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中編6
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他者の中にいる同一者

「肉もいいけど野菜も頼まない?」

『肉を食べに来てるのにわざわざ野菜を食べなくても良いのさ。いや、野菜も食べなきゃならないのもわかってるよ。ただ、焼肉屋では食べないんだ。これは譲れない俺の焼肉美学だな。』

その日俺は友人と二人で焼肉屋に来ていた。

こいつの言い分もわからない訳じゃない。

スーパーに行けば同じ量でも安く買えるわざわざ、割り増しな値段で食べなくてもいい。スーパーでは買わない肉のためにお金を支払う。

道理が通ってると言えば通ってるかな。

友人の考えを尊重し、それ以上言うことはやめた。

『最近さ、俺に似た人を見たって話をよくされるんだ。』

「他人のそら似なんてよく聞く話だろ?俺だって別人を友達に見間違えたことあるよ。服装と髪型が似てたら、本人に似てるように見えるさ。

美紗に“先輩だと思って話しかけたら全然違う人だったんですけど!恥ずかしかった!”って言われたよ。」

『そう言われればそうなんだけどさ。同じ顔が世の中には3人いるって言うし。でも、最近頻繁でさ。この前もさ…』

回想1――――――――――――――――――

前日に飲みすぎたせいで午前の講義をサボって午後から大学へ行くと学科の友人に

【お前なんでさっき経済棟に行ってたんだよ?】

『え?俺午前中は部屋で寝てたよ?』

【あれはお前だったと思うんどけどなぁ。服装も今と同じだったしさ。】

『同じ服装はなんか恥ずかしいな~』

回想2――――――――――――――――――

行きつけの定食屋に行ったとき。

『おばちゃん、いつものトンカツ定食ね!』

【はいよ。今日は2回も来てくれたんやね!】

『え?今日は今が1回目だよ?』

【あれ?昼もうちでトンカツ定食食べてくれたよね?】

『おばちゃん、それ違う人だよ~。トンカツ定食美味しいけど、2回来るなら違うの食べるよ~』

【そりゃそうだね!いやね~、歳かね客商売なのに常連さんの顔を間違えるなんて~】

――――――――――――――――――

『他にも飲み屋で俺を見かけて後で話しかけようと思ったけど気がついたときには帰ってた。とかさ、変な感じなんだ。』

「変な感じだな。そのうち落ち着くさ、肉食べよう。…すいませーん、牛タンとホルモン二人前追加でー!」

その日は二人で計10,000円ぶん平らげた。

ついぞ野菜は頼まなかった。

――――――――――――――――――――

他人のそら似話を“あ~、そんなこと言ってたなぁ”程度になるくらいに日があいたのち

夜電話がかかってきた。

『いきなりすまん!今からうちに来てくれないか?!部屋に鍵がかかってるんだ!』

「鍵落とした?」

『そうじゃないんだ!後で詳しく話すから頼む来てくれ!』

いまいち要領を掴めなかったが、焦ってることだけは伝わってきたので急いで車に乗りこんだ。

友人の家はそれほど離れてるわけではなく、車で10分ほどのところに住んでる。

『すまん…!』

「気にすんな。んで、どういうこと?」

『ちょっとコンビニに行ったんだ。すぐそこだし良いかと思って鍵かけなかったんだ。テレビも電気も点けてたから人なんて入らないだろ?』

空き巣に入ろうと思うやつらならテレビも電気も点いてる部屋を狙うなんてことはしないだろう。

今回みたいにわざとつけて出ていってることもあるが、いない可能性の方がはるかに低い。

こいつの部屋を監視してたなら話は別だけど、そんなやつはいないだろうし。

『それで、コンビニから帰ってきたら部屋に鍵がかかってるんだ。鍵をかけたのに、開いてたって方がまだ何て言うか現実的でさ。』

電気…

「あれ?部屋の電気なんて点いて…」

友人の部屋は一階の角部屋。

俺が車を停めたとこから友人の部屋は見える。

車を降りたとき友人の部屋の電気は点いてなかった。

『…だから電話したんだ。ここはオートロックなんてない。百歩譲って玄関の鍵はドアを閉めた反動でかかったとしても、電気はそうはいかない。部屋を出たときに確認してる。』

