉いさん方と繋がってるんだかなんだか。
佐藤と一緒に感じた違和感は、もしかすると本能的にこいつと一緒にいちゃいけないという信号だったのかもしれない....
「兎に角、奴には気をつけたほうがいい。一人で居るなよ?奴は執念深く、しつこいって噂だから」
確かに変な奴だが、殆ど噂に過ぎないだろうと話半分に聞いていた。
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帰り道の途中、何気なく携帯を開いた。
歩きながら携帯をいじると注意力がなくなので、周りを警戒しつつ人通りが多い道を歩いた。
みると、メールが入っていた。
件名:ハル君、助けて
本文:
ハル君助けて!今○○にいて、佐藤に襲われてるんだ、早く助けに来て!早く早く!
隆也からのメールだった。
佐藤に襲われているという一文に寒気がした。今居る場所から隆也が居る所へはそう遠くなかった。
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「隆也ー!隆也!どこに居る?」
叫んでも誰も応答しない。
隆也から送られてきたメールをもう一度開く。
ん?ハル君? 隆也は普段俺のことをハル君とは呼ばない。おかしい....
しかも、文末には必ず<隆也>と書かれるはずだ。もしかして.....
厭な考えがどんどん湧いてくる。冷汗が頬を伝う。
数メートル先に人が倒れているのがみえた。
「隆也!!」
駆け寄ろうとしたその時
バァシィッ!
shake
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music:6
重い何かで思いっきり背中を打たれ、顔面から地面へ倒れた。
shake
バンッ!
顔を打ち付けたせいで脳が揺れ目の前の映像が回った。
逃げろ! 逃げろ! 逃げろ!
脳内で自分が自分に訴えかける。
地面に手をついて起き上がろうとするが、すぐに倒れてしまう。自分は一体何をされたのだ。
何者かが後ろから目の前へ歩いてくるのが見えた。
「ハル先輩がいけないんですよ、俺から逃げようとするから。ハルがいけないんだ」
「あ、あ、さ、とお...どう、して...」
声の主は佐藤だった。俺は上手く言葉が発せられない。
俺は背中の痛みに耐えながら状態を起こそうと試みた。背中が焼けるように熱い。
佐藤は一人で何事かを叫んでいたが、耳に入ってこなかった。
キィーーーーーーン
耳鳴りがする。
意識がだんだん遠のいていく中、佐藤のぐえええ~っという叫び声ともう一つの声が聞こえた。
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目が覚めるとそこは病院の中だった。
ベッドから起き上がろうとすると、背中に激痛が走り動けなくなった。
枕元に携帯が置いてあり、数件のメールと着信。
サークルの仲間からのもので、佐藤からはなかった。
シャッ!
shake
病室のカーテンが開き、驚いて体をびくっと震わせた。
入ってきたのは両親で、二人共 不安と悲しみの入り混じった表情をしていた。
二人は佐藤の事は知らなかったが、隆也は無事であることを知らせてくれた。
隆也は確かに自分と同じあの場にいて、救急車を呼んだ。その際、本人も頭に怪我を負っていたらしい。縫うほどの傷ではないみたいだ。
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警察に佐藤の事を話してから数日後、
佐藤は大学を辞めたという噂が流れ、今は捕まっている 別の大学へ通っている ひきこもりになった等 様々な噂が飛び交った。どれもありえそうな内容だ。
大学を卒業するまで佐藤の存在を警戒しながら生活をした。奴は後ろから声をかけてくるので、常に後ろに注意を払った。
絶対に一人で歩かないように気を付けながら........
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学校を卒業し、上京して落ち着いた頃
仕事が遅くなり、夜道を一人で歩いていた。
足早に歩いているなか、手から携帯が落ちた。
ガンッ
shake
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落ちた携帯を拾おうとしゃがむと、誰かが自分の携帯を拾った。
「ありがとうございます」
顔をあげ、相手をみた。
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sound:39
shake
「ハルせんぱあ~い」
目の前に佐藤が立っていた。
作者群青
誤字脱字などございましたらご指摘頂けると幸いです。
僕が体験した話を少々改変して書きました。
昔、実際に佐藤の様な人がいました。彼はこの話の様に暴力的でキレやすい人でした。今は縁が切れて関わりがないので良いのですが、当時はとても怖かったです。自分の顔の傷をみると思い出します...