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「今日も一日お疲れさん!乾杯!」
「かんぱーい!」
今週の仕事締めと称し同僚と二人で居酒屋で飲むことに。
明日から休みという事もあり、二人でかなりの量の酒を飲んだ。仕事の商談の話から始まり、上司の愚痴やくだらない話をした。
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「お前ちょっと飲み過ぎじゃねーか?」
「だあいじょうぶだよ、まだまだ平気平気~あ、お姉さんビールもう一杯くださーい」
同僚は店内に貼ってある女優のポスターに向かって話しかけていた。
かなり酔っている。
かわりにビールを注文し、自分はテーブルの端に残っていた枝豆を食べた。
呂律は回るし体を動かせない程ではないけれど、自分もそれなりに酔っぱらっていた。
同僚と同じように酔っぱらった場合どうやって帰ろうか、道端で寝て朝を迎えるなんてことになるのは御免だ。
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「いやぁ兄ちゃん達よく飲むね~いい飲みっぷりだね~」
向かいの席の男が話しかけてきた。全体的に黒っぽい服装で、眼鏡のレンズが汚れている。
男も酔っぱらっているようで、黒く日焼けした顔が赤かった。
同僚はテーブルに突っ伏し、顔だけ男の方に向ける。
「僕ね~結構飲めるんすよ~えへへ、こいつより酒....うう..]
「おいおい大丈夫かあ~?吐くなよ?吐くなよ?ここで吐いたら格好悪いぞ兄ちゃん!がはははは」
男の言葉を無視しトイレへと走って行った。
同僚を待ってる間に店員さんに水を2つ注文した。
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「兄ちゃんよ~お友達は大丈夫かあ?トイレで倒れてるかもしんねーよ?死んでっかもしんねーよ?がはははは」
男は口を開けて笑う。前歯と舌の歯が数本抜けているのが見えた。なんて汚い歯なんだろう。
「あはは、物騒なこと言わないで下さいよ」
男の絡みは非常にうっとおしかった。こちらが無視しても一方的に話しかけてくる、話す内容は下品で不愉快極まりない内容だ。不機嫌な表情で訴えかけても効果がない。
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「吐いたら落ち着いたわ、すまん」
同僚が戻ってきた。尚も男は話しかけてくる。
「兄ちゃんよかったな~無事でよかったな~!がははははは」
「無事生還しましたー」
適当に返事をすると、同僚は店を出ようというサインを送ってきた。
「お?兄ちゃん達帰るのか?まだまだ飲めんだろ?まだ飲めるよな~そうだろお?」
男の周りの客達が迷惑そうな顔をしているのが見えた。あまり騒がしくない居酒屋に男の声は目立っていた。男をみながら客がヒソヒソ話している。
「あ?何話してんだ?文句あんのか?」
男は別の席の客にまで絡みだし、店員さんがめんどくさそうな顔をしながらやってきた。
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早々に会計を済ませ、店の外へ出る。店内の熱気から一転し、冷たい空気が頬を撫でた。
暑くなった頬にそれは心地よかった。
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「くぅー寒ぃなあ...店の中はかなり暖かかったんだな」
「.........」
「大丈夫か?」
「ん?あ、ああ....大丈夫。ちょっと眠くなってきた.....ふあああ」
「あれだけ飲めば眠くなるだろ、吐き気は大丈夫か?」
「んー大丈夫だ、今のところな。それにしてもさっきの酔っぱらいジジイうるさかったよなー楽しく飲んでんのに台無しだ」
「ジジイって言うほど老けてなかっただろ、30代位の男じゃなかったか?」
「....どうだろうなあ、70代のジジイに見えたんだけど....ふあああああ」
同僚は何度も欠伸をし、眠そうに目尻を擦った。
「今日は酷く疲れてるんだな」
「そんな事、ふあああ...ねえよ。大丈夫だよ」
「俺も今日は酔っぱらってるから、お前をしっかり介抱してやれる自信がない。なにかあっても助けられないかも」
「ふあああ....はーい、今日は自己責任でー。あ、自己責任デイだな」
「全然面白くない」
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同僚と話ながら歩いて何分経っただろう、なかなか駅が見えてこない。
初めて飲みに来た店ではないし、初めて歩く道でも無い筈。きっと飲み過ぎて酔っぱらっているから、道を間違えたのだろう。
二人で並んで歩いていたのに、気が付くと同僚がだんだん後ろへ下がっていった。どうしたと振り向くと、眠いだけだと返ってきた。
「歩くの遅いけど、大丈夫か?」
「んー眠いんだよ、気にしないでどんどん歩いてくれ。歩きながら眠りそうだから、なにか話をしてくれないか。できれば面白い話を頼む」
「むかしむかしあるところに....」
「うんうん、うんうん」
面白い話が思い浮かばず、即興で適当な作り話をした。幼い頃に聞いたり本で読んだ色々な童話を混ぜて作った話だ。
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「若者は夜道の中で迷子になり、とうとう疲れ果ててしまいました」
「ほうほう」
「歩けなくなった若者は、その場に座り込み動けなくなってしまいました」
「ほうほう」
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何分歩いただろう、駅に着く気配がない。そろそろ歩き疲れてきた、何キロもある重りを足に付け歩いているようだ。
街頭の明かりが少なくなってきたようなきがした。
「すると、若者の目の前に突然老婆が立ちはだかり.....おい、聞いてるのか?って....」
スッ....