ドアを閉めた反動で鍵がかかった。尚且つ、コンビニいる間に電球が切れる。こんな偶然が重なることはあるのだろうか。

0ではないにしろ、限りなく低い。時間としてもほんの10~15分程度の間にだ。

「…とりあえず、大屋さんに連絡して開けてもらおう。」

『…ああ。』

それから大屋さんに連絡して来てもらい、

事情を話開けてもらうことになった。

もしかしたら、部屋のなかに誰かが潜んでるかもしれない。

その事が頭の中にあり、俺、友人、大屋さんはそれぞれ傘など武器になるようなものを手にしていた。

『開けるぞ…』

がちゃ…

土足なのも構わず俺らは部屋に入った。

押し入れやトイレ、風呂場全てを確認したが誰も居なかった。

そして、部屋の鍵はテーブルの上に置いたままで窓もすべて鍵がかかっていた。

通帳やパソコンお金になるようなものを確認したが無くなってるものは何もなかった。

“なんだったんでしょうね?”

大屋さんも俺らも同じ疑問を抱いていたが誰も納得のいく説明はできなかった。

無くなっているものもなかったので警察には届けないことでその場はおさまった。

大屋さんも帰り

『今日は悪かったな、来てくれてありがとう。』

「気にするな。どうする?気持ち悪いなら俺ん部屋に来るか?」

『いや、大丈夫だ。』

無理に連れていく気もなかったので、俺もそれで帰ることにした。

後日

「その後部屋はどうよ?」

『大丈夫、なんともないよ。』

部屋でおかしなことは起こっていなかったようだ。

――――――――――――――――――――

日が経ち、

サークルで合宿を行うことになった。

俺と友人は同じサークルだったこともあり一緒に参加していた。

連休を利用した3泊4日の小規模なもの。

合宿最終日また、おかしなことが起こった。

発端は大家さんからの1本の電話だった。

“三日前から毎晩夜通し騒いでて眠れないって連絡が2部屋から来ててね、申し訳ないけど少し声の大きさとか気にかけてもらえるかね?友達が部屋に来るのは当然だし、それについては全く構わないんだけど。ほら、共同で使ってる建物だからさ。”

というものだった。もちろん、そんなことはあり得ない俺やサークルのメンバーと四六時中一緒にいたのだ。

『他の部屋の間違いじゃ?自分は部屋に帰ってないですよ?』

“え?でも、確かに君の部屋からって連絡が”

そこで、差し出がましいとも思ったが俺が電話をかわった。

「すいません、お電話変わりました。はい、あのとき一緒に居たものです。

はい、ここ数日県外に一緒に来てるんでこいつではないですよ?」

“そう。わかりました。次同じような連絡があったらこっちでもちゃんと確認するね。”

そこで、電話は終わった。

「なんなんだろうな。」

『わからない…なぁ、帰ったら。』

「あぁ、一緒に部屋に行くよ。」

部屋に行ってみたもののやはりこれといって何かがあったわけではなかった。

『なぁ、前は俺に似たやつを見た。って具合だったのに、最近だと“話した”って言うんだよ。もちろん、俺には身に覚えがないし…。このままだと取り返しのつかないことになる気がする…』

俺はこの時なんと言えばよかったのだろうか。

返す言葉が見つからず

「大丈夫さ」

そういうしかなかった。

それ以来その事について友人は話すことは無くなり、ある日焼肉に誘われた。

「最近どうよ?」

『ん?これといって特に何もないかな?』

「それならよかった。」

『気にしてくれてありがとうな。追加を頼もう。』

俺は呼び鈴を鳴らし、店員さんがやって来た。

『えっと…牛ロースとミノ、それと…野菜の盛り合わせとサラダお願いします。』

『野菜もちゃんと食べないとな。』

友人は笑顔でメニューを眺めていた。

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