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「坊や~キラキラ光る物、好きかい?」
黒いドアの中におじさんが立っており、こっちへおいでと手招きしている。
今日小学校の先生から ”知らないおじさんや不審者に近づかないように” と言われた事を思い出した。少し後ろに後ずさりする。
「坊や~だあいじょうぶ、だあいじょうぶ...おじさんは変な人じゃないよ?ただの宝石売りだよ」
「本当?本当に変なおじさんじゃないの?」
「うん、変なおじさんじゃないよ。坊や、キラキラ光る物、好きかい?」
キラキラ光る物という言葉に興味を惹かれた。どんな物なのだろう、みてみたい。
おじさんは一度店に入ると何かを手にしてドアの前まで戻ってきた。
おじさんの手の上には光り輝き所々鋭利な形状をした塊があった。青や白、透明と妖しく光るその塊に目が釘付けになる。
その塊に触ろうとすると、おじさんが手を引っ込めた。
「坊や~キラキラ光る物、好きなんだねぇ。お店の中にももっと沢山あるよ?みてみるかい?それとも、やめておくかい?」
不信感よりも好奇心が勝り、店の中へ入った。
店内が薄暗く照明がシャンデリアの様な豪華な装いで、壁紙が黒か黒っぽい赤か緑でテーブルの上にガラスのケースが置いてあった。中には沢山の宝石が入っていた。
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「坊や~、念の為にドアを開けておくからね?ドアを閉めたら怖いだろう?」
此方が警戒しているのに気が付いたのか、ドアの下に押さえを置いて開けっ放しにした。
おじさんは店内の宝石を一通り見せながら説明してたが、内容が入ってこなかった。
色々な宝石の数々を目にする度にワクワクし、もっともっととおじさんにせがんだ。
「おじさん、この小さい石は何?」
小さく他の宝石とは光り方が異なる石を手に取った。おじさんはその石を掌から摘み、これは高いからあんまり触ってはいけないと言う。もう一度みたいと言っても見せてもらえず、おじさんは店の奥へ引っ込んでしまった。
数分経っても戻ってこないので痺れを切らし、店の奥へ入って行こうとした。
店の奥へと続く入口には黒い幕が垂れていた。コンサート会場にある幕の様で、手で引っ張っぱるとドロンと手の上に幕がかかる。小学生には重いと感じる布だった。
奥へ進もうと幕を押していると、幕がスッと横に引いた。
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「坊や~だあめ、この先は行っちゃだめだよ」
「どうして?」
「ひ~み~つ~」
おじさんは口の前に人差し指をあてながら、顔を左右に揺らしおどけた表情をした。
「おじさん、ピエロみたいにおもしろい」
「そうかいそうかい、それはよかったねぇ。もうそろそろお家にお帰り?ママやパパが心配するから」
おじさんはそう言うと出口まで送った。
店の前でおじさんと自分は約束を交わした。
「坊や、また明日もおいで?またキラキラ光る物、見せてあげるから。」
「本当?やったー明日も来るね」
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「うん、それからね、一つお願いがあるんだ。」
おじさんの顔が少し真面目な表情に変わる。
「おじさんのお店の事、ママやパパに言っちゃだめだよ?」
「どうして?」
「うん、このお店は子供しか入れないお店なんだよ?秘密を守れる子供しか入れないお店なんだよ。」
「うん」
「坊やは秘密守れるよね?おじさんと約束、できるよね?」
おじさんは自分と目線を合わせながらゆっくりとした口調で話した。
ポケットから小さい包みを取り出すと、自分の右手に置きぎゅっと握ってきた。握られた手の中から包み紙が擦れる音が聞こえた。
「う、うん、約束ー」
おじさんと指切りをしてその日は帰った。
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次の日もそのまた次の日もおじさんに会いに行った。
中へ入ると必ずドアを開けっぱなしにし、にこにこしながら色々な宝石を見せてくれる。
宝石以外にも、包み紙の派手なお菓子もご馳走してくれた。どれもみたことのないお菓子。
学校の帰りにおじさんのお店へ寄って行くのが日課となりつつあった。
初めは怪しいおじさんだと警戒していたが、だんだんとその気持ちは薄れていった.....
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「おじさん、今度友達を連れてきていいかな?」
「う~ん?どんなお友達かなあ?」
おじさんはしゃがみこみ、目線を合わせてくる。
「同じ歳の子!すっごくいい子だよ!」
「同じ年の男の子かい?」
「うん!」
おじさんはにこにこしながら了承した。
この時、おじさんは友達の年齢や背格好、性格等質問してきた。この時は特に怪しいとは感じなかった.
まだ.....
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shake
ドンドンドン!おじさん!
