カレイドスコープ 【A子シリーズ】

中編6
  • 表示切替
  • 使い方

カレイドスコープ 【A子シリーズ】

大学二回生の夏。

 周りはサークルやら何やらで浮かれています。

 私は群れるのが嫌いです。

 と言えば格好付きますが、実の所は極度の人見知りで、特に男性は店員さんなどであれば問題ないですが、同じゼミの男子学生などとは、まともな会話はできないんです。

 そんなイージス艦以上の防御力を誇る私に、とある男子学生が果敢にも話しかけてきました。

 「肝試しに行かない?」

 何と嘆かわしいことだろうか……。

 学生の本分は勉学である。

 その学生がチャラチャラと女性を誘って肝試しなどと、とても正気の沙汰とは思えない。

 私はキッと目を鋭く尖らせて、こんこんと説教してやった……つもりになって俯きました。

 「ダメダメ!この子はそういうの苦手なタイプだから」

 私と男子学生の間に割って入ってきたのは、私のストーカーA子でした。

 講義の時はいつも隣の席、課題は常にコピーを取られ、挙げ句にちょくちょく泊まりに来る。

 A子を囮にして、私はそそくさとテキストをバッグにしまい、立ち去ろうとすると、A子にガッシリと両肩を掴まれました。

 「今夜はバイト休みだったよね?」

 何故、A子は私のシフトを知っているのか……。

 「いや、バイトだよ」

 私がすっとぼけると、A子はギラリと三白眼を光らせて凄んできます。

 「ウソだね?バイト先の店長さんはアタシの知り合いなんだよ?」

 コイツ……何者?

 私が瞳に映る人型のUMAに怯えていると、ソレはニカッと笑いました。

 「ほら!やっぱりウソなんじゃん!!アンタ分かりやすいわ」

 あっさりA子の策に落ちた私は、自分の不甲斐なさに壁を殴りたくなりました。

 「と、言うことで!今夜は肝試しに行くよ♪」

 ……どういうことで、そうなったんだろう。

 私が目の前で起こったよく分からない展開に、茫然自失していると、A子はコソコソ耳打ちします。

 「焼き肉奢ってくれるんだって♪」

 この肉食珍獣め……もう、いっそ韓国に住めばいいのに……。

 どうやら、焼き肉と私との関係は天秤にかけられ、瞬殺で負けたようです。

 こうして私は、待ち合わせまで籠の鳥のようにA子に監視されたまま、共に時間を潰し、肉をトングで貪るA子を目の当たりにしながら、キャベツをかじるのでした。

 食事の後、車に乗り込んで肝試しの場所まで行くことになり、後部座席には当然のように、私はA子とセットにされました。

 誠に遺憾ではありますが、会話ができない私の伝令役としては、やむ無しでした。

 行きの道中、A子が私に何かを手渡します。

 「何これ?」

 私の手に乗せられた小さな筒状の何か。

 和柄の古臭い模様のついたソレは、私の掌の幅とピッタリ同じサイズでした。

 「覗いてみ♪」

 A子に言われて、筒に覗き穴があることに気付き、覗いてみました。

 暗い……何も見えない。

 「キレイでしょ?」

 瞳をキラキラさせている所で大変申し上げにくいんですが、暗い車内では、全く良さが分かりません。

 「万華鏡でしょ……これって向こう側から光当てないと見えないよね?」

 私の冷静かつ的確なツッコミに、A子は「そっか!!」と言いながら頭を掻きました。

 私は小さな万華鏡をズボンのポケットにしまい、流れる車窓からの景色を眺めます。

 人里から大分離れ、寂しく暗い夜道をひた走る車。

 「今から行く場所は、数年前に、強盗に一家惨殺された廃墟だよ」

 わざとらしく声色をそれっぽくさせて、助手席のモブ男が言いました。

 そういうのやめて…いろいろ冷めるから……。

 「怖かったら、俺に掴まっててもいいからね」

 ドライバーの薄汚れた金髪チャラ男が、ニヤニヤと笑いながら話しかけてきます。

 うるさいっ!ゴミ虫!!

