某ファミレスにて
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店に入ると既に二人は席に着いていた。
一人は煙草を吸いながら若干不機嫌な顔をして、もう一人は嬉しそうに笑っている。
不機嫌な顔の方がこちらに気が付くと、席を立ち歩いてきた。顎を少し上げ大股で歩くその男は、自分が苛々しているという事を隠そうとしない。
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「お前来るの遅すぎ」
後ろを一瞬チラッとみてから小声で言った。
「悪い、遅れた....いや遅れてないだろ、5分早めに着いたぞ」
「小林って奴から急に連絡がきて、話したい事があるから来てくれって呼ばれたんだよ」
「僕はお前に来るように言われたからここへ来た」
「大事な話って、なんだよ?」
「さあ。これからその大事な話ってやつを小林君?が話してくれるんだろ?」
「君達!早くこっちおいでよー僕も会話に混ぜてよ」
少し恰幅の良い男が手を振りながら言った。
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テーブルの上には既に料理の皿が並んでいた。脂っこい料理ばかりだなと思った。
料理のほかに、ワインやビールも置いてある。
席に着くと小林君は2枚の取り皿に料理を盛っていった。自分の皿には何も料理を取らずに。
「急に呼び出してごめん、大した内容じゃないんだけどさ、でも大事な友達だから、話しておきたくて。数年ぶりに連絡しちゃったんだ」
「大した内容じゃないならわざわざ呼ぶなよ」
「うん、でもこうでもしないとレオ君と会えないから...」
「俺はお前と友達じゃない」
「つまらない話じゃないよ!実は、僕に彼女ができたんだ!生まれて初めて彼女ができたんだ!本当に嬉しくて嬉しくて。こんな僕に彼女ができるなんて...想像できる?」
「はあ」
「凄いよね本当凄いよね!僕、舞い上がっちゃったよ」
「.......」
shake
小林君は手を叩きながら体を揺らす。テーブルの上にあったフォークが落下した。
「もう、本当、やったー!って騒いじゃったよ。独りの部屋で」
「......」
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「レオ君は彼女いるよね?」
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友人は横を向いて煙草をまた吸い始め、何度も腕時計の時間を確認していた。時折こちらに目で訴えてくる。カチカチとライターを鳴らし、足を何度も組み直す。
「レオ君は彼女いるよね?」
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「ねえ聞いてる!?」
突然大きな声で小林君が叫んだ。
shake
ガシャーン!
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レオが驚いた拍子にグラスを倒してしまった。
「大丈夫か?」
「んあ、大丈夫だ。あ!お姉さんすみません」
店員さんがタオルを持ってきてくれ、テーブルを拭いてくれた。
「ありがとうございます、お姉さん。ふー、グラスが割れていなくて良かった」
「お客様は濡れませんでしたか?大丈夫ですか?」
店員さんがタオルをレオに渡そうと手を差し出した。
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shake
「結構です!平気です触らないで下さい、大丈夫ですから!早くあっち行って下さい仕事してください!ここでだらだら喋ってないで自分の仕事して下さい」
店員さんのタオルを小林君は取り上げ、吐き捨てるように捲し立てた。
店員さんはびっくりして固まっている。もちろん僕達も固まった。厭な空気が漂う。
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「お姉さん、びっくりしましたよね。こいつ酔っぱらってるんです、こいつが言ってる事は流して下さい」
「いえ、あの、すみません」
小林君は黙って二人のやり取りをじっとみていた。冷たく生気のない顔、プラスチックみたいだ。口をもごもご動かし、右手で左手の皮を抓る。
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「レオ君、あの店員さんの事、好きなの?」
「は?」
「好きだから優しくしたんだ」
小林君の様子がおかしい。表情がサァーッと暗く、黒くなった。
「彼女がいるくせに」
「彼女?」
「彼女がいるくせに、他の女に色目使いやがって!」
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shake
ガシャーン!
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小林君がテーブルを拳で叩き、皿が音を立てた。
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少し離れた席に座って居るカップルが驚いた表情でこちらをみる。店員さんはびっくりして厨房の方へ行ってしまった。
テーブルの上に散らばったナポリタンのソースと具をナプキンでかき集める。小林君はギッとレオの方を睨んでいる。歯を剥き出し今にも襲いかかりそうな犬の様だった。
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「彼女がいるくせに!この浮気者!浮気者!浮気者!」
「なに言ってんだ?」
「小林君、落ち着きなよ。店の中でそんなに大きな声で騒いだら迷惑..」
「浮気者!浮気男!ヤリチン!クソ野郎!カス野郎!」
ダン!ダン!とテーブルを叩き音を立てる。小林君の目が完全にイッていた。
まともじゃない。こちらが冷静に諭しても効果がない。
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「小林君、あんたおかしいよ」
「お前は黙ってろ!こいつは浮気者なんだ!浮気者!裏切者!」
「俺に彼女なんていねーよ。そもそもお前は誰なんだよ、俺の友達でも知り合いでもないだろ」
レオが低い声で言った。店内が一瞬シーンと静かになった。
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「あたしはあんたの彼女だろうがあああ!」
shake
小林君が叫びながら自分の髪に手をかけた。
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目の前にはカツラを握りしめる鬼の形相の女がいた。
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「......またお前か」
作者群青
ホラーナイトを最後まで読んで頂きありがとうございます。
今回の話は僕が友人と二人でファミレスに行き、友人のストーカー女に遭遇してバトルになった時の事を
ストーカーは、友人がよく行くファミレスの店員になり近づく機会を窺っていたようです。
「私の事覚えてる?」って言った時の女の顔、鬼の形相になった友人の顔は忘れられません。
ストーカーの執念深さと、思いこみの激しさは凄いです。人って怖いです。
誤字脱字がございましたら、ご指摘頂けると幸いです。
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