田舎の親戚が亡くなった。
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そう連絡を受けて、私は連休を利用して帰省することにした
実家に戻ると、父母は相変わらずだった
法事は無事終わり、
私はそのまま連休中は実家で過ごすことにした。
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実家はというと相当な田舎で
直近のコンビニも5㎞ほど行かなければなく、
村の人口も数千人だった
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この村は山岳地帯に位置していて、周囲の町より少しだけ高いところにある
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この村の特殊な点は
若者の自殺が若者全体の母数にしては多い点である
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もっとも、それもひとつの原因だろうが、、、
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数日後、村の道の駅に両親と買い物に行った
そこで品物を物色していると、
隣の棚を見ている女性が妙に気になった
その女性は昔、川で入水したマユコに似ていた
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両親にあの人は誰だと尋ねたが
二人の顔には恐怖と驚愕があった
「、、、最近ここらに越してきた人だよ」
「ちょっと話してくる」
「やめなさい!!」
いままで聞いたことのない口調だった
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マユコがいなくなったのはちょうど10年前、
高校生の時だった。
地元の高校は1クラスしかなく、
マユコは私の同級生だった。
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彼女とはそこまで親しくなかったが、
なにしろ3年間同じ面子なのだから覚えている
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川で死んでいるのが見つかったと聞いたとき、
軽く違和感を覚えた
村から一番近い川は彼女の学校から十数㎞ある
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なによりも、
彼女は成績優秀で、恋人もいたし、
卒業後の上京も決まっていた
死ぬ理由はなさそうだった。
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そんなことを思いながら両親を乗せ、車で帰路を走っている間、私たちは終始無言だった
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実家に帰る途中、両親の畑の間を通るが
今日はいつもの様子と違って見えた
「なんか、手前の方、枯れてきてない?」
二人は応えなかった
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その翌日、私が近辺を散歩していると
見覚えのない道を見つけた
車も通れるような幅で、きちんと舗装されている
そんな道を見落とすことはあり得なかった
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上京している間にできた道かな?
そう思い、通ってみることにした
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道の両側には森が広がり、しばらく上り坂が続いた
どれだけあるいただろうか
一向に道を抜ける気配がしない
そうこうしているうちに、うすく霧がかかってきた
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この村の霧は昔からなんだか重苦しかったが
今日は以前よりそう感じた
霧がますます深くなるにつれて
私の体もどんどん重くなった
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1メートルさきもおぼろげになってきたとき
今さら引き返すべきだと思い立ち反転しようとしたが、
できない
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前にも後ろにもすすめない
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これは体が思いというよりかは、
四方を見えない壁に囲まれているようだった
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私はかなりの焦燥感を持ちながらもそのまま動くことはできず、じきに日がくれてきた
暗くなりほぼ前が見えなくなると
sound:33
周りからなにか聞こえてくる
疲れきったからだろうか、霧が群集に見えてきた
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それは確実に異質なものだった
人々は皆痩せ細り、異常に腹だけ膨らんだ者もいる
そして、全員うっすらとみえる月を見上げていた
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私も月を見てみた
何だか妙に美しく、心臓のように鼓動している
すると、私の心臓の鼓動と人々のそれが重なった感覚になった。
とても心地いい
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しかし、15年前に自殺したたけしを目の端に見ると
私は一気にわれに帰った
そして、気づいたのた
自分はもう帰れない、いや帰ってはいけないことを
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かなり昔、この村で深刻な飢饉があった
周りの村(いまは町だが)はいつも通りだが
この村だけ凶作に見舞われたのだ
地理的な要因かどうかは分からない
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村では餓死者が多発した
山は霧に覆われ、隣村からの物資供給はできなかった。
それからしばらくして、その飢饉で行方知れずと思われていた女が戻ってきた
村人は彼女を歓迎し、村は賑わった
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しかし、その数日後彼女の家の畑は枯れ、
それは感染するように広がっていった
だが、翌日、彼女の弟がいなくなると
その拡大は止まった
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その後村では飢饉の話は禁忌となり、
行方不明者は自殺したとして扱われ、
たとえ再び現れても、村には入れなかった
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思想の近代化が進むと、それは悪習だとして取り止められたが、村の老人たちにはまだその感覚がつよく張り付いていた
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そしてそれは現実となった
私はマユコが持ち込んだ「穢れ」を在るべき場所に戻し、マユコの分を埋める生け贄として、
群集の中で、今も月に魅せられている
作者ブラック
これは、全てフィクションです