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必ず、前編からお読み下さい。
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Ｓ子さんの失踪が明らかになってから一年が過ぎた頃、Ｓ子さんの部屋で不審物が見つかった。
発見者はＳ子さんの母親。
クローゼットの奥に「それ」は置かれていた。
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「それ」は特に珍しい物ではない。
「それ」が無い家庭はけして多くないだろう。
日本に限って言えば、ほとんどの家庭に「それ」はあるはずだ。
問題は置かれていた場所。
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通常、「それ」はクローゼットなどに置くはずはない。相応しい場所は他にある。
たとえばキッチンに置かれていたなら、見過ごされる可能性は非常に高かっただろう。
誰も異常に気付かぬまま、あっさりと捨てられていたのではないか。
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しかし、「それ」はクローゼットの中にあった。
靴や鞄の箱に囲まれて、「パック入りの味噌」はそこにあった。
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市販されている一般的なパック味噌の賞味期限は、細かなばらつきはあるものの、大体半年程度。
Ｓ子さんが失踪直前に購入していたとしても賞味期限はとっくに切れている。
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保管場所も場所だ。
間違いなく悪くなっているだろう。
Ｓ子さんの母親は念のため、フタを開けて状態を確認しようとした。
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「うっ…...」
臭いに驚いたのではない。
それは普通の味噌の匂いだった。
驚いたのはまた別の理由が、
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！？…！っし…！！！に…はっ！！！！！！！！！！！！！！！！！！！！！！
！！！！！！！！！！！！！！！！！！！！！！！
！！！！！！！！！！！！！！！！！！！！！！！
！！！！！！！！！！！！！！！！！！！！！！！
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鑑識の結果、いくつかの事実が判明した。
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一つ目。
発見された味噌に貼られていたラベルは福井県の食品会社が販売している味噌のものであったが、内容物・プラスチックの容器は全く異なっており、製造者はラベルのみを流用したと見られる。
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二つ目。
プラスチック容器から日本国内で使用が禁止されている化学物質が検出された。
また、前述のラベルを剥がした容器側面にキリル文字の刻印が認められた。
この二つの事実より、容器自体が国内で製造されたものではないことが推測される。
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三つ目。
内容物である味噌を分析したところ、一般的な味噌の主原料である大豆がこの味噌では一切使用されていないことが判明した。
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様々な食品添加物や調味料によって見た目から匂いまで味噌に偽造されていたが、主原料は動物性タンパク質、具体的に言えばハツカネズミの肉であった。
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鑑識の言によれば、構成成分から鑑みておそらく味自体も味噌と変わらないはずだという。
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Ｓ子さんの母親が驚いたのは、味噌がネズミという風変わりな材料で作られていたからではない。
それは見た目も匂いも、味においてさえ、全て味噌そのものだった。
一見しただけで原料が大豆ではなくネズミだと気付くはずはない。
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母親に圧倒的な絶望を与えた要因は他にあった。
そう、風変わりな材料はもう一つあったのである。
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四つ目。
味噌に混入されていた肉片は成人女性の頬肉と瞼であると断定。
ＤＮＡ鑑定の結果、それはＳ子さんのものと一致した。
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更に後日。
Ｓ子さんのマンションのエントランスに設置された防犯カメラの記録から奇妙な映像が発見された。
日付はＳ子さんの失踪が明らかになった一月中旬から遡ること二週間前。
以下、その映像の詳細。
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顔から胸元にかけて真っ黒（※１）な女（※２）がエレベーターを笑いながら（※３）降りてエントランスを抜けていく。
それは時間にして一分にも満たない。
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背丈や体格がＳ子さんに近いこと、Ｓ子さんの衣服を身につけていたことなどからその人影がＳ子さんである可能性は高い。
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※１
真っ黒に見えるのは、その防犯カメラがモノクロで撮影を行っているからだ。
実際は黒ではないかもしれない。
いや、間違いなく黒ではないだろう。
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※２
衣服や体型が女性のそれであることから女性と推測出来る。男性である可能性は否定出来ないが、女性である可能性が圧倒的に高い。
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※３
口角を吊り上げていることから笑っていると推測できる。
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削いで剥いて切り取って漬け込んで。
味噌は何パックあったのだろう。
そしてそれはどこへ行ったのだろう。
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現在、Ｓ子さんの捜索願は取り下げられている。
作者退会会員