ぬっ
おじさんが中から顔を出し、いつもの笑顔がそこにあった。
中に入るように促されると、中に入っていく。
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おじさんが開口一番に友達は来ていないのか?と聞く。
自分は まだ来ない、もうすぐ来るよ と言う。
「坊や、その友達は他の子にここの事を話さないかな?」
自分の肩を少し強く掴み、言った。
いつものおじさんらしくない行動に少し戸惑った。
「う、うん。秘密って言ってあるから!大丈夫です」
咄嗟に嘘をついた。
本当は、友達にこのお店の事を他の友達に話したりしないように言っていない。
おじさんの目を真っすぐ見られなかった。
shake
「すみませーん」
お店の前から声がした。
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「吉野さん!」
そこには学校の友達が立っていた。
「誰かなあ?」
おじさんは友達の顔をみたあとに此方を見る。
「お友達!呼んだお友達だよ!」
友達の方へと駆け寄って行った。友達は手を後ろで握り、仁王立ちしている。中へ入ろうと言っても入ろうとしない。表情が硬く、唇をきつく結んで曲げている。いつもの友達らしくない。
「ね、おじさん!この子もみていいでしょう?」
おじさんは腕を組み、店のドアに寄りかかって黙っている。友達をじーっと凝視し、視線を外さない。
獲物を狙う蛇の様な目つき。いつものおじさんらしくない。
「おじさん、ねぇ、だめ?」
少し大きな声で訴えた。
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music:2
「坊や~、お友達は男の子って言ったよね?」
おじさんは、友達から目を離さずに言った。
「あ、う、ん、えっと、この子しか来れる子がいなくて、その...」
ドンッ!
shake
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おじさんが自分の頭をドアに打ち付けた。
「坊や~、この子は女の子だよ?」
沈黙が流れる。
自分は怖くなって下を向いた。何がおじさんを怒らせてしまったのか分からなかった。
不意に洋服の裾を引っ張られ ちらっと横を向くと、友達と目があった。
”に げ ろ”
友達の口がそう動いたようにみえた。
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「坊や~、約束守れよ....男の子の友達って言っただろうが。誰が女連れて来いって言ったんだよ、ちゃんと話聞いてねーのか?あ?」
おじさんの顔が、全くの別人の顔に見えた。顔がみるみる赤くなり、鬼の様な形相へと変わっていく。
ガシッ!!
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「お邪魔しました!」
友達は叫ぶと自分の腕を取り、走り出した。一瞬転びそうになったが大勢を立て直し、一緒に走った。
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おじさんのお店から離れた所で友達が立どまった。
お互い息が切れ、数分黙っていた。
「ママが言ってた、近所に変なお店ができたから近づくなって」
「え?」
「あんなところに入っちゃだめだよ!危ないよ。あのおじさん、変だったもん」
友達は少し涙目になっていた。それが走ったからなのか、他の理由からなのかは分からなかった。
家に帰り、今日起きたことを親に話すとひどく怒られた。
学校の帰りは道草せずに帰ること、一人で帰らないこと約束された。
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しかし、次の日から約束をやぶった。
おじさんの店が気になったのだ。 また怒られるのではと考えつつ店へと足を運ぶ。
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ドンドン!おじさん!
ドンドン!おじさん!
何度叩いてもおじさんは出てこない。
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ガチャ ガチャ
ドアノブを回しても鍵がかかっていて開けられない。
硝子窓から中を覗くが、真っ暗で何もみえなかった。
次の日もそのまた次の日もおじさんの店を訪れたが、応答がなく おじさんが出てくることはなかった。
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後に、おじさんの店がつぶれたという旨の話を聞くことになる。
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数日後の朝
朝食を食べながらテレビをみていると、母親が驚いた表情でやってきた。
「ねえ!ねえ!ねえ!お友達のママから聞いたんだけど、近所の怪しいお店の店主いたじゃない?」
すぐに宝石のおじさんの顔が浮かんだ。
「うん」
「あの人、捕まったんだって!」
「えー!嘘、嘘だよ!どうして」
母親が近づき、肩を抱いた。
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おじさん、殺人事件の容疑者で、指名手配されてたんだって」
「嘘....」
自分の中の優しくて親切なおじさんの記憶がどろどろと溶けていく気分だった。
おじさんの思い出の映像が頭の中を巡り渦巻いた。
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おじさんは、自分の家族を殺害し逃げていたそうだ。
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優しくて、良い人だと思っていたのに。
あれは、演技だったのか.....良い人を演じていたのか....
今でも分からない
作者群青
今回の話は友人から聞いた話を元に書きました。話をぼかす為などの理由で所々脚色している部分はありますが、友人とおじさんが出会った事、おじさんが捕まった事は本当です。
友人いわく、普通のおじさんだったと言っていました。普通にみえても、普通ではない部分をもっていたのでしょうね。
誤字脱字がございましたら、ご指摘頂けると幸いです。
宜しくお願い致します。