友人から
『すごく綺麗な竹林でさ!
そういう、自然とかに全く関心なかったんだけど考えが変わったよ!
行ってみるべきだよ!』
と勧められ、私は一人でやって来ていた。
確かに、この竹林はすごく美しかった。
背丈の高い竹や、竹の葉の間から届く陽の光は温かかった。
サラサラと時折吹く風の心地よさといったら筆舌に表し難いものだった。
周りには私と同じように竹林の中を歩く人も多くいたが、私が時間を忘れて散策しているうちに段々といなくなっていった。
夕暮れ時、
そろそろ引き返そうと踵を返し、歩けど歩けども竹林を抜けられない。
あれ?一本道だったはずだけど…
どこか脇道にでも入っちゃったのかな…
携帯を開くが圏外
少し不安を抱えつつも歩いていると竹林の中に人がいるのがわかった。
よかった…どう進んだら抜けられるか聞いてみよう。
そう思い人のいる方へと向かっていると、どうやら何かをしているようだ。
人がいる方に夕陽があり、逆光になっているためシルエットしかとらえられないが
竹の上には人がいて、それぞれ竹の足下に人が一人ずつついている。
まるで、竹馬をしているようだ。
なるほど、背丈が高い竹なため不安定だから下の人が支えているのか。
大道芸か何かの練習かな?
なんて思いながら近づいていくとシルエットしか見えなかった姿をしっかりと捉えることができてきた。
だが、その風貌に足が止まってしまった。
下で支えている二人はフンドシ姿に足袋を履き、
頭からは黒い布を被り、その上に“ひょっとこ”と“おかめ”の面をそれぞれつけている。
な…なにこの人たち…
そんな格好で芸をするの…?
不気味な風貌に足がすくんでしまったが、何をするのか好奇心もある
私の姿を隠せるくらい茂っているところを見つけ、隠れて様子を伺ってみると
【よ~~~~~い~~~~】
ヒョットコとオカメが声を合わせ
【はい!】
掛け声と共に二人が竹を持ち上げ走り出した
【えっさー!ほいさー!えっさー!ほいさー!えっさー!ほいさー!えっさー!ほいさー!えっさー!ほいさー!えっさー!ほいさー!えっさー!ほいさー!えっさー!ほいさー!えっさー!ほいさー!えっさー!ほいさー!えっさー!ほいさー!えっさー!ほいさー!】
足袋を履いているとはいえ凸凹した竹林の中を駆け抜ける。
片方が止まったり、両方とも急に止まったり、緩急をつけたり左右に振れたりしながら進んでいく
当然ながらそんなことをされれば竹は大きくしなり、前へ後ろへ右へ左へ振り回される。
「ぐぅー!うぅー!」
と上にいる人が言葉にならない悲鳴をあげ竹にしがみついている。
しかし、どれほど離すまいと掴んでいようが限界はある。
竹のしなり、遠心力に振り回されとうとう手が離れ空中へ投げ出された。
あっ!!
と、思わず目を瞑ってしまったが
ドサッ と落ちてくる音はしなかった
が、代わりに
「がぁっ…!」
と声がした。
恐る恐る目を開け、落ちた人を探してみるが見当たらない。
視線を上げ、宙を見てみると
見つけることができた…。
地面に落ちることなく、竹に深々と背中から刺さっていた。
竹を伝い血が下へと降りてきている。
まるで、百舌鳥の速贄のようだった。
苦いものが胃からせり上がってくる。
涙で視界が歪む。
うっ…
だけど、必死で声を殺した。
両手を口に当て震える足で後ずさる。
ヤバイ…ヤバイ…ヤバイヤバイヤバイ…
が、ここは竹林。
朽ちた竹を踏んでしまった。
パキッ…
ヒョットコとオカメの首が同時にこちらにぐるりと向いた。
【次~~~は~~~あな~~~た~~~】
持っていた竹をこちらへ向け走ってくる。
「あぁーーー!」
私も駆け出した。
竹の葉や枝で腕や顔を切ろうと構わない。必死で足を前に出す。
どれだけ方向を変えようとついてくる。
はぁ…はぁ…もう…無理…
そう思った刹那、窪みに足をとられて坂を転げ落ちてしまった。
痛い…
しかし、これが幸いしたのか竹林を抜け一般道へと出ることができた。
振り向いて竹林を見ると二人はいなかった。
よかった…助かった…
道路を歩けばいつかは車が来る、人がいるところへ出られる。
携帯を開こうとしたがない。
どこかへ落としてしまったらしい。
あんなことがあったんだ、生きているだけよかったと思わないと…
そんなことを考えながら痛む身体で歩いていると、一台のワゴン車がやって来た。
やった!
人だ!
私は道の真ん中とは言わないが、車道の方へと出てワゴン車に向けて大きくてを振る。
運転手さんは止まってくれて窓を開けてくれた。
『大丈夫ですか?!』
人の良さそうな方で、ボロボロの私を見て心配してくれてるようだ。
「すいません…近くの町まで乗せてもらえないでしょうか?」
『もちろんいいですよ!さぁ、乗ってください。』
「ありがとうございます…」
車はゆっくりと道を進んでいく。
『あの…なにか、乱暴でも…?』
と私を気遣いながら伺ってくる。
「…いえ…そういうことではないんですけど…」
竹林での出来事を話した。
『ん~…その話は聞いたことがあります…』
「あれは、何なのでしょうか?」
『名前はありません。けど…あれに出会って無事帰るには竹馬を最後まで乗りきる。そして、乗りきったらこの竹林へ誰かを行かせる。それで、終われるらしいです。
…それと、言ったでしょ~?』
「……え…?」
【次~~は~あな~た~って。乗ってもらいま~すよ~。た~け~う~ま~】
車は暗い竹林の中へと入っていった。
作者clolo
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