 と、心の中で怒鳴り、私は俯きました。

 こういうチャラチャラした人は苦手だ……いや、嫌いだ。

 「あの人、めちゃくちゃオーブがくっついてるんだけど……よく平気でいられるよね?」

 こっそりA子が私に耳打ちしますが、オーブなんて私には見えないし、同意を求められても困ります。

 そうこうしている内に、目的地に着いたらしく、車が停まりました。

 THE廃墟。

 いかにも、何か出ますよ!!という雰囲気を纏っている、絵に描いたような廃墟の一軒家でした。

 A子は車から降りると、大きく伸びをして、廃墟を見上げます。

 「おぉ~♪これはこれは」

 久しぶりに知り合いに会ったような感想を述べるA子にピッタリ寄り添い、私はA子のTシャツの裾を摘まみました。

 「いやいや、ここは男女ペアでしょ?」

 金髪マンが何事か宣うのを無視して、まんじりとしていると、A子がヘラヘラしながら言います。

 「この子はこういう子だからね♪いいトコ見せて、ポイント稼ぎなよ?若い衆!!」

 年齢は同じのはずですが、A子は姉御の貫禄を見せつけ、男性陣を焚き付けます。

 「お、おぅ!!行くぞ、モブ男!!」

 ドライバーのチャラ男が、もさいモブ男と先に中に入って行きました。

 逝ってらっしゃい♪

 そんな気分で見送った私の腕を、A子がガシッと掴んで歩き出します。

 「アタシらも行くよ!!」

 必死に抵抗する私を引きずりながら、A子はどんどん中へ進んで行きました。

 「オバケなんてプラズマだ……オバケなんてプラズマなんだ……」

 念仏のように唱える私を、A子は笑います。

 「アンタも散々見てんじゃん♪今さら何言ってんの?」

 止めれ!!イヤなことを思い出させるんじゃない!!

 デリカシーを母胎内に置き忘れてきたA子を呪いながら、仕方なくついて行きます。

 暗くカビ臭い屋内を歩く足取りは重いです。

 他人様の家に土足で上がり込む無神経さにも腹が立ちます……。あ、私も土足だった!!

 所々剥がれた壁紙、破れた障子、ささくれた畳、見るもの全てが恐怖心を煽ります。

 知らないお爺さんの写真を見た時は、心臓が飛び出るかと思うほど怖かったです。

 一通り見回って外に出た時には、じっとりとかいた冷や汗が引いていくのを感じました。

 「何てことなかったな?モブ男」

 「そそそそうだな……何か拍子抜けしちゃっちゃったな、チャラ男」

 モブ男は、明らかに私よりビビっているようでした。

 「まぁ……アレだ」

 A子が口を開きました。

 「感じ方は人それぞれだからさ。モブ男くんみたいに怖いと思う子もいれば、チャラ男くんみたいに何にも感じない子もいるさ」

 A子の含みのある言い方に引っかかっていると、A子は続けて言いました。

 「ここはモブ男くんが噂を聞いて、チャラ男くんと一緒にアタシらを誘ったんでしょ?」

 A子の問いに、チャラ男が答えます。

 「あぁ、そうだけど」

 チャラ男が半信半疑でA子を見ると、A子はあっけらかんと言います。

 「それが誰から聴いた情報かが重要なんだよ。モブ男くんは、ここに来たことがある先輩から話を聞いてたから、マジだと信じ込んでた……でも、チャラ男くんは、モブ男くんから第三者からの噂話として聞いただけだから、嘘臭いと思っていた」

 「「あぁ……」」

 男二人が同時に頷くと、A子はニンマリ笑います。

 「先入観は、万華鏡と同じなんだよ。見る角度で景色が変わっちゃう……」

 A子にそう言われて、私は万華鏡をポケットの上から触りました。

 「ちな、その事件があったのは隣の家だから♪」

 A子が指差した家を思わず見た私達は、息が止まりました。

 暗い屋内の窓辺にベッタリと貼り付いて、こちらを怨めしそうに見ている血塗れの父、母、子供二人の姿を見て、A子以外の私達三人は、未だかつて上げたことのない大音量の悲鳴を上げながら、車に飛び乗りました。

 帰りの道中、一言も発することも出来ない私達三人に、A子が饒舌に己の心霊体験談を延々語り続けていたのは、また別の話です。

Normal
コメント怖い
18
59
  • コメント
  • 作者の作品
  • タグ
表示
ネタバレ注意
返信
表示
ネタバレ注意
返信
表示
ネタバレ注意
返信
表示
ネタバレ注意
返信
表示
ネタバレ注意
返信
表示
ネタバレ注意
返信
表示
ネタバレ注意
返信
表示
ネタバレ注意
返信
表示
ネタバレ注意
返信
表示
ネタバレ注意
返信
表示
ネタバレ注意
返信
表示
ネタバレ注意
返信

むぅ様

ありがとうございます‼

友達が少ないのが、功を奏したようですね。

脳内ツッコミはわたしの十八番です。

これからも暇な時にでも読んでいただけると、嬉しいです。

返信
表示
ネタバレ注意
返信

いさ様

そんなに気に入ってくださって、書いて良かったです。

ネクラなわたしが書くコメディですが、上手くハマってくださったんですね。

わたしにとって、最高の褒め言葉ですよ。

無理やりねじ込んだオカルトのオチですが、入れとかないと、サイトの趣旨にそぐわないですからね。

お化けでも出しとくか……みたいなノリで。

これからも、お暇な時に読んでいただけると、嬉しいです。

返信
表示
ネタバレ注意
返信

鏡水花様

温かい御言葉、いつもありがとうございます。

わたしにとって、A子は数少ない友人です。

本当は親友と言いたいけれど、何だか気恥ずかしさと、畏れ多さで友人と言っています。

確かにA子といると退屈できないですね。

本物のA子は、もっとちゃんとしてますし、話も上手だし、頭もいいですし。

完璧超人なんですよ。

ある意味、人間離れしてますね。

返信
表示
ネタバレ注意
返信