shake
後ろから突然手を握られた。冷たくねっとりとした気持ち悪い感触が手に伝わる。
「気持ち悪!なんだよいきなり」
shake
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「なあに?」
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振り向くと、そこには見知らぬ子供が自分の手を握り立っていた。
「うわあ!びっくりした...」
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黒っぽいよれたタートルネックを着た少年のような青年のような、はっきりと判断し難い顔をしていた。
「ネチャ...ニチャ...ネチャネチャ...」
その子供は不快な音をたてながら笑った。口から覗く歯は黒く、汚ない。
「お兄さん、さっきの話の続き聞かしてよ、ねえ...聞かしてよ...ねえねえねえねえ」
子供が親に物をねだるような甘えた声で言い、手を握ったまま左右に腕を動かした。
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この気持ち悪い子供はなんなんだ、同僚はどこへいったのだろうか。子供の後ろを見ても同僚の姿が見当たらない。
「あのさあ、黒いスーツを着たお兄さん知らない?酔っぱらってて顔が赤いお兄さんなんだけど」
「知ってるよー」
「そのお兄さん、どこにいるかな?」
「どうしよっかなー教えてあげよっかなーどうしよっかなー教えてあげないっかなー」
「教えて欲しい、お願い」
「どうしよっかなー教えてあげよっかなーどうしよっかなー教えてあげないっかなー」
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俺は気が長い方ではない。
目の前の子供が可愛い美少女や美少年であったなら、あと数時間はこのくだらないやりとりを続けてあげただろう。
「教えてくれないならいい、自力で探すから」
「やだ!」
shake
ググググ.....!
子供が強い力で手を握ってきた。凄い力だ、とても子供のものだとは思えない。
「痛い痛い痛い痛い痛い!」
「お兄さんが探してる人、知ってるから。教えるから、帰らないでよ」
shake
グググググ....!
尚も強い力で握ってくる。
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「痛い痛い痛い!分かった、分かったから離してくれ!」
「ニチャネチャ....ニチャネチャ...お兄さんが居るところまで連れて行ってあげるよ」
キャッキャッ
嬉しそうに言うと、強く握った手を離した。
この時、どうして逃げようという考えが浮かばなかったのだろうか。
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暗い夜道を進み 長い階段を上った。結構な高さと長さの階段だ。
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とても同僚がこの先に居るとは思えない。子供はこちらを見、早く上れと顔で訴えてきた。
子供は俺よりも先にどんどん上っていった。
その動きは身軽で、この階段を上るのに慣れているようだった。
「早く早くー!こっちだよ、ほらこっちだよ!こっちにお兄さん、いるよお?」
子供は階段の一番上で飛び跳ねながら叫んだ。
遅い時間に大声を出して近所迷惑ではないかと、こんな状況の中で冷静に考えている自分に笑えた。
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やっとてっぺんに着くと、子供が薄暗闇の中で何かを指さしてまた叫んだ。
「ほら、お兄さんが探してるもの、いるよ?」
「どこ?」
指さす方向には人の姿らしき物があった。それは薄い光の街頭の下にいた。
近づいていくと、人が足を投げ出して座っているのがみえた。
人が座って居る場所より奥に道はなく、行き止まりになっていた。
顔は項垂れていてよく見えない。その人物の目の前にしゃがみ込み、顔を覗きむ。
相手の顔を持ちあげて、顔を見た。
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「大丈夫ですか?」
shake
「ぶくぶく...じゅ...じゅ...ひゅー...ひゅー...ばあづげで...ぶくぶく」
「ひぃ...!」
相手の顔を触った手にぬるっとした物が付着した。
赤くぬるぬるしたものがべっとりとついている。
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「だ、あ、大丈夫です..か?うああああああああ!」
shake
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こちらを向いた男の顔が、無かった。目や鼻や口が分からない位に滅茶苦茶になっていた。
まるでミキサーに入れられ粉々になった野菜だ。
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「うわあああああああああああああ!」
俺は逃げようと階段の方へ向いた。
「キャッ キャッ!キャッ キャッ!」
行く手を阻むように子供が階段の前で両手を広げ上下に飛び跳ねている。
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「キャッ キャッ!キャッ キャッ!お兄さんもあーそーぼ!あそぼ!あそぼ!あーそーぼ!あそぼ!あそぼ!あそぼ!あそぼ!あーそーぼ!あそぼ!あそぼ!あそぼ!あそぼ!あーそーぼ!あそぼ!あそぼ!あそぼ!あそぼ!あーそーぼ!あそぼ!あそぼ!」
子供は楽しそうに上下にぴょんぴょん跳ねている。
いつから持っていたのか、右手には刃物が握られていた。
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「ひゅー、ひゅー、ひゅー、ひゅー、ぐううううううううえええええ」
顔が滅茶苦茶になった男が足にしがみついてきた。
「ひいぃぃ...」
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恐怖で一瞬気を失いそうなった。
逃げたい、早く逃げたい、安全な場所に帰りたい、このままではやられる。
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「お兄さーん!はやく遊ぼうよー!」
子供が刃物片手にこちらへ走ってきた。
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だんだん子供のニヤニヤ笑った顔がはっきりと見えてきた。右手に握りしめたものが街頭の明かりに反射して光っている。
このままじっとしていてはやられてしまう、どうせやられるのなら抵抗してやられた方がいいだろう。
そうせ死ぬのなら。
走ってくる子供に向かって俺は走った。怖くて指先が唇が震える。
「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!」
怖さを打ち消すために腹の底から声を出した。
子供が右手を振りかざすのとほぼ同時に、俺は体当たりをした。
「ぐええー」
shake
子供は倒れず俺の肩にしがみついてきた。俺は死に物狂いで子供を振り払おうとした。
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「うおおおおおおああああ!」
階段の手前までもがいた。なかなか子供を振り払うことができない。
「ニチャネチャ...ニチャネチャ」
「くっそおおおおお!消えろおおおお!」
ぎちぎちぎちぎち....
子供の爪が肩に食い込んでいく。
もうだめかもしれない.....
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俺は子供と一緒に階段から飛び降りた。
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「おい、ちょっ...」
子供の間抜けな声が聞こえた気がした。
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shake
「ぐええええええー」
ガガガガガガ!ガタンガタンガタンガタン!ガタガタガタガタガタガタ!
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「はあ、はあ、は...はぁ」
激痛が走った。背中と腰が痛い、首と手は動かせる。右手と左手を小指から親指まで動かしてみた。
足もなんとか動かせることができた。目は夜空をみている、俺は生きていた。
「た、助かった...」
時間をかけて起き上がると、俺はまだ階段にいることが分かった。
階段下の地面に子供と思われる物が転がっているのが見えた。
一瞬視界が回ったと思ったら何かに引っかかり、後ろへ転んだ。何に引っかかったのかは分からない。
俺のスーツの脇と足の部分は破けていて、左腕はボロボロで血が滲んでいた。
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shake
ブーッ ブーッ ブーッ ブーッ
携帯が鳴った。
自分が携帯をポケットに入れていたことをすっかり忘れていた。
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「もしもし...」
「レイジ!お前どこにいるんだよ!急にいなくなりやがって!」
「あ、お前....生きてたんだ」
同僚の声を聞いた途端、どっと涙が出た。
目の周りが熱くなり、視界がぼやけてくる。
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電話で話しながらゆっくりゆっくりと階段を下りていった。今まで自分がどういう目に遭っていたのか説明したが、まともに取り合ってくれない。
「また酔っぱらって階段から落ちたんだろう?」
「本当に子供に襲われたんだって!顔が酷い事になってる男もいたんだ、本当に起こったことなんだって!」
話しているうちに、階段の真下に着いた。
警戒しながらに子供に近づいていく。
「じゃあ、証拠の写真を撮ってこいよ。そうしたら信じるから」
「ああ、撮ってきてや....なんだこれ..」
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shake
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子供と思っていたそれは、洋服を着たマネキンだった。
顔が割れ首が折れ、手足が滅茶苦茶に折れたマネキン。
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「なんだよ....マネキンかよ....」
「は?マネキンがなんだって?」
「なんだこれ、.....あはははははは!」
転がる滅茶苦茶になったマネキン。俺は、不意に可笑しくなった。
顔を引き攣らせながら笑った、目から涙が流れた。
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「なにがそんなにおかしいんだよ、お前なんか変だぞ」
「そうだな、なんでこんなに笑ってるんだろう」
「頭打っておかしくなったんじゃないか?まったく、お前も飲み過ぎなんだよ」
「そうかもしれないな、きっと俺は酔っ払って階段から落ちたんだな」
「あれだけ飲めば階段も踏み外すさ」
「さっきみていたものは夢だったんだな、俺は夢をみていたんだなきっと...」
「そうそう、夢だよ夢夢!」
「そうだよな、なんか、安心したよ」
「ゆっくりでいいから、こっちに来てくれないか?今いる場所が薄暗くて不気味なんだよ....いや、やっぱりできるだけ早く来てくれ、なんかいる!」
「ん?どうした?」
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shake
「お兄さーん」
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電話口から子供の声が聞こえた。
作者群青
皆さんこんにちは、群青です。
友人が同僚と飲みに行った帰り道に怖い酔っぱらいに遭遇して逃げた話を聞き、それをアレンジして作った話です。夜遅くに不気味な子供にいきなり手を握られたら怖いですよね笑
誤字脱字がございましたら、ご指摘頂けると幸いです。皆様も、夜道の一人歩きはどうかお気をつけて。