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中編5
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天才

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その昔、一人の男がいた。その男は絵画、彫刻、天文学から物理学まであらゆることに精通し人々からは天才と崇められ、皆から愛される存在であった。

しかし、彼も一人の人間であることに変わりはない。老いには勝てずやがて寿命を迎えこの世を去った。

彼の死に、人々は嘆き悲しんだ。そして、彼の遺体は人々の手によって村一番の彫刻師が装飾を施した棺に納められ、その村で最も大きい教会に安置された。

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西暦20XX年、医学は飛躍的な進歩を遂げ、DNAを後天的に組み込み、対象の能力を飛躍的に上昇させる技術が確立されていた。

しかし、バイオテロへの応用や大規模な国家反乱に利用されることに対する懸念から国際レベルの極秘事項とされ、この技術はごく一部の限られたものを除き存在すら知られていなかった。

宮本怜王はこの技術を確立した研究チームの一員で、技術の詳細を知る限られた人間の一人であった。

宮本は国立大学の医学部をトップの成績で卒業するほどのエリートで、研究チーム内でもかなり重要な行程を任されていた。

彼の仕事は常に完璧で、彼が関わった実験は全て成功した。その業績から彼は千年に一人の天才と呼ばれ、教授からも一目置かれる存在となっていた。

宮本は研究チームの教授からとても信頼されていたため、事前に連絡さえしていれば自由に研究室を使うことができた。そのため彼は誰にも知られずに研究を進めることが可能であった。

DNAを後天的に組み込む技術、DNA編集技術が確立されてから数ヶ月後世間では犯罪が急増し社会問題化していた。また、多くの現場には証拠となるものが全くと言っていいほど残されておらず、容疑者の目星すらつけられない状態であった。

そんななか、ある男が逮捕された。その男は前科があったのだが、担当した刑事たちは初めはこの男の犯行だと信じられなかった。なぜなら、男が以前犯した犯罪と今回の犯罪では同じ人物がやったとは思えないほど手口が異なっていたからだった。

また前に逮捕した時とは明らかに態度や雰囲気が違ったため、男の身柄は警視庁に移送され検査をすることとなった。その結果、男の遺伝子には後天的に組み込んだとみられるDNAがあることが分かった。

後天的に組み込んだDNAが発見されたことにより、当然宮本の所属している研究チームがまず関与を疑われたが研究室内のどこからも組み込まれたDNAと一致するものは見つからず捜査は難航していた。

そうしている間にも同じような手口の事件は起き続けた。

その頃子供達の学力が飛躍的に伸びていることが注目されていたが、あまりにも学力の上昇が著しいため何か関係があるのではないかと噂されていた。

警察も政府も何の解決策も出せないうちに、加速度的に高い知能指数を示す者が増えていきやがて知能を持て余した者はそれを犯罪に利用するようになり、世の中は混乱していった。

もはや一刻の猶予もないと悟った政府は、宮本たちの研究チームに組み込んだ遺伝子を無力化する薬を作らせ、それを全国民に投与することで事態を収束させようとした。

結果薬は無事完成し、全国民への投与が終わる頃には人々の知能指数は元に戻り、治安も安定していった。

世の中は安定を取り戻したが、一連の混乱について一人で調べている八嶋というライターがいた。

彼は警察関係者やマスコミに取材をして調査を進めていくうちに、この現象の広がり方がパンデミック、つまり感染爆発に酷似していることに気づいた。

さらに八嶋は、宮本怜王が研究室を自由同然に使用することが可能な立場にいたという情報を掴み、彼に単独で取材をすることにした。

八嶋の取材に対して、宮本は一切口ごもったり動揺することはなく堂々と答えていった。

「ところで、八嶋さん。空前絶後の天才と呼ばれた男の話をしってますか?」

不意に宮本は八嶋にこう問いかけた。

「いえ、初めて聞きましたが、今回の件と何か関係が?」

「アハハハ、面白いことを言うね。関係があるからこうして話すんじゃないか。まあ、知らないなら教えてあげよう。

千年ほど昔の話だ。あるところに一人の男がいた。その男は絵画、彫刻、天文学から物理学まであらゆることに精通し天才と人々からは神と崇められ、皆から愛される存在であった。

しかし、彼も一人の人間であることに変わりはない。老いには勝てずやがて寿命を迎えこの世を去った。

彼の死に、人々は嘆き悲しんだ。そして、彼の遺体は人々の手によって村一番の彫刻師が装飾を施した棺に納められ、その村で最も大きい教会に安置された。

こういう話なんだけどね。これは伝説やおとぎ話なんかじゃないんだ。実際にある国の教会に彼のミイラ化した遺体が安置されている。そして私はその細胞を手に入れた。さて、八嶋さん。私はその細胞を使って何をしたと思う?」

宮本の話から導き出される答えに八嶋は動揺を隠せなかった。

「まさか…」

「アハハハハハハハハッ、そのまさかだよ。俺はその細胞からDNAを復元し、それが人から人へと感染するように手を加えたのさ。名付けて感染性DNAだ、シンプルでいいネーミングだろ?」

八嶋は気力を振り絞り宮本に問う。

「なぜこんなことをした?お前にとってなんの得がある?」

「別に得なことなんかないさ。ただ、この世の中が天才だらけになったらどうなるか見てみたかったのさ。まあ、予想通りで実に退屈だったけどね。」

「なんてやつだ。だが宮本、ここまでの話は全て録音させてもらった。これを記事にすれば、お前の研究者生命も終わりだ。」

しかし宮本は余裕の表情だ。

「フフフ、君みたいな危険そうな記者をなんの用意も無しに迎え入れるわけがないだろう。君が来た時から、俺の細胞から作った記憶を消す薬を気化させて撒いておいた。そろそろ効くころだろう、次に目覚めたら全て忘れているさ。じゃあ、お休み」

その言葉を最後に八嶋の意識は深い闇へと落ちていった